10話は、派手な逮捕劇や真相開示がないにもかかわらず、これまで積み上げてきたすべてのテーマが一気に“形”として現れた回でした。
台風が迫る中、海雪事件は闇の核心へ近づき、黒木・大沢・仲井・港湾局・三上といった人物たちの思惑が次々と交錯していく。その一方で、水上警察という組織は「防災」と「捜査」という二つの使命の狭間で揺れ動き、碇と玉虫、有馬の価値観が激しくぶつかり合う。
さらに、三上拉致、海雪スペアキー映像、港湾局の闇、日下部の母の危篤――複数の“タイムリミット”が同時に降りかかり、登場人物ひとりひとりの内面が剥き出しになっていく。
まさに最終回へ突入するための「静かな爆発」であり、人間ドラマとしての密度が最高潮に達したエピソードでした。
ドラマ「新東京水上警察」10話のあらすじ&ネタバレ

10話は、いよいよ最終章目前らしく「海雪事件」と「巨大台風」という二つの脅威が同時進行しながら、黒木・大沢・港湾局・三上といったキーパーソンを一気に追い詰めていく回でした。
全体としては、「事件を追いたい刑事たち」と「災害から市民と部下を守らなければならない組織」の板挟みが物語の大きなテーマになっています。
ここからは細かく流れを追っていきます。
台風接近と「海雪」事件、タイムリミットの到来
東京水上警察署の刑事・碇拓真は、青海埠頭公園に展示されている南極観測船「海雪」の船内で発見された福本宗介の遺体事件について、元「湾岸ウォーリアーズ」総長で、現在は人材派遣会社「湾岸海洋ヒューマンキャリア」の社長である黒木謙一が絡んでいると確信しています。
海雪の移転工事に関わった関係者リストには、黒木の会社から派遣されていた三上慎吾の名前もあり、三上が事件に巻き込まれた可能性も強まっていきます。
しかし同時に、首都圏には大型台風が接近し、明日にも上陸が予想されている状況。
東京水上警察署には災害対策本部が設置されるという通達も入り、いったん体制が動き出せば署員は一斉に台風警備に駆り出されることになり、海雪事件は湾岸署に移管されてしまう見込みになります。
「今のうちに決着をつけないと、また真相が闇に沈む」
そう危機感を抱いた碇たち“チーム碇”は、災害対策本部が動き始める前に事件を終わらせるべく、時間との戦いに身を投じていきます。
三上と華絵の証言、浮かび上がる仲井の不自然な行動
細野由起子たち捜査班はまず「海雪」周辺の関係者を洗い直し、黒木や元海技職員の大沢俊夫が料亭で会っていた相手の中に、港湾局の関係者が混じっていたことを突き止めます。
海雪の移転工事を請け負った業者だけでなく、港湾局の幹部級までが同席していた事実が明らかになり、「工事の裏に何らかの隠蔽があるのでは」と疑念がさらに深まっていきます。
一方の日下部峻は、派遣社員として海雪工事に関わっていた三上を署に呼び出し、直接話を聞こうとします。ほどなく、三上は恋人の峰岸華絵に付き添われて水上署に姿を見せ、黒木との関係を追及されると「入社した時は黒木が社長だとは知らなかった」と繰り返し主張し、自分はただの派遣社員に過ぎないと訴えます。
しかしその裏で浮上するのが、港湾局職員・仲井の存在です。
入札に談合の疑いがあることが判明し、そのキーマンとして仲井の名が浮かび上がります。湾岸署から借りた防犯カメラ映像を確認した碇と日下部は、海雪を訪れた仲井が不自然な挙動をしているだけでなく、福本の頭部に傷を負わせて逃走している場面まで映っていることを確認。
「福本を直接傷つけたのは仲井ではないか」
そう確信した二人は仲井の行方を追おうとしますが、ここで思わぬ壁に阻まれることになります。
災害対策本部の発足、事件は湾岸署へ引き継ぎ
台風の進路が都心直撃コースに確定し、東京都全体で災害対策体制が一気に本格化。
東京水上警察署にも災害対策本部が正式に設置されることになり、海雪事件は一旦、所轄外である湾岸署へ引き継がれることが決まります。
その決定に納得できない碇は、署長・玉虫肇が参加している会議室に乗り込み、「あんたには署長としてのプライドがないのかよ」と真正面から食ってかかり、証拠や人命が喪失する前に動かせと必死に訴えます。
ところが、会議に同席していた有馬礼子からは痛烈な反論が返ってきます。
「台風で今まで何人の職員が亡くなったか、あなたは分かっているんですか」
災害対応を軽視することは市民だけでなく、警察官自身の命も危険に晒す行為。
有馬の言葉に、碇は一瞬反論を失います。
会議後、玉虫は有馬に対し、大沢俊夫の過去を静かに語ります。
水上警察が廃止されると決まった際、組織存続のために大沢は休みも取らず働き続け、ほとんど家に帰らなかった。その間に妻は更年期障害で心身を病み、半年も放置された末に自殺。大沢自身も降格され、出世も再就職も望めない状況へ追い込まれていったという過去。
「黒木は、そんな大沢さんの心の隙に入り込んだのかもしれない」
玉虫のこの一言は、黒木の狡猾さと、大沢の痛ましい弱さの両方を際立たせます。
こうして海雪事件は表向き「他署の案件」とされ、チーム碇は一旦、台風対応に回らざるを得なくなります。
三上拉致と「海雪スペアキー」映像の衝撃
嵐の前触れのように風雨が強まる中、峰岸華絵が慌てふためいた様子で署に飛び込んできます。
「三上がさらわれたんです!」
華絵の話によれば、三上は黒木の手下に連れ去られ、「お前も仲井も今日だ」と告げられたという。観閲式の失敗をネタに以前から脅され、危険な仕事を次々と命じられていたことも明らかになります。
その中の一つが、「海雪」のスペアキーを作らされ、船内の“貴重なもの”を盗み出すよう命じられていた件。
三上はその様子をこっそり映像に残しており、華絵はそのデータを碇と日下部に託します。
映像には、海雪船内での仲井の不審な動きや、黒木側との繋がりを疑わせる場面がしっかり残されていました。
「やはり仲井は黒木と組んでいた」
三上が“切り札”になり得る証拠を握っていると悟った黒木側は、彼を消そうとしている可能性が高い。碇と日下部は、三上が乗せられた車の行き先を追い始めます。
湾岸署の和田に協力を要請した結果、三上が乗せられた車は港から船へ積まれ、そのまま海上へ逃走した可能性が高いことが判明。
ついに「水上警察でなければ追えない事件」へと変貌し、碇たちは警備艇での追跡を主張します。
台風か、捜査か。玉虫の決断と日下部への“残酷な電話”
しかし、三上が海上へ逃げたと分かってもなお、玉虫は出航許可を出しません。
大型台風が首都圏を直撃する寸前であり、ここで船を出せば部下の命が危険に晒される。署長として、これは絶対に認められないという強い姿勢を貫きます。
「私はね、君を死なせるためにこの署に呼んだわけじゃない」
玉虫が碇に告げるこの台詞は、視聴者の胸にも深く刺さる名シーンでした。表面上は捜査を止める“壁”であっても、その根底には確かな“部下への愛情”があるからです。
一方で日下部のもとには、病院から一本の電話。
「お母さまが危篤です」
捜査を続けるべきか、母のもとへ駆けつけるべきか。
海雪事件、三上の命、台風、そして家族――あらゆる“タイムリミット”が重なった状態で、10話は最終回に向けた大きな溜めを残して幕を閉じます。
新東京水上警察10話の感想&考察

10話は、派手な解決編ではなく「最終回のための助走」を徹底して積み上げた回という印象でした。
事件そのものは大きく前進したようには見えないものの、玉虫・大沢・黒木・三上・華絵という主要人物が一気に立体化し、視聴者が抱えていた“モヤモヤ”がそれぞれ違う方向へ深まっていく構成になっていました。
ここからは、伏線やキャラクターの心理を中心に掘り下げていきます。
防災か捜査か ― 二つの正義がぶつかる回
10話の核にあるのが「防災か、捜査か」というテーマです。
碇は「今動かなければ黒木と仲井に証拠を消され、三上も殺される」と、強い現場感覚のもと捜査を続行しようとする。
一方で玉虫や有馬は、「台風で市民や職員の命が奪われてきた歴史」を背負っており、災害時にはまず防災を優先するという“組織の正義”を体現しています。
ここで面白いのは、“どちらも間違っていない”点です。
碇の「今ここで動かないと手遅れになる」という焦りは正しいし、玉虫の「台風を甘く見るな。命を守ることが最優先だ」という判断もまた正しい。ドラマはどちらかを悪に寄せて描くことをせず、視聴者に「自分ならどちらを選ぶか?」と問いかけてきます。
SNSでも、
- 「碇の焦りも理解できるけど、署長の言っていることは正論すぎる」
- 「防災が大事なのは分かる。でも三上を見殺しにするのかという葛藤がしんどい」
と意見が割れていて、本当にドラマが“二つの正義の衝突”を丁寧に描いた回だったと感じました。
玉虫署長と大沢の過去 ― 黒木を生んだ「隙」の正体
個人的に最も胸を打ったのは、玉虫が有馬へ語った「大沢の過去」のくだりです。
水上警察の廃止が決まった際、大沢は組織存続のために身を粉にして働き、家庭を顧みなかった。
その間に妻は心身を病み、自ら命を絶つ。仕事に人生を捧げた結果、家族も出世も失い、心にぽっかりと空いた“隙”を黒木に利用されてしまった――。
ここで描かれているのは、ただの「悪に堕ちた元エリート」ではありません。
- 組織のために走り続け、私生活を壊してしまった男
- その代償を組織は誰も背負わず、彼だけが取り残された
- その心の隙間に、“古い仲間”として黒木がそっと入り込んだ
という三層の構造が織り込まれています。
視聴者からも「大沢は完全な悪人とは思えない」「加害者でありながら被害者」という声が多く、最終回で彼がどのように“決着”をつけるのか、非常に注目されるキャラクターになりました。
三上と華絵 ― “使い捨てられる若者”を象徴する存在
10話で一気に存在感を増したのが、三上慎吾と恋人の峰岸華絵です。
三上は、観閲式の失敗をネタに脅され、「ヤバい仕事」を次々と押し付けられていたと判明します。海雪のスペアキーを作らされ、船内から何かを盗むよう命じられ、その様子を自衛のために映像として残した結果、今度はその映像が原因で命を狙われる。
“失敗”一つで、圧倒的な権力をもつ大人に握られ、使い潰されていく若者――。その残酷な構図が、三上の存在によって強烈に浮き彫りになっています。
華絵もまた、ただの「心配性の彼女」ではありませんでした。
三上を署に連れていった行動力や、拉致後も必死で情報を届けようとした姿勢を見ると、彼女は“事件の渦中に突然放り込まれた一般市民”の象徴でもあります。
二人が救われるのか、それとも取り返しのつかない結末を迎えるのかで、物語全体の印象が大きく変わることになりそうです。
黒木・港湾局・湾岸ウォリアーズ ― 複数の闇が一本線になる
10話で明らかになったのは、「海雪」事件が単なる殺人事件ではなく、再開発・港湾局・旧湾岸ウォリアーズが絡み合った“巨大な利権構造”の一部だったという点です。
- 黒木は表の顔として派遣会社の社長に収まりつつ、裏では港湾局幹部や請負業者とのパイプを保持
- 海雪の移転工事には、不自然な予算や発注の痕跡が複数存在
- 過去の湾岸ウォリアーズ時代の“何か”が、現在にも影を落としている可能性
こうして、黒木は「単なる悪徳元ヤン」ではなく、行政と裏社会の狭間を熟知した“都市型モンスター”のような存在として姿を現し始めています。
視聴者の間でも、
- 「黒木の過去がもっと見たい」
- 「湾岸ウォリアーズ時代の罪が海雪につながっているのでは?」
といった声が増え、最終回で黒木がどこまで“核心”に触れられるのか、期待が高まっています。
日下部の“母の危篤”というもう一つのタイムリミット
ラストに突然投げ込まれる「日下部の母・危篤」――この一報が10話の“重さ”を決定づけました。
海雪事件、三上の命、台風、そして母の命。
日下部が一気に「仕事か家族か」という重すぎる選択を迫られる形となり、視聴者の間でも
- 「ここでその展開はキツい…」
- 「三上と母、どちらも救いたいはずなのにどうするの?」
という声が多数。
ここまであまり日下部の“個人の物語”は深掘りされていなかったため、最終回では碇と日下部の“二つの正義の選び方”が対比される可能性が高いと感じました。
10話までの伏線整理と、最終回への期待と不安
10話終了時点で残されている謎と伏線は以下の通り。
- 黒木謙一の本当の目的
- 湾岸ウォリアーズ時代に何があったのか
- 大沢俊夫が黒木と組むほど追い詰められた理由
- 峰岸華絵の証言の矛盾と、彼女自身の秘密の有無
- 海雪移転工事が“隠そうとしていたもの”
- 港湾局と黒木の利権構造
- 三上は「完全な被害者」なのか、それとも…
- 日下部がどんな選択をするのか
- 玉虫が下す最終判断
SNSでも、
- 「最終回1話で全部回収できるの…?」
- 「ハッピーエンドでは終わらなさそう」
と不安混じりの声が多い一方で、
「ここまで積み上げたキャラの痛みがどう結実するのか楽しみ」という期待も高まっています。
10話は、事件の核心というより、人間の傷・弱さ・選択の重さに焦点を当てた“ヒューマンドラマとしての濃度”が非常に高い回でした。
最終回では、
- 「なぜ海雪にこだわってきたのか」
- 「水上警察という場所に、碇たちはどんな意味を見出すのか」
この二つの問いにどう答えるのかが、大きな焦点になるはずです。
10話は「玉虫の言葉」と「大沢の過去」が最も刺さった回。
最終回でも、“組織の中で戦う大人たち”の姿に注目して見届けたいと思います。
新東京水上警察の関連記事
新東京水上警察の最終話までのネタバレはこちら↓

新東京水上警察の原作についてはこちら↓

過去の話についてはこちら↓




コメント