絶対零度(シーズン5)10話は、これまで点で散っていた伏線が一気に線になり、“国家そのものを揺らす最終局面”へ歩を進めた濃密なエピソードでした。
誘拐されたカナの動画が世界に拡散し、総理の“母としての弱音”が生配信され、電力インフラを狙ったサイバーテロが発動。
情報が個人の生活を壊す段階から、国を揺るがすフェーズへと突然スケールアップします。
さらに、奈美と杏子が「母親」として真正面から向き合う重厚なシーン、佐生への違和感、久慈の“まだ本命ではない”不気味さ、そしてカナが国内にいるという衝撃の真相――。
10話は、最終決戦の幕開けにふさわしい“静かなクライマックス”でした。
続く本編感想&考察で、その核心に迫っていきます。
絶対零度(シーズン5)10話のあらすじ&ネタバレ

シーズン5第10話は、これまで張り巡らせてきた「サイバーテロ」「総理とDICT」「久慈・佐生ライン」「SE連続殺人」という伏線が、一気に現実の“国家危機”として立ち上がってくる回でした。
事件の決着こそまだ先ですが、盤面だけは最終決戦のひとつ手前まで一気に進んだ印象です。
ここからは、時系列に沿って細かく振り返っていきます。
総理を追い詰める炎上と、奈美の決定的な違和感
冒頭から、桐谷杏子総理は四面楚歌の状態に立たされています。立て続けに起きたサイバーテロに加え、夫との不倫疑惑動画がSNSで炎上し、娘が誘拐されている事実を知らない世間から激しい誹謗中傷を浴び続ける事態に。
本来なら世論から総理を守るべき佐生新次郎は、実はその炎上のきっかけとなったフェイク動画の仕掛け人。
「世間の目を誘拐事件からそらすため」という名目が与えられているものの、奈美はここに決定的な違和感を抱きます。
さらに奈美は、カナが海外(バンコク)に出国していた事実を佐生が把握していながら、杏子に報告していなかったことを突き止めます。
「守るため」と称して真実を伏せ、逆にフェイクを流して炎上させる――それは本当に総理を守る行動なのか、それとも意図的に追い詰めているのか。
奈美の中で、佐生ははっきりと「疑うべき存在」へと変わっていきます。
カナの監禁動画が世界に拡散、極秘案件が一気に「国家的危機」へ
一方DICTでは、システムエンジニア連続殺人犯・野村翔の追跡が続いていました。山内と掛川が現場へ出ようとした矢先、南方がモニター前で異変に気づきます。
カナが監禁されている動画が、SNSに突然アップロードされたのです。
拡散を止めるべく削除要請をかけても、コピー動画や便乗アカウントが瞬時に乱立し、情報がネット上で増幅していくばかり。清水紗枝が投稿元を追跡するものの、偽アカウントのノイズに埋もれて突破口が見えません。DICTがこれまで対峙してきた“トクリュウ”や久慈一派は、この「情報の増幅」と「真偽の撹乱」を完全に武器として使ってきます。
これまで極秘扱いだったカナ誘拐事件は、動画拡散によって一瞬で世界的ニュースへ。
世論の矛先は「娘を守れなかった総理」へ向かい、与党内でも中野幹事長が杏子に「退任も視野に入れるべきだ」と迫るなど、政権の基盤そのものが揺らぎ始めます。
廃ビルでの“生配信”と、母としての総理
杏子の身辺警護から一度離れた奈美は、総理の行動に不穏な気配を感じ取り、廃ビルへと後を追います。そこで描かれるのは、“総理大臣・桐谷杏子”ではなく、娘を案じる“一人の母親”としての本音でした。
カナを守れなかった自責の念、止まらないSNSの炎上、そして自分の存在が国家リスクになりつつある現実。杏子は「もう自分を守ってくれなくていい」と弱音を吐き、奈美に“母としての弱さ”をさらけ出します。
しかし、このやり取りは第三者によって密かに生配信されていました。
「総理が弱音を吐き、SPに“守らなくていい”と言っている映像」は、政治的には致命的な爆弾です。視聴者は杏子の“人間らしい痛み”を理解できますが、物語世界の政治家たちはそれを“退陣を迫る材料”として冷徹に利用し始めます。
h3:連続SE殺人犯・野村翔と、行方不明エンジニア・森宮
一方サイバーテロ側でも動きが加速。
連絡が取れない久慈に苛立つ野村は、ネットで新たな犯行予告が出回っていることを知り、行方不明だったシステムエンジニア・森宮を追い詰めて暴行。久慈の居場所を聞き出そうとします。
そこへ単身飛び込んでくるのが山内。
圧倒的不利な状況にもかかわらず、殴り合いの末に野村をなんとか制圧し、森宮を保護します。
DICTに保護された森宮の証言によって、これまでのサイバーテロの裏側が一気に輪郭を帯びていきます。
- 野村に刺され命を落としたSE・国見は、久慈と野村が進めてきた“情報ビジネスとテロ”の関係を告発しようとしていた
- 森宮自身も、家族を人質に取られ、バックドア設置やログ改ざんを強要されていた
森宮の口から真実が語られたことで、久慈たちの“次の標的”が電力会社のシステムであることが判明します。もし電力インフラが同時多発的にダウンすれば、医療・交通・金融など社会の基盤全てが一瞬で機能不全に陥る。
ここで、カナ誘拐とサイバーテロが“別の事件”ではなく、一本の巨大な「国家テロ計画」として完全につながっていきます。
電力会社へのサイバーテロを、清水紗枝がギリギリで阻止
DICTは急ぎ、電力会社システムに仕込まれたバックドアの特定・排除に動きます。これまで紗枝は、殺されたSEたちが残したわずかな痕跡から敵の手口を逆算してきましたが、今回は相手も全力で攻めてくる状況。
電力会社のセキュリティ担当と連携しつつ、紗枝はかつて自分が攻撃側として習得した“攻めの知識”を今度は“守り”のために総動員していきます。
侵入寸前まで広がっていたマルウェアは、紗枝の手でギリギリのラインで遮断。
大規模停電は、間一髪で回避されました。
しかし――この“ギリギリで止まる”という構図自体が、逆に不気味です。久慈は計画が潰されたにもかかわらず、痛手を負った様子すら見せず「面白い」と笑うだけ。
つまり、電力テロは本命ではなく、あくまで“準備運動”の段階。久慈の手元には、まださらに巨大なカードが残されていることが暗示されます。
スコットこと沢北卓の帰国と、浮かび上がる久慈の輪郭
海外でカナを誘拐していたリクルーター、スコット=沢北卓が日本に帰国。DICTは空港での動きを察知し、他部署と連携して沢北を確保します。
取り調べで明らかになるのは、“久慈という存在の異常な匿名性”です。
- 久慈との通話記録はすべてリモートで消去
- 依頼も報酬も“情報仲介システム”を経由し、直接会ったことがほとんどない
- カナが総理の娘であることも知らされていなかった
つまり沢北ですら“使い捨ての駒”。
久慈は実行犯たちに最小限の情報しか渡さず、誰が捕まっても自分に辿り着かせない構造を徹底しています。
一方で、沢北は「久慈は複数の情報ビジネスを運営する、圧倒的な実力者」と語る。
この証言は、序盤から描かれてきたいくつもの匿名犯罪――トクリュウ、詐欺事件、データ流出……すべてを統合するキーワードになっていきます。
再び総理の傍へ戻る奈美と、二人の“再契約”
一度は佐生への不信感から総理の傍を離れた奈美でしたが、カナの母として苦しむ杏子の姿を見て、再び彼女の元へ戻ります。
亡き息子への後悔を抱えてきた奈美と、誘拐された娘を案じ続ける杏子。立場は違えど、二人の“母親”がここでようやく、本当の意味で向き合うことになります。
奈美は、「自分は情報犯罪特命対策室の一員であると同時に、一人の刑事であり、一人の母親でもある」と認めたうえで、「あなたと娘を守りたい」と率直に告げます。
杏子もまた、「もう自分を守らなくていい」と言ってしまった弱さを悔い、「国と娘の母」として再び立ち上がる覚悟を固めていきます。
ここは10話における、アクションとは別ベクトルの大きなクライマックス。
これまで情報操作と政治の渦に翻弄されてきた二人が、ようやく「自分の言葉」と「自分の意志」で歩き出すための“再契約”を交わす場となっていました。
緊急会見、総理の「交渉打ち切り」宣言
カナ誘拐が世界規模のニュースへと発展し、与党内で退任圧力が高まる中、佐生は杏子に緊急会見を提案します。佐生の狙いは曖昧なままですが、奈美はその一言ごとに警戒を強めます。
しかし杏子は、佐生の用意したシナリオに頼るのではなく、自分の意志で会見に臨むことを選びます。
「原稿は読まず、自分の言葉で国民に伝える」――そう言い切り、壇上に立つ姿は、「操られる総理」から「自ら舵を切るリーダー」への転換を象徴していました。
そして会見のラスト、杏子は誘拐犯とテロリストに向けて強いメッセージを発します。
- 日本政府はテロに屈しない
- 今後一切の交渉を打ち切る
- 娘と国民を守り抜く
これは、カナの命を盾に「総理の土下座」を要求していた久慈にとって完全な想定外。
世論からの反発もさらに強まる可能性がありますが、杏子は初めて「母」と「総理」の両方の顔を、自らの意志で引き受けたとも言えます。
カナは本当に海外にいるのか? 通話発信地は「東京都内」
DICTでは、誘拐犯から杏子にかかってきた通話データを再解析。
これまでは「カナは東南アジアから出国した」という事前情報に引っ張られていましたが、清水は冷静に通信ログを見直し、「通話は国内、東京都内から発信されていた」という事実を突き止めます。
つまり、カナは最初から、あるいは途中で国内に戻され、ずっと日本国内で監禁されていた可能性が高い。
海外出国情報も、監禁映像の“いかにも海外らしい雰囲気”も、すべて世論とDICTの視線を海外に向けるためのフェイクだったことになります。
桐谷親子をめぐる事件は、ここで
「海外で拉致された総理の娘を救う物語」 → 「国内に潜伏する巨大情報犯罪ネットワークを炙り出す物語」
へと完全にシフト。
10話はこの衝撃的な事実を明かしたところで幕を閉じ、ラストには「大規模サイバーテロの犯行予告」が添えられます。久慈たちが仕掛ける“本命の一手”が、次回ついに動き出すことが強く示唆され、物語はいよいよ最終局面へ突入していきます。
絶対零度(シーズン5)10話の感想&考察

10話は「事件が一つ解決した回」ではなく、“すべての伏線の角度が最終局面の方向に向いた回”という印象でした。
ここからは、特に印象的だったポイントごとに感想と考察を書いていきます。
情報の暴走が、ついに“身体”と“国家”を直撃した回
これまでのシーズン5は、
- フェイク動画で人間関係を破壊
- SNS炎上で個人を追い詰める
- サイバー攻撃で病院や社会インフラを混乱させる
と、「情報が人の心や生活を浸食する怖さ」を段階的に積み上げてきました。
10話ではそのスケールが一気に跳ね上がり、
- 総理の“母としての弱音”が盗撮され、生配信という形で武器化される
- カナ監禁動画が世界規模で拡散し、国家的危機へと発展する
- 電力インフラが狙われ、国民の“身体”の安全すら揺らぎ始める
と、情報犯罪が「命」と「国家機能」を同時に脅かすフェーズに到達しました。
特にゾッとしたのはカナの動画拡散。
本物が一つ出ると、即座に大量の偽動画や便乗投稿が溢れ、本物の特定すら困難になる。これは現代のネット空間でも実際に起きている現象で、ドラマが映し出す“今の情報テロの怖さ”が非常に鮮烈でした。
DICTがどれほど真実に迫ろうとしても、SNS上では“真実とフェイクが同じ速度で流れていく”。この乖離の描き方、見事だったと思います。
佐生は黒幕なのか? それとも“別のリアリズム”を生きているのか
10話の佐生は、どう見ても怪しい動きを積み重ねています。
- 不倫フェイク動画を流して総理を炎上させる
- カナの出国情報を握りながら総理に報告しない
- カナ誘拐が炎上したタイミングで緊急会見を提案
一連の行動が“総理を追い詰める方向”にばかり働いており、奈美だけでなく視聴者も明確な違和感を抱きます。
ただ、ここで筆者としては一つ保留したい点があります。
佐生は久慈と同じ「破壊の思想」にいる人物なのか?それとも、
- “政治のリアリズム”として情報操作を当然の手段としている人物
- その行動が結果的に久慈の計画と噛み合ってしまっている人物
なのか。
つまり、「黒幕」というより、“国家を動かすためにはグレーを選ぶことを厭わない政治家”としてのリアリティが見えるのです。
だからこそ、最終回では
- 佐生が完全な敵に回る
- 逆に“国家のため”という名目でDICT側に立つ
どちらに転んでもおかしくない。
10話は、佐生を“悪役”で固定するのではなく、最終局面でどちらへも転ぶ危険なジョーカーとして残した回だと感じました。
久慈の“遊び心”と、本命カードの存在
電力会社へのサイバーテロが紗枝によって阻止されたあと、久慈が“悔しがる”でも“取り乱す”でもなく、ただ「面白い」と笑うだけだったのが衝撃的でした。
普通の犯罪者なら、ここは計画の大打撃。しかし久慈には焦りが一切ない。
これは、
- 電力テロは久慈の計画の“序章”に過ぎない
- 本当の狙いは「物理的破壊」ではなく「国家の信頼の崩壊」
- テロが“成功するかどうか”より“恐怖が広がること”が目的
という、彼の思想を示す描写だと考えられます。
つまり久慈にとって、
- 停電を起こせるかどうか
ではなく - 停電“し得る不安”を全国に植え付けられたかどうか
が重要なのです。
だから、電力テロが阻止された段階でも久慈はノーダメージ。
むしろ、
「本命カードはまだ切っていない」という確信すら漂わせていました。
ここまでの積み上げを見る限り、
- カナ誘拐
- 情報操作
- 炎上
- 電力テロ
これらはすべて“序章”であり、久慈の最終目標は別にある。10話は、その“本命テロ”に向けて盤面を整えた回だったように感じます。
奈美と杏子、二人の“母”の物語としての10話
個人的に最も刺さったのが、このエピソードで描かれた奈美と杏子の関係性です。
奈美はこれまで、
- 情報犯罪に立ち向かうプロフェッショナル
- 息子を亡くした過去を抱えつつ、それを職務の中に押し込んでいる刑事
として描かれてきました。
一方杏子は、
- 日本初の女性総理としての強い姿
- 夫の裏切りも世論の中傷も耐え抜いてきたリーダー
として、弱みを見せない人物として立っていました。
そんな二人が、10話で初めて「母として」向き合うのです。
奈美は、息子を守れなかったという痛みを抱えているからこそ、「娘を守りたい」と泣き崩れる杏子の弱さを受け止めることができる。
杏子もまた、奈美の言葉を通して、
守られるだけの総理 → 娘と国民を守る“母としての総理”
へと立ち位置を変える。
派手なアクション以上に、この静かな“母同士の交差点”が10話最大のドラマだったと感じました。
清水紗枝の“贖罪”としてのハッキング阻止
紗枝にとって今回の電力テロ阻止は、単なる任務成功ではありません。
彼女は元SEとして、「情報の攻め手側にいた過去への負い目」を常に抱えてきました。
一方で今回明らかになったのは、
- 国見も森宮も、家族を人質に取られて犯罪に手を染めていた
- その結果、記憶に残る多くの悲劇が生まれた
という事実。
紗枝のキーボードを叩く手には、
- 犯罪を止めたいという使命感
- 同じ技術者をこれ以上“死なせたくない”という感情
が入り混じっていました。
10話は紗枝が、
“かつての自分”を完全に超えて、
「情報で人を守る側」に立った瞬間
でもありました。
彼女が最終回でどこまで久慈の“思考”に迫れるか。これは物語の鍵になるでしょう。
カナはどこにいるのか? 国内監禁が示す“最終トリック”
清水が「通話の発信地は東京都内」と突き止めたことで、前提が大きく覆りました。
- バンコクへの出国情報
- 海外風の監禁映像
これらはすべて、捜査と世論の目線を海外に向ける巧妙なフェイクだったことになります。つまり久慈は、DICTのリソースを海外捜索に向けさせつつ、
“本命”の監禁場所を国内で守り続けていたことになる。
この構図は、
「本当はすぐ近くにいたのに、情報に騙されて見失っていた」
という、情報犯罪編のラストにふさわしいメッセージを孕んでいます。
筆者の予想としては、
- DICTが何度も出入りした“既視感のある場所”
- システムの盲点になっている空白地帯
このどちらかが監禁場所の可能性が高いと見ています。
10話は「最終決戦の直前」を描いた“静かなクライマックス”
10話は派手なドンデン返しこそありませんが、視聴者に強烈な「最終局面への緊張」を植え付ける役割を果たしていました。
- 総理が原稿を捨て、自分の言葉で国民に語る
- 奈美が再び総理の傍に立つことを選ぶ
- 紗枝がSEたちの“連鎖の悲劇”を断ち切る
- カナが国内にいると判明し、矛先が“国内の見えない敵”へ全集中する
どれも“静か”ですが、とてつもなく意味のある一手。
10話は、最終回で描かれるはずの、
- 久慈という“情報犯罪の象徴”の最終目的
- 佐生の本心と最終的な立ち位置
- 「母と娘」の物語の結末
- DICTチームそれぞれの贖罪と未来
これらを強烈に浮かび上がらせる準備回でした。
情報が人と国家を揺さぶる時代に、それでも「人を信じる」とはどういうことなのか。
最終回は、その問いへの答えを描く回になるはずです。
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