9話で犯人が明らかになり、物語はいったん“答え”に辿り着いたかに見えました。
その直後に配信された9.5話「犬」は、事件の続きではなく、事件の前に確かに存在していた時間を描く回です。
犬を助けた、ただそれだけの出来事。
けれどその“良いこと”の記憶が、今のキングにとっては救いではなく、むしろ深い痛みとして突き刺さっていく。9.5話は、トリックや犯人探しではなく、「なぜ人は悪いことを忘れてしまうのか」を静かに問いかけます。
さらにラストでは、犬の行き先がタクト学園へと繋がり、最終回に向けた不穏な線が引かれました。
ここでは9.5話が物語全体で果たしている役割と、最終回にどう効いてくるのかを、考察込みで整理していきます。
良いこと悪いこと9.5話のあらすじ＆ネタバレ
Huluオリジナルストーリー「良いこと悪いこと」9.5話は、本編9話の直後に配信された特別編で、サブタイトルは「犬」です。
本編で“犯人が判明した後”の時間軸から始まり、仲良し6人組の「過去」と「今」を静かにつないでいく回になっています。
※ここから先は9話および9.5話のネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。
葬儀のあと、キングが受け取った“1枚のDVD”――「覚えているか？」
物語は、キング（高木将）が深い喪失の中にいる場面から始まります。9話で連続事件の実行犯が明確になり、さらに“ターボー”小山まで失った直後。キングに残ったのは、生き残ったという感覚ではなく、「取り残された」という感覚でした。
葬儀を終えて自宅へ戻ったキングに、妻・加奈が1枚のDVDを手渡します。ケースの中には短いメモが添えられており、そこに書かれていたのは――「覚えているか？」。
この一言が、9.5話の背骨になります。事件の“解決”ではなく、長い間、記憶の底に沈めてきたものを今さら引き上げるための合図。
ここで9.5話は、ミステリーの推理パートから、記憶と後悔のパートへと大きくギアチェンジします。
小学生の6人組――“秘密基地”の熱量と、ニコちゃんのSOS
DVDが呼び水となり、物語は小学生時代へと遡ります。キングを先頭に、仲良し6人組が向かうのは、工事現場の奥に見つけた“自分たちの場所”。
ドアの向こうを見つけて「ここが秘密基地だ」と盛り上がり、板にペンキを塗るなど、子どもたちの創作欲と高揚感が、そのまま画面にあふれています。
ところが、その熱量を断ち切るように、ニコちゃんが駆け込んできます。キングに向かって「お願い、助けて！」。指さす先にいるのは、川の向こう側で取り残されている一匹の犬でした。
この時点で9.5話は、「事件」ではなく「事故」、そして「悪意」ではなく「衝動」に焦点を当て始めます。だからこそ、サブタイトルが「犬」なのだと納得させられます。
川で犬を助ける――“良いこと”の記憶が、今になって刺さる
6人は犬を助けるために動き、結果として川で溺れかけていた犬を救い出します。これが、DVDに収められていたニュース映像の“元の出来事”でした。
映像に映っているのは、当時のキング、ターボー、貧ちゃん、カンタロー、ニコちゃん、ちょんまげ――6人の笑顔です。カメラの前で笑うその表情は、確かに“良いことをした子どもたち”の顔をしています。
ただ、9.5話がえぐいのは、その“良いこと”が、今のキングを救うどころか、むしろ逆に心を刺してくる点です。
なぜなら本編が描いてきたのは、彼らが小学生時代にやってしまった“悪いこと”（いじめ）と、それがもたらした取り返しのつかなさだから。9.5話は、視聴者にこう問いかけてきます。
「君たち、確かに“良いこと”もしていたよね？」
「じゃあ、なぜ“悪いこと”を忘れた？」
「忘れたふりをしたのは、誰のため？」
この問いが、そのままキングの涙へとつながっていきます。
現在のキング――加奈と花音の前で、崩れていく心
DVDの映像は“過去の記録”でありながら、今のキングにとっては“死者からの手紙”のように機能します。ターボーを含め、もう戻らない仲間たちが、映像の中では生きていて、笑っていて、ふざけている。
だからこそ、キングは簡単に立っていられない。悲しみが本当に追いつくのは、事件が終わった後なのだと、この回は静かに示します。
9.5話は、この「喪失の後処理」を真正面から描いた回です。本編9話の怒涛の展開で感情が張りつめた視聴者にとっても、「感情の置き場所」を用意する役割を果たしています。
ラストで判明する“犬のその後”――タクト学園へつながる衝撃
そして9.5話が、ただのエモーショナルな回で終わらない理由が、ラストに用意されています。
9.5話「犬」では、助けた犬がその後、紫苑がいた「タクト学園」へ引き取られていたことが明かされます。
つまり、6人組の“良いこと”が、紫苑のいた場所――本編の事件の根にある場所へ、一本の線でつながってしまう。
さらにタクト学園の場面では、犬を前にした子どもたちの中で「なんて名前にする？」と口にする女の子が映り、その口元のホクロの位置が東雲と同じではないか、という見え方も生まれます。
隣にいる男の子についても、今國ではないかという想像が広がる。
ここで9.5話は、単なる“過去の情景”ではなく、最終回に向けた追加ヒントとして機能し始めます。本編では描き切れなかった余白を使いながら、物語はもう一度、深いところで繋がっていくのです。
良いこと悪いこと9.5話の伏線
9.5話は、情報量が派手なタイプの回ではありません。ただし、最終回へ向けて「あとから見返すと効いてくる伏線」が、いくつも静かに置かれています。
ここでは、作中で確定した情報と、そこから広がる考察余地を切り分けて整理します。
伏線①：メモ「覚えているか？」
“記憶”が事件の中心であることを示す合図
DVDに添えられていた「覚えているか？」という一言は、9.5話のサブタイトル回収でありながら、本編全体のテーマ回収でもあります。
この作品で事件を動かしているのは、証拠や論理だけではなく、記憶そのものです。
しかも重要なのは、「何を覚えているか」ではなく、どの順番で思い出すか。
楽しかった記憶を先に思い出し、都合の悪い記憶を後回しにする。その積み重ねが、人を壊していく。最終回は、この“記憶の順番”をどう決着させるかが、大きな鍵になるはずです（※ここからは考察）。
伏線②：犬がタクト学園へ
“紫苑ルート”に直結する新しい接点
9.5話で最も大きな確定事項が、助けた犬のその後です。あの犬が、瀬戸紫苑がいたタクト学園へ引き取られていた。
本編9話でも、タクト学園は事件構造の中核として登場しています。9.5話は、そこへ「偶然では済まされない接点」を追加しました。
小学生時代の6人組がした“良いこと”が、紫苑のいた場所、つまり事件の根にある場所へと、時間差で繋がってしまう。この一本の線が引かれたことで、9.5話は単なる後日談ではなく、最終回へ向けた重要な布石になります。
伏線③：タクト学園の子どもたち
東雲・今國の過去を示す可能性
9.5話ラストに登場するタクト学園の子どもたちについて、
「女の子の口元のホクロの位置が東雲と同じに見える」
「隣にいる男の子が今國に似ている」
といった見え方が生まれている点も、無視できません。
この時点では断定できる情報ではありません。
ただし、制作側が“そう見える配置”を意図的に置いてきたのは事実です。
最終回直前のタイミングで、わざわざこの映像を挿入した以上、「回収する気がある伏線」と読んでおくのが自然でしょう（※ここは考察）。
東雲についてはこちらをチェック↓
伏線④：“良いこと”の映像が、逆に罪を強くする構造
犬を助けたニュース映像は、本来なら完全な美談です。普通のドラマであれば、癒しや救いとして機能します。
しかし本作は、その美談を
「お前たちは良いこともできた。それでも、なぜ悪いことを止めなかった？」
という刃に変えてきます。
9.5話は、この構造そのものが伏線になっています。
最終回が「赦し」に向かうのか、「断罪」に向かうのか。
どちらに着地したとしても、この善と悪の矛盾を同時に突きつける構造は、確実に効いてきます。
良いこと悪いこと9.5話の感想＆考察
9.5話「犬」は、派手な真相解明がある回ではありません。
それでも、見終わったあとに胸の奥が重く残るタイプの回でした。理由はシンプルで、ここで描かれているのが“事件のトリック”ではなく、人が人を壊す前に確かに存在していた、普通の時間だからです。
ここからは9.5話が最終回にどう刺さってくるのかを、できるだけロジカルに言語化していきます。
※以下は考察です。
テーマ考察：「犬」は“無垢”の象徴であり、タイトル回収そのもの
犬は基本的に善悪を知りません。人間の事情も、過去の因縁も理解しない存在です。
だからこそ「犬を助ける」という行為は、子どもたちの“良いこと”として、もっとも分かりやすい善意として描かれます。実際、ニュース映像に映る6人の笑顔は、救助の達成感そのものに見えます。
しかし本作は、そこを癒しとして終わらせません。
“良いこと”の記憶を、現在のキングの罪悪感と喪失へと直結させる。つまり9.5話における犬は、癒しではなく、「お前はまだ戻れるはずだった」という可能性の亡霊として機能しています。
構成のうまさ：9話の地獄 → 9.5話の静けさで感情を回収する
本編9話は、いじめの過去、紫苑の死、宇都見の復讐、ターボー殺害と、感情的にも視覚的にも“エグさ”で押し切る回でした。
その直後に9.5話を置く構成は、完全に計算されています。
視聴者の感情を「怒り／恐怖」から「喪失／後悔」へとスライドさせ、最終回で描かれるであろう“裁き”や“答え”を、感情的に受け止めるための土台を作っている。
これは脚本の順番として、かなり強い配置です。
9.5話最大の爆弾：犬 → タクト学園
東雲・今國ルートの裏取りが始まった？
9.5話のラストで、助けた犬がタクト学園へ引き取られていたことが明かされます。
ここは、僕個人としては「真犯人（黒幕）の領域に踏み込んだ合図」だと受け取りました（※考察）。
本編9話時点で、宇都見は“実行犯”として確定しています。ただし、予告や「あとは頼んだ」という口パクが示す通り、物語は「真犯人、だーれだ？」という構図へ進んでいます。
つまり最終回は、宇都見の単独犯で終わらない可能性が高い。
そこへ9.5話で、タクト学園の子どもたち――東雲や今國を想起させる要素――が差し込まれた。
ここまで来ると、黒幕候補はかなり絞られてきます。
- パターンA（本命）：東雲・今國がタクト学園ルートで紫苑と繋がっており、宇都見の復讐を後押し、あるいは利用していた
- パターンB（対抗）：東雲・今國は関係者ではあるが黒幕ではなく、別の人物がタクト学園を起点に動いている
- パターンC（大穴）：タクト学園は犯人特定ではなく、「復讐が連鎖する土壌」を示すためのテーマ装置
9.5話は、これらすべてに振れるように作られています。だからこそ、不穏で怖い。
最終回へ向けて注目したいポイント
最後に、9.5話を踏まえて「最終回でここを回収しないと終われない」と感じた点を整理しておきます。
- 「覚えているか？」の主語は誰なのか
DVDを送った、あるいは残した意図は、単なる追憶なのか、それとも誰かを導くためのメッセージなのか。 - タクト学園は“舞台装置”で終わるのか
犬の引き取り先まで結びつけた以上、タクト学園は最終回の核心に近い場所になるはずです。 - 東雲・今國の“過去”が描かれるのか
9.5話で映った子どもたちが誰なのか。ここを曖昧なまま最終回を迎えるのは、かなり難しい。
9.5話「犬」は、一見すると優しい回です。
けれど実際は、最終回に向けて火を点ける静かな導火線。
僕は、そう受け取りました。
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