『あなたの番です』の中で、神谷将人という刑事ほど“信じていいのか分からない存在”はいなかったかもしれません。
表向きは優秀で合理的な若手刑事。しかし物語が進むにつれ、彼の裏側に潜む汚職や葛藤が少しずつ明かされ、視聴者の目線が揺さぶられていきます。
本記事では、神谷とは何者だったのか、そしてなぜ彼は真相に辿り着いた瞬間に命を落としたのか、その核心に迫っていきます。
あなたの番です「神谷将人」とはどんな刑事だったのか

まずは、物語の表層で描かれていた「神谷像」から整理します。
神谷将人は、警視庁すみだ署の刑事で、年齢は26歳。水城洋司とコンビを組む所轄刑事です。公式プロフィールでも「推理力・洞察力に優れているが、ドライで合理的な性格」と説明されていました。
視聴者から見ても、感情で動きがちな水城とは対照的な「キレ者タイプ」として登場します。
有能なのに“信用ならない”若手刑事
序盤の神谷は、とにかく仕事ができる印象が強いです。
- 事情聴取では住民の言葉尻を捉え、サッと核心を突く
- 捜査会議でも要点だけを冷静にまとめる
- 無駄話の多い水城の横で、淡々と情報を整理していく
いかにも“デキる若手刑事”。
ただ同時に、どこか冷たく、人間味が薄い。
被害者に対しても必要以上に感情移入せず、あくまで「事件のピース」として扱っているように見える瞬間も多いんですよね。この“距離の取り方”が、のちに「実は裏があるのでは?」という疑惑につながっていきます。
水城とのコンビが見せる「正義の温度差」
また、神谷というキャラは、相棒の水城との対比で理解すると分かりやすいです。
- 水城:怖がりで遺体が苦手、オーバーリアクション多め
- 神谷:そんな水城に冷静にツッコミ、「刑事に向いてない」と言い放つドライさ
この2人の温度差はそのまま「正義に対する態度」の差でもあります。
- 水城 → 不器用だけれど“人としての正しさ”を基準に動く
- 神谷 → 「合理的かどうか」「自分にとってリスクがあるか」を優先する
この価値観の違いが、後半で“致命的な分かれ道”になっていきます。
明らかになった神谷の「正体」…汚職と榎本家への従属

そんな有能な若手刑事・神谷の裏の顔がハッキリするのが、第1章終盤(10話前後)。
ここで彼が「ただの優秀な刑事ではない」と確定します。
2年前の情報漏えいと150万円
ドラマ内で明かされる事実として、神谷は2年前に捜査情報を捜査対象に漏らし、見返りとして150万円を受け取っていた過去があります。
この“一線を越えた瞬間”が、神谷の人生の決定的な落下点。
いわゆる“汚職刑事”であり、すでに犯罪です。
つまり神谷は、
「正義のためではなく、自分の利益のために警察権限を使ったことがある人間」
なんですよね。この“最初の裏切り”が、後のすべてを呼び込んでいきます。
榎本正志に弱みを握られた神谷
さらに厄介なのが、この情報漏えいの証拠を榎本正志(402号室の住人・早苗の夫)に握られていたこと。
神谷は、
- 「汚職の証拠を警察に出されたくない」
- 「150万円の件がバレたら終わる」という恐怖
から、榎本家の“言いなり”になっていきます。
その結果として彼がやっていたのはざっくり言うと──
- 交換殺人ゲームに関する情報を意図的に握りつぶす
- 菜奈が相談しに来ても、本気で取り合わず、事実上もみ消す
- 榎本家の監禁(黒島&総一)を黙認し、時に協力する
もはや“警察”というより、ほとんど榎本家の共犯者です。
捜査情報を“潰す”神谷の動き
ここが、視聴者から一気に「神谷ムカつく」と言われたポイント。
- 菜奈が「交換殺人ゲーム」を相談しても、まともに記録せず“考えすぎ”扱い
- マンション関連の不審点も、上に上げず“処理”してしまう
- 住民から得た情報も、捜査か、榎本家への“報告”か曖昧
つまり神谷は、
「警察の顔」と「榎本家の犬」という2つの顔を切り替えながら動いていた。
この二重構造こそが、タイトルで言うところの“神谷の正体”。
黒幕ではないものの、ゲームと犯行を加速させた“システム側のバグ”のような存在だったと言えます。
神谷の良くない行動の部分については9話と10話近辺で描かれます。


神谷は悪人だったのか?グレーな倫理観をめぐる考察

では、神谷は完全な悪人なのか?
個人的には、ここがこのキャラの一番おもしろいところだと思っています。
損得勘定で動く合理主義
神谷の基準はつねに、
- 「自分にとって割が合うか」
- 「自分のリスクが少ないか」
榎本家の監禁に協力したのも、
- 「弱みを握られているから」
- 「逆らうと自分が終わるから」
危ない橋を渡るときも、「これ以上はリスクが高い」と感じた瞬間に一歩引こうとする。
つまり神谷は、
“正義より損得を優先するタイプの刑事”
なんです。
視聴者からすると一番イラッとくるタイプ。
直接殺してはいないのに、“何もしないこと”によって結果的に被害を拡大させているためです。
警察でありながら「見て見ぬふり」を続けたことで、事件はどんどん悪化していきました。この意味で、神谷は“黒幕ではないが限りなく黒に近いグレー”な存在です。
それでも残っていた“刑事としての矜持”
ただ、彼を単純な悪役と断じきれないのは反撃編での行動です。
- 汚職と榎本家との関係がバレて懲罰会議へ
- 謹慎処分の身でありながら、こっそり資料を見直し始める
- 「菜奈を殺した犯人がわかった気がする」と翔太に連絡する
ここで神谷は、はじめて“自分の利益”ではなく“真相解明のため”に動き始めるんですよね。
もちろん、
- 自分の汚職が露見した焦り
- せめてもの償いをしたい気持ち
など複雑な感情が混ざっていると思いますが、少なくとも「刑事としての良心」が完全にゼロではなかった。
だからこそ、あの最期が余計に苦い。
「一度ついた嘘を、あとから正しさに戻そうとしても、もう遅い」
という残酷さが、神谷というキャラクターには刻まれています。
刑事「神谷」はなぜ殺されたのか

ここからは、本題のひとつである「神谷はなぜ殺されたのか?」について。
物語上、神谷の死は16話の大きなターニングポイントになっています。
16話についてはこちら↓

懲罰会議と単独捜査のはじまり
汚職が発覚した神谷は、警察内部で懲罰会議にかけられ、謹慎処分となります。
普通ならここで完全に“退場”してもおかしくないのに、神谷はそこで終わりません。
- 自分の関わった事件資料を改めて見直す
- 交換殺人ゲームと“笑う遺体ライン”を照合する
- その結果、「菜奈を殺した犯人に辿り着いた」と確信する
そして翔太に電話し、「話したいことがある」と公園で会う約束をします。
この時点で、神谷は “真犯人側から見れば消しておくべき存在” に変わっています。
菜奈殺害犯に辿り着いた瞬間、ターゲットになる
公式設定でも、
菜奈の殺害犯を突き止め、翔太に報告しようとしたが、内山によって両手足とこめかみにビスを打ち込まれ、拷問の末に殺害された。
とされています。
つまり、神谷は 「知りすぎたから殺された」 わけです。
- 交換殺人ゲームとは別に動いている“笑う遺体”の存在
- そこに共通する26.5センチの足跡
- 榎本家ラインと、赤池夫妻・菜奈・浮田らの殺害ラインの結びつき
この“線”をつなげてしまったことで、真犯人側(実行犯の内山、その背後にいる黒島)にとっては大きなリスクとなりました。
視聴者目線で言えば、
「ようやく警察側から本気で真相に迫るキャラが出てきた」と思った瞬間に消されるわけで、衝撃はかなり大きい展開です。
「笑う遺体」としての最期と、内山&黒島との関係
神谷の死に方は、シリーズ屈指の残酷さを持っています。
- アキレス腱を切られ、逃げられない状態にされたうえで
- 手足とこめかみにビスを打ち込まれる
- それでも死に顔は“微笑んでいる”
これにより、菜奈・赤池夫妻・浮田・児嶋佳世とつながる 「笑う遺体ライン」 の一員として、神谷も連続殺人の被害者に組み込まれます。
実行犯はストーカー男・内山達生。
“ブル動画”で犯行を誇示していたことからも、神谷殺害は内山の仕事でほぼ確定です。
内山についての記事はこちら↓

ただし、その背後で「神谷を消せ」と判断した人物を考えると、やはり黒島沙和の存在が浮かび上がります。
- 内山は黒島の高校時代からの同級生で、長年のストーカー
- 黒島を守る・役に立つことが生きがい
- “ゲームに便乗した殺人”も、黒島の意向を汲んで動いていた可能性が高い
そう考えると、
神谷殺害は「黒島の安全を守るため、内山が動いた結果」
という解釈がもっとも自然です。
ドラマ内で明言はされませんが、
- 菜奈
- 赤池夫妻
- 浮田
- 児嶋佳世
- そして神谷
…と続く“笑う遺体ライン”の首謀者が黒島である以上、神谷の死もその一部として位置づけられていると言っていいでしょう。
黒幕の黒島についてはこちら↓

神谷の死が『あなたの番です』にもたらしたもの

最後に、神谷というキャラクターが物語全体に与えた意味を整理しておきます。
「一線を越えた人間」の末路としての神谷
神谷の人生を整理すると、すべては“たったひとつの選択”から転落が始まっています。
- 2年前、150万円と引き換えに捜査情報を漏らす
- その証拠を榎本正志に握られ、逆らえなくなる
- 監禁やゲームの隠蔽に加担し、共犯者の列に加わる
- 罪悪感と恐怖の中で、ようやく真相に近づいた瞬間に殺される
「最初の一回くらいならバレないだろう」
その安易な裏切りが、最終的には自分の命を奪う。
『あなたの番です』は派手な“交換殺人ゲーム”の裏で、
「人が少しずつ倫理のラインを踏み越えていく怖さ」 を描いた作品でもあります。
神谷はその象徴であり、視聴者にとっては「いちばん身近にいそうな危うさ」を体現したキャラクターでした。
水城・翔太の物語を前に進める“犠牲”
物語構造的に見ると、神谷の死は
- 水城にとって: 相棒を奪われたことで、本気で事件と向き合うきっかけに
- 翔太にとって: 「警察さえ安全ではない」という現実を突きつけ、反撃の覚悟を決めるトリガーに
という役割を持っていました。
それまで翔太は、「自分が頑張れば真実に辿り着ける」と信じていました。
しかし神谷の死によって、
「真相に近づいた人間から消されていく世界」
であると痛感させられます。
だからこそ翔太は、AI菜奈や二階堂と組み、命がけで真犯人に挑んでいくわけです。
神谷将人の行動年表(時系列まとめ)

●【過去】2年前──汚職のはじまり
- 捜査対象者へ 捜査情報を漏洩
- 見返りとして 150万円を受け取る
- この不正の証拠を 榎本正志に握られる
- のちの「神谷が榎本家に従う理由」がここで確定
●【物語序盤】1〜5話──“有能な若手刑事”として登場
- 水城洋司とコンビを組む
- 事情聴取や会議で鋭い洞察を見せ、視聴者からは「キレ者」扱い
- 被害者や住民に感情移入しない“冷たい合理主義”が特徴
- しかしこの時点で、裏側では榎本家に弱みを握られている状態
●【6〜8話】榎本家への従属が濃くなる
- 榎本正志からの“指示”を受け、
交換殺人ゲーム関連の情報を握りつぶす - 早苗が行っていた 黒島・総一の監禁 を黙認
- 時には監禁に関係する行動を“手伝っていた可能性”も示唆
- 菜奈の相談をまともに扱わず、事実上もみ消す
ここで神谷は、「警察官」と「榎本家の共犯者」 という二重の顔を持つようになる。
●【9〜10話】榎本家の歪みに気づきつつも引き返せない
- 榎本家の事情を知りすぎてしまい、さらに後戻りできなくなる
- 弱みを握られ続けているため、従属から抜けられない
- 水城には真実を隠し、捜査の流れを歪め続ける
●【11〜13話】“笑う遺体ライン”への疑念に気づき始める
- 赤池夫妻、佳世、浮田らの死に“共通点”があることを察する
- しかし公式捜査にあげず、情報を処理したり伏せたりする
- このころから、榎本家と事件全体のつながりに薄々気づき始める
●【14話】汚職が発覚 → 懲罰会議
- 150万円の汚職が警察内部で発覚
- 懲罰会議 にかけられ、謹慎処分 を受ける
- ここで神谷の内部的地位は崩壊
- しかし“完全退場”せず、ここから逆に動き出す
●【15話】単独捜査を開始
- 謹慎中にも関わらず、こっそり 過去の捜査資料を見直す
- 交換殺人ゲームの線と“笑う遺体ライン”を照合
- 菜奈殺害に関する重大な真相に到達した可能性 を示す
- 翔太に連絡し、「話したいことがある」と会う約束をする
この瞬間、神谷は 真犯人側から見て“排除対象” になる。
●【16話】神谷、殺害される
- 翔太と会う前に、内山達生に拉致される
- アキレス腱を切られて逃げられない状態に
- 手足とこめかみにビスを打ち込まれる拷問
- それでも“笑った遺体”として発見される
ここで神谷は、
“笑う遺体ライン”の被害者に組み込まれた刑事
となる。
実行犯:内山
背後の黒幕:黒島沙和(内山を操る存在)
という構図が確定する。
●【17〜最終回】神谷の死が物語へ与えた影響
- 水城:相棒を殺されたことで本気で事件に向き合う
- 翔太:警察でさえ危険である現実に気付き、反撃編が本格化
- 事件構造:
神谷の死が“黒島=首謀者ライン”の強固な裏付けとなる
まとめ:神谷は“黒幕”ではなく、物語の一番苦いピース
改めて整理すると、神谷将人は
- 有能だがドライで合理的な若手刑事
- 過去の汚職によって榎本家に弱みを握られ、事件の隠蔽に加担
- 途中から「刑事としての矜持」を取り戻し始めるが、真犯人に近づいたため消される
- “笑う遺体ライン”の一員として、黒島&内山ラインの被害者となった
という、「最初の過ちから抜け出せなくなった人間」の物語でした。
完全に許せるキャラではないけれど、単純な悪役でもない、ものすごく人間臭い“グレーゾーン”。
だからこそ、16話でベンチに座る“微笑んだ神谷”を見たときに残るのは怒りだけではなく、
「そこまで行く前に、誰か止めてあげられなかったのか」
という、どうしようもない虚しさなのだと感じます。
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