東京湾に漂う小型ボートから、鎖に巻かれた男性遺体が発見される――。
遺体の姿は絵本『ソラナギ物語』そのもの。
海を舞台にした“完全犯罪”の気配を前に、水上署は潮流解析とAI捜査の両輪で真相を追い始める。一方、日下部からの突然のプロポーズに揺れる礼子は、自分の迷いを抱えながら捜査へ復帰。
事件と私生活、二つの揺れが重なり合う中、海の真実と礼子の答えが静かに浮かび上がっていく――。8話は、海と人の“正義のズレ”が鋭く突き刺さるターニングポイントの回だった。
東京水上警察8話のあらすじ&ネタバレ

8話は、絵本『ソラナギ物語』を模した刺殺体漂流事件「ソラナギ事件」と、日下部からのプロポーズに揺れる礼子の心、そしてラスト1分で物語全体が動き出す転換点が描かれた回でした。
ここからは、事件の流れとキャラクターの動きを、時系列で整理しながら追っていきます。
刺殺体ボート漂流事件と「ソラナギ物語」
物語は、海上を漂流する小型ボートから始まります。中には鎖でぐるぐる巻きにされ、左胸を銛で一突きにされた男性の遺体。
被害者は都内の産廃処理業者・桂孝一。発見時にはボート内部が海水で満たされ、遺体が冷やされていたため、死亡推定時刻も大きくブレてしまう。どこで殺され、どこから流されてきたのかも掴めない──そんな厄介な状況から事件は幕を開けます。
遺体の姿は、海の神ソラナギの怒りに触れた商人が“鎖で縛られ、銛で心臓を突かれる”という絵本『ソラナギ物語』のクライマックスと酷似。署内でも世間でも、この事件は「ソラナギ事件」と呼ばれ始めます。
水上署では、碇が玉虫署長から捜査を指示されます。一方その頃、有馬礼子は日下部からの突然のプロポーズを受けた直後。「どう答えたらいいか分からない」と混乱し、細野に相談するも答えを出せずにいる。
そんな礼子のもとへ、碇からボート漂流事件への協力要請が届きます。潮流データの解析が必要だと聞いた礼子は迷いながらも捜査に参加する決意を固めます。
礼子の潮流解析とAI捜査で浮かび上がる“漁師・辻村”
礼子は水上署に合流するとすぐ、海技職員として潮流データ・風向き・気象情報をもとにボートの漂流シミュレーションを開始。海流計算を使い、ボートが“いつ・どこで”海へ出されたかを割り出していきます。
一方、碇たちは被害者・桂のスマホを解析し、人工知能(AI)システムが通話履歴・位置情報・メッセージから“関係が深く、なおかつ不審な人物”を抽出。そこで候補として浮かんだのが漁師・辻村。
辻村は桂の産廃関連ルートとも接点を持ち、事件前後の行動にも不自然な点が多い。しかし、彼には“夜のある時間帯のアリバイ”が存在し、死亡推定時刻とも一致しないため、捜査は膠着します。
そんな中、礼子は潮流解析を進めるうちに、
「そもそも死亡推定時刻がズレているのでは?」
という違和感に到達します。ボート内部に海水が満たされ、遺体が冷却されていたことで、通常の検視前提が崩れていた可能性。礼子は「自分が足を引っ張っているのでは」という不安に押しつぶされそうになりながらも、大沢の励ましを受け、解析データを最初からやり直す決意を固めます。
ロープの“サビ”と“3時間で自然にほどける結び方”──完全犯罪のトリック
事件の突破口となったのは、ボートを係留していたロープに残された“不自然なサビの痕跡”。ロープのある一点だけサビが集中していたことから、礼子は“特定の結び方”が施されていたと推理します。
その結び方とは、
一定時間が経過すると自然にほどける“タイマー式の係留方法”。
つまり、犯人はボートに時間差で流れ出す仕掛けを施し、アリバイを成立させていたのです。実験の結果、ロープは“約3時間後”に自然に外れることが判明。
- 殺害時刻
- ボートが流れ始めた時刻
- 発見時刻
この3つが意図的にずらされていたことになり、辻村のアリバイは完全に崩壊します。礼子は潮流データとロープトリックを照らし合わせ、事件当夜の“本当の時間軸”を復元することに成功。
漁師・辻村の告白──「海を守りたかった男」の末路
行方を追われていた辻村を碇が見つけ出し、礼子とともに取り調べへ。最初はアリバイを主張する辻村ですが、ロープのサビ・飲み会を自ら提案した事実・潮流再解析──次々と突きつけられる状況証拠に追い詰められ、ついに口を開きます。
辻村の漁場では、数か月前から産業廃棄物の不法投棄によって漁ができない状況が続いていました。その犯人が、被害者である桂の会社。辻村は何度も桂に「不法投棄をやめて自首してくれ」と訴えたものの、桂は耳を貸さなかった。
海を守りたいという純粋な想いが限界に達し、“ソラナギ物語”の伝承を現実に落とし込んだ制裁へと変質。こうして「ソラナギ事件」は生まれます。
さらに衝撃なのは、辻村もまた幼い頃、“碇と同じように大沢に命を救われた子ども”だった事実。海を愛し、海に育てられたはずの人間が、海を守ろうとして殺人犯になった──その皮肉が胸に刺さります。
礼子の成長と「保留されたプロポーズ」
事件の裏で動いていたのが、礼子の個人的な葛藤。日下部からのプロポーズにすぐ答えられず、「考えさせてほしい」と伝える礼子。自分のミスを引きずり落ち込む場面もありますが、潮流解析で事件解決に貢献したことで、海技職員としての自信を取り戻していきます。
なにより象徴的なのは、礼子が“自分の判断で警備艇に飛び乗る”シーン。これまでの彼女ならできなかった行動であり、礼子の成長を決定づける瞬間でした。
そして、碇の好物“ビッグおにぎり”のくだりは、シリアスな展開の中で二人の距離と日常感を柔らかく示すアクセントになっています。
ラスト1分の衝撃──黒木+大沢の謎の会合
ソラナギ事件が解決し、ようやく日常が戻ったかに見えたその瞬間、物語は急展開を迎えます。
碇に届いた一通のメール。内容は元“湾岸ウォリアーズ”総長で、現在は『湾岸海洋ヒューマンキャリア』社長の黒木謙一。「大きな仕事をする」という不穏な文字。
碇と礼子が張り込む料亭に現れたのは黒木──だけではなく、礼子が尊敬する海技職員OB・大沢俊夫でした。
これまで
- 碇を救った恩人
- 礼子の理解者
- 捜査の支え
として描かれてきた“大沢”が、よりによって黒木と行動を共にしている。
8話のサブタイトル「衝撃のラスト1分」 の名にふさわしい終わり方で、物語は完全に次の局面へ突入していきます。
東京水上警察8話の感想&考察

ここからは、感想と考察をまとめていきます。
8話は、一言でまとめるなら「海を守る正義」と「人を守る正義」のズレを描いた回だったと感じました。
ソラナギ事件は、“環境犯罪もの”としてかなり攻めた設定
まず事件パート。
産廃処理業者による不法投棄が原因で漁場が痩せ、それに業を煮やした漁師が、絵本の伝説になぞらえて復讐する。この構図は、かなり現代的です。単なる怨恨殺人ではなく、
・環境問題
・企業コンプライアンス
・地元漁師の生活
といったリアルな要素を組み合わせてきたところは、水上警察ものらしい“海のドラマ”になっていたと思います。
個人的に面白かったのは、「海が犯行現場であり、同時に証拠を隠すトリックにもなる」という逆説的な構造。
海水で遺体を冷やすことで死亡推定時刻を狂わせ、潮流とロープの結び方でボートの出発地点をぼかす。
普通なら「海が相手だから、真相まで届かない」となりそうなところを、礼子の海流計算とロープ解析で逆転していく流れは、水上警察ドラマならではのロジックで気持ち良かったです。
欲を言えば、
・潮流シミュレーションの画面
・AI解析の過程
このあたりをもう少し丁寧に描いてくれたら、ミステリーとしての満足度はさらに上がった気もします。ただ、放送尺を考えると、今回のバランスが限界かな、という気もしました。
辻村の動機は「歪んだ正義」系としてかなり重い
辻村の動機は、よくある“金のため”ではなく、「海を守りたい」という想いから来ています。
幼い頃に大沢に助けられたことで、彼の中には「海と人の命を守る側でありたい」という憧れがあった。
しかし社会に出てみると、
・不法投棄を続ける企業
・見て見ぬふりをする大人たち
・減っていく漁獲量
現実は“正義感だけではどうにもならない世界”で、彼は少しずつ追い詰められていく。
このあたり、「自分も環境問題へ何もできてないよな…」と、視聴者側にも刺さるテーマになっていたと思います。
そして、ここで大切なのが、辻村を追い詰めた礼子が、同時に彼を理解しようとしていた点。
完全に悪と決めつけるのではなく、「なぜそこまで追い詰められたのか」に向き合おうとする姿勢は、水上警察チームの色としてかなり好きです。
礼子回としての完成度 ― 「揺れやすい自分」を自覚する一歩
8話は、完全に礼子回でした。
・日下部からのプロポーズ
・自分のミスに対する自己嫌悪
・AIや潮流解析という新しい捜査ツールへの適応
・大沢への尊敬
・碇との距離感
これだけ多くの感情要素を詰め込んだのに、礼子のキャラクターとして破綻していないのは、「揺れやすい自分」を本人がちゃんと自覚しているからだと思います。
細野との会話で、「自分はすぐ揺れる」と認めるシーン。ここが、実は今回一番大事なポイントだった気がします。人は揺れるし、迷う。それでも、海技職員として、そして一人の人間として前に進もうとする。
タイトルにある「揺れながらでも進め」というフレーズは、礼子の生き方そのものを示していて、今後のシーズン全体のメッセージにもなりそうだな、と感じました。
AI捜査と“アナログ刑事”碇の対比が面白い
SNSでも盛り上がっていたのが、AI事情聴取のくだり。
・スマホに対してAIが質問を投げかける
・位置情報や通話履歴を自動で紐づける
・人間側はその結果をもとに仮説を立てる
という流れは、現代ドラマらしいアップデートです。
一方で、碇は相変わらず“現場主義”で泥くさく動くタイプ。AIが出してきた候補をもとに自分の足で辻村を追いかけ、取調室では、人間同士の会話で真相を引き出していく。
現場の刑事たちが、「AIが言っているから」ではなく、「AIの示した結果をどう解釈するか」で勝負しているのがいいですね。
黒木×大沢のラストカットは、シリーズ全体をひっくり返す布石
ラスト1分の黒木と大沢。これは、8話まで積み重ねてきた“信頼”を一度壊す演出として、相当強烈でした。
大沢はこれまで
・碇のヒーロー
・礼子のロールモデル
・海の安全を守ってきたレジェンド
として描かれてきた人物。
その彼が、よりによって湾岸ウォリアーズの黒木と料亭で会っている。
ここで僕が気になったポイントは二つです。
- 大沢は黒木側なのか、それとも“潜入”なのか
- 今回の辻村事件に、大沢はどこまで関与していたのか
前者は9話以降で明かされていくとして、後者については、8話時点でもう少し匂わせがあった気がします。
・辻村と碇を救った過去
・海を守るという価値観の源泉
・礼子への助言のタイミング
これらがすべて、「海を利用する側」と「海を守る側」のラインを引き直す伏線かもしれません。
大沢がもし、黒木の計画を“知ったうえで”黙認しているのだとしたら、今回の辻村の犯行動機とも鏡合わせになる。
「守りたいもののために、どこまでのグレーを許せるか」
8話のテーマが、より大きなスケールでシリーズ全体に引き延ばされていく予感がしました。
恋愛パートは「保留」という選択がリアル
最後に、日下部・礼子・碇の三角関係について。
日下部のプロポーズに対して、礼子が即答しなかったのは正直、かなりリアルだなと感じました。
・仕事のこと
・自分の揺れやすい性格
・碇との距離感
・大沢への尊敬
色んな要素が絡んでいる状態で、「はい、結婚します」とはとても言えない。
ドラマ的には、
・オーケーしてからの波乱
・ノーからのやり直し
どちらかを選びがちですが、ここであえて“保留”を選ばせたのは、今の時代らしい選択の描き方だと思います。
視聴者の反応も、
・「とりあえず断れ」という意見
・「迷うのめちゃくちゃ分かる」という共感
に分かれていて、このグラデーション自体が作品の狙いに近いと感じました。
まとめ
僕なりにまとめると、8話は
・ソラナギ事件という“海を守るがゆえの犯罪”
・AI捜査とアナログ刑事の共存
・礼子の成長と揺れ続ける心
・黒木と大沢という長期伏線の本格始動
この4つが一気に動いた、シリーズ中盤のターニングポイントでした。
派手なアクションより、海流計算やロープトリックといった“地味なロジック”で見せるところに、このドラマの個性がしっかり出ています。
次回、黒木と大沢の関係がどう描かれるのか。そして、礼子が「揺れながらでも進む」中で、日下部と碇のどちらに──あるいはどちらにも寄りかからない道を選ぶのか。
8話を見終えた今、東京の海はますます静かじゃないな、と感じさせられる一話でした。
新東京水上警察の関連記事
新東京水上警察の最終話までのネタバレはこちら↓

新東京水上警察の原作についてはこちら↓

過去の話についてはこちら↓




コメント