「じゃあ、あんたが作ってみろよ」――この一言から、物語は動き出します。
恋人のために尽くすことを愛だと信じてきた山岸鮎美(夏帆)と、努力も礼儀も完璧なのにどこか“昭和の男”が抜けない海老原勝男(竹内涼真)。二人は別れを選び、そして再び“作る”という行為を通して、愛のかたちを見つめ直していく。
料理、会話、仕事、そして暮らし――「誰かのため」に作ってきた日々から、「自分も一緒に作る」日々へ。
本記事では、そんな二人の“別れから始まる再生”を、全話のあらすじと最終回の予想を交えて筆者の視点で解説します。
ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」に原作はある?

あります。原作は、漫画家・谷口菜津子さんによる同名コミック『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。ぶんか社の電子コミック誌「comicタント」で連載中です。
ドラマ公式サイトの「原作」ページにも、連載媒体と作品名、著者名が明記されています。さらに紙・電子ともに1〜3巻が発売中で、作品紹介の要約もドラマ公式で確認できます。
原作の魅力は、“恋人ファーストで自分を見失った彼女”と“料理は女が作って当たり前!”な彼氏が、別れを起点に「当たり前」を見直していく再生ロマンスであること。
TBS公式の「はじめに」でも、作品の核が“現代日本の『あたりまえ』を見直す、別れから始まる二人の成長&再生ロマンスコメディ”と明確に語られています。原作自体も話題作で、「CREA夜ふかしマンガ大賞2024 第1位」「このマンガがすごい!2025 オンナ編 第4位」といった評価が紹介文に掲出されています。
また、連載は現在も継続中。分冊版は最新で第25話まで配信があり、第26話の配信予定も告知済みです。
つまり、コミックス版・分冊版ともに物語は“進行形”。この「原作がまだ走っている」ことこそが、ドラマの結末をめぐる最大の見どころにつながっていきます。
原作について詳しく知りたい方はこちら↓

【全話ネタバレ】じゃあ、あんたが作ってみろよのあらすじ&ネタバレ

1話:筑前煮はラブレター——“別れ”をほどくレシピが、彼と彼女の時間を巻き戻す
第1話のスタート地点は“別れ”。恋人のために尽くすことを愛だと信じ、気づけば自分を置き去りにしていた山岸鮎美(夏帆)と、努力もマナーも完璧なのに価値観は少しだけ古い海老原勝男(竹内涼真)。二人は終わりを選びました。別れから始まる恋という設計は、まさに火曜ドラマの10時枠にふさわしい導入。最初の1分で“私たちはなぜズレたのか”という問いを観客に投げかけます。
料理が導く“気づき”——愛の工程表をたどる男
物語の推進力を担うのは、勝男の“気づき”です。会社の後輩に背中を押され、鮎美がいつも作ってくれた筑前煮に挑む彼。包丁の入り方、根菜の下処理、火加減、味の入りを待つ時間——そのすべてが“当然”ではなかった事実に直面します。
「できる男」という自負が崩れるたびに、画面にのるのは料理の手間=誰かを思う手間。勝男が知るのは味ではなく、愛の工程表です。1話の核はここにあり、この“気づきのプロセス”こそが再生への入り口となっています。
“別れた後”の鮎美——献立表を離れて自分を取り戻す旅
対する鮎美は、“別れた後”の姿が描かれます。彼女は見慣れない仲間たちと、少し不穏な空気の場所にいる。そのワンカットが意味するのは、鮎美もまた自分を取り戻す旅の途中だということ。恋人のための献立で埋め尽くされたカレンダーから離れ、誰と、どこで、何を食べるかを自分で選び始めるのです。
筆者の目には、この場面は“誰のために作るか”を選び直す薄明かりのように見えました。
過去と現在を編む構成——“別れ”を成長に変える回想
1話の時間は、二人の“過去”と“現在”を編み合わせて進みます。大学時代からの同棲、勝男のプロポーズ、そして別れ。回想は言い訳ではなく、“当時の最適解”を示すために挿入され、現在の選択へと繋がっていきます。
鮎美は“恋人ファースト”をやめる勇気を持ち、勝男は“俺が正しい”を一度置く勇気を学ぶ。その橋渡し役に料理が据えられているのが、このドラマの魅力です。
沈黙の味見——“失ったもの”の重さを描く名場面
筆者が胸を打たれたのは、勝男の味見の沈黙でした。鍋の湯気の向こうで、ひとさじを口に運んで黙る時間。そこに“失ったものの大きさ”が立ち上がる。
筑前煮は、鮎美が黙って折り畳んできた時間の総量であり、勝男の舌が覚えるのは甘辛の配合ではなく彼女の生活の努力です。料理は言葉よりも誠実だ——筆者はそう感じました。この描写が1話の感情の中心に据えられている点も見事です。
“完璧”と“献身”の対比——男女の役割を更新する物語
1話は、二人の“仕事”も対比的に描かれます。勝男の「完璧」は職場での立ち振る舞いに現れ、鮎美の「献身」は私生活の段取りに現れる。公(仕事)と私(家)の分配が、価値観のズレを増幅させてきた。
そこに“料理”という公私を横断するタスクが投げ込まれ、勝男は初めて“私”の側へ降りていく。ドラマは“亭主関白的な男”を笑い者にせず、学習する男として描き直します。再生の物語としての構成がここで鮮やかに成立しています。
筆者の考察——“役割の更新”がもたらす優しさ
筆者の視点で言えば、1話は“役割の更新”のドラマです。
鮎美は“作る人”であることから一歩離れて“選ぶ人”になる。勝男は“評価される人”から“感謝する人”になる。二人のズレは悪意ではなく、分担の化石化から生まれたもの。だからこそ、解決も派手な逆転ではなく、台所のシンクの前——包丁を持ち替えることで始まる。
“別れから始まる”というテーマは、この地味で尊い更新を火曜の夜にそっと手渡すための器のように思えます。
湯気の余韻——“前菜”としての再生物語
クレジットの最後に流れる湯気、手のひら、台所の音。エンドの余韻は、たぶん二人の未来の温度です。
1話は“復縁フラグ”を派手に立てるより、“もう一度向き合えるかもしれない自分になる”ための前菜。第2話以降、ささやかな失敗と再挑戦を重ねながら、二人は“当たり前”の棚卸しを続けていくはずです。そこに恋の甘さも、仕事のしょっぱさも、暮らしの酸っぱさも、ぜんぶ溶けていく。
そんな新しいレシピが、もう台所の隅で立ち上がっている——筆者はそう感じました。
1話のネタバレについてはこちら↓

2話:忍耐女よ、すすめ!――“気づかれない髪色”から始まる、彼女の回復と彼の逡巡
第2話は、久々にすれ違ったのに髪色が変わった鮎美(夏帆)に勝男(竹内涼真)が気づかないところから始まります。
ショックを呑み込んだ鮎美は、別れを決めるに至った“あの頃”を思い返す——美容師・渚(サーヤ)に「好きなものは何?」と問われ、“好かれるための選択”をやめて“自分の好き”に手を伸ばす練習を始めた日々。
やがて酒屋のミナト(青木柚)に声をかけられ、他人の機嫌に合わせない距離感に、硬くなっていた心がゆっくりほどけていきます。ここで描かれるのは“新しい恋”ではなく、自分を取り戻す回復のプロセス。第2話のあらすじは、この流れを丁寧に下支えしています。
学習する男の逡巡——“完璧”を崩す小さなヒビ
いっぽう勝男は、後輩・南川(杏花)にマッチングアプリを勧められても即拒否。「鮎美みたいな女性はそんなところにはいない!」と突っぱね、価値観の違いで口論に。
とはいえ彼は“頑固なまま”では終わらない。ある出来事をきっかけに、アプリへの興味をわずかに示し始める。完璧さの殻を割る最初のヒビは、恋を探すためではなく、自分の段取りを見直す練習として置かれているのが、この回の面白さでした。
髪色が示す“自分の旗”——忍耐の方向転換
筆者の胸に残ったのは、髪色が“別れの旗”ではなく“自分の旗”になっていく手触りです。
鏡の前で、渚の問いに真正面から向き合う鮎美は、他人の期待の色ではなく、自分の気分に似合う色を選ぶ。これは恋の再点火ではなく、“自分で自分の機嫌を取る”という最小で最大の一歩。
対して勝男の逡巡は、昭和的な“当たり前”から降りて学習する男になれるかどうかの試金石。どちらの忍耐も“相手のために耐える”ではなく、“自分のために選ぶ/待つ”に更新されていました。
ミナトの“中間距離”——恋の火力ではなく体温の回復
また、ミナトの距離感が話題に。SNSやメディアでは「年下沼男」「距離感バグ」という反応が噴出。
ぐいぐい来ない、でも逃げない“中間距離”は、誰かに傷ついた心にとって最高のリハビリになるのだと気づかされます。彼は誰かを奪う対抗馬ではなく、自己肯定を思い出させる触媒。その受け止め方が“恋の火力”ではなく“体温の回復”に振れているのが、このドラマの品の良さだと思います。
段取りがもたらす“公平”——暮らしの中の愛の再定義
そして忘れたくないのは、料理=段取りが“公平”を連れてくるという主題。第1話の筑前煮で置かれた線は、第2話でも生きていました。
恋は言葉で燃えるけど、暮らしは工程で温まる。もしこの先、二人が同じテーブルに戻るなら、必要なのは“感情の謝罪”より“工程の分配”だと筆者は思います。作品が掲げる“今までのあたりまえを見直す”という宣言は、まさにその方向を指しているように感じられました。
2話のネタバレについてはこちら↓

3話:おでんが教えてくれた“想像力”——椿との夜と、公園でのさよなら
冒頭、勝男は鮎美とミナトが抱き合う姿を目撃して撃沈。吹っ切れない自分を誤魔化すように、同僚に勧められるままマッチングアプリへ。
現れたのは、会話も会計も主導する女社長・椿。「お金を持ってる方がお会計でいいじゃん」と笑う令和のスピード感に、勝男の“エスコート計画”はあっさり崩れる——それでも彼女の強引さに乗せられるように“お家デート”が決まる。勝男は一晩かけて、おでんを仕込んだ。
おでんに映る過去の自分——“作る側の孤独”に気づく夜
ところがテーブルについた椿の第一声は、「コンビニくらい美味しい」「買って煮ただけみたい」。カチンときた勝男は言い返しながら、ふいに固まる。作った人の気持ちを想像しない——それ、ずっと自分が鮎美にしてきたことだ。
椿の無神経さに見えたものが、鏡のように“過去の自分”へ反転して見える瞬間。勝男は「椿は俺だ。鮎美が見てた俺の姿だ」と崩れ落ち、涙が止まらない。ここで初めて、彼は“作る側の孤独”に触れる。
泣きじゃくる勝男に、椿は飄々と「飲もうぜ!」。二人は肩を並べて朝まで飲み、勝男にとって初めての女友達ができる。翌朝のキッチンで椿がさっと焼いてくれたのは“納豆トースト”。奇妙で温かい、失恋友達の朝ごはん——その軽やかさが、勝男の心に新しい風を吹き込む。
鮎美の“正直な恋”——合わせる恋をやめる勇気
一方の鮎美は、天真爛漫なミナトとデートへ。スイーツ食べ歩きにときめきつつ、実は甘いものが得意じゃない自分をごまかしていることに気づく。
渚の助言を背に、勇気を振り絞って電話で「本当は甘いのが苦手」と正直に告げ、さらに自分から「好きです」と告白。ミナトは「付き合ってください」と応え、二人は晴れて恋人に。“合わせる恋”をやめるための、小さくて大きい一歩だった。
静かな公園で交わす“さよなら”と“ありがとう”
そして夜。スーパーで偶然出会った勝男と鮎美は、公園のベンチで静かに向き合う。鮎美は「私、勝男さんのおかげで変われたの」と感謝を述べ、最後に「彼氏ができた」と告げる。
条件や都合で相手を選んでいた自分を認め、いまは“心が喜ぶ人”を好きになれたと伝える。勝男は痛みを飲み込みながら「ありがとう」と返す。終わり方をちゃんと選ぶ二人の言葉は、柔らかいのに容赦がない。ここで物語は、過去と現在の手放し方を教えてくれる。
静かな余韻の裏に漂う不穏——次回への予感
ただ、甘い余韻だけでは終わらない。ミナトには「近場で彼女を取っ替え引っ替えしている」という噂がちらり。
鮎美の“正直な恋”は、この先どんな風に試されるのか。静かな不穏が、次回への胸騒ぎを残す。
3話についてあらすじ&ネタバレはこちら↓

4話:タイムマシンよ、うごけ!——「任せる愛」と「境界線」の夜
噂と同棲スタート——“大量消費型恋愛体質”という不穏な言葉
鮎美が「すごく好きな彼氏ができた」と告げた直後、勝男は太平のバーでミナトと遭遇。
渚や元カノの証言から、ミナトが“すぐに付き合ってすぐ別れる”大量消費型恋愛体質だと噂されていることを知る。
それでも勝男は、南川からもらった一言――「元カレは無関係」――を胸に、線を越えないことを選ぶ。第4話の土台は、この“知ってしまった心配”と“越えない境界線”のせめぎ合いに置かれている。
一方の鮎美は、ミナトとの距離を一気に詰め、ついに同棲へ。家で彼の帰りを待ちながら、ふとこぼれる違和感と不安――それでも「新しい暮らし」を信じたい気持ちが勝り、前を向こうとする。
その矢先、彼女は“ミナトのある場面”を目撃してしまう。ここで物語は、甘い夢見心地から、現実の温度へと一段落ちていく。
酒屋で交わされる“任せる”対話——愛のスタンスが浮かぶ瞬間
中盤、勝男は南川と飲みに出かけ、偶然ミナトが働く酒屋に入る展開に。勝男はテキーラをあおりながら、それでもまっすぐに言葉を選ぶ――「鮎美のこと、よろしく頼む」「手が荒れやすいから洗剤は植物性で」。それは、かつて自分ができなかった思いやりを、託すという形で差し出す行為だった。
対するミナトは、「任せなくて大丈夫。鮎ちゃんは誰かに任せなくても大丈夫。強いから」と返す。ここに、“彼に委ねる愛”と“彼女を信じて託す愛”、ふたりのスタンスの違いがくっきりと描かれる。
ラスト——雨の夜に揺れる信頼の輪郭
配達に出たミナト。傘を手に店へ向かう鮎美。雨の中車のガラス越しに映るのは、女性と一緒にトラックに乗っているミナトのシルエット。
鮎美は店に着くと、店内にいたのは勝男ひとり。「たまたま一緒に飲んでいた」と説明する勝男に、鮎美はつぶやく――「やっぱり見間違いじゃなかったんだ」。背を向ける彼女の腕を、勝男がそっと掴み、ただ一言、「大丈夫?」。鮎美は「うん、大丈夫」と答えるが、その声は濡れている。
同棲=安心のはずが、同棲=試される関係へと反転する。甘さの中に砂粒が混ざったような痛みを残して、第4話は幕を閉じた。
“任せる愛”が照らす大人の選択
この回の主役は、“任せる愛”だった。勝男は“救出”ではなく尊重を選び、過去の自分が見落とした細部(手荒れ、食の好み、家で待つ人の気持ち)を、言葉と態度で丁寧に補修していく。線を越えないことで守れるものがあると、やっと知った人の静かな成長がまぶしい。
一方で、ミナトの「強いから大丈夫」は、信頼の言い方でもあり、同時に無自覚な免罪符にもなる。だからこそ、雨の“目撃”は、鮎美の自尊心に直接触れてくる。ここから先は、「見たこと」より「どう伝えるか」の物語になる。
副題「タイムマシンよ、うごけ!」の回収——時間は戻せなくても
副題の「タイムマシンよ、うごけ!」の回収も見事だった。勝男は、過去の過ち(想像力の欠落)を、いまの言葉で修復する。鮎美は、過去の“合わせる癖”を、いまの自分の境界線で塗り替える。
二人とも、時間を巻き戻すことはできない。けれど、現在の手つきで未来を変えられる――そう信じさせる余韻が確かに残る。
次話(第5話)では、鮎美が見た“あの場面”の真実が明かされ、同棲の現実がさらに立体化していく。
4話のネタバレ&あらすじについてはこちら↓

5話:『とり天』が照らした“愛し方のズレ”…「結婚」で冷えた夜と、兄弟の涙で温まる台所
“優しさの形”がすれ違う夜
はじまりは唐突なざわめき。鮎美(夏帆)は恋人ミナト(青木柚)が元カノ・関田(芋生悠)と会っているのを目撃し、胸がざわつく。
しかもミナトは悪びれる気配なく、彼女をそのまま自宅へ連れてきて“みんなで飲もう”と提案。
悪意はないが、やさしさでもない。この“無自覚の鈍さ”が、静かに二人の境界線を傷つけていく。
勝男と兄の再会——“とり天”が繋ぐ不器用な愛情
同じ頃、勝男(竹内涼真)のもとへ兄・鷹広(塚本高史)が上京。いつも自分より優秀に見えていた兄が抱える“ある苦悩”に触れた勝男は、料理で背中を押すと決める。
選んだのは、故郷・大分の味「とり天」。思いつきの優しさが、本気の段取りに変わる瞬間だった。
台所の再会——“息が合うのに、もう恋人じゃない”残酷さ
材料をそろえ、火を入れる台所に鮎美が引き寄せられる。気まずさを抱えたまま同じキッチンに立つ元恋人ふたり。
揚げ油の音、粉をはたく指先、目が合えばすぐ逸らす——「いまは恋人じゃないのに、息は合う」という残酷な現実。
料理は口実なんかじゃない。“支えたかった日々”をもう一度手で作り直す行為だと、画面が語っていた。
視聴者の心も「泣けた」「背中が尊い」と揺れたのは、この静かな温度のせいだろう。
“とり天”が包む兄弟の涙——“家族の問題”を越える手のぬくもり
出来上がった“とり天”は兄のもとへ。言葉にならない励ましを、衣に包んで。勝男は不器用に胸の内を差し出し、強がる兄の肩にそっと手を置く。
ここでドラマは、“家族の問題は家族だけの問題じゃない”ことを教える。
誰かのために揚げるという行為が、男たちの沈黙をほぐす。料理は説明ではなく、手続き。第5話の芯は、その一瞬のぬくもりに宿っている。
嫉妬を“わがまま”から“お願い”へ——鮎美の正直さと、ミナトの後退
一方で、鮎美とミナトは正面からぶつかる。元カノからの電話に出ようとするミナトを前に、鮎美はついに本音をこぼす——「行かないで。前に付き合ってた人に会うのは、やめてほしい」。
嫉妬を“わがまま”と呼ばず“お願い”に言い換えた勇気を、ミナトは一度は受け止め、「嫌なことはしない」と抱きしめて“変わる”と約束する。
だがその直後、鮎美の口からふとこぼれた「結婚したら変わるんじゃない?」の一言が、ミナトの温度を一気に下げる。未来という言葉が、彼の自由を脅かす“重さ”として響いたのだろう。
別れの夜——“とり天”の匂いが残る台所
数日後、ミナトは淡々と告げる。「俺たちさ、別れよう」。優しさの皮膚感覚で繋がっていた二人が、人生のリズムでは繋がれなかったという現実。
鮎美の台所に残った“とり天の匂い”が、幸福の余韻にも悔しさにも嗅ぎ分けられず、ただ胸の奥で渦を巻く。恋の終わりは、いつも生活の真ん中に落ちてくる――そう教えられる締めくくりだった。
まとめ——“愛の速度”より、“手のぬくもり”を信じたい
胸に残ったのは、三つの温度差。
①してあげたい鮎美と、してもらわなくて平気なミナト。
②背中を押したい勝男と、押され慣れていない兄。
③台所で合う勝男と鮎美の手つきと、未来で合わない鮎美とミナトの歩幅。
ドラマはここで、“愛は善意の量ではなく、同じ速度で進めるか”だと静かに示す。第5話の“とり天”は、単なる食材ではない。人と人のあいだに温度を配る、小さな灯りだった。
5話についてのネタバレについてはこちら↓

6話:湯気がほどく「ごめん」と「ありがとう」の夜
ミナト(青木柚)から「結婚願望がない」と別れを告げられた鮎美(夏帆)は、誰にも言わずに一人暮らしを始めた。
けれど体は“二人の暮らし”を覚えたまま。うっかり二人分を作ってしまい、空の椅子に湯気だけが立つ——この“二人分”の朝が、彼女の失恋の温度を静かに伝えていた。
言えない想いを“手順”に変える——勝男の台所に生まれた変化
一方の勝男(竹内涼真)は、父・勝(菅原大吉)が「今度こそ結婚の挨拶だ」と信じていることを知りながら、別れを言い出せない。
後ろめたさを抱えるほど、台所に立つ時間が増えていく。やがて鶏がらから出汁を引くようになり、包丁の音が少し軽くなる——言えない気持ちを“手順”に変えるように。
彼の変化は、言葉ではなく生活の細部で描かれていた。
不器用なやさしさ——ホームパーティーで見えた孤独の温度
そんな折、椿(中条あやみ)に誘われたホームパーティーで、勝男は張り切って小籠包を用意する。けれど華やかな場に手作りの蒸籠はうまく馴染めず、テーブルの端で湯気が細くなっていく。
その姿には、不器用なやさしさが滲んでいた。誰にも食べられない料理ほど寂しいものはない——私は画面の前で、あの湯気の薄さに胸が詰まった。
“項目として測られる”会話——鮎美の婚活パーティー
同じ頃、鮎美は同僚に誘われ、婚活パーティーへ。参加者の坂口(山添寛)と城嶋(少路勇介)に出会う。まぶしい照明とプロフィールの紙が、彼女を“項目として測る”会話にさらしていく。
坂口の矢継ぎ早な質問、城嶋のハイスペックな自己紹介——笑いの温度で描かれながらも、心が少し乾く時間だった。華やかさの裏で、鮎美は静かに疲れていたのかもしれない。
湯気の向こうで握手した“ごめん”と“ありがとう”
夜の帰り道、蒸籠の行き先は思わぬ方向へ。パーティーで不発に終わった小籠包が、最後に鮎美のテーブルへ辿り着く。勝男が「食べ方の順番」を真面目に説明し、鮎美がそれを最後まで聞いてから、そっとひと口。
スープが舌に触れた瞬間、彼女から零れる「美味しい」。勝男の顔に灯る小さなガッツポーズ。その音のない握手に、“ごめん”と“ありがとう”が静かに重なっていた。
恋の続きではなく、生活の続きを——6話が残したもの
ラストは次回への橋渡し。父にまだ言えていない現実、そして“家族”という正面に立つ準備。
第6話は、恋の続きではなく、生活の続きを描いた回だった。湯気が消えるたび、また立ちのぼる——それだけで、人はもう一度やり直せるのかもしれない。
6話についてのネタバレはこちら↓

7話の予想:『両家顔合わせ』で暴かれる“家の本性”と、見られる恋の行方
まず事実の芯を確認したい。
勝男と鮎美は、別れたことをそれぞれの親に言い出せないまま。友人の結婚式が迫る中、鮎美はふと目にした恋愛リアリティーショーに、姉・さより(菊池亜希子)の姿を見つけて衝撃を受ける。しかも、その番組には椿(中条あやみ)まで出演。
二人は別々に大分へ帰省するが、親たちは内緒で両家の食事会(顔合わせ)を段取りしており、当人たちは別れを隠したままテーブルに座ることになる。
そこで勝男は、鮎美が隠してきた“家族の本来の姿”を目の当たりにし、ある一言をぶつけてしまう——ここが7話の引き金になる。
山岸家の登場——“家”という舞台が整う
7話では鮎美の家族が本格的に登場する。姉・さより役に菊池亜希子、父・山岸正司役に星田英利。これまで回想に登場してきた母(しゅはまはるみ)に続き、“山岸家”が丸ごと立ち上がる。
メディア情報が示す「気まずすぎる両家顔合わせ」という言葉は、家=親の価値観と恋=自分の選択が正面から衝突する構図を予感させる。
つまり、7話は“家族と個人の再定義”が主題になる回だ。
ここからは、筆者の視点で台所の匂いと沈黙の“間”から、7話で揺れそうな感情をほどいていく。
① “見られる私”が増幅される夜——さより×椿×恋リアの交差
恋愛リアリティーは“物語の圧縮装置”。編集とテロップが、人の複雑さを“キャラ”に変換していく。
さよりは“問題児の姉”として番組内でも振れ幅を担い、椿は「自己分析ができる女」として“強さ”を演じるはず。
一方の鮎美は、「見せたい自分」を持てないまま“見られる”ことを拒む人。だからこそ、テレビの中の家族と現実の家族の落差に胸がきしむ。
「私の家を、私の言葉で語り直せていない」——その痛みに行き当たったとき、勝男の真正面の視線が、彼女の逃げ場を奪うのか、それとも避難場所になるのかが分岐点になる。
② “地雷だらけの食卓”——両家顔合わせは、期待と沈黙の綱引き
別れを隠したままの顔合わせは、嘘による礼儀。皿が並ぶほど、会話は地雷原になる。
親たちは「将来設計」「いつ籍を」と、正論の質問を積み上げる。鮎美は“うまくやれてる自分”を演じ、勝男は“守るべき空気”と“真実”のあいだで呼吸が浅くなる。
予想の核心はここだ。勝男の“ある一言”は、鮎美の家族に向けた正しさというより、痛む人の側に座る宣言になる。
それは親を敵に回す可能性があり、鮎美にとっても刃になるかもしれない。
けれど第6話までの彼は、行動で愛を示す人だった。ならば7話では、言葉で誰かを守る人になるのではないかと思う。
③ 「家の本来の姿」は誰が名づける?——鮎美の“沈黙”の正体
“本来の姿”という語は、暴きと救いの両方を含んでいる。
鮎美が隠してきたのは、家の不協和音だけではなく、そこにまだ残る愛情の残骸かもしれない。彼女は「家族を悪く言わない娘」でいることで、なんとか自分を保ってきた。
勝男の直球が突き刺さるのは、正論だからではなく、「私が言えなかった言葉」を他人に先に言われた痛みがあるから。ここをどう越えるか——謝罪ではなく、再定義が必要になるはずだ。
「あなたの家を、あなたの言葉で語り直す時間を一緒に作る」——それが、7話の核心へとつながる前口上になると感じている。
④ 大分の結婚式は“未来の比喩”——祝福の席でふたりは何を選ぶ?
晴れの席は、他人の未来が可視化される場所。ブーケの行方や両親への手紙の一言一句が、ふたりの胸で別の音を立てる。
ここで嘘を延命させる誘惑と、真実を選ぶ勇気が同時に立ち上がるだろう。
式のあと、ふたりは同じ空を見上げながら違うことを考えるかもしれない。けれど、黙って差し出す手があれば——その手はもう“恋”ではなく、生活の約束へと近づく。
放送枠の22時20分という時間帯のように、少し遅れて始まっても、この夜は逃げずに続く。そんな余韻で終わる気がしてならない。
⑤ さよりは“かき回す人”ではなく“鏡”——姉妹が映すもう一つの可能性
さよりは番組内で、自分の物語を能動的に編集している人。顔合わせの席でも、場の空気を意図せずかき回すだろう
けれど彼女は、鮎美のもう一つの可能性を映す“鏡”になる。
「見せたい自分」を選べない鮎美に対して、「見せたい自分」を選びすぎるさより。両極の姉妹が並ぶことで、勝男ははじめて“鮎美個人”の声を聞き分ける。
ここで彼が発する“ある一言”は、家の評価ではなく、鮎美の肯定であってほしい。それが、7話を再生の回へと変える鍵になると私は思う。
結びの予想——「見られる恋」から「名乗れる関係」へ
7話は、「見られる恋」から「名乗れる関係」への一歩。
両家顔合わせのテーブルは、真実の踏み絵でもある。
けれど、台所の言葉——「おいしい」「食べよう」——は、いつだって避難路になる。
もし勝男が刃のような正論ではなく、生活の言葉で鮎美の側に座れたなら、ふたりはもう一度、同じ湯気を見られる。
私はその瞬間を、静かに待っている。
7話:「アナログ家族よ、ぶつかれ!」——言えない別れと、テーブルの温度
儀式が先に進む“胃の痛い時間”
第7話の副題は「アナログ家族よ、ぶつかれ!」。
勝男(竹内涼真)と鮎美(夏帆)は、別れたことを親に言えていないまま、地元・大分の友人の結婚式に向けてそれぞれ帰省する。
帰宅した二人を待っていたのは、親たちが水面下で段取りした両家の食事会(顔合わせ)。すでに関係が終わっているのに“儀式”だけが進む、胃の痛い状況で物語は加速する。
場の温度が変わった、勝男の“敬意のひと言”
食事会のテーブルには、社交辞令と近況が並ぶ。「いつ言うのか」——二人の喉元に引っかかったままの言葉は、乾杯の音や取り分けの所作に紛れて後回しになる。
やがて勝男は、鮎美が長く伏せてきた「家族の本来の姿」を目の当たりにし、堪えきれずひとことを置く。彼が選んだのは、結婚の段取りを前に進めるための言葉ではなく、鮎美という人への敬意だった——「誰かに選ばれなくても自分で立てる人だ」。
形式の真ん中に“尊重”を置くようなその言葉に、場の温度が一瞬だけ変わる。放送当日の記事でも、この“直球の本音”が見どころとして強調された。
結論は出ないまま、静かに閉じる食事会
けれど、結論は出ない。二人は結局その場で「別れました」を言い出せないまま、食事会は散じる。
段取りは人を守る盾にもなるが、真実を先送りにする壁にもなる——そう思わせる、静かな幕引きだ。事前・事後の報道でも、「気まずすぎる両家顔合わせ」「言い出せないまま臨むふたり」という構図が共有されていた。
家族の“作法”と本音の距離
ここで第7話は、形式 vs. 本音という軸を丁寧に立ててくる。親たちが善意で積み上げた段取りに、二人のいまが追いつけない。
けれど、勝男の言葉は“段取りの端”から確かに関係を更新した。
相手の自律を承認してから好きだと言う——この順序を選べたこと自体が、初期の勝男からの大きな変化だ。エピソードのまとめを伝える記事も、第7話が家族と恋の境界をつき合わせる回だったことを指摘している。
公園でほどけた“役割”の呪縛
気持ちを立て直すように、勝男は実家近くの遊園地で兄一家と合流。
芝生にシートを広げ、兄嫁の手作り弁当を囲む穏やかな時間が流れる。キャッチボールを勧められた勝男が戸惑う横で、姪が放ったまっすぐな一言——「勝男は勝男やろ?」。
ジェットコースターの絶叫も、昼下がりの芝生の匂いも、勝男の肩に貼りついていた“男はこう/女はこう”という古い段取りを、ゆっくりほどいていく。
鮎美もまた、兄嫁が「男でも女でも、怖いものは怖いよ」と笑って受け止める姿に、幼い頃には持てなかった“軽さ”を感じ取り、胸の奥が少しだけ自由になっていく。
夜、それぞれの家で告げた“本当の言葉”
夜、それぞれの家で親に真実を告げる二人。勝男は実家の居間で父の厳しい言葉を正面から受け止め、震える声のまま「鮎美とは別れてる」とはっきり口にする。
怒りをぶつけられながらも、父の期待と失望の重さを受け止めた瞬間、勝男の中に“誰かに選ばれなくても立つ”という新しい軸が芽生えていく。
一方の鮎美は、長年飲み込んできた本音を母に向けて静かに放つ。「自分の人生は自分で決める」。その言葉は、家の中にずっと積もっていた空気をすっと押し広げる一息のようだった。
家族公認の別れが整うほどに、むしろ二人の視線は以前より素直に合うようになり、胸の奥では“もう一度向き合いたい気持ち”が静かにあたたまっていく。
7話についてのネタバレはこちら↓

8話:化石母が来ちゃった夜、マザコンと恋心が同時にバレる
8話は、「母親の呪縛」と「まだ終わっていなかった恋心」が、同じ夜にそっと姿を現した回でした。
勝男の部屋に、ある日突然スーツケースを引いた母・陽子が登場。実家を家出してきたらしく、父・勝との間に何かがあったのは明らかです。心配と同じくらい厄介なのは、陽子の“全力お母さんモード”。勝手にスーツをクリーニング、調理器具は最新に入れ替え、昭和感強めの価値観まで矢継ぎ早に差し込んでくる勢いに、勝男の自立生活は早々に崩壊寸前へ。
ニセ彼女作戦と、陽子の本音
生活領域を侵食されイライラが限界に達した勝男は、“母対策”として、椿に「彼女のフリをしてほしい」と依頼。急きょニセ彼女お披露目会が始まります。夕食を囲むうち、陽子は自分が姑から言われ続けてきたイヤミを語り、「あんな姑にはならないと思っていたのに、同じようになっていた」と肩を落とす姿が印象的でした。
椿を見送る勝男に、陽子は一瞬で見抜きます。「ほんとは付き合ってないんやろ?」──母の勘は鋭い。勝男はついに本音をこぼします。“女の人に頼る生き方から卒業したい”“自分の生活を自分で立てたい”。陽子も、自分の“良かれ”が圧になっていたことを悟り、小さく頭を下げます。
陽子×鮎美、カフェでこぼれ落ちた本音
翌朝、勝男のもとを離れた陽子は鮎美と合流。カフェに入る勇気も出なくなっていた自分に驚き、情けなさを打ち明けます。
春巻きをつまみながら語られるのは、長年の家族の役割に縛られ、“自分のための行動”が減っていった日々。
鮎美もまた、勝男との別れを「話せば伝わらない」と最初から諦めていたことを吐露。陽子は「二人の暮らしは二人で決めればいい」「料理に正解なんかない」とふわっと背中を押します。
父・勝の不器用な愛と、三人の距離が近づいた夜
一方、勝男の部屋には父・勝が登場。急須のないお茶に文句を言い、家の子機が充電できないのは「いつも母さんがやってたから」と当然のように語る“おんぶにだっこ”ぶり。
夜には父子でリビングに布団を並べ、勝が「昔は寝かしつけをしていた」と語る横で、陽子が静かに耳を傾ける──不器用な三人の距離がほんの少し縮まる時間でした。
翌朝のキッチンでは、勝男が出汁取りに挑戦。陽子が流れるような手つきで鰹節を削り、「好きでやっとったんよ」とまた優しく返す場面に、長年の誤解がほどけていく気配がありました。
揺れ始める鮎美の気持ち
太平のバーではメキシカンフェスが開催され、鮎美は陽子と食べた春巻きから着想を得たレシピで料理を披露。
そこへ勝男が現れ、二人は久しぶりに同じ空間へ。鮎美の少し寂しげで、でもどこかうれしそうな表情は、“まだ完全には消えていない気持ち”を静かに物語っていました。
まとめ
全体を通して、母の古い価値観、父の不器用な愛し方、そのど真ん中で揺れる勝男のマザコン気質、そして鮎美の微かな恋心──8話は、それぞれの胸に眠っていた感情の化石にそっとブラシがかかったような、やわらかくて少し痛い夜でした。
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9話:傷ついたふたりが“素のまま”で再会した夜、「もう1回やり直そう」の行方
再会したふたりの“静かなクライマックス前夜”
第9話は、夢に裏切られた鮎美と、仕事でつまずいた勝男が、ボロボロの心のまま再会してしまう夜の物語でした。飾らない言葉と、不器用すぎる思いやりが静かにぶつかり合う、クライマックス直前の一時間です。
物語の始まりは、太平のバーで開かれたメキシカンフェス。当日、鮎美は渾身のメキシカン風春巻きを客へ振る舞い、誇らしげに微笑みます。その姿をまぶしそうに見つめる勝男は、もはや「家で待つ男」ではなく、彼女の挑戦を横で支える仲間として手伝っていました。
夢のような話と、仕事の壁
フェス後、鮎美に“夢の第一歩”が訪れます。メキシカン風春巻きを絶賛した有名フードプロデューサーから「一緒に店を出そう」と誘われたのです。ずっと胸の奥に眠らせてきた「自分の店を持つ」という願いが現実味を帯び、鮎美の顔は一気に輝きます。
同じ頃、勝男にも大きな変化が。会社では新規案件のプロジェクトリーダーに任命され、期待と重圧でぐったり。
タッグを組む柳沢は定時死守タイプで、仕事優先の勝男とはまったく噛み合わず、飲みの誘いも「行きません」と真っ向拒否。ふたりの間に早くも冷たい空気が漂いはじめます。
思いがけない再会と、素直な弱音
そんなある日、スーパーで偶然再会。
大量の食材を抱えた鮎美は「お店を出すことになった」と嬉しそうに報告します。会社を辞め、試作品づくりに没頭している今の鮎美は、まさに「好き」を生きる人。
たまたまスーパーで鮎美に会った勝男は「送ってくよ」と自然に言葉が出て、久しぶりに鮎美の家へ向かいます。
テーブルには試作品がずらり。勝男は何度も「うまい」と呟きながらも、どこか影が差した表情。鮎美が「なんかあった?」と優しく問いかけると、勝男は胸の内をほぐすように語り始めます。
プロジェクトリーダーとしての責任、噛み合わない部下、歩み寄りたいのにうまくできない自分。弱音が混じる言葉に「ダサいな」と自嘲する彼へ、鮎美は「ダサくないよ。一生懸命な勝男さん、かっこいい」と静かに返します。
勝男が何か続きを言おうとした瞬間、猫の大鳴きに邪魔され告白は未遂。この「言えなかった一言」が、回全体の余韻として残り続けます。
すれ違う努力と、二人のどん底
翌日、勝男は柳沢と関係改善しようとおにぎりを差し入れますが、まさかの「パワハラ」と受け取られ、社内アンケートをきっかけに出勤停止へ。努力が裏目に出る痛みに、勝男は心を折られます。
一方鮎美も、店づくりの話が物件引き渡し当日に詐欺だと発覚。会社も辞め、大金を失い、夢ごと消えた現実に打ちひしがれます。
出勤停止の勝男はロールキャベツを作ったり、絵を描いたり、犬と遊んだりと“生活のリハビリ”のような時間を過ごします。それは、仕事と恋に全振りだった人生を、一度ゼロから組み立て直す作業に見えました。
粘着シートと涙と、あたたかい笑い
そんな勝男が自販機の下に落としたスマホを拾おうとして、ネズミ捕り用粘着シートに片手をがっちり固定され大ピンチ。そこに偶然現れたのが鮎美。思わず吹き出しながらも助けを求め、なんとか救出します。情けない状況なのに、ふたりの間に流れる空気はどこかあたたかい。
並んで座り、近況を共有するふたり。鮎美は「お店出す話、なくなっちゃった」と夢の終わりを短く伝え、勝男も「俺もさ、会社でちょっとね」と肩を落とします。「そっか…」と呟くしかないふたりの沈黙は痛いほど優しい時間でした。
バッティングセンターと居酒屋、そして「やり直そう」
勝男の「このあと予定ある?」に、鮎美は「特にない」。そこから夜は動き出します。バッティングセンターで無心にボールを打ち、雑貨屋で昔のお揃いキーホルダーに似たものを見つけて笑い合い、最後は居酒屋へ。
鮎美が「勝男さんの前では弱いふりしてただけ」と言うと、勝男は「俺、鮎美のこと何も知らなかったんだな」と零し、鮎美も「私も。勝男さん、超ハイスペック彼氏だと思ってた」と苦笑。
そして静かに放たれる一言。
「鮎美さ……もう一回やり直そう。俺たち」
怖さと覚悟が混ざった、不器用な告白。鮎美の胸には、嬉しさ・戸惑い・まだ言葉にならない思いが重なり、すぐには答えられません。その揺れごと抱きしめるように、第9話はそっと幕を閉じました。
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10話(最終回)の予想:同じテーブルに座り直すまで
勝男と鮎美、それぞれが“再スタート”を始める夜
最終回は、「一緒に生きたいけれど、一緒に沈みたくはない」二人が、それぞれの場所で再スタートを始める物語になると感じました。詐欺に遭った鮎美は飲食店で仕事探しを進め、勝男は謹慎中に家事へ向き合う日々。謹慎が明けても職場の空気は冷たく、柳沢との距離も簡単には縮まりません。
一方、鮎美は太平のバーを“間借り”して自分の店作りへ動き出します。9話ラストの「やり直そう」という告白が胸に残ったまま、最終回はその続きを問われる展開へ進みそうです。
勝男が向き合う“隣に立つための条件”
勝男は、ただ付き合い直すのでは意味がないと気づくはずです。以前と同じ場所に立てば、また同じ傷を作ってしまう。
だからこそ、職場では
- 柳沢の生活リズムを尊重した働き方に変える
- “俺についてこい”ではなく“一緒に働こう”へ意識を変える
こうした“自分を変える努力”が描かれる気がします。
謹慎期間に弱さを見せられるようになった勝男だからこそ、逃げずに小さな改善を積み重ねる姿が想像できます。
鮎美が向かう“誰かのための料理”の卒業
鮎美は「誰かに求められるための料理」から、「自分の店を持つ」ステージへ進み始めています。詐欺に遭っても再び料理に戻ったのは、料理が鮎美にとって仕事であり、生き方そのものになったから。
その前向きさは勝男にとって誇りでもあり、同時に“置いていかれそう”という不安を呼ぶはず。最終回の揺らぎは、派手な事件ではなく、
- 忙しさゆえのすれ違い
- 優しさの行き違い
として描かれる気がします。
最後にふたりが帰る場所はどこか
私は、ラストは“同じテーブルに座る”場面になると予想しています。
おそらくそれは――
鮎美の小さなお店のカウンター
忙しく動く鮎美がふと顔を上げ、向かい側でエプロン姿の勝男が「まかない何にする?」と笑う。
かつて刺すように使われた、
「じゃあ、あんたが作ってみろよ」
この言葉が、最後には照れた笑いと共に交わされる。料理も家事も、どちらかが背負うのではなく、“しんどいほうへ楽な一品が回る”ような日々を二人で作る未来。
結婚するかどうかよりも、「明日も同じテーブルでごはんを食べよう」と言える関係で終わるのが、このドラマらしいと感じています。
じゃあ、あんたが作ってみろよのキャスト一覧

物語の中心は2人の恋人ですが、周囲の人物や劇中ドラマのキャラクターまで含め多彩なキャストが登場します。主要キャラから周辺人物までまとめてみました。
主要人物
ドラマの軸になるのは、6年付き合って同棲中のカップル・山岸鮎美と海老原勝男。恋のすれ違いと再生を描くうえで欠かせない二人の人物像や演じる俳優さんの魅力にも注目です。
山岸鮎美(演:夏帆) – 献身的で料理上手な彼女。勝男のために手の込んだ料理を作り続け、“恋人ファースト”で自分を後回しにしてきたため、少しずつ自分を見失ってしまいます。夏帆さんが演じる柔らかさと芯の強さに注目です。
海老原勝男(演:竹内涼真) – 令和の時代に珍しい「料理は女が作って当たり前!」という昭和的価値観を持つ彼氏。仕事も容姿も完璧で自信満々ですが、古い考え方が災いして鮎美に振られてしまいます。竹内涼真さんの爽やかさと頑固さのギャップに期待です。
柏倉椿(演:中条あやみ) – 勝男にとって初めての女友達で、彼の成長の鍵を握る存在。椿がどんな価値観の変化をもたらすのか気になります。
ミナト(演:青木柚) – 勝男のライバルとも噂される青年。料理や恋愛でどう絡むのか、若手俳優の力が楽しみです。
白崎ルイ(演:前原瑞樹) – 勝男の会社の後輩で料理上手。彼が勝男に料理の大変さを教える役割を担うのか注目です。
周辺人物
主人公たちを取り巻く人物たちも個性豊かです。彼らとの交流が物語に深みを与えてくれそう。
吉井渚(演:サーヤ) – 鮎美の運命を変える美容師。強烈なキャラクターで鮎美の背中を押す存在になりそうです。
吉井太平(演:楽駆) – 渚の夫で情報通のバーテンダー。恋愛相談を受ける場面に期待が高まります。
南川あみな(演:杏花) – 歯に衣着せぬ現代っ子。鮎美や勝男に刺激を与える役割を担いそうです。
高田義史(演:平原テツ) – 勝男の上司。仕事のプレッシャーや価値観の違いを示す人物になりそうです。
佐々木早紀(演:安藤輪子) – 鮎美の同僚。仕事と恋愛の両立や女性のキャリア観に触れる存在でしょう。
海老原勝(演:菅原大吉) – 勝男の父で亭主関白。昔ながらの価値観の象徴となるキャラクターです。
海老原陽子(演:池津祥子) – 勝男の母で献身的な女性。息子の頑固さにどう向き合うのか注目です。
劇中ドラマの出演者
本作には、主人公が参考にするトレンディドラマ『フォーエバーラブは東京で』の映像が劇中ドラマとして登場します。レトロな恋愛ドラマのようで、現代の価値観と対比される役割を担います。
榊原俊平(演:橘優輝) – 劇中ドラマの主人公。王子様的存在として勝男の理想像となるのかもしれません。
長坂真理(演:青島心) – 劇中ドラマのヒロイン。90年代風の恋愛観を提示し、鮎美の心に影響を与える役割が描かれるでしょう。
【全話ネタバレ】じゃあ、あんたが作ってみろよの予想結末。最終回ではどうなる?

別れから始まる“再生ロマコメ”――本作は、恋人ファーストで自分を見失った鮎美(夏帆)と、昭和的価値観が抜けない完璧男・勝男(竹内涼真)の関係を「料理=作る」で更新していく物語です。
物語の骨格は、プロポーズ直後の破局と、勝男が筑前煮づくりを通じて“手間=愛の工程”を学ぶことにあります。第2話では、鮎美が美容師・渚との出会いで「自分の好き」を言語化し、勝男はマッチングアプリの前で足を止める――二人が“役割の棚卸し”を別々に始める構成が明確です。
ここから先は、公式情報と初回オンエアの反響をもとに、筆者の視点で最終回の着地点を予想します。
“作る”の再定義——家事=愛の等式を言い換える
最終回までの大きな流れは、「作る=尽くす」から「作る=分け合う」への移行になると筆者は考えます。
1話で勝男は、筑前煮の下処理・火加減・味の入りを待つ時間が“当然”ではなかったと知りました。2話では、鮎美が「誰かの好みに合わせる」より「自分の好き」を選び取るリハビリを開始。つまり彼は“私側”へ降りて学び、彼女は“私を取り戻す”。この交差がいくつも積み重なり、最終回のキッチンでは工程を分け合うことそのものが愛のかたちとして提示されるはずです。
“料理の難しさ”と“好きの再発見”が対として描かれているのは、この着地を導くための布石でしょう。
“父と会社”の壁——勝男は“学習する男”になれるか
初回放送後に話題を集めたのが、勝男の父(菅原大吉)の一言。古い規範の象徴である父の価値観と、職場での完璧な振る舞いが、彼を“変われない男”に留めてきたのは明らかです。
反響が生んだ「弁当ディス」も、彼の学び直しのきっかけに過ぎません。終盤にかけて彼は、父と職場の“正しさ”を乗り越え、家の段取りに自分の時間を差し出すところまで覚悟を進めていく。重要なのは、彼を笑い者ではなく“学習する男”として描いてきた作品トーンです。
最終回前には、父との“言い換え”の対話(謝罪ではなく更新)が置かれ、実家の食卓で交わす短い会話が勝男の卒業式になる――そんな風景が似合います。
椿・ミナト・渚は“対抗馬”ではなく“触媒”
キャスト表の配置が雄弁です。椿(中条あやみ)は勝男の“理想像”を映す鏡、ミナト(青木柚)は鮎美に“丁寧に扱われる感覚”を思い出させる係、そして渚(サーヤ)は“自分の好き”を選び直す案内人。
三人は奪う人ではなく、二人の内面をほぐす“触媒”として描かれるはずです。だから最終回は恋の三角関係で決着をつけるのではなく、鮎美と勝男が“自分の基準”に立って再会を選べるかが問われるでしょう。
登場人物の配置とあらすじの方向性から見ても、もっとも自然な展開です。
“露見”と“選び直し”——ラス前の最大風速
構造的に、最終回の一歩手前には再び大きな揺り戻しが訪れるはずです。
たとえば勝男の不用意な一言、あるいは過去の“亭主関白ログ”が流出して炎上し、鮎美が「また同じだ」と距離を取る展開。
ここで効いてくるのが、1話から積み上げてきた小さな生活描写(メモ、買い置き、味見の沈黙)。視聴者は気づくのです――これはもう“嘘の優しさ”ではなく“更新された誠実”だと。
第1話で描かれた“学びの発火点(筑前煮/弁当の件)”が象徴として再来し、二人に“選び直す”勇気を与える流れが自然です。
最終回の情景——“ただいま”を分け合うキッチンで
筆者が見たい結末は、派手な復縁サプライズではなく、小さな段取りが整った台所です。
合鍵の場所、明日の買い物メモ、シンクに置かれた二つのまな板。一皿は彼が、もう一皿は彼女が――作業を分け合うことで“ありがとう”が増えていく。
鍋の湯気の向こうで勝男が短く「ごめん」と言い、鮎美が笑って「じゃあ、切って」。そのやり取り自体がプロポーズの言い換えになる。主題歌「シェイプシフター」がゆるやかに流れ、テーブルには二人分の弁当箱。中身は完璧じゃなくていい。作る手間を分け合ったという事実こそ、最高のごちそうになる――そんなエンディングを筆者は予想します。
法的ラベルより“生活の合意”を——二人が交わす3つの約束
紙の上の関係性より、生活の合意が優先されるのがこのドラマの品の良さです。
最終回で二人が交わすのは、
(1)家事の工程を見える化すること(作業と休息の均等)、
(2)相手の「好き」を尊重すること(髪色・趣味・交友の許容量)、
(3)困ったら相談すること(沈黙で耐えない)。
これらは法律や肩書きの前に置く、日常の誓約書。
“現代のあたりまえの見直し”を掲げるこの作品だからこそ、ラベルではなく更新されたあたりまえを描く結末が似合います。
ガジェットの回収——“髪色”“解凍弁当”“筑前煮”
小道具の意味づけも、最終話でそっと回収されるはずです。
髪色は「自分の好き」を選べるようになった鮎美の旗であり、解凍弁当は“手間の軽視”を象徴する過去の記録。
そして筑前煮は“愛の工程表”として、もう一度画面にのるでしょう。違うのは、今度は二人で作ること。誰か一人が完璧に作るのではなく、不器用な手を並べることが、最終回の答えになる。
1話で置かれた調理の象徴線は、そのための伏線だったと筆者は見ています。

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