第9話「父を殺した真犯人」は、『トリック』が“外側の怪奇事件”をやめて、山田奈緒子そのものに踏み込む回です。
夜、奈緒子のもとに届いた一本の電話。名乗ったのは、死んだはずの父・山田剛三。
冗談で切り捨てたいのに、声の生々しさだけが、胸の奥に残る。
さらに現れるのは、母・里見の故郷「黒門島」から来た男たちと、「父を殺した真犯人は、お前だ」という言葉。
ここから物語は、トリックを暴く話ではなく、
自分の人生そのものが“仕組まれていたかもしれない”恐怖へと変わっていきます。
黒門島編は、事件の解決よりも先に、奈緒子が“逃げてきた過去”を正面から呼び戻す章。第9話は、その地獄の入口です。
トリック(シーズン1)9話のあらすじ&ネタバレ

シーズン1第9話「父を殺した真犯人」は、いわゆる最終章「黒門島」編の前編。
これまで“外側の怪異”を暴いてきた物語が、ついに奈緒子自身の過去と家族へ食い込んでくる回です。軽口と悪ふざけで誤魔化してきたはずのものが、急に目の前で“本物の重さ”として立ち上がる。その切り替えが容赦なくて、笑いながら胃の奥が冷えていきます。
夜の電話──「父」の名を呼ぶ声が、現在を裂く
物語は、夜の奈緒子のもとに一本の電話が入るところから始まります。
名乗ったのは、亡くなったはずの父・山田剛三の名。奈緒子は当然、悪ふざけの類だと切り捨てようとするのですが、声の質感が妙に生々しい。面倒ごとに関わりたくないのに、胸の奥の“蓋”だけが勝手に開いていく感覚が、ここでまず刺さるんですよね。
TRICKが上手いのは、この時点で「心霊現象っぽい現象」を成立させながら、同時に「人間の弱さ」の回路も開通させること。超常の有無より先に、“父を失った娘”という現実が先に来る。視聴者は、怖いのか悲しいのか分からないまま引きずられます。
差出人不明の手紙──封筒から浮かび上がる住所
翌朝、奈緒子のもとに差出人不明の手紙が届きます。
中身は意味深で、手紙(というより“呼び出し状”)に近い温度。さらに、封筒から住所が浮かび上がるように仕組まれていて、奈緒子は嫌な予感を抱えたまま指定の場所へ向かいます。
この「浮かび上がる住所」が象徴的で、TRICKという作品の根っこにある“見えなかった情報が見えるようになる瞬間”を、手触りとして提示してくるんです。真相に近づくというより、封印を剥がされる感じ。奈緒子の気持ちとしては、まさにそれでしょう。
黒津兄弟の登場──母・里見の故郷「黒門島」へ誘う
指定の場所で奈緒子を待っていたのは、黒津次男と三男。二人は、奈緒子の母・里見の生まれた島――黒門島(こくもんとう)から来たと言います。
ここで一気に“横糸”だった事件が“縦糸”に変わる。
- 奈緒子が知らなかった、母の出自
- 奈緒子が触れてこなかった、父の死の周辺
- 奈緒子が信じていないはずの、“霊”や“力”の匂い
全部が黒門島に繋がっていく。さらに黒津兄弟は、島が「滅びゆく」状態にあるから、奈緒子に“巫女として島に戻れ”と依頼します。
依頼の体裁なのに、実態は半分、脅しです。断れないように、奈緒子の痛い場所(父の死)に指を突っ込んでくる。
「父を殺したのはお前だ」──罪悪感を直撃する宣告
そして題名回収が、えげつない形で来ます。
黒津兄弟は、父・剛三を殺した“真犯人”は奈緒子自身だと言うのです。
この時点では、もちろん奈緒子は否定します。そんなはずがない。だって父はもういないし、自分は当時子どもだし、そもそも“殺した”という言葉があまりにも重すぎる。
でも、黒津兄弟の言い方は狡い。
「お前が手を下した」ではなく、「お前の中にある“何か”がやった」――そんな逃げ道のある言い回しで、罪悪感だけを確実に植えつけてくる。
ここで奈緒子の顔から、いつものハッタリが消えます。売れないマジシャンの虚勢じゃ、跳ね返せない種類の痛みだから。
母・里見の“巫女の家系”が明かされる──奈緒子の知らない母の顔
黒門島の話を追ううちに、母・里見がただの「口うるさい母」ではないことが輪郭を持ちます。里見は黒門島に代々伝わる巫女の家系で、30年前に剛三と島から駆け落ちした過去がある。
この設定、作品全体で見ると“奈緒子の鍵”を作るための土台なんですが、9話の時点だとまず「母が、何かを隠している」匂いとして立ち上がるのが効いています。
- なぜ里見は黒門島を捨てたのか
- なぜ奈緒子に一切語らなかったのか
- そして、父は何を知っていたのか
家族の会話に“空白”があるって、日常だとやり過ごせるのに、物語だと一気に刃物になるんですよね。
父・剛三の死の周辺へ──石原から得る「事故」では済まない違和感
奈緒子は黒門島の話を聞くだけでは終わらず、父の死の状況そのものに迫ろうとします。ここで動くのが、矢部の部下・石原。奈緒子に頼まれて、剛三が亡くなった状況を教える役回りです。
父の死は表向きには“事故”として扱われている。けれど、黒津兄弟が持ち込んだ「真犯人」説がある以上、奈緒子の中では事故で片づけていい話じゃなくなる。
ここで大事なのは、事件性の有無よりも、奈緒子の心が「事故という結論」に耐えられなくなること。
事故なら事故で、「じゃあ私は何を悼めばいい?」となる。
事件なら事件で、「じゃあ私は何を背負わされてる?」となる。
どちらに転んでも、奈緒子は救われない。
「鍵」=子どもの頃の宝箱──“私はやったのかもしれない”の地獄
黒門島編で繰り返し刺さるのが「鍵」というモチーフです。
剛三の死には“脱出の鍵”が絡んでいた、と示唆され、さらにその鍵が奈緒子の幼い頃の宝箱から見つかる(あるいは見つかったことにされる)ことで、「奈緒子が父を殺したのでは」という筋が一気に現実味を帯びます。
ここが、本当にイヤな巧さ。
子どもの頃の記憶って、本人にとっては“事実”じゃなく“感情”として残っていることが多い。
「触っちゃダメと言われたものに触った」
「父に怒られた」
「なぜか罪悪感が残っている」
そういう曖昧な手触りが、成人した後に“証拠”と結びついた瞬間、本人が一番逃げられなくなる。
黒津兄弟はそこを正確に撃ってくる。奈緒子の外側に証拠を置くんじゃない。奈緒子の内側の罪悪感を“証拠化”する。
上田次郎、場違いな“媚薬”で崩壊──笑いが混じるほど不穏になる
一方で、この9話が妙に記憶に残る理由がもう一つあって、それが上田の“媚薬”騒動です。視聴者の間でも「9話=媚薬回」と言われがちなほど、上田が別種のテンションで暴走する。
ここで登場するのが、黒門島に関わる“ある植物(薬)”の存在。上田は科学者の顔をしながら、倫理ラインを軽く踏み越えたことを平然とやる(やってしまう)。奈緒子に対しても、いつもの上田節で「試す」方向に行くんだけど、奈緒子が一枚上手で、コップを入れ替えたりして結果的に上田が自爆する。
このシーン自体はコメディとして強烈なんですが、最終章の前編に入れてくるのが怖い。なぜなら、“薬で人の判断や感覚がズレる”という要素が、黒門島の不穏さと相性が良すぎるから。
笑ってるのに、「これ、笑って終わる話じゃないぞ」という予感だけが残ります。
奈緒子は黒門島へ──「事件」ではなく「出自」に向かう旅の始まり
黒津兄弟の言葉、父の死に残る引っかかり、母の過去、そして自分の宝箱に残された“鍵”。
それらが一つの矢印になって、奈緒子を黒門島へ向かわせます。9話は最終章の前編として、島に渡る直前までの“追い込み”が主。だからこそ、奈緒子の背中に乗るものが重いんです。
この時点で奈緒子が求めているのは、犯人当てのスッキリではありません。
- 私は父を殺したのか
- 父は何を恐れていたのか
- 母は何を隠しているのか
- 黒門島は、私に何をさせたいのか
“自分の人生が、誰かの都合で組み替えられていたかもしれない”という恐怖に、答えを出しに行く。9話はその入口として、シリーズの色を一段暗くします。
トリック(シーズン1)9話の伏線

第9話は「黒門島」編の前半として、事件の仕掛けそのものよりも、“疑いが疑いを呼ぶ構造”を丁寧に積み上げています。
ここで撒かれる伏線は、10話(最終回)で回収されるだけじゃなく、奈緒子という主人公の縦糸として後のシリーズにも残っていくタイプが多いのが特徴です。
亡き父からの電話・出現──「本物」か「仕掛け」かを揺らす導火線
- 父・剛三の名を語る電話が入る(そして“姿すら現す”と受け取れる描写がある)
- そもそも「死者が連絡してくる」という現象が、TRICKにおいて最大級の挑戦状
ここは、後編で「トリック」として解体されるのか、それとも“説明不能”として余韻を残すのか、視聴者の立ち位置を試す伏線になっています。
差出人不明の手紙と“浮かび上がる住所”──情報操作の予告
- 差出人不明の手紙
- 封筒から住所が浮かび上がる
- 奈緒子が「行かされる」導線が綺麗すぎる
この時点で、黒津兄弟(あるいは黒門島側)が“奈緒子の行動を設計している”ことが示されます。単なる呼び出しではなく、奈緒子の心理を読んだ上での誘導であることが、後編の恐さに直結。
黒門島と“巫女の家系”──奈緒子が「鍵」になる理由
- 里見の故郷が黒門島であること
- 里見が巫女の家系で、剛三と駆け落ちした過去
- 黒津兄弟が「巫女として島に戻れ」と言う
これは“今回の事件のため”というより、“奈緒子の物語そのもの”を動かすための伏線。シリーズを通して奈緒子が「疑う側」であり続ける理由に繋がります。
父の死と「鍵」──罪悪感を植え付けるトラップ
- 父の死に“鍵”が絡む
- 鍵が奈緒子の宝箱から出てくる(出てきたことが重要)
- 「奈緒子が犯人かもしれない」という疑いが成立してしまう
この伏線が凶悪なのは、“真犯人を探す”というより“奈緒子を壊す”方向に働くこと。後編では、この鍵が「誰が、何のために、どのタイミングで」奈緒子の人生に置かれたのかが焦点になります。
黒津兄弟の言動の端々──「島を救う」以外の匂い
- 黒津兄弟は「島が滅びる」「巫女が必要」と語る
- しかし、どこかで“利用する目”が消えない(依頼ではなく、作業指示に近い)
後編で明らかになる黒門島側の思惑を考えると、9話の段階から「善意の顔をした支配」が匂うように設計されているのが分かります。
上田の“媚薬”騒動(カリボネ)──幻覚/錯覚/思い込みの伏線
- 9話は上田が媚薬でおかしくなる描写が強烈に残る
- ただのギャグに見えて、「感覚が狂う」「判断がズレる」装置としても機能する
黒門島編は“本物っぽい現象”がいくつも出てくるので、薬・集団心理・暗示といった要素が、後編の「霊能力っぽさ」を支える下地になっています。
トリック(シーズン1)9話の感想&考察

第9話を見終わった直後に残るのは、事件のワクワクよりも「うわ、ここから本気で心を削りに来るぞ」という緊張です。TRICKって基本は、超常現象を“解体して笑う”ドラマなんですが、この回は笑いが強いほど、逆に不穏さが濃くなる。最終章の入口として、非常に嫌な(褒めてる)回でした。
「霊能力者はいるのか?」を、いきなり“奈緒子自身”へ向けてくる残酷さ
黒津兄弟が突きつける「父を殺した真犯人はお前だ」という宣告。これ、ミステリーとしては燃える展開なんですが、感情としてはほぼ暴力です。
奈緒子はこれまで、どんな霊能力者を前にしても最後は「トリックだ」と笑い飛ばしてきた。なのに、相手が“父の死”を盾にした瞬間、笑い飛ばせない。ここで初めて、奈緒子の「霊能力なんてあるわけない」が、信念じゃなく“祈り”だった可能性が見えてくるんですよね。
霊能力が存在したら困る。なぜなら、父が死んだ理由が“理解できないもの”になってしまうから。
でも霊能力が存在しないとしたら、今度は“理解できる形の悪意”が父を奪ったことになる。
どっちに転んでも地獄。奈緒子が苦しくなるのは、物語上の必然でした。
霊能力者については以下記事を見てください↓

父・剛三が背負っていたものが、奈緒子に転写される回
剛三が霊能力者に否定的だったことは、これまでの奈緒子の行動原理と繋がります。9話では、剛三が単に“手品師のプライド”で戦っていたんじゃなく、黒門島・里見・霊能力の影を知った上で戦っていた可能性が匂う。
つまり奈緒子は、知らないうちに父の遺志を継いでいた。
- 霊能力を否定する
- トリックを暴く
- それで誰かを救う(つもりで)
- でも完全には救えない
この作品の“後味”って、実は奈緒子の人生そのものの反復なのかもしれません。
奈緒子の父親についてはこちら↓

黒津兄弟の怖さは、オカルトじゃなく「人間のやり方」にある
黒津兄弟は、ビッグマザーみたいな派手なカリスマでもないし、黒坂美幸みたいな純粋な恐怖でもない。じゃあ何が怖いのかというと、手口がやけに現実的なんです。
- 手紙で呼び出す
- 住所が浮かぶ“演出”で特別感を作る
- 家族の秘密を握り、逃げ道を潰す
- 「巫女として戻れ」と役割を押し付ける
信仰よりも、心理の支配。霊よりも、罪悪感の利用。
この回で一番ゾッとするのは、心霊現象じゃなくて、そこです。
媚薬ギャグが“ただのバカ回”で終わらない理由
上田の媚薬騒動、普通に見れば最低で最高にくだらない(笑)。実際、視聴者の反応でも「9話はそこが印象に残る」という声が多いのも分かる。
ただ、ここを単なるサービス(?)で入れてないのがTRICKで、黒門島編における「幻覚っぽい」「霊っぽい」を成立させるための地ならしにも見えます。
薬で感覚がズレる。
暗示で判断がズレる。
集団の空気で「見たこと」になる。
このシリーズがずっとやってきた“人は簡単に騙される”の延長線上に、黒門島の不穏がある。上田が変になるほど、逆に「怖い島に連れて行かれる奈緒子」の影が濃くなるんです。
9話のラストは「事件の入口」ではなく「奈緒子の物語の入口」
結局この回は、事件を解く回じゃありません。奈緒子が「黒門島へ行く理由」を積み上げる回です。
父の死、母の沈黙、宝箱の鍵。
それらは全部、「奈緒子の正体」という言い方をしたくなる縦糸に繋がっていく。
そして、TRICKが意地悪なのは、ここまで積み上げてもまだ“答えをくれない”こと。
「本物かもしれない」
「でもトリックかもしれない」
という揺らぎを、奈緒子の人生の揺らぎと重ねて置いていく。
だから9話は、面白いのにスッキリしない。
スッキリしないのに、続きが見たくなる。
その中毒性が、最終章前編として完璧でした。
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