満月でも新月でもなく、“半月の夜”だけに流される遺体。第6話の『新東京水上警察』は、事件の謎を追うと同時に、
海(=物理)/組織(=制度)/人(=感情)の三層がどう噛み合うかを描いた。
湾の潮流を読む篠宮、現場で命を拾い続ける碇、そして焦りを隠せない日下部。
三者三様の“正しさ”がぶつかり合い、やがて一つの潮目を作る。
「感情で動く人は出世しない」——その冷たい言葉の下で、
水上署の刑事たちは今日も“流れる真実”を掴もうともがいていた。
東京水上警察6話のあらすじ&ネタバレ

導入──“ハーフムーン殺人事件”が水面(みなも)を走る
深夜、警視庁・東京水上警察署の刑事防犯課に、海上から引き上げられた男性遺体の検視結果が届く。
被害者は大学生・増田健二。死亡推定時刻は先週月曜の午前1時前後。
遺体は頭部が“半月”の弧を描くように激しく損壊しており、先月起きた工務店勤務・佐藤守の殺害と酷似していた。
犯行当夜はいずれも上弦・下弦の“半月”。
世間では連続猟奇事件に“ハーフムーン殺人事件”の名が与えられ、同一犯の可能性が急速に浮上する。
捜査の陣頭に立つのは、警備艇を自在に操る現場主義の刑事・碇拓真(佐藤隆太)。だが本話は、事件そのものと同じだけ、組織の“潮目”が物語を揺らす回でもあった。
本部からの“最強の刺客”──篠宮多江の着任
連続殺人の拡大を受け、本部の殺人犯捜査第10係、通称“篠宮班”の警部・篠宮多江(野波麻帆)が水上署に着任。彼女は携わった事件での高い解決率を誇る切れ者であり、碇の“同期”でかつての恋人でもある。
会議の場で篠宮は、
①遺体の漂着地点からの“逆トレース”(潮流・風向を用いた漂流経路の特定)、
②被害者同士のライフスタイルや交友関係の“共通項”の洗い出し、
この二点を水上署に指示する。
現場と本部、海と陸——それぞれの論理が一気に交錯し、物語のテンションが一段高まっていく。
同じ頃、若手刑事・日下部峻(加藤シゲアキ)は、母・涼子の入院を知らされる。
検査結果を翌日に控えた彼は、焦燥と不安を抱えたまま捜査に戻る。サスペンスの骨格に“私事の痛み”が縫い込まれ、キャラクターの輪郭が濃くなっていく。
デジタルフォレンジックの突破口──“Fog talk”と“トクリュウ”
翌日、鑑識から「増田のスマホが復元できた」と報が入る。
解析の結果、端末には“Fog talk”というメッセージアプリが確認された。これは匿名・流動型犯罪グループ“トクリュウ”が使用する“消えるアプリ”で、やり取りは自動消去・ログ非残存型。
さらに、先に殺された佐藤のタブレットからも同アプリの痕跡が見つかる。
“潮のように掴めない通信”を追う捜査は、水上署の面々を極限まで追い詰める。足跡も監視カメラも頼れない水上の現場では、データという“見えない証拠”こそが唯一の足場。
碇と篠宮は、情報戦と現場主義の狭間で、互いの信念をぶつけ合う。
篠宮が重視するのは、「遺体が流れてきたのか、流されたのか」。
碇たちは湾内の潮汐データや風速・風向、河口の流出量など“水域の呼吸”を重ね合わせ、遺体の移動シミュレーションを描き出す。
水上の捜査とは、海が残す“物理ログ”を読み取る作業そのもの。そして「半月」が潮の動きを決定づける条件であることが判明し、犯行が“自然のリズム”を利用した計画的犯行であることが浮かび上がる。
漂流の果てに──泉圭吾の影と日下部の焦り
解析結果の裏で浮上したのは、不動産会社「ゼネラルハウジング」社員・泉圭吾(内博貴)。
被害者と同じ匿名ネットワークに接続できる“人の回線”として、彼の名が挙がる。
碇が、元強盗グループ“湾岸ウォリアーズ”の田淵響(山崎裕太)から情報を引き出した矢先、泉の行動ログが決定的な手がかりに。
日下部は、母の容体を気にかけながらも「一刻も早く事件を終わらせたい」と焦り、泉を任意同行で署へ連行。だが強い姿勢での取り調べは、捜査手続き上のリスクを孕み、彼自身の立場を危うくする。
焦燥と責務が交錯するこの展開が、第6話の緊張を最も高める場面となった。
感情と理性の衝突──碇と篠宮、それぞれの正義
第6話のテーマを象徴するのは「感情で動く人は出世しない」という一言。
合理と証拠を重んじる篠宮と、現場の肌感覚と人間を信じる碇。
二人の価値観は噛み合わないが、海難事故や水死事件の現場で身についた碇の“瞬発的な判断”は、誰よりも人命を救う。「感情で動く」のではなく、「感情を背負って動く」——碇の生き方は水上署の哲学そのものだ。
一方、篠宮の冷静な分析もまた、組織としての防波堤を守るために欠かせない。
二人のせめぎ合いが、取調べ方針やメディア対応など、捜査チーム全体のバランスを変えていく。
クライマックス──“ハーフムーン”の真相は水底に残されたまま
終盤、事件は“半月”という時間条件、“Fog talk”という通信条件、“トクリュウ”という人の条件が三層で絡み合う。
泉の関与は断定できず、彼が“指示役”なのか“伝声管”なのかは不明のまま。潮の流れと同じく、事件の“潮目”もまだ定まらない。
第6話は、「犯人像の輪郭を浮かび上がらせる」と同時に、水上署内部の力学を更新するための転換点として描かれた。
次回、日下部の“やり方”が正式に問題視され、彼自身が“水の中で溺れるように追い詰められていく”展開が予感される。“ハーフムーン”の真意はまだ水底に沈んだまま——事件は次章へと続く。
東京水上警察6話の感想&考察

第6話は、事件の謎解き“だけ”ではなく、「海(=物理)」「組織(=制度)」「人(=感情)」の三層がどう噛み合うかを描いた回だった。
ここでは、
①“半月”が選ばれた理由
②“Fog talk/トクリュウ”の機能
③碇×篠宮×日下部の三人が体現する捜査哲学——この三点を中心に考察する。
1)なぜ“半月”なのか──潮の弱さと見通しの良さ
“満月”や“新月”に比べて“半月”は潮汐差が小さく、一般に潮流が弱まる(=ネープ潮)傾向にある。
水上での漂流を“制御”するには、過剰な流れよりも“読みやすい流れ”のほうが都合がいい。
犯人が“半月の夜”を選んだ理由として考えられるのは次の二点だ。
・遺体、もしくは証拠物の移動距離・方向を想定内に収めるため。
・ショアライン(岸辺)での人の目——夜景客・観光客・釣り人——が減る時間帯を狙うため。
作劇的にも、第6話で繰り返される「漂着逆算(篠宮)」と「海を読む現場(碇)」という構図は、“水域を読む犯人”像を観客に刷り込むための意図的な設計といえる。
潮流が穏やかな“半月”こそが、犯人にとって最も“演算可能な海”だった。
2)“Fog talk”と“トクリュウ”──“消える設計”が生む揺り戻し
“Fog talk”は、端末側に記録を残さない“自壊型メッセージ”アプリ。
トクリュウ(匿名・流動型犯罪ネットワーク)がこのアプリを用いることで、やり取りの痕跡が“水のように消える”通信形態を実現している。
しかし、第6話ではその“完全な消滅”が逆に“痕跡の濃度”を上げる皮肉が描かれた。
・被害者と加害者、双方の端末に同一アプリの痕跡があれば、関係性はむしろ濃厚になる。
・使用時期が“半月の前後”で一致していれば、時系列の束ね直しが可能となる。
・「消える」という安心感が、ユーザーの不用意な実名出しや位置情報の許諾など、別経路の足跡を誘発する。
つまり、第6話は「完全な消去は、別の痕跡を濃くする」というデジタル・サスペンスの定石を丁寧に踏襲していた。見えない通信が、“逆光”として人間関係を照らし出していく構図は秀逸だった。
3)碇×篠宮×日下部──三者三様の“正しさ”
篠宮の正しさ:
データに基づき、人命よりも“再発防止”を優先しがちな組織合理。
会議での指示は常に明確で、現場のタスクを切り分け、可視化し、責任線を引く。
だからこそ彼女の“冷たさ”が際立つ。
碇の正しさ:
救助・保全・捜査を“同時に行う”のが水上署の矜持。
「海は待ってくれない」。だから走る、飛び込む、確かめる。
感情で動くのではなく、“感情を背負って動く”刑事像を体現する。
日下部の正しさ:
母の病という“いまここ”の現実が、彼を結果主義へと押し出す。
任意同行の強行は、被疑者の“否認を固める”危険も孕むが、
「時間がない」という焦燥は現場の本音でもある。
第6話は、彼の未熟を断罪するのではなく、“正しさの重なり”がいかに難しいかを描いた。
4)泉圭吾という“潮だまり”──不動産の仕事と言葉の温度
泉圭吾は、不動産会社「ゼネラルハウジング」に勤める社員。
港湾・臨海エリアの物件情報に詳しい人物は、陸上の“空間の穴”——つまり人目の薄い倉庫、空き地、係船施設などの事情に通じている。
“水の道”と“人の道”をつなぐハブとして、彼ほど事件に絡みやすい存在はいない。
しかし第6話は、彼を黒く塗りつぶさない。
取り調べで見せる“不本意さ”は、悪人の余裕ではなく、“巻き込まれ/抱え込み”の可能性を匂わせる。
彼が“指示役”なのか“伝令”なのか。
次回で決定するその“潮目”こそ、物語の要となるだろう。
5)サブテキスト──「感情で動く人は出世しない」をどう読むか
タイトルにも据えられたこの文句は、組織で生きる誰もが身に覚えのある痛みだ。
“出世”は単なる結果指標に過ぎない。
だが、“感情”を切り捨てた合理は、ときに人命を抽象化し、現場の直感を“ノイズ”として処理してしまう危うさを孕む。
水上署は、その直感を引き受ける場所である。
篠宮が碇を“古い”と切って捨てない限り、二人の“正しさ”はいつか重なり合う。
今回の火花は、その未来の予兆でもあった。
まとめ
事件の三層:半月(時間)×Fog talk(通信)×トクリュウ(人)。
組織の三層:本部(篠宮)×現場(水上署・碇)×個(母を抱える日下部)。
次回の焦点は、泉圭吾の“役割”の確定と、半月が選ばれた理由の実証に移る。
水の上で犯人を追う物語では、手掛かりもまた流れてしまう。
けれど、海は嘘をつかない。潮は必ずどこかにつながっている。
第6話は、その“つながり”を静かに浮かび上がらせた一話だった。
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