第6話「瞬間移動殺人の秘密」は、『トリック』という作品が“笑えるオカルト解体劇”から一歩踏み込み、「裁けない罪」を真正面から扱い始める転換点です。
今回現れるのは、霊能力で人を殺すと宣言し、しかも逃げるどころか警察に監視を求めて現れた女・黒坂美幸。
彼女は密室に拘束されたまま、5km先の男を絞め殺したと告げ、その言葉どおり遺体が発見されてしまいます。
問題は、「どうやったか」以前に、“やったと証明できるのか”という一点。
監視下にいた犯人、揃いすぎた物証、そして理屈が追いつかない距離。
超能力を否定してきた上田が初めて言葉を失い、奈緒子の推理さえも折られていく——。
第6話は、トリックが“タネ明かしの快感”をあえて先送りし、「呪いは、証明できなければ無罪なのか?」という冷たい問いだけを残す前編です。
トリック(シーズン1)6話のあらすじ&ネタバレ

第6話「瞬間移動殺人の秘密」は、シリーズ1作目の中でも空気が一段ギアチェンジする回です。
事件の軸は「霊能力で人を殺す」と名乗る女・黒坂美幸(佐伯日菜子)が、警察に“監視”を求めて自ら現れるところから始まります。
放送は2000年8月18日で、脚本は林誠人、演出は大根仁。いつもの軽妙な掛け合いの隙間に、じわじわと「法と証明」の寒さが入り込んでくる前編です。
冒頭の“枕”が示すテーマ:呪いは裁けるのか、裁けないのか
この回の怖さは、怪異そのものより「怪異が成立してしまったように見える状況」から来ます。
物語の導入には、呪いの殺人が「不可能だから罪に問えない」という話が重ねられ、視聴者の脳内に“不能犯”のイヤな前提が植え付けられる。
つまり今回の勝負は、「起きた」ではなく、「裁ける形で証明できるか」。TRICKが得意とする“種明かしの快感”を、最初から少し鈍らせる枕です。
生活の匂いで始まる:奈緒子の現実と、上田の空回り
事件の入口は相変わらず生活臭が濃い。奈緒子は家賃問題に追われ、母・里見からの速達も届く。そこへ上田から呼び出しがかかり、彼は結婚紹介所の写真を得意げに見せる——この“どうでもいいテンション”が後に来る血の冷たさの前フリになっています。
上田は科学者として超常現象を否定し、論破し、証明する側の人間。なのに、人間としては普通にスケベで、普通に舞い上がる。第6話はこの「理屈と欲」のズレがとにかく多い回で、ここが後に黒坂美幸の“狙い”とも噛み合ってくるのが嫌らしい。
矢部が連れてきた“自首する霊能力者”黒坂美幸
そこへ矢部警部補が連れてくるのが、黒坂美幸。彼女は「これから霊能力で3人殺す」と言い切り、しかも「警察に監禁して監視してほしい」と申し出てきた、と矢部は説明します。つまり彼女は“逃げる犯人”ではなく、“見られる犯人”として登場するわけです。
警察としては正直まともに扱いづらい。だから矢部は、超常現象否定派で、こういう手合いを“暴く”ことで名を売っている(つもりの)上田に丸投げする。
上田も半ば押し付けられながら、心のどこかで“自分が勝つ勝負”だと思っている。この時点で、観ている側は「やばい、上田の慢心がフラグだ」と察せる作りです。
舞台は密室:上田の“秘密研究室”で一晩の監視
美幸は上田の研究室(秘密の実験部屋)に監禁され、奈緒子と上田が監視役につく。
ここで面白いのは、TRICKの通常回なら“現地=村”や“信者の共同体”に乗り込んで、空気をほどきながらトリックを掴むのに、今回は逆に「科学の城」みたいな場所が舞台になっていることです。密室で、逃走ルートもなく、監視カメラや人の目もある。だからこそ「成立したら終わり」になる。
監視の空気は、静かで、妙に乾いている。
美幸は騒がず、脅さず、ただ淡々と“起こす”側に立つ。奈緒子が一番嫌な感じを覚えるのは、たぶんこの静けさです。やたら芝居がかっていないのに、確信だけがある——このタイプの犯人って、一番怖い。
些細な“力”の見せ方:紙が落ち、奈緒子が窓を閉める
美幸は早い段階で、いわゆる“能力っぽい”小技を見せます。右手をかざすと机の上の書類が落ちる、といった類。ここで奈緒子が取る行動が妙に良い。彼女は大仰に驚かず、淡々と窓を閉める。
(本当に力があるのか、風なのか、仕掛けなのか——奈緒子は「まず状況を締める」ことから始める。)この小さなやりとりだけで、奈緒子の現場勘と、美幸が“相手を試している”空気が伝わるのがうまいです。
第1の殺害予告:梅木隆一を「絞め殺す」パントマイム
時間が進み、美幸が唐突に立ち上がる。
彼女は“何もない空間”にベルト(あるいは紐)の存在を見立て、両手でそれを引き絞るような動きをする。口にするのは標的の名前、梅木隆一。そして「嘘だと思うなら、崖の下を探して」と、場所まで示す。
ここが第6話の第一の恐怖ポイント。
見せ方が“霊能力”というより、“儀式”に近い。上田は理屈で笑い飛ばしたいのに、奈緒子は一瞬だけ表情が固まる。なぜなら、これは手品と違って「観客が拍手できない種類の見せ物」だからです。
5km先の崖下で“真実”が見つかる:上田が見た死体
上田は指定された場所へ向かい、崖下で“絞殺された死体”を発見してしまう。距離の感覚がまた嫌で、近所の別室ではなく「5km先」。
監視していた密室と、遺体現場の距離が開けば開くほど、「じゃあ誰が?どうやって?」が濃くなる。
そして、追い打ちみたいに物証が揃う。現場のベルトからは美幸の指紋。
被害者が握っていた髪の毛も美幸のもの。普通なら“これで犯人確定”のセットなのに、問題は「その時間、彼女は監視下にいた」こと。証拠が強いほど、逆に“現象”としての不気味さが増していく。
奈緒子の推理:ゴミ収集車(トラック)を使った移動説と、その弱点
奈緒子はここで、マジシャンらしく「物理で説明できる案」に飛びつく。
たとえば、ゴミ収集車(あるいはトラック)を利用して遺体を崖下に落としたのでは、という発想。現場でトラックに轢かれそうになる場面もあり、奈緒子の推理は勢いがある。
ただ、美幸はその推理の“偶然頼み”を冷たく指摘する。
この指摘は単なるマウントじゃなくて、次回(後編)に向けての宣言でもあるんですよね。「あなたが思いつく程度の雑な偶然では、私は動いてない」。つまり“仕掛けはもっと精密に組まれている”という予告。第6話の時点では答えを出さず、ただ奈緒子の推理を折ることで、視聴者の安心も折っていく。
夜明け前、第二の恐怖:見えないナイフと、血しぶき
そして第6話のラストが強烈です。
午前5時、美幸は空間から“見えないナイフ”を取り出したかのように構え、目の前の空気を何度も刺す。すると、何もないはずの場所から血しぶきが上がり、美幸の身体が返り血で真っ赤になる。彼女は平然と告げる。「たった今、男を刺し殺した。名前は竹下文雄」。
ここが前編の“最悪な引き”。
1件目は「死体は見つかった。でも仕掛けが分からない」。2件目は「まだ死体を見ていないのに、血だけが“ここ”にある」。視聴者は理屈で逃げられず、目撃の気持ち悪さだけを抱えたまま次回へ放り込まれます。
トリック(シーズン1)6話の伏線

第6話は“前編”なので、トリックの核心はまだ明かされません。
その代わり、後編で回収されるための材料が、異常なほど綺麗に並べられています。しかもその材料は、ただの手掛かりじゃなく「観客の思考をわざと誤誘導するための配置」でもある。
ここでは、6話の時点で仕込まれている伏線を、回収ポイント(後編での意味)込みで整理します。
「自首して監視を求める」=犯人が“アリバイ装置”を作っているサイン
美幸が自分から警察に申し出て、監視下に置かれたがる時点で、普通の犯人像から外れています。これは“逃げるため”じゃなく、“見られること”そのものをアリバイに変換する発想。
この回の時点では「挑戦状」みたいに見えるけれど、実際は最初から「監視=免罪の盾」にする設計がある、と示している伏線です。
第1の事件で「物証が揃いすぎる」違和感(指紋+髪の毛)
梅木の事件、怖いのは“証拠が強い”ところです。
- ベルトに美幸の指紋が出る
- 被害者が握っていた髪の毛が美幸のもの
普通なら立件が楽になる要素なのに、ここでは逆に「監視下にいたはずの美幸が、現場に“いたことになる”」矛盾を生みます。
この矛盾が後編で「同じ顔の別人が“現場にいた”」可能性を呼び込む導線になっている。つまり“証拠が強いほど、共犯(または二重)を疑え”という、TRICKらしい逆説の伏線です。
「5km先の崖下」という距離の設定が、後編の“時間と手順”に繋がる
上田が遺体を見つけに行く距離が5km先、というのも地味に効いています。
遠ければ遠いほど「瞬間移動」や「遠隔」のイメージが強まり、視聴者は“超常”を疑い始める。一方で、後編で本当に効いてくるのは「距離」ではなく「時間」。この回はあえて距離で煙に巻き、次回に“時間差の操作”で殴ってくる布石になっています。
奈緒子の「トラック(ゴミ収集車)説」が、作品側から否定される意味
奈緒子のトラック説は、視聴者にとっても「そういう物理トリックだよね?」という逃げ道になります。ところが美幸は、その推理を“偶然に依存しすぎ”と切り捨てる。
ここがポイントで、作品は「雑な偶然は正解じゃない」と一度ハシゴを外す。だからこそ後編で出てくるのは、偶然ではなく“仕込まれた手順”(タイミング・録音・工作など)になり、視聴者は「うわ、そっちか」とやり直しを食らう構造です。
第2のラストで「血だけが先にある」=“現場の再現”の伏線
午前5時の“見えないナイフ”と血しぶき。第6話ではまだ遺体が提示されない(あるいは少なくとも確証が置かれない)まま、血だけが目の前で起こる。
これは後編で「返り血が一致する」「凶器の形状が一致する」「目撃証言がある」といった、“証拠が現実側から追いついてくる”展開の地ならしです。6話は「目撃の不快感」を先に渡して、次回「立件できそうな証拠」を積み、なのに最後に「それでも裁けないかもしれない」へ落とすための準備になっています。
母・里見の速達が挟まることで、事件と日常が“同じ地面”に置かれる
第6話は、事件の怖さがエスカレートする一方で、奈緒子には母からの速達が届く。ここがただのギャグ装置ではなく、後半の展開(上京、居場所、奈緒子の「嘘」)に繋がる下準備でもあります。
TRICKはいつも、非日常の事件を解体しながら、最後に「日常の嘘」や「家族の縦糸」を残す。第6話の速達は、その“縦”の匂いを薄く混ぜておく伏線として効いています。
トリック(シーズン1)6話の感想&考察

第6話は、シリーズの中でも「怖い回」として語られやすいのが納得です。
トリックを暴く快感より、“まだ解けない”時間の居心地悪さが長い。しかも笑いがあるのに、その笑いが救いにならない。ここがTRICKの悪趣味(褒め言葉)なところで、前編の終わり方としてかなり攻めています。
“オカルトの解体”から“法の穴”へ:恐怖の質が変わる回
母之泉や宝女子村編は、超常現象をほどいて「人間が作った装置」へ落とす気持ち良さが強かった。でも第6話は、現象の気味悪さそのものを長く見せます。理由は明快で、今回の敵は「騙す共同体」じゃなく「証明できない構造」だから。
科学で否定できても、法律で裁ける形にできなかったら負け。TRICKが“事件解決”だけじゃなく“後味”を作るドラマだと分かっていても、ここまで露骨に「勝てないかもしれない」を出してくるのは、かなり挑発的です。
佐伯日菜子の“怖さ”は、霊能力ではなく「確信の顔」
黒坂美幸が本当に怖いのは、演技が派手じゃないところ。
大声を出さない。憑依芸もしない。ただ「起きる」と分かっている人の顔で、淡々とやる。しかも美しい。美しさがあるから余計に目が離せず、目が離せないから“目撃してしまう”。これ、観客側にとって最悪の体験設計です。
口コミでもこの回については「トラウマ」「怖すぎる」という声が強い印象で、特に血の場面は語られがち。たとえばこんな感じ。
「トリック6話見てるけどほんとトラウマだわこの回…」
上田と奈緒子の“ズレ”が、逆にリアルな緊張を生む
この回、上田はいつも以上に俗っぽい。美女が来た途端に態度が変わるし、下世話な方向にも走る(それが笑える)。でも、その軽さがあるから、遺体発見のショックがちゃんと刺さる。
上田は「理屈」担当なのに、怖さに当たると普通に人間としてビビる。奈緒子は「現場」担当だから、最初から嫌な空気を嗅ぎ取っている。この“ズレ”が、ホラーのテンポを作っている気がします。
「真実が正しいとは限らない」——TRICKの芯を先に突きつける
第6話は前編なので、まだ“真犯人”も“トリック”も完全には語られません。なのに、すでにテーマだけは剥き出しになっている。
それは「真実=救い」ではないということ。
1件目の事件でさえ、証拠が揃っているのに納得できない。
2件目では血が目の前に出て、理解が追いつかない。
この段階で視聴者は「真実を知りたい」より「真実が怖い」に寄っていく。TRICKって、解決した後にスッキリしない回が多いですが、その作法を第6話は“解決前”から浴びせてくるんですよね。
前編の終わり方が完璧に嫌:血で引く、だから次を押してしまう
午前5時の血しぶきで終わるのは、反則級に強い。
遺体より先に血を見せるって、視聴者の感情に直結してくる。理屈で処理する前に、身体が「うわ」と反応してしまうから。
しかもTRICKは、ここで“説明”をしない。
説明しないから「本当に霊能力かも」と一瞬だけ思ってしまう。
でも上田がいる以上、絶対に霊能力で終わるはずがない——その確信も同時にある。この矛盾の中に置かれたまま次回へ、という引きがあまりに上手いです。
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