ドラマ「トリック」シーズン3は、これまでの“超能力をトリックで暴く”構図を踏まえつつ、言葉・信仰・共同体といった、人を縛る力そのものへ踏み込んだシーズンです。
言霊が命令になる蛾眉村、空間の“隙”を信じさせる瞬間移動、和歌の言葉遊びが殺意へ転ぶ旧家ミステリー、そして最終章では「念」が物質を生むかもしれないという、シリーズ最大の揺らぎが提示されます。
この記事では、シーズン3全話を通して描かれた事件・トリック・伏線を整理しながら、信じたい気持ちが暴力に変わる瞬間と、奈緒子自身の出自へ向かう物語の到達点を振り返っていきます。
TRICK/トリックのシーズン3のエピソード毎の概要

シーズン3(通称「TRICK3」)は全10話で、基本は「2話=1章」の5エピソード構成。毎回“超常現象っぽい看板”が立つのに、最後は「それ、トリックでしょ?」に着地していくのがシリーズの快感です。まず迷子防止のために、章立てを先に出します。
- エピソード1:言霊で人を操る男(第1話〜第2話)
- エピソード2:瞬間移動の女(第3話〜第4話)
- エピソード3:絶対死なない老人ホームの謎(第5話〜第6話)
- エピソード4:死を呼ぶ駄洒落歌(第7話〜第8話)
- エピソード5:念で物を生み出す女(第9話〜第10話・最終章)
ここでは全話ネタバレに入る前段として、各章が「どんな話で」「何が分かるのか」をざっくり整理します(トリックの仕掛けの細部は、各話パートで深掘りすると読みやすいはず)。
エピソード1「言霊で人を操る男」編(第1話〜第2話)
舞台はリゾート開発が進む村。そこに現れるのが、発した言葉が現実になるとされる男・芝川玄奘。開発中止を求めて信者と村に居座り、開発側は上田に“助け”を求める形で事件が動き出します。言葉ひとつで空気が変わり、信じる群衆が現実を押し曲げていく不気味さが、この章の肝。
後編では、奈緒子が玄奘の嘘を暴こうとして失敗し、上田と共に逃走。森で迷い、毒虫の恐怖まで味わう“罰ゲーム感”が笑いとして転がりつつ、玄奘に「弟を殺す」と告げられた建設業者・真一が行方不明になることで、笑いが一気に不穏に傾きます。
この章でわかること
- 「言葉」が信仰を増幅させ、集団心理を動かす構図
- 開発(現代の欲望)と“奇跡”の対立が生む、村の分断
- 奈緒子が“暴く側”に立つ動機が、同情や良心にも寄っていること
- 上田が「権威として頼られる」一方で、現場では臆病さも露呈するギャップ
エピソード2「瞬間移動の女」編(第3話〜第4話)
神ヶ内村に現れたスリット美香子は、空間に“すき間(スリット)”を作って人や物を瞬間移動させる――という触れ込み。村人は彼女を伝説の娘ミカリの生まれ変わりだと信じ込み、彼女自身は遺跡の土偶に強い興味を示します。村の学芸員が上田に助けを求める導入も、「信じる側」と「疑う側」の戦場を作るTRICKらしい配置。
後編では博物館で張り込む一同の前で、美香子が“一瞬で消える”。さらに彼女は、三沢が土偶を偽物とすり替えようとしていたと暴露し、「守るために瞬間移動させた」と主張。翌日、三沢の死体が発見され、怪異と犯罪の距離が一気に縮まります。
この章でわかること
- 「瞬間移動」の看板が、村の伝説と結びつく構造
- “守るための奇跡”という言い訳が、疑いを鈍らせる怖さ
- 土偶(文化財)=欲望の対象になった瞬間、事件が生臭くなること
- 奈緒子の直感が当たっても、すぐには信じてもらえない“孤立”の型
エピソード3「絶対死なない老人ホーム」編(第5話〜第6話)
上田の研究室に訪れるのは、京国屋書店社長夫人・明日香。姑が入会したいという施設は、入会金10億円の“絶対死なない老人ホーム”――ここからして胡散臭さMAXです。上田は単独潜入し、“先生”と呼ばれる赤地に遭遇。彼は「死んだ人間を生き返らせる」「どんなものでも元通り」と豪語し、ビールを元に戻す瞬間まで見せつけます。
後編では、千田の自殺が狂言だと証言した奈緒子が、逆に老人たちから責められる展開に。千田は病院で死亡し、上田は施設の再建経緯や入所者の状態などの情報を集め、千田の多額の借金も判明。奈緒子は「千田は赤地らに殺された」と推理していきます。オカルトの衣を着た“金と老いと死”の話として、後味が重め。
この章でわかること
- 「死なない」は奇跡ではなく、“恐怖の搾取ビジネス”になり得ること
- 上田が理屈で否定しながらも、目の前の現象に揺れる構図
- 奈緒子が「被害者側の痛み」を引き受けてしまう展開(責められる役回り)
- “救い”が薄い章ほど、TRICKの不穏が濃くなる
エピソード4「死を呼ぶ駄洒落歌」編(第7話〜第8話)
上田は和歌の名家・亀山家で、不吉な部屋の扉を開ける立会人を頼まれる。奈緒子と屋敷へ行くと、不審な人影、そして開けた部屋の中で“死の予告和歌”――この時点で「呪いの館ミステリー」の様相。さらに明かりが消えた一瞬の間に、伯父・藤二郎が殺されるという、TRICKの中でも“密室系”の手触りが強い章です。
後編では、和歌による殺人予告が続き、奈緒子は「歌にはもう一つ意味がある」「犯人は亀山家の中にいる」と確信。しかし一同は耳を貸さず、奈緒子は襲われ監禁される。上田と矢部が“奈緒子への予告歌”を発見し、千鶴と共に捜索へ――“事件の解決”と同じ熱量で“奈緒子奪還”が走り出すのが熱い。
この章でわかること
- 「言葉(和歌)」が、恐怖と支配のツールになる(言霊編との響き合い)
- 名家の因習が“閉じた共同体”を作り、外部の声を遮断する構造
- 奈緒子が「観察→確信」まで行っても、権威の壁で止められる苦さ
- 上田・矢部が“助ける側”に回ることで、関係性が濃く見える章
エピソード5「念で物を生み出す女」編(第9話〜第10話・最終章)
最終章は、御獅舞村の教師・北見が上田を訪ねてくるところから始まります。霊能力者・千賀子に死を予言され、助けを求めに来た――千賀子は25年前に村を追われ、復讐のため戻ったという噂まである。調査の夜、予言通りの時間に北見が倒れ苦しみだし、そして奈緒子は「自分に霊能力がある」と気づく。ここでシリーズの足元がまた一段揺れます。
最終回では奈緒子が姿を消し、拉致された先は“孤島”。そこで奈緒子は黒と白の玉を「見ずに当てる」テストを受け、上田は里見に連絡し、奈緒子がいる島の手掛かりへ迫っていく。
配信プラットフォーム側のあらすじでは、上田が“呪いの封筒”を見つけること、そして黒門島から里見が持ち出して隠した“封印”を解く目的(5文字の言葉が必要)が示されており、シーズン1の黒門島要素が「II」として再燃する章になっています。
この章でわかること
- 「念」「予言」が“事件”だけでなく、奈緒子自身の内側へ踏み込むこと
- 奈緒子の霊能力が“本物かもしれない”という禁じ手の提示
- 里見(母)と黒門島の因縁が、再び物語を縦に貫く
- 上田が理屈より先に“探しに行く”側へ傾く転換
章ごとの“事件の顔”が全部違うのが、シーズン3の強さ
シーズン3は、看板だけ並べても「言霊」「瞬間移動」「不老不死」「呪いの和歌」「念で生成」――ジャンルが毎回変わる。けれど芯は一貫していて、“信じたい人”がいる場所ほどトリックが成立しやすい、という残酷なルールが通底しています。特に最終章で「奈緒子の霊能力」へ触れていくことで、単なるインチキ退治の枠を越えて、“暴いても割り切れない余韻”を強く残す構成になっているのが、TRICK3の手触りです。
【全話ネタバレ】トリック(シーズン3)のあらすじ&ネタバレ

1話:密室の謎 言霊で人を操る男
言葉そのものが凶器になるシーズン3の幕開け
シーズン3の第1話は、タイトル通り「言葉」を凶器にした“言霊”編として始まります。
舞台はリゾート開発が予定されている蛾眉村。そこに現れたのが芝川玄奘という男で、「神聖な森を汚す者には天罰が下る」と開発中止を要求し、信者を従えて森に居座っている。
彼は、自分が口にしたことは必ず現実になると豪語し、TRICKが得意とする「超常現象に見える状況」を、初回から最大出力で見せてきます。
信者集団に潜入した相沢と“自殺宣告”
開発会社の社員・相沢は、玄奘の信者集団に潜入するものの、「お前は自殺する」と宣告されてしまう。恐怖に追い詰められた相沢は、藁にもすがる思いで上田に助けを求める。
上田は『どんと来い、超常現象』の看板を背負ったまま、奈緒子を半ば強引に同行させ、蛾眉村へと乗り込む。
玄奘の御言葉は、人の意思だけでなく自然さえ動かしているように見える。「山よ消えよ」と唱えるだけで景色が変わったかのように映る場面は、ばかばかしいのに一瞬信じてしまう力があり、視覚的なインパクトが強烈だ。
“言霊”が命令になる瞬間の怖さ
この回の恐怖は、奇跡そのものより「言葉が共同体の命令に変わる瞬間」にあります。
相沢は小屋に隔離され、村人たちは外で一晩中「自殺しろ!」と唱和し続ける。翌朝、相沢は密室状態の小屋で服毒死体となって発見される。
言霊が本当に当たったのか、集団圧力で追い詰められた結果なのか、それとも別の手口があるのか。答えを伏せたまま進むことで、視聴者の頭の中では“言葉の支配”だけが異様に膨らんでいく。
選択の自由を奪うラストの心理戦
終盤、玄奘は奈緒子に5色の紙を差し出し、「黄色を選べば上田が死ぬ。だが君は必ず黄色を選ぶ」と断言する。色ははっきり見えているのに、なぜか逃げられない。選択の自由そのものが奪われる感覚が、TRICKの笑いを一瞬で凍らせる。
超能力を暴く物語でありながら、初回から「人はどこまで言葉に従わされるのか」という心理戦に踏み込む大胆さが際立つ。派手な種明かしは次回へ持ち越されるが、言霊=自己成就する呪いの怖さだけは、すでに強く胸に残る。
群衆の熱を嗅ぎ取る奈緒子の視点
個人的に印象的なのは、上田の科学が敗北する瞬間というより、奈緒子が“見世物のプロ”として群衆の熱を先に嗅ぎ取っている点だ。
唱え声が祭りの掛け声のように高揚するほど、言霊は超能力ではなく「空気の武器」になっていく。その危うさを、奈緒子だけが肌感覚で察しているのが、この章の重要なポイントになる。
1話で判明する伏線
- 蛾眉村のリゾート開発計画と「神聖な森」の存在
- 芝川玄奘の言霊と信者集団(言葉が現実になる構図)
- 開発関係者に起きる連続事故
- 相沢が信者集団に潜入し「自殺する」と宣告される
- 「山よ消えよ」で景色が変わったように見える現象
- 小屋の外で続く「自殺しろ!」の唱和
- 密室状態の小屋で発見される相沢の服毒死
- 玄奘が提示する5色の紙
- 「黄色を選べば上田が死ぬ」という予言
- 言葉に従わされる心理戦が次回へ持ち越される
2話:言霊で人を操る男の謎…解決編
黄色い紙の選択から始まる再突入
第2話は、前回の引き――奈緒子が“黄色い紙”を選んでしまう瞬間から再開します。
信者に追われ、森を逃げ回る上田と奈緒子。しかし放置すれば、言霊に晒され続ける井上兄弟が危険なままです。結局2人は、芝川玄奘の“言霊”と正面から決着をつけるため、再び蛾眉村へ引き返すことになります。
その道中、上田とはぐれた奈緒子は、森の奥で母・里見の姿を発見。彼女まで「神の象の像」を探していると知り、この村の怪談が単なる事件ではなく、欲望の匂いを強く帯びていることが浮かび上がります。
言霊が“呪いの手順書”になる構造
解決編の肝は、玄奘の放つ「御言葉」が、ほぼ呪いの手順書として機能している点です。
「自殺しろ」という集団唱和によって相沢が密室死したように見せ、続けて「兄は弟を殺す」と言えば、村の兄弟の一方が撲殺死体で発見される。兄は茫然自失のまま「俺がやった」と口にしてしまう。
これは超能力というより、空気と暗示で思考を誘導する心理戦。TRICKの中でも、かなり黒さが前に出た構図です。
“当たった”ように見せるための舞台装置
上田と奈緒子が暴いていく種明かしは、すべて「言葉が当たった」ように見せるための舞台装置でした。
奈緒子が黄色を選んだ理由も、上田の死が怖かったからではなく、黄色い紙が3万円の商品券だったから。あまりに奈緒子らしく、張り詰めた空気を一気にコントへ落とすのが痛快です。
さらに「山よ消えよ」という奇跡は、クレーンで小屋を吊り上げ、窓の向きを変えただけの力技。相沢の死も、遅効性の毒と、村が焚く柴咲香の匂いが作る雰囲気で追い込んだ結果でした。
それでも軽くならない後味
それでも後味が軽くならないのは、「黒い鳥居をくぐって死ぬ」という予言が、実際に人を死へ導いてしまうからです。鳥居の色すら樹液と“ガッツ石松蟲”で見え方を操作し、選択そのものを誘導する。
ここまで来ると、玄奘が詐欺師かどうかよりも、「言葉で人を殺せる社会」そのものが怖い。オカルトを笑い飛ばしながら、言葉の暴力だけは生々しく残す。このバランスこそ、TRICKの真骨頂です。
村人という“共犯”と次の火種
もう一つ重要なのは、村人側の共犯関係が透ける点です。弟を殴ったのは住民のリーダー格で、兄は空気に飲まれて自分が殺したと錯覚する。
玄奘は直接手を下さずとも、言葉で周囲を動かし、結果を手に入れていたわけです。
矢部が現場で右往左往する滑稽さすら、集団の狂気の前では無力に見えるのが皮肉。そして奈緒子と里見が追う「神の象の像」は、この後の物語にも尾を引く小さな火種になります。
事件解決で終わらせず、“次の厄介ごと”を残す締め方もまたシリーズらしい。見終わると、笑ったはずなのに背筋が寒くなる解決編です。
2話で判明する伏線
・黄色い紙の正体(3万円の商品券)
・相沢の密室死の仕組み(遅効性の毒/唱和/柴咲香)
・「山よ消えよ」のトリック(クレーンによる窓向きの変更)
・「兄は弟を殺す」の真相(住民リーダー格と心理誘導)
・鳥居の色のトリック(樹液とガッツ石松蟲)
・山田里見も「神の象の像」を探している事実
3話:不可能犯罪の謎〜瞬間移動の女
“スリット”という言葉が村を支配する導入
神ヶ内村に現れたのは、“スリット美香子”と名乗る女。彼女は空間に「すき間(スリット)」を作り、人や物を瞬間移動させられると豪語する。
その正体を、村人たちは伝説の娘・ミカリの生まれ変わりだと信じ込み、狙いは遺跡から出土した至宝「難玉弐高式土偶」だという。
この噂を恐れた博物館の学芸員・芥川が上田に助けを求め、上田は奈緒子を連れて村へ向かう。村、超常、欲望。この三点が揃った時点で、TRICKらしい不穏さが完成する。
事件より先に始まる“生活の崖っぷち”
物語の入口が、いつも通り奈緒子の生活苦から始まるのも見逃せない。奈緒子は街角で「トレビの水」を売るイカサマに手を出し、矢部に追われる羽目になる。助け舟を出すのは上田。
事件より先に「家賃が怖い」という現実を見せることで、超常現象の胡散臭さが一段リアルに感じられる。この日常感覚が、後の不可能犯罪をより疑わしく見せる下地になっている。
見たはずなのに説明できない現象の連打
村に入った瞬間、空気は一気に閉じる。美香子の決めゼリフ「裂けて!」と同時に、水面に赤い亀裂が走り、コインが移動したように見える。さらに「いつの間にか背後に立つ」「古文書の文字が移ったように見える」など、“確かに見たはずなのに説明できない”瞬間が次々に重なる。
奈緒子は当然「奇術だ」と疑うが、美香子の自信満々な態度と、村全体の信奉ムードが、その疑いを押し返してくる。この押し合いが、前編の緊張感を作っている。
追い越す
この回が面白いのは、超能力者が怪しいだけでなく、村の側も同じくらい怪しい点だ。男たちが年齢を問わず育毛ブラシをトントンしていたり、外部者を飲み込もうとする共同体の圧が露骨に描かれる。
村人の名前が文学者だらけという小ネタも挟まれ、笑わせた直後に不穏へ滑り込ませる。この緩急の付け方が、TRICKらしい嫌な心地よさを生む。
視線を操る女と、温度差のコンビ
美香子を演じる高橋ひとみの余裕の笑みが、上田の理屈をかわしていくのも厄介だ。上田が論理で詰めようとするほど、彼女は相手の視線や意識を操ってくる。
一方で奈緒子のツッコミは冴え、二人の温度差が、ホラー寄りになりすぎる空気をギリギリ笑いに留めている。「空間をねじ曲げる」というSFめいた言葉が、村の伝承と結びつくことで、科学の用語が宗教の呪文に化ける。この転倒こそが、シリーズの真骨頂だ。
「不可能犯罪」について言及
前編は、トリックを暴かないまま終わる。それなのに、なぜかこちらが負けた気分になるのが悔しい。
ラストで美香子は、「スリットで土偶を博物館から奪う」と宣言する。鍵も壁も無意味になる“不可能犯罪”の形が提示された瞬間、視聴者の視線は自然と「どこに隙があるのか」へ向かう。次回、裂けるのは空間か、人の欲か。そのゲームがここから始まる。
3話で判明
・スリット美香子が伝説の娘ミカリの生まれ変わりと信じられている設定
・至宝「難玉弐高式土偶」をスリットで奪うという予告
・決めゼリフ「裂けて!」と赤い亀裂の演出
・芥川の「瞬間移動を目撃した」という証言
・奈緒子の初動判断が「奇術」である点
・村人たちの信奉ムード(共同体の圧)
4話:スリットに潜む罠〜瞬間移動の謎解決編
消えたはずの女が“最初から”待っている恐怖
宣言通りの時刻、奈緒子たちは博物館前で待機するが、目の前でスリット美香子が忽然と姿を消す。
しかも館内からは高笑いが響く。裏へ回っても鍵は開いた形跡がなく、芥川だけが持つ複数の鍵で中へ入ると、そこには美香子が“最初からいた”かのように立っている。
密室というより、建物そのものが破られた感覚で、前編の不可能犯罪が一気に現実の脅威として迫ってくる。
鍵穴サイズまで落とし込まれる瞬間移動
TRICKのうまさは、この恐怖を一気に“鍵穴サイズの理屈”へ縮めるところにある。
物音で全員を裏口へ誘導している隙に、美香子は手にしていた鍵で表から侵入していたという種明かし。派手だった瞬間移動は、ここで完全に手品へ引き戻される。
さらに芥川が持っていた鍵が古い錠前用で、追跡の最中は“開けるフリ”をしていただけだった可能性まで示され、防犯そのものがトリックだったと分かる瞬間が心地いい。
奇跡が日常へ降格していく快感
前編で見せたコイン移動は、奈緒子の「トレビの水」と同系統の仕掛けで、水面の赤い筋も道具で作れる。
古文書の文字移動は、一枚物を折って見せていただけ。死体を引きずり込む“裂け目”さえ、鏡のマジックだった。
超常現象が次々と日常の技術へ降格していく瞬間の快感は、この解決編ならではだ。
土偶を巡る欲の連鎖
至宝とされた土偶もまた、本物とは限らない。美香子は、コレクターの三沢が偽物とすり替えを企てていたことを暴露し、実際に本物は三沢の金庫にあったと明かす。
超能力よりも醜い“欲”が事件を動かしていたと分かった直後、翌日には三沢の死体が発見される。物語は盗難ショーから、復讐と殺人の領域へ一段踏み込む。
娘としての復讐計画が残す後味
強く刺さるのは、美香子の本当の目的が土偶ではなく、かつて殺された学者・西村博士と、盗まれたミイラにあった点だ。
彼女は博士の娘で、ミイラに毒を仕込み、“動かした者が自滅する”罠で真犯人を炙り出そうとしていた。トリックは解けても、復讐が成功したとは言い切れない後味の悪さが、TRICKらしく立ち上がる。
笑いで緩め、きっちり締める解決編
奈緒子がうっかり「スキャット美香子」と呼び、毎回訂正されるやり取りは、張り詰めた空気のガス抜きとして絶妙だ。決めゼリフ「スリッと、すべてお見通しだ!」が生まれる瞬間まで含め、解決編は遊び心に満ちている。
それでも、奈緒子と上田が一つ一つ“スリット=隙”を塞いでいく過程は圧倒的に気持ちいい。赤い裂け目の演出に惑わされても、答えは常に「見る角度」「道具」「共犯者」。超常が剥がれ落ちたあとに残るのは、人間の欲と恨みであり、この回はシリーズの縮図として強烈な印象を残す。
4話で判明する伏線
- 物音で裏口へ誘導する視線誘導の仕掛け
- 芥川だけが持つ複数の鍵と古い錠前の存在
- 美香子が館内から高笑いする違和感
- 土偶が本物とは限らないという前提
- 三沢の金庫に保管されていた本物の土偶
- 西村博士の殺害と「ミカリ様のミイラ」盗難事件
- ミイラに仕込まれていた毒の罠
- 事件に複数人が関与していた可能性
5話:新展開!…絶対死なない老人ホームの謎
入会金10億円という時点で漂う胡散臭さ
上田の研究室を訪ねてくるのは、京国屋書店の社長夫人・明日香。姑が「入居したら絶対に死なない」と噂の老人ホームに入りたがっており、入会金10億円に見合う価値があるのか確かめてほしいという依頼だ。
金額だけで十分に怪しいのに、上田は“権威”として頼られる快感と明日香の押しに負け、あっさり引き受けてしまう。
しかも奈緒子は置いてけぼり。この時点で、上田が“信者の空気”に飲まれていく伏線がきっちり張られている。
「先生」赤地が見せる奇跡のデモンストレーション
施設に単身乗り込んだ上田が出会うのが、“先生”と呼ばれる赤地だ。
彼は「死んだ人間も元どおりにできる」「どんなものでも直せる」と豪語し、実際に老人が飲み干したビールを「戻れ」と一言で元に戻してみせる。理屈派の上田が一瞬言葉を失う、この“見せ物としての強さ”が異様に怖い。
奈緒子を連れて再調査に入ると、入居者の古川は「一度死んだが赤地に生き返らせてもらった」と語り、弱っていたはずの老人たちは不自然なほど元気。館内から“死”の気配だけがきれいに排除されているが、それが優しさではなく、商品説明のように感じられる瞬間がある。
「死なない」という夢が売り物になる空気
この回の肝は、「死なない」という夢が、誰かの都合で売買される空気にある。
10億円という値札が示しているのは命の尊さではなく、家族の事情と不安だ。奈緒子が警戒するのも、貧乏だからではない。手品師の勘として、赤地の奇跡が舞台装置として設計されている匂いを嗅ぎ取っているからだ。
だから視聴者も、奇跡の種を探すより先に、「この家族は何を守りたいのか」と問い直されてしまう。
最短距離で踏み越える“死なない場所”の矛盾
クライマックスは、疑う上田と奈緒子に向けた“証明のためのデモンストレーション”。
副理事長が猟銃で入居者を撃ち、さらに自分自身も撃って「本当に蘇らせられるのか」を迫る。死を否定する施設で、最短距離の“殺し”が行われるブラックさが際立つ。
赤地は当然のように蘇生を始めるが、矢部たち警察が現場保存を叫んで介入し、奇跡は途中で止まる。
その瞬間、信者の目に残るのは「邪魔した者が殺した」という物語だけだ。死なない場所のはずなのに、最も濃く死が立ち上がる。この皮肉が、次回の地獄をはっきり約束する。
「戻れ」という言葉が刺さる理由
「戻れ」という赤地の言葉は、子どもの願いのように単純だ。人は老いも病も、壊れた関係も、元に戻せないと知っている。その“戻らなさ”の痛みに付け込む形で、赤地は救世主になってしまう。
笑える設定なのに、見ている側の弱いところを正確に突いてくる。この章の怖さは、まさにそこにある。
5話で判明する伏線
- 京国屋書店社長夫人・明日香からの依頼と姑の入会希望
- 入会金10億円の「絶対死なない老人ホーム」の存在
- 施設で“先生”と呼ばれる赤地の存在
- 「死んだ人間も元どおりにできる/何でも直せる」という赤地の主張
- 「戻れ」でビールが元に戻る実演
- 入居者・古川の「一度死んで蘇った」という証言
- 奇跡を証明するための猟銃デモンストレーション
- 警察の介入で蘇生が中断される事態
- 信者側に残る「邪魔した者が殺した」という恨みの構図
6話:絶対に死なない老人ホームの謎〜解決編
「戻る」という言葉が、救いから残酷さへ変わる
第6話「絶対に死なない老人ホームの謎〜解決編」は、「元に戻る」という言葉が、救いではなく残酷さへ反転していく回です。
前話で、超常現象のように見えた復元を奈緒子と矢部が止めたはずなのに、狂言自殺と見られていた千田は病院で死亡。入居者たちは一斉に「人殺し!」と詰め寄り、施設は“信じる側”と“疑う側”の内戦状態に陥ります。
いつもなら「騙された」で終われる奈緒子が、今回は「見殺しにした」と責められる。嘘を暴く側が罪悪感を背負わされる構図が、ひどく重たい。
奇跡の裏に浮かぶ「不自然な選別」
上田は、5年前に倒産寸前だった魯人の経営に赤地が加わった頃から、「絶対死なない老人ホーム」という噂が立った事実を突き止めます。
巨額の入会金にもかかわらず希望者が殺到する一方で、なぜか元気な老人は断られ、明日も知れない病弱者ばかりが入所している。この選別は、“奇跡”を売る施設としては不自然すぎる。
さらに千田の多額の借金も明らかになり、神秘の裏側に金と焦りの匂いが濃く漂い始めます。
“死なない施設”の正体という冷酷な真相
ここからの種明かしは痛烈です。
魯人の正体は、「家族の死を隠すための巨大な作り物」。契約しているのは富裕層ばかりで、莫大な相続税を逃れる目的で“絶対死なない老人ホーム”が利用されていた。
面会時間にだけ現れる入居者は、実際の老人ではなく“役者”。
第5話で赤地が唱えていた「戻れ 戻れ 元に戻れ」は、手品の合図であると同時に、人間の願望そのものだったと気づかされます。笑えるはずの仕掛けが、先に寒気を運んでくる落とし方です。
コメディが一枚ずつ剥がれていく恐怖
この回は、コメディの皮が一枚ずつ剥がれていく感覚が際立ちます。
普段なら矢部の怒鳴り声で笑える場面が、老人たちの集団心理と結び付いた瞬間、ホラーへと反転する。「真相は一つ」と胸を張れない、嫌な空気が最後まで消えません。
「信じたい」執念が生んだ最悪の結末
特に胸に刺さるのが、赤地の父が見せる「どうしても息子を信じたい」という執念です。
過去に息子が自分を殺そうとしていた事実を受け入れられず、猟銃で自らの胸を撃ち抜き、“生き返らせてもらう”ことで能力が本物だと証明しようとする。
しかし赤地は「僕にはそんな力はない。インチキだ」と言い放ち、絶望の中で死んでいく父をただ見つめるだけ。トリックを暴けば人が救われる――その期待を、冷たい目で踏み潰す結末が、あまりにも後味が悪い。
「元に戻らない」ものだけが残る
だからこそ、この解決編は忘れがたい。元に戻るのはビールや置物だけで、人の心や過去は戻らない。
視聴後に残るのは爽快感ではなく、真相の重さです。TRICKがときどき見せるブラックな本性を、これ以上なく突き付けてくる一話でした。
6話で判明する伏線
- 千田が病院で死亡する事実
- 奈緒子と矢部が入居者から「人殺し!」と糾弾される構図
- 赤地が5年前から魯人の経営に関わっていた経緯
- 元気な老人を断り、病弱者ばかり入所させる不自然な選別
- 千田の多額の借金
- “絶対死なない老人ホーム”の真相(死の隠蔽と相続税回避)
- 入居者が面会時間にだけ集まる“役者”という仕組み
- 赤地の能力がインチキであること
- 赤地と実父の過去、そして父の極端な行動
7話:死を呼ぶ駄洒落歌〜旧家の呪いに潜む謎
亀山歌という伝統が呼び起こす“呪い”
第7話は、第三シリーズエピソード4「駄洒落歌」編の前編。
平安時代の歌人・亀山道貞が確立したとされる和歌「亀山歌」は、掛詞や韻を踏む独特の技法を持ち、優れた者が詠むと“不思議な力”が宿るという言い伝えがある。その伝統を今に伝える名家・亀山家の屋敷が人手に渡ることになり、引き渡し前に「イチマツ模様の開かずの扉」を開けなければならなくなる。
顧問弁護士の松村に頼まれ、立会人として上田が現地へ赴くが、当然のように奈緒子も同行する。貧乏コンビが“呪いの儀式”に巻き込まれていく導入からして、TRICKらしい高揚感がある。
屋敷に漂う気配と旧家ミステリーの湿度
到着早々、亀山家の長女・千鶴は丁寧に一行を迎えるが、奈緒子は屋敷内で不審な人影を目撃する。湿った廊下や襖の向こうの気配で、笑いのテンポを保ちながらもじわじわと怖がらせる演出が巧みだ。
この章は横溝正史パロディの要素も濃く、旧家ミステリーらしい相関の複雑さが前面に出る。亀山歌を詠むときの独特の所作まで含めて、「妙に真似したくなる」中毒性があり、シリーズ屈指の人気エピソードとして語られるのも頷ける。
“高尚な和歌”が駄洒落に見える瞬間
個人的に面白いのは、高尚な和歌が一歩引くと「駄洒落」に見えてしまう、そのギャップ自体がトリックになっている点だ。掛詞とは、一つの言葉に二つの意味を潜ませる技法であり、これは手品のミスディレクションと同じ構造を持つ。
視聴者は歌が出た瞬間から、表の意味と裏の意味を探し始め、呪いを信じたい人間心理ごと推理に巻き込まれていく。この“言葉遊びが推理装置になる”感覚が、この章の肝だ。
開かずの扉が儀式になる
「開けると死人が出る」と噂されるイチマツ模様の開かずの扉は、旧家ミステリー定番の舞台装置だ。開ける前から疑心暗鬼が広がり、扉を開ける行為そのものが儀式になる。
それでいて名称は「イチマツ模様」。真面目に怖がらせながら、言葉一つでふっと力を抜く。この緩急があるからこそ、次に来る恐怖がより鋭く刺さる。
一瞬の暗転が生む“不可能感”
夜、扉を開け中に入った一同を襲うのが、明かりが消える“一瞬”の暗転。その短い闇の間に、千鶴の伯父・藤二郎が何者かに殺され、部屋には死の予告和歌が残されていた。
目撃者が多いにもかかわらず、決定的瞬間は誰も見ていない。この不可能感が、前編として最高の引きを作り出す。
混線する相関図が生む助走
「2話に分けなくてもよかったのでは」「登場人物が多くて把握が大変」という声が出るのも、この旧家の相関図が濃いからこそだろう。
しかし、その混線があるから、次回の解決編で歌の意味がほどけた時に、気持ちよく騙される。
第7話は、言葉遊びが殺意へ変わる瞬間を待たせる、不穏で贅沢な助走回になっている。
7話で判明する伏線
- 亀山歌(掛詞・韻)と、歌に不思議な力が宿るという言い伝え
- 亀山家屋敷の売却と、引き渡し前に必要な“扉開き”
- 「開けると死人が出る」と噂されるイチマツ模様の開かずの扉
- 弁護士・松村が上田に立会人を依頼した経緯
- 屋敷内で目撃される不審な人影
- 扉を開けた瞬間に起きる一瞬の暗転
- 千鶴の伯父・藤二郎の殺害
- 現場に残された死の予告和歌
8話:死を招く駄洒落歌の謎〜解決編
和歌が“殺人予告”になる皮肉
第8話「死を招く駄洒落歌の謎〜解決編」は、前回から続く旧家・亀山家編の決着回です。
駄洒落歌(亀山歌)に見立てた殺人予告が、次々と現実になる展開は、格調高いはずの文化がそのまま殺意の器へ転がっていく皮肉に満ちています。禁断の扉、仮面の闇十郎、そして言葉遊び。
いずれも“伝統”や“格式”をまといながら、人を追い詰める道具に変わっていくのがまず怖い。
名家のプライドが真相を拒む
藤二郎、麗香に続き千里まで死亡し、一族は「生き返った闇十郎の仕業」だと怯えますが、奈緒子だけは「犯人はこの中にいる」と言い切ります。
歌には予告以上の意味がある、という奈緒子の直感は的確なのに、亀山家のプライドがそれを跳ね返し、疑う者を“よそ者”として排除する空気が強まっていく。
ここに、上田が千鶴の美貌に分かりやすく動揺する要素が重なり、捜査の場に“理性”と“欲”のズレが生まれるのも、この章ならではの温度差です。
奈緒子失踪と、歌が示す“次の死”
捜査が進む中で奈緒子が忽然と姿を消し、今度は「奈緒子を閉じ込め窒息死させる」内容の亀山歌が現れます。
被害者が次に誰か、ではなく、“どう死ぬか”まで歌に書かれている。ここで一族の恐怖は頂点に達し、和歌が完全に死の設計図として機能し始めます。
掛詞が命綱になる瞬間
ここからの推理こそ、TRICKの真骨頂です。
歌に残された「桂の下」という一節は、庭木の桂ではなく、「かつら(鬘)」の下、つまり“薄い毛”という二段落ちの掛詞。矢部が必死に否定するほど、周囲の視線が頭頂部に吸い寄せられるのが、緊迫しているのに笑ってしまう絶妙な場面です。
さらに「薄い毛」は地名の「臼池」へ繋がり、上田・矢部・千鶴は歌に詠まれた場所へ急行。密閉された小屋で練炭が燃え、奈緒子は一酸化炭素中毒寸前――言葉遊びがそのまま命綱に変わる瞬間が痺れます。
闇十郎の正体と、旧家ミステリーの着地
救出後、上田は闇十郎に扮して仕掛け直し、“超常の怪人”を「人が作った恐怖」へ引き戻します。犯行の中心にいたのは千鶴で、遺産と恋慕が絡んだ身勝手さが、旧家ミステリーの文法で露わになる。
しかし決定打は、当主の遺言が「亀山を捨てよ」だったこと。
名家の実態は借金まみれで、血で血を洗っても報酬は何も残らない。顧問弁護士や契約の小ネタまで含め、権威が最後は商売として回収されていく冷たさが、後味をより苦くします。
最後に残る“らしさ”
それでもTRICKは、最後に一度だけ下世話に救ってくれます。
屋敷に本当に存在した「市松模様の扉」を開けると、中身はまさかの春画コレクション。ここまでシリアスに積み上げて、オチはエロギャグ。この振り幅に呆れつつも、「らしい」と笑ってしまう。
上品と下品、怖さと笑いを同居させ、後味の悪さすら娯楽に変える――それが、この解決編の到達点でした。
8話で判明する伏線
- 亀山歌は殺人予告であると同時に、掛詞で場所と手段を隠している
- 「桂の下」の真意(かつら=薄い毛)
- 「薄い毛」から地名「臼池」へ繋がる言葉遊び
- 練炭による密閉空間での窒息死の予告と実行
- 闇十郎は超常ではなく、人が演じた存在
- 沢や川の流れを利用したアリバイトリック
- 当主の遺言「亀山を捨てよ」と、資産が残っていない事実
- 本当の市松模様の扉と、その中身(春画)
9話:〜最終章〜念で物を生み出す女
“追放された霊能力者”が戻る村
第9話は、シーズン3の最終章の幕開けとなる「〜最終章〜念で物を生み出す女」。舞台は茨城県音玉郡・御獅舞村(おしまいむら)という、名前の時点で不穏さを孕んだ土地だ。
森に住み着いた占い師・長谷千賀子は、25年前に霊能力者として注目を集めたのち、科学者からニセモノと糾弾され、村を追われた過去を持つ。
彼女は恨みを晴らすため、「念で物質を実体化できる」と宣言して村へ帰還。討伐隊が小屋へ向かえば行方不明になるなど、村全体が一気に“呪い”の空気に包まれていく。
信じたい側の熱が事件を加速させる
そんな中、村の中学校教師・北見が上田を訪ねてくる。千賀子から死を予言され、呪いをかけられたというのだ。
上田は奈緒子を連れて現地調査に向かうが、北見が上田を敬愛し、服装や言動まで真似している様子が可笑しい一方で、“信じたい側”の熱量が事態を加速させる危うさもはっきり見えてくる。
解体ショーではなく、復讐のサスペンスへ
村名が「おしまい」と読めること自体が暗示的だが、この章ではいつもの小ネタ連打より、じわじわ迫る恐怖が前に出る。「見破れば終わり」だったはずの超常現象が、復讐と殺意をまとった瞬間、単なるインチキ退治ではなくサスペンスへ変貌する。
派手で乱暴者とされる金井家が“村の権力”として空気を支配している描写も、生々しいリアリティを伴っていて嫌な感触を残す。
予言どおりに起きる“死の兆し”
夜、奈緒子と上田の目の前で、予言された時刻どおりに北見が突然倒れ、胸を押さえて苦しみ始める。
この展開は視聴者にも「もし本物だったら?」という問いを真正面から突きつける強烈な引きだ。理屈で否定したいのに、目の前で起きる現象が、その足場を揺さぶる。
千賀子という人物の怖さ
長谷千賀子を演じる大谷直子が放つ怖さは、怨念だけではない。
妊娠中に追放され、恋人も失ったという来歴が語られると、彼女の復讐は単なる悪意ではなく、「生き延びるための執念」にも見えてくる。そこへ上田の“科学”が乗り込むことで、正しさと優しさは必ずしも一致しない、という最終章らしい苦さが浮かび上がる。
奈緒子自身が揺らぐ転換点
さらに衝撃的なのは、奈緒子自身が「自分に霊能力があるのでは」と気づいてしまうことだ。
これまでインチキを暴く側だった彼女が揺らぐことで、物語の矢印は“事件”から“山田奈緒子の出自”へ折り返していく。
加えて、村の騒動とは別に奈緒子を狙う影の存在が示され、次回へ向けてシリーズの核に触れる予感を残して終わる。
9話で判明する伏線
- 長谷千賀子が25年前に「インチキ」と糾弾され追放された過去
- 千賀子が掲げる「念で物質を実体化する」という能力
- 討伐隊(千賀子の小屋へ向かった一行)の失踪
- 北見にかけられた呪いと死の予言
- 予言どおりの時刻に北見が倒れる出来事
- 奈緒子が自身の霊能力の存在に気づく瞬間
- 村の出来事とは別に、奈緒子を狙う“別の影”
- 「黒門島の謎II」へ繋がる気配
10話(最終回):解かれた封印 霊能力の真実
呪いの封筒が揺らす「安全圏」
討伐隊とともに奈緒子が姿を消し、上田は森に落ちていた“呪いの封筒”を拾う。
中の紙に書かれていたのは長谷千賀子の名、しかも奈緒子の筆跡だった。上田はとっさにそれを隠すが、その一瞬を金井家の使用人・岸本に見抜かれ、視線が鋭く刺さる。直後、奈緒子は謎の集団に拉致され、黒門島へ連行される。
島で奈緒子は、黒白の玉を見ないまま言い当てる“実験”を強いられ、自分の中に何かが眠っているのではないか、と初めて自身を疑い始める。ここで一度、「全部トリックだろ」という視聴者の安全圏が崩れるのが面白い。
成功してしまった奈緒子の表情が、笑いではなく恐怖に寄っているのも、最終回ならではの重みだ。
封印解除の鍵は「5文字」
彼らの狙いは、里見がかつて黒門島から持ち出し、隠してきた“モノ”の封印を解くこと。その鍵が「5文字の言葉」で、里見の血を引く奈緒子なら分かるはずだと迫られる。
上田は里見に連絡して島の手がかりを得る一方、民俗学者・南方も同じ「5文字」を追って動き出す。
里見が封筒に書き残した「門に火」という謎文字が、冒頭で語られた里見の“のろけ話”と結びついていく構造は、最終回らしい回収の気持ちよさを持っている。
情けなさと覚悟が同居する上田
島へ乗り込む上田は、相変わらず情けないのに、奈緒子のことになると無茶をする。矢部と石原も合流し、拉致劇とカツラ芸が同時進行する温度差がTRICKらしい。
終盤、封印を解く言葉が愛のフランス語「ジュヴゼーム」だと分かり、上田がそれを口にする瞬間、事件解決の鍵がそのまま告白の形になるのがズルい。
箱の中身が毒ガスという罠で、逃げ惑うほど危険が増す皮肉まで重なり、笑いの奥にある欲と復讐が急に生々しく立ち上がる。
揺らぐ役割と、残る余韻
上田の生死が揺さぶられ、奈緒子が珍しく涙を見せる場面は、事件以上に胸に刺さる。今回は上田が推理役に回る場面もあり、二人の役割が揺らぐのも“最終章”らしい揺さぶりだ。
ラストは浜辺での“筆談”。奈緒子が「なぜベストを尽くさないのか」と問い、上田が「門に火」を差し出す。言葉にすれば壊れそうな距離感を、暗号と軽口で保留したまま、それでも確かに一歩だけ近づいた余韻が残る。
奈緒子が“本物”になりかけた瞬間に、また別の仕掛けや人間の企みが顔を出す。
視聴者の「信じたい」を同時に試す、シリーズの哲学がここに凝縮されている。黒門島という“原点”へ戻ることで、里見の影が濃くなり、家族の匂いがトリックそのものを超えて迫ってくる。答えを言い切らないからこそ、見返すほど味が出る。とにかく、ラストの余韻が深い。
10話(最終回)で判明する伏線
- 呪いの封筒に入っていた紙の名前が「長谷千賀子」で、奈緒子の筆跡だった
- 奈緒子が拉致された本当の目的が、里見が隠したモノの封印解除だった
- 封印解除には「5文字の言葉」が必要だった
- 「門に火(門構えに火)」が、5文字の鍵につながっていた
- 5文字の正体が「ジュヴゼーム」(愛の言葉)だった
- 岸本が事件の裏で暗躍していた事実
- 御獅舞村の事件と黒門島(黒津一族)が地続きであること
- 奈緒子の霊能力が“本物かもしれない”という余韻が残る
TRICK/トリック(シーズン3)の主要キャラクター整理

シーズン3を理解するうえで重要なのは、「誰が事件を解き」「誰が事件を運び」「誰が奈緒子を“出自”へ引き戻すか」です。ここだけ押さえると、各章の見え方が一気に整理されます。
山田奈緒子(仲間由紀恵)
自称天才マジシャンで、毎回“生活の崖っぷち”から事件へ滑り込む主人公。奈緒子の武器は超能力ではなく、まずは観察眼と勘。しかし最終章で「自分に霊能力がある」と気づく流れが入り、これまで“暴く側”だった彼女自身が「暴けない側」に足を踏み入れていくのがシーズン3の大きな転換点です。
上田次郎(阿部寛)
超常現象を科学で斬りたい物理学教授。理屈の人であり、同時に小心とプライドの人でもある――だからこそ奈緒子の直感と噛み合う瞬間に事件がほどける。シーズン3は依頼の入口が「上田に助けを求める」形で始まる章も多く、上田が“権威”として利用されること自体が事件の燃料になります。
矢部謙三(生瀬勝久)/石原達也(前原一輝)
矢部は公安の刑事で、だいたい面倒くさがりで怖がり、でも事件が起きると必ず現れる“事件を持ち込む装置”。石原はその部下で、矢部の雑さに振り回されつつ現場の常識担当として機能します。彼らがいることで、奈緒子と上田の事件が「民間の二人の冒険」で終わらず、社会(警察)へ接続される。
山田里見(野際陽子)
奈緒子の母。日常パートでは奈緒子を追い立てる“現実”の象徴になりつつ、シリーズ全体では「奈緒子の出自」を握る人物です。最終章では、里見に連絡することで上田が“島の手掛かり”へ近づく導線が置かれ、里見が物語の縦糸であることが再確認されます。
池田ハル(大島蓉子)
奈緒子の住むアパートの大家。非日常の事件がどれだけ派手でも、奈緒子が戻れば家賃が待っている――この戻り先があるから、TRICKの怪異は「笑い」に変換され続けます。
TRICK/トリックシーズン3の伏線

TRICKの伏線は、推理小説の「証拠の提示」だけじゃなく、ギャグ・小道具・言葉遊びが、あとから効いてくるタイプが多い。
シーズン3は特に「言葉」と「出自(霊能力)」が二重の縦糸になっていて、最終章でその2本が合流します。
「言葉」が現実を動かすモチーフが、章をまたいで反復される
- 言霊編では、玄奘の“発した言葉が現実になる”という恐怖が出発点。
- 駄洒落歌編では、和歌(言葉)が“死の予告”として人を縛り、屋敷を支配する。
- 最終章では、封印を解く「5文字の言葉」という形で、言葉が“鍵”そのものとして提示される。
同じ“言葉”でも、信仰・呪い・鍵と姿を変えていくので、「シーズン3って言葉のシーズンだな」と気づくと、見返しの密度が上がります。
奈緒子の霊能力が“本物かもしれない”という最大の伏線
第9話で奈緒子は「自分に霊能力がある」と気づき、第10話では黒白の玉の色を見ずに当てるテストを受ける流れへ進む。
ここはシリーズ的に“禁じ手”に近い揺さぶりで、トリック暴きの快感と、暴ききれない不安を同時に残します。
黒門島(出自)の再点火=「II」としての最終章
配信側のあらすじでは、里見が黒門島から持ち出して隠した“封印”を解く目的が示され、最終章が「黒門島の延長線」にあることが強調されています。
つまり、シーズン3の伏線は“事件”だけでなく、奈緒子の人生そのものが事件化する方向に伸びている。
各章で「回収される」タイプの伏線メモ
- 言霊編:玄奘の言葉/信者の集団/開発中止の圧力/真一の行方不明
- 瞬間移動編:スリット(すき間)/土偶強奪宣言/すり替えの疑い/三沢の死
- 老人ホーム編:入会金10億円/“元に戻す”デモンストレーション/千田の死と借金
- 駄洒落歌編:死の予告和歌/扉を開けた瞬間の暗転/奈緒子監禁/奈緒子への予告歌
- 最終章:千賀子の予言/北見の発作/奈緒子の霊能力自覚/孤島への拉致/封印と5文字
TRICK/トリックシーズン3の全体の結末

結末をひと言で言うなら、シーズン3は「事件を解決して終わる」よりも、奈緒子という人物の“暴けなさ”が表に出て終わるシーズンです。
毎章でトリックを暴いてきたのに、最後だけは「霊能力」と「封印」という、“理屈で閉じきれない箱”を残して去っていく。
最終章「念で物を生み出す女」=“事件”が奈緒子の内側へ侵入する
第9話で北見が倒れる一連の流れは、外側の怪異ではなく「奈緒子の中に何があるのか」を物語の中心へ押し上げます。奈緒子が霊能力を自覚する時点で、もはや彼女は“暴く側”の安全地帯に立てない。
第10話で奈緒子は孤島へ連れ去られ、黒白の玉を当てるテストを受け、上田は里見から手掛かりを得て島へ迫る。
配信側のあらすじが示す「黒門島から持ち出された封印」「5文字の言葉」という要素は、シーズン1の黒門島の余韻を“続編”として再び刺してくる仕掛けです。
“解決しても終わらない”余韻が、TRICK3を締める
TRICKは基本、トリックを暴いて終わる。けれどシーズン3は、暴いた先に「それでも残るもの(奈緒子の出自/霊能力)」を置いていく終わり方を選びます。
だから視聴後に残るのは、事件の答えよりも「奈緒子と上田の関係」「里見の影」「黒門島の匂い」みたいな、縦に残り続ける体温です。
TRICK/トリックシーズン3からFINALに繋がること

シーズン3(木曜ドラマ TRICK〜Troisième partie〜)は、連続ドラマとしては「ここで一度区切れる」作りになっています。
けれどラストで、“解明して終わり”では片付かない火種をちゃんと残す。これが、その後のスペシャル&劇場版へ自然に繋がっていくポイントです。
シーズン3最終章が残した“宿題”=奈緒子の血筋と霊能力の可能性
シーズン3の最終章(第9話「念で物を生み出す女」→最終回「解かれた封印 霊能力の真実」)は、TRICKの根っこにある問い――
「超常現象は全部トリックなのか? それとも…?」
を、いつもより強めに揺さぶってきます。
最終回では、奈緒子が拉致され、無人島で“霊能力があるかどうか”を試される流れが示されます。さらに、連れ去った者たちの目的が「里見(奈緒子の母)が黒門島から持ち出し隠したモノ」であり、封印を解くために“5文字の言葉”が必要、そして里見の血を引く奈緒子なら解ける――という設定が提示される。
つまり、奈緒子の出自(家系)そのものが“物語の爆弾”として扱われ始めるんですよね。
ここが、後年のシリーズが「村の因習」だけでなく、二人の物語=奈緒子と上田の“背負っているもの”に寄っていく下地になっていきます。
連ドラの“余韻”を、スペシャル&劇場版が拾っていく流れ
シーズン3の後、TRICKは連ドラの続編ではなく、スペシャルドラマや映画を“イベント”として積み重ねる形へ移行していきます。これが結果的に、FINALへ向かう一本道になる。
たとえば、2005年の『トリック 新作スペシャル』では、死を予言する占い師(緑川祥子)に奈緒子&上田が挑む内容が公式に紹介されていて、シリーズの定番である「奇跡に見える現象→暴くべきトリック」という骨格が継続していることが分かります。
また2014年の『新作スペシャル3』は、劇場版公開に合わせた“完結記念”として制作された旨が告知されており、テレビ側の締めを担う位置づけが明確です。
つまり、シーズン3は「連ドラとしての区切り」を作りつつ、作品自体は“終わる準備”を始めていて、スペシャルで世界観を保温し、映画でスケールを上げ、最後の年(2014)で一気に畳みに行く――そんな設計に見えます。
FINALは「トリックの総決算」+「二人の物語の着地」
FINAL(完結編)として多くの人が指すのは、2014年公開の映画『トリック劇場版 ラストステージ』です。公式サイトでも、シリーズ14年間の集大成として“最後”を強く打ち出しています。
内容面でも、舞台は海外の秘境(ジャングル/部族/呪術師)へ拡張され、TRICKが得意だった「閉鎖された村」からさらに外側へ踏み出す。シリーズが長年やってきた“超常現象の暴き”を、最後は最大スケールでやり切る構えです。
そして同時期に放送された『新作スペシャル3』も「劇場版とともにシリーズ最後を飾る」趣旨で伝えられており、TVと映画の両輪で“完結”を宣言する形になっている。
シーズン3で“奈緒子の血筋/霊能力の可能性”という縦軸を濃くし、そこからスペシャルと映画で世界を広げながら、最後は「奈緒子と上田」という核へ戻して終わらせる。
この流れが、シーズン3→FINALのいちばん大きな繋がりだと思います。
TRICK/トリックシーズン3の感想

シーズン3って、木曜9時に移ったことで“万人向けに丸くなった”ように見えて、実際は逆。TRICKの嫌な部分(信仰・支配・集団心理)と、笑いのキレ味が同時に研ぎ澄まされた印象があります。
放送時期も2003年10月〜12月で、シリーズとして「深夜のカルト人気」から「国民的フォーマット」へ上がっていく節目のシーズンでした。
5章×2話の設計が美しく、迷子にならないのに飽きない
まず構造が強い。基本は2話完結で全10話、章ごとに題材がハッキリしているから、初見でも追いやすいです。実際、配信サイトのエピソード一覧を見ても、テーマが一行で伝わる。
- 言霊で人を操る男(第1〜2話)
- 瞬間移動の女(第3〜4話)
- 絶対に死なない老人ホーム(第5〜6話)
- 死を招く駄洒落歌(第7〜8話)
- 念で物を生み出す女/霊能力の真実(第9〜10話)
この並びって、だんだん「現象の派手さ」じゃなく、人間の内側(言葉・欲・老い・家・恨み)に寄っていくんですよね。事件のタネがどうこう以前に、“信じたいもの”が変形して刃物になる怖さが増す。
「死なない老人ホーム」の後味が、シリーズのえぐさを象徴してる
個人的にシーズン3でいちばん印象に残りやすいのが、老人ホーム編。視聴者の感想でも「ここが好き」という声が出やすい章で、笑えるのに、見終わると妙に疲れる。
TRICKって、“事件は解決した”のに、人の尊厳とか、生き方とか、そういう重いものだけが残る瞬間があるんですが、老人ホームはまさにそれ。
「死なない」は本来祝福のはずなのに、そこに金と家族と制度が絡んだ瞬間、祝福が呪いに反転する。ゴールデンでやる内容としては攻めてるのに、ちゃんと成立させてくるのが堤組の怖さです。
最終回がずるい:「全部トリックでした」を気持ちよく言わせてくれない
そして最終回。
千賀子に「本物の霊能力者だ」と宣告された直後、奈緒子が拉致され、無人島で能力を試される。黒白の玉を“見ないまま”言い当ててしまう自分に、奈緒子自身が一番驚く――という筋立てが、あまりに嫌で、だからこそ最高。
TRICKは基本、「超常現象の正体=人間のトリック」を暴く快感をくれる作品です。でもシーズン3の終わり方は、その快感を最後に一回だけ裏切る。
その瞬間、視聴者は“安心”じゃなく、“不安を抱えたまま次へ行け”と言われる。これが、シーズン3がスペシャルや映画へ繋がる力になっていると思います。
結局、山田と上田の関係が“答えを出さない”から続く
もう一つ、ドラマライター目線で見て強いのは、二人の関係性の扱い方です。
シーズン3は、事件の構造が整理されている分、会話劇(ケンカ、見栄、貧乏、意地)がよりくっきり見える。なのに、恋愛ドラマみたいに答えを出さない。
「言わない」「踏み込まない」「でも放っておけない」――この保留の美学が、視聴者の中に“続き”を残し続けるんですよね。
だからこそ、シーズン3は「完成度が高いのに、終わった気がしない」。
それがそのまま、スペシャルや劇場版に向けた“物語の熱”として引き継がれていく。私はそう感じました。
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