「絶対零度(シーズン5)」8話は、派手なアクションよりも“情報の暴走”に焦点を当てた政治サスペンス色の濃い1話でした。
総理の娘・カナが誘拐される一方、ネットでは総理のディープフェイク映像が拡散し、世論は一気に炎上。
家庭と国家という二つの“信頼のシステム”が同時に崩れていく中、DICTは見えない敵の輪郭を追い、奈美は佐生の言動にひそむ違和感を確信へ変えていきます。物語の核心が静かに動き始める緊迫回です。
絶対零度(シーズン5)8話のあらすじ&ネタバレ

8話は「総理の娘誘拐」と「フェイク映像による炎上」が同時進行する、シリーズでも稀に見る政治色の濃い回です。
国家レベルの人質事件と、情報操作による世論誘導。その狭間で、DICTのメンバー、桐谷総理、内閣官房副長官・佐生が、それぞれの“正義”と“信頼”の在り方を試されていきます。
総理の娘カナ誘拐――前代未聞の“国家人質”事件
物語は、桐谷総理のもとへ届いた一通のメールから始まります。添付されていたのは、拘束された娘・カナの写真。
その後、非通知からの通話で「娘を預かっている」と告げられ、杏子は必死にカナの無事を求めますが、相手は「今後のあなた次第だ」とだけ残し電話を切ります。
一国のトップの実子が誘拐されるという事態は、個人的な事件では済まされず、国家の統治機能や国際的信用にも影響を及ぼす“国家的人質事件”へと発展します。
警察庁は総合対策本部を立ち上げ、本部長には内閣官房副長官の佐生新次郎が就任。DICTも極秘裏に投入され、表と裏のルートで救出作戦が進められていきます。
DICT始動――H-WKN159との不穏な接点
DICTでは早見が指揮を執り、紗枝に脅迫電話の解析、掛川・南方にカナの足取りの追跡、山内と田辺には以前の大規模案件「H-WKN159」で押さえた個人口座リストの再検証が割り当てられます。
一方で二宮奈美は佐生に同行し首相官邸へ。杏子の護衛とメンタルケアという“最前線の聞き役”を担うと同時に、今回の誘拐が「H-WKN159」と繋がっている可能性を知らされ、背後に“金銭目的だけではない組織的犯罪”の気配を感じ取ります。
DICTのミッションは二つ。
ひとつはカナの命を守ること。
もうひとつは、ネットワーク犯罪の専門機関として、黒幕の全貌を暴くこと。
しかし、ここで事件をさらに混乱させる第二の“炎上”が巻き起こります。
総理スキャンダルのディープフェイク拡散――世論が炎上
総理の娘誘拐は極秘扱いのはずが、外では別の火種が燃え広がっていました。
ネット上では、桐谷総理が“軍事費倍増”を宣言する動画や、執務室での不倫を示唆する映像が拡散され、大炎上。総理辞任を求める声が一気に上昇します。DICTが解析したところ、それらは粗い合成が目立つディープフェイクでしたが、“真偽の確認”よりも映像だけが独り歩きし、怒りの矛先さえ定まれば世論は容易に煽動されてしまう。
火消しのため、佐生は総理に緊急会見を提案。杏子は毅然と「フェイク映像である」と説明しますが、そこで記者の磯田が切り札を投下します。映し出されたのは、総理の夫・晋一の不倫現場の“本物の写真”。
フェイクを否定するための会見が、逆に総理家庭の亀裂を全国に晒してしまう最悪の結果となります。
会見大失敗――家庭崩壊と政権危機が同時進行
晋一の裏切りが露呈し、杏子は政治家としても一人の妻としても打撃を受けます。
世論はフェイク映像ではなく“本物の不倫写真”に一斉に飛びつき、支持率は急落。カナ誘拐が公表されていない現状では、外から見れば“自滅する政権”そのものです。
杏子は夫に向かって「私はあなたのように背を向けたりしない」と宣言します。裏切られても逃げない母としての矜持、国民に背を向けない政治家としての覚悟が同時ににじむ言葉です。
一方、奈美は状況に“違和感”を覚え始めます。佐生の対応は後手に回ってばかりで、炎上はあまりに都合よく燃え広がっている。
「この炎上、本当に“失策”で片付くのか?」
奈美の中で、小さな疑念が形を持ちはじめます。
奈美が見抜いた真相――炎上の黒幕は“味方”
奈美は紗枝にフェイク映像の発信源をさらに追わせ、その結果、一般の荒らしとも海外ハッカーとも違う“不自然な拡散ルート”が浮かび上がります。
奈美は佐生を直撃。
フェイクの拡散ルート
世論の向き
会見のタイミング
これらを合わせると、「意図的に炎上が作られている」としか思えない。
追い詰められた佐生は、ついに認めます。
フェイク映像をばら撒いたのは自分だと。
理由はただひとつ。
・娘の誘拐が公になれば国家が揺らぐ
・犯人に“国ごと人質”にされる危険がある
・それを避けるには、世論の視線を別の方向に向けるしかない
「命がけの大手術に、多少の出血はつきものです」
この言葉が佐生の“合理的な正義”を象徴する台詞に。
世論を欺き、プライバシーを踏みにじってでも国と総理を守る──その冷酷さに奈美は怒りを覚えつつも、佐生が「カナを救ってくれ」とDICTに託す姿に苦しさもにじんでいきます。
誘拐実行犯の正体――“闇バイト”のリクルーターとノマドSE
一方、誘拐の実行犯も判明へ向かいます。
カナとともにバンコクへ出国した“スコット”は、闇バイトのリクルーター・川北卓。若者を裏社会へ誘導する“入口役”でした。
さらに山内は「H-WKN159」で押さえた個人口座の中に、川北と結びつくノマドSE・久慈幹二の名を発見。DICTが追い続ける巨大情報犯罪ネットワークの一員であり、現在も暗躍しているとみられる人物です。
カナ誘拐は──
単なる恨みや金ではなく、DICTが追ってきた“見えない敵の本丸”へ繋がる事件である可能性が濃厚になります。
カナの決死の脱出と再拘束――残された大きな不安
拘束されていたカナは、隙をついて脱出を図ります。
物陰から出口へ向かい必死で走るものの、寸前で男たちに見つかり再拘束。視聴者にも状況が見えないまま、カナの安否は“宙づり”のまま物語は進みます。
一方、久慈は幹部格とみられる人物“レッド”に何かを報告し、組織的犯罪の黒い影が確実に濃くなっていきます。
ラストでは、
「次回、犯人の第一の要求が明らかに」
「また一人のシステムエンジニアが犠牲に」
という不穏な予告が映され、8話は強い不安を残したまま幕を閉じました。
絶対零度(シーズン5)8話の感想&考察

8話は派手なアクションこそ控えめですが、情報犯罪ドラマとしてのテーマが一気に立ち上がった回でした。
誘拐事件そのものよりも、「フェイク映像」「炎上」「スピン報道」「善意という名の暴力」といったキーワードが強く残る構成で、“誰がいちばん恐ろしいのか?”という問いがずっと頭の中を巡る1時間でした。
国家と家族――二つの“システム”が同時に壊れていく
まず強く感じたのは、桐谷総理一家の描き方の巧妙さです。
・国家のトップとしての桐谷総理
・夫に裏切られた妻としての杏子
・娘を奪われた母としての杏子
この三つの顔が、会見シーンや夫婦の口論で何度も切り替わり、“国家の信頼”と“家庭の信頼”が鏡のように揺らいでいく構図が印象的でした。
フェイク映像で燃え上がる政治スキャンダルと、夫の不倫という極めて個人的で確実な裏切り。その対比は、今の情報社会が抱える皮肉そのものです。
・フェイクは曖昧でも、面白ければ拡散される
・痛みを生むのは、多くの場合“本物”の小さな裏切り
真正面からこの二つを並べたことで、8話は“信頼が崩れる瞬間”を非常に生々しく描いていました。
ディープフェイクより怖いのは「信じたい側」の心理
フェイク映像自体は技術的に粗く、DICTが解析すればすぐに偽物だと分かる。それでも一度炎上が始まれば、人々は“真偽”ではなく“気持ちよさ”に引き寄せられる。
8話が描いたのは、フェイク技術の脅威だけではありません。
・誰かを叩いてスッキリしたい
・悪者を設定したい
・自分より“悪い存在”がほしい
こうした心理が、フェイク映像を“事実”にしてしまう構造そのもの。
SNSでも「フェイクでも叩く人の感情は本物」という声が多く、ドラマが突きつけているテーマと視聴者の受け取り方が完全にシンクロしていました。
佐生新次郎は“悪役”か、“正しすぎる味方”か
最も心を揺らされたのは、佐生の描かれ方でした。
総理を守るためなら、フェイクを流し、世論を操作し、誰かを犠牲にする。
典型的な“汚れ仕事を背負う官僚”であり、やっていることは最悪です。
しかし彼は単なる悪役ではありません。
・「命がけの大手術に多少の出血はつきもの」
・奈美にカナ救出を託すときの揺れ
・総理への忠誠心と、手を汚す覚悟
ここから浮かび上がるのは、
「やり方は間違っているが、根っこは国を守りたいという純粋な思い」
という矛盾に満ちた人物像。
視聴者の間でも「嫌いになりきれない悪役」と評されていて、“暴走する正義”の象徴として非常に魅力的に描かれていました。
奈美の“沈黙”と「思いやり」の倫理
対照的なのが奈美です。
総理を支えるとき
佐生の告白を聞くとき
事件の断片が繋がり始めたとき
どの場面でも、声を荒げず、まず“相手の言葉を聞き切る”姿勢を崩さない。
DICTが情報犯罪と戦う組織である一方、奈美は「データ」ではなく「人の温度」を見ている。
杏子にそっと「思いやりを大切にしてくださいね」と告げる台詞は、単なるアドバイスではなく、
“信頼を捨てた瞬間、人はすぐに加害者にも被害者にもなる”という倫理を静かに示す言葉でした。
フェイクと憎悪が渦巻く世界で、
奈美は“人間らしさを守る最後の砦”として描かれているように感じます。
誘拐事件はまだ“序章”――久慈幹二とH-WKN159の伏線
8話では事件そのものの結末は描かれません。
・カナの安否は依然不明
・川北卓は特定されたが背後組織は謎
・“クジカンジ”こと久慈幹二が浮上
・H-WKN159とのリンクが濃厚に
何かが繋がりそうで繋がらない不安感を、
あえて“解決しないまま”積み重ねていくのがシーズン5らしい構造でした。
派手な山場を置かず、
視聴者に「まだ知らない何かがある」と自覚させる絶妙な回。
8話が突きつけた問い――「真実」より「信頼」を信じられるか
情報社会を舞台にしたドラマは“真偽を見抜く力”に焦点を当てがちですが、
8話はむしろ“信頼そのもの”を扱っていました。
フェイクが燃え盛る中で
真実を知っていながら黙る者
守るために嘘を選ぶ者
裏切られても背を向けない者
ここにあるのは「事実」ではなく「信頼の揺らぎ」。
誰を信じるのか?
どこまで信じられるのか?
そして信じることで誰を傷つけるのか?
8話はその問いを、静かに、しかし鋭く突きつけてきます。
筆者としては
・佐生をどこまで許容できるのか
・杏子は夫・国民・自分自身をどう信じるのか
・奈美は“知りすぎる者”としてどこに線を引くのか
この3点を軸に、9話以降を追いかけたいと感じました。
フェイクだらけの世界で、それでも人を信じようとすること。
その危険さと優しさを、8話は確かに描き切っていたと思います。
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