第7話「遠隔殺人意外な真実」は、『トリック』が初めて「完全に勝てない事件」を描いた回です。
黒坂美幸が起こした連続殺人は、指紋・血痕・凶器という“完璧な物証”を残しながら、
同時に「その時間、彼女は目の前にいた」という鉄壁のアリバイを成立させてしまう。
霊能力は嘘だと分かっている。
トリックも暴ける。
それでも――裁けない。
第7話は、
・双子という存在
・時間を“編集”する録音トリック
・復讐という感情の行き着く先
を重ねながら、「真実を暴くこと」と「正義が成立すること」は別だと突きつけてきます。
事件は解決する。でも、誰も救われない。
だからこそこの回は、『トリック』というシリーズの中でももっとも冷たく、もっとも忘れられない“解決編”になっています。
トリック(シーズン1)7話のあらすじ&ネタバレ

第7話「遠隔殺人意外な真実」は、エピソード3「パントマイムで人を殺す女」(第6話〜第7話)の“解決編”。
黒坂美幸(佐伯日菜子)が宣言する“霊能力殺人”は、物証が揃えば揃うほど「でも、その時間あなたは目の前にいた」になってしまう、異様なパラドックスを完成させます。ここから先は、がっつりネタバレで追っていきます。
逮捕できない…「返り血」と「指紋」が逆に“無敵の盾”になる
前回、美幸が“見えないナイフ”で刺すようなパントマイムをした直後、2人目の標的・竹下文雄が路上で刺殺体となって発見されます。凶器のナイフから美幸の指紋。さらに、美幸の身体に浴びた返り血が被害者の血液と一致――普通なら「もう終わりだろ」と言いたくなるほど物証が揃っている。
ところが、この事件は“普通の殺人”として扱えない。なぜなら、美幸はその時刻、上田と奈緒子の「目の前」にいた。監禁・監視を自分から申し出たのも美幸で、警察にとっては“完璧すぎるアリバイ”が成立している。
矢部は当然ブチ切れます。凶器の指紋、血液一致、状況証拠――何を積んでも、最後に立ちはだかるのは「じゃあ、どうやって?」という壁。美幸はそこを突いてきます。「霊能力殺人では逮捕できない」。そして「最後の一人を殺す時も、あなたたちに証人になってもらう」と言い残し、悠々とその場を出ていく。奈緒子が悔しそうに見送るしかないのが、なおさら腹立たしい。
この回の恐怖は、怪奇現象そのものよりも、「証拠があるのに、手が出ない」という感覚にあります。
上田がずっと言ってきた「超能力など存在しない」は、本来なら安心の言葉のはずなのに、この事件では逆に“犯人を守る鎧”に変換される。科学が勝つ話じゃない。科学の看板を利用した“勝ち逃げ”の話になりかけている。
最後の標的・松井一彦へ…「助けを求めたら電話しろ」という段取り
3人目の標的は松井一彦。
矢部は松井とコンタクトを取り、「身の危険を感じたらすぐ電話しろ」と釘を刺します。こういう“手順”を踏んでしまうのが、矢部という男の弱さでもあり、この作品の皮肉でもある。真面目にやればやるほど、相手の土俵に乗せられていく。
同時に、奈緒子と上田も追い詰められています。
ここまで目の前で起きたのは、
- 1人目:梅木隆一が絞殺され、崖下で発見される(ベルトに美幸の指紋)
- 2人目:竹下文雄が刺殺される(ナイフに美幸の指紋)
という“物証の揃いすぎた殺人”。
そして次は銃。もし本当に“見えないライフル”が成立したら、これはトリックというより「人間が作れる地獄」です。
ヒントは昼の番組「哲!この部屋」――上田が辿り着く“双子”という答え
このエピソードが面白いのは、決定的なヒントが“推理の現場”じゃなく、“昼のテレビ”から落ちてくるところです。上田は大ファンだという番組「哲!この部屋」を見ていて、双子特集の流れから、ふと気づく。
「双子だ」――黒坂美幸に、瓜二つの“もう一人”がいる可能性。
言われてみれば、これまでの事件は「美幸が目の前にいる」ことがアリバイになっていた。つまり、“美幸が殺していない”のは本当。でも、“美幸そっくりの誰か”が外でやっているなら説明がつく。
上田がこの推理に辿り着くのは、彼が“科学者”だからというより、“現象を形式で整理する癖”があるからだと思う。怪異を否定するのではなく、「成立条件」を分解して、成立しうる形に落とし込む。
そして恐ろしいのが、美幸がこの指摘をわりとあっさり認めてしまうこと。
ここまで丁寧に積み上げてきた“霊能力の膜”を、本人が破る。つまり美幸の目的は「霊能力者として崇められる」でも「超常を信じさせる」でもない。もっと冷たいところ――“裁けない形”を作ることにある。
双子を揃えて監禁・監視…それでも起きる「遠隔銃殺」
上田と奈緒子、矢部たちは“もう一人”――黒坂洋子(美幸の双子の妹)を突き止め、2人まとめて監禁・監視する状況を作ります。ここまで来たら、普通は詰みです。
「双子が外でやってた」なら、双子ごと閉じ込めれば終わる。
ところが、美幸はそこで終わらない。
定刻、監視の目がある状況で、美幸は“架空のライフル”を構えるパントマイムを始めます。その瞬間、矢部の携帯に松井から着信。受話器越しに助けを求める声が響き、そして――銃声。松井の声が途切れる。
“今、殺された”。そう思わせるだけの情報が、電話一本で完成してしまう。
現場に駆けつけると、松井は自宅で銃殺体として発見されます。しかも「14時45分」で止まった時計まで落ちている。わざわざ「この時刻に死んだ」と言い張るための小道具が置かれているのが、逆に気持ち悪い。
ここで事件は“二重の不可能”になります。
- 美幸は監禁されている
- 双子の洋子も監禁されている
それでも外で松井が死んだ。なら霊能力?――というところまで追い詰めてくる。
奈緒子が拾う「電話の違和感」――ナマズのフードタイマーが鳴っていた
奈緒子が鋭いのは、こういう時に「論理」より先に「変な感じ」を拾うところです。
松井からの電話は、助けを求める声や銃声以上に、背景音が妙に耳に残る。雑音じゃなく、“生活の音”。
松井の家に行ってみると、その正体が分かる。松井が飼っていたナマズのフードタイマー――それが「1時に鳴るはずの音」だった。つまり、矢部が受けた“14時45分の電話”は、14時45分のリアルタイムじゃない。もっと前、1時頃に録られた音声だと繋がる。
この瞬間、事件の形が反転します。
「パントマイムと同時刻に殺された」ではなく、
「先に殺して録音しておき、同時刻“に見せた”」。
霊能力っぽさの正体は、超常ではなく“編集”だった。時間の編集。現実の再生。
真相①|“遠隔殺人”の中身は「双子トリック」だった
ここで、これまでの2件(梅木・竹下)の説明がつきます。美幸が監禁されている間、外で実行犯として動いていたのは双子の妹・洋子。
梅木隆一は絞殺され崖下へ。竹下文雄は路上で刺殺。犯行の実行は洋子が行い、美幸は“霊能力が自分にある”という設定を作り上げていく。
そして何よりえげつないのは、物証(指紋・血)が“美幸を指すように”揃っていた点。美幸が触れた凶器を洋子が使えば、指紋は美幸になる。返り血も、手の中に袋なようなものをもっており握り潰すと物理的に演出できる。つまり「証拠があるほど霊能力っぽい」という倒錯が完成する。
犯人側がやっているのは、超能力の実証じゃない。警察と科学者に「霊能力しか説明できない絵」を描かせる、論理の罠です。
真相②|松井の銃殺は「録音」+「自動発信」で“時刻”を偽装していた
松井の件はさらに悪質。
松井をあらかじめ殺害し、その際に録音した音声(助けを求める声・銃声・生活音)を、事件の“見せ場”に合わせて再生する。具体的には、パソコンから矢部に電話がかかるよう設定し、定刻に録音が流れるよう仕込んでいた――というのがトリックの核です。
だから、14時45分の電話は「生中継」じゃない。
14時45分は“再生時刻”。
実際の殺害時刻は、ナマズのフードタイマーが鳴る1時頃。
そして現場に落ちた時計の14時45分も、“その時に死んだことにする”ための演出。
ここまで揃えられると、被害者側の死が「証拠」じゃなく「舞台装置」になってしまう。犯行の異常さは、殺し方より“見せ方”にある。
動機|殺された3人は「父を保険金目的で殺した」過去があった
この章が後味悪いのは、トリックが鮮やかなだけじゃありません。動機が、わりと現実的で、汚い。
梅木・竹下・松井の3人は、黒坂姉妹の父親を保険金のために殺害した過去があり、姉妹は復讐として3人を狙った――という構図が見えてくる。
“霊能力者vs科学者”みたいな構図を借りておきながら、芯にあるのは金と罪と復讐。
だから、この話は解決してもスッキリしない。
それでも救われない結末|妹・洋子の死と、美幸の「勝ち逃げ」
奈緒子がトリックを暴いた瞬間、普通なら「よし、逮捕だ」で締まる。
でもTRICKはそうしない。
洋子は良心の呵責から美幸を止めようとするが、毒を盛られて死亡する。つまり、真相に辿り着いた“その後”が一番地獄。
洋子がいなくなれば、実行犯の口も塞がる。残るのは、美幸の「私は知らない」「霊能力なんてないんでしょ?」という開き直りだけ。
そして決定的に胸糞なのが、美幸が牛乳を飲み干し、平然と立ち去っていく“温度”です。派手な復讐劇の顔をしながら、最後にやっているのは「身内の処理」。その冷たさが、霊能力よりよほど怖い。
ここで上田と奈緒子は、負けます。
トリックは暴いた。だが、裁けない。救えない。
SNSでも「上田山田コンビが負ける事があったんだ…」「後味悪い」といった反応が出るのは、まさにこの構造が効いているから。
余韻|負けた夜に、上田が奈緒子を“食事に誘う”温度
ただ、どん底で終わらせないのもTRICK。
ラストで上田が奈緒子を食事に誘う(あの不器用な距離感が出る)場面があり、そこが好きだという声も多い。事件としては負けても、二人の関係だけは負けない――そう言い張るみたいな締め方が、絶妙にズルい。
さらにこの回は、奈緒子の母・里見が上京して上田の家に通される小ネタも入り、笑いと気まずさが混ざる“家族の温度”も挿し込まれます。
父・剛三が里見に「霊能力者は存在する」と言い残して亡くなった、という情報まで出てきて、シーズン終盤の縦糸をうっすら刺激してくるのがニクい。
トリック(シーズン1)7話の伏線

第7話は“解決編”なので、伏線が「謎のヒント」というより「気づいた瞬間に全部ひっくり返る仕掛け」として配置されています。見返すと「最初から置いてあったのに、見えてなかった」タイプが多い回です。
「哲!この部屋」の双子特集
上田が大ファンの番組で“双子特集”が流れる。ギャグのようで、事件の核心に直結するヒント。ここが出た瞬間、事件の“成立条件”が一気に変わる。
“物証が揃いすぎる”こと自体が不自然
指紋・血液一致など、普通なら逮捕一直線の材料が、逆に「霊能力しか説明できない絵」を作るために“盛られている”可能性を示唆。物証が多いほど怪しい、という逆転が伏線。
松井からの電話に混じる「生活音」
銃声より目立たない背景音が、実は最大のヒント。ナマズのフードタイマーが“1時に鳴るはずの音”だったことで、録音=時刻偽装に繋がる。
現場の「14時45分で止まった時計」
犯行時刻を固定するための“置き土産”。これがあることで、犯人側が「その時刻に死んだ」設定を作っていたと分かり、時刻偽装のトリックを補強する。
洋子の“気弱さ”と「止めようとする」態度
双子が揃った後、洋子がただの共犯ではなく、良心と葛藤を抱える人物として描かれていく。終盤の「毒を盛られる」結末に繋がる感情の伏線。
里見の上京と、剛三の言葉
事件とは別線で、里見が東京に来て上田宅に通される流れ、剛三が里見に「霊能力者は存在する」と言い残した情報など、“奈緒子の縦糸”が小さく提示される。後半の黒門島編へ向けた温度の伏線。
トリック(シーズン1)7話の感想&考察

第7話を見終わった直後に残るのは、「解けたのに負けた」という気分の悪さです。TRICKって、基本は“インチキ霊能者を暴いてスッとする”型を持っているのに、この回はその型をわざと裏返す。
「霊能力なんてない」を言い続けてきた上田が、まさにその言葉で詰む。視聴者の安心を、犯人が武器にする。ここがまず痛快で、同時にえげつない。
「超能力がない」世界で起きる“不能犯”のような恐怖
この回が怖いのは、怪談的な怖さじゃなくて、制度の怖さです。
- 物証はある
- でもアリバイもある
- なら「どうやったか」を説明しろ
というロジックで、現実が止まってしまう。
現実の捜査・裁判がここまで単純ではないにせよ、ドラマとしてこの“壁”を立てることで、視聴者に「説明できない=裁けない」の気持ち悪さを体験させる。
そして犯人がそこを理解している。霊能力者を装っているのではなく、“霊能力者としてしか裁けない形”を作っている。つまりこれは、殺人のトリックであると同時に、社会のトリックでもある。
双子トリックが本格ミステリ的に気持ちいいのに、結末が胸糞
推理としては、めちゃくちゃ王道です。
「犯人はそこにいた」→「だから別人(双子)だ」
この古典を、パントマイムと返り血のインパクトで上書きしている。上田が「哲!この部屋」で気づくのも、ふざけてるのにロジカルで好き。
さらに“本格”だなと思うのが、最後の銃殺が「時刻の偽装」まで重ねてくるところ。
電話の背景音(ナマズのフードタイマー)だけで時刻偽装に辿り着くのは、地味だけど強い推理。派手な超常現象を、生活音で壊すのがTRICKっぽい。
ただ、その気持ちよさを全部持っていくのが“妹の死”。
洋子が「止めよう」として毒を盛られるのは、単に悪役を強調するためじゃない。
この話のテーマが「トリックを暴いても、人間は救えない」だからです。救えないのは被害者だけじゃなく、共犯者(妹)すら救えない。
SNSでも「後味悪い」「全部罪を擦り付けて完全犯罪」みたいな声が出るのは、この“解決の虚しさ”が鮮烈だからだと思う。
美幸というキャラの怖さは「霊能力」より“感情の薄さ”
美幸は霊能力者として怖いんじゃない。
- 相手を殺す理由が復讐だとしても
- その復讐のために妹を使い
- 最後は妹を「処理」する
この冷酷さが怖い。
しかも牛乳を飲んで去っていく“温度”。あれが、ホラー映画の怪物よりゾッとする。
人間が一番怖い、という結論に着地してしまう。TRICKが「科学vsオカルト」じゃなく、「人間vs弱さ」に寄っていくのを、ここで強烈に見せつけてきます。
奈緒子の怒りが“正義感”ではなく「騙す側への嫌悪」として燃える
奈緒子は“正義の探偵”じゃない。金に困ってるし、口も悪いし、上田には散々振り回される。
でも、霊能力を名乗る連中が嫌い、という一点だけはブレない。だからこの回、奈緒子が悔しがるのが効く。
霊能力者に負けたんじゃなく、「霊能力がない」ことを悪用した人間に負けた。騙しの構造に負けた。そこが悔しい。
里見の上京が“笑い”であり、“縦糸”でもある
事件の暗さの中に、里見が上京して上田の家に通される小ネタが入るのもTRICKらしい。笑えるんだけど、妙に気まずい温度がある。母と娘が近いのに遠い。
さらに剛三の「霊能力者は存在する」という言葉が刺さる。上田が否定し続けたものを、奈緒子の家族史が別方向から揺らし始める。まだ大きくは動かないけど、“黒門島”の匂いが少しだけする。
結局、この回の“真実”は白くない
この回の台詞としても紹介される「あなたの求めている真実が、必ずしも白く正しいとは限らない」という趣旨の言葉が、そのまま刺さります。
奈緒子は真実に辿り着いた。
でも真実は、誰も幸せにしない。
救えたのは「謎」だけで、「人」は救えてない。
だから忘れにくい。
そして、忘れにくいから何回も見返してしまう。SNSでも「後味悪いけどクセになる」みたいな反応が出るのは、この回がTRICKという作品の“悪趣味な美学”を濃縮してるからだと思います。
もし7話を見返すなら、個人的に刺さるポイントはここです。
- 松井の電話の“背景音”を意識して聴く(ナマズのタイマー)
- 「哲!この部屋」のくだりを“ギャグ”じゃなく“推理の導線”として見る
- 洋子の表情が、どの段階で“止めよう”に傾いているか追う
この3点で、胸糞と快感が同時に増します。
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