第9話は、『VIVANT』という壮大な物語の核心に迫る一時間となった。
これまで謎に包まれていた父・ベキの過去と、テロ組織「テント」が誕生した理由がついに語られ、物語は“正義とは何か”という本質的な問いへと到達する。
国家に見捨てられ、家族を失った男が作り上げた「救済のためのテロ組織」。そして、その父を潜入任務で追う息子・乃木――。血の繋がりと使命の間で揺れる二人の姿は、まさに“愛と信念の対立”そのものだ。
ベキの過去、ノコルの嫉妬、乃木の真実。全ての伏線が収束し、物語は最終決戦へ。
第9話は、“父と息子が愛ゆえに刃を向け合う瞬間”を描いた、シリーズ屈指の衝撃回だった。
「VIVANT」第9話の見どころ…父の過去と息子の真実が交差する運命の夜

父ベキの過去と、乃木の“裏切り”に隠された真実
ベキの壮絶な過去とテント誕生の秘密
第9話は、テントの起源とベキ(役所広司)の過去が明かされる重要回だった。
乃木(堺雅人)が父と食事を共にする場面で、ベキはかつて日本の公安諜報員=乃木卓としてバルカ共和国に潜入していたことを語る。任務中に正体が発覚し、逃走を試みるも日本から見捨てられ、妻・明美(高梨臨)は拷問死、息子・憂助(幼少期の乃木)は誘拐されて生き別れ――。
この悲劇が、ベキを“祖国への復讐者”へと変えた。
荒野で絶望する中、彼は孤児となった赤子・ノコル(二宮和也)を救い、「裏切られた者が互いに助け合う場所を作る」と誓ってテントを結成。
国に捨てられた者たちが“家族”として生きる組織が誕生した。
若き日のベキを演じた林遣都の鬼気迫る演技は圧巻。
祖国に裏切られ、人としての理性を失いかけながらも“守るべきもの”を見出す姿が痛烈に描かれた。
テントは単なるテロ集団ではなく、犯罪によって得た資金を孤児たちの救済に使う“義賊”としての一面を持つ。第9話で描かれたこの真実は、ベキ=悪という構図を大きく揺るがせた。
別班の情報を使った乃木の頭脳戦
一方、乃木はテント内部で冷静に行動を続ける。
テントが買い集めていた“価値のない土地”を調査した乃木は、地下に高純度のフローライト(蛍石)が眠ることを発見。
半導体産業の鍵を握るこの鉱石こそ、テントが狙う次世代の資産だった。
だが土地の買収には1,000万ドル(約14億円)が不足。
乃木は「別班の情報を使えば、血を流さずに資金を集められる」と提案し、株式の信用取引で巨額の資金調達に成功する。乃木がもたらした約1,400万ドルは、テントを歓喜させた。
この“頭脳プレー”により乃木は一躍組織の信頼を得るが、ノコルだけはその成功を警戒の目で見ていた。
物語中盤で登場する「7回撃たれた狼」ということわざは、“幾度の試練を越えた者は不屈の力を得る”という意味を持ち、ベキの人生、そして乃木の生き様を象徴する言葉として重く響く。
裏切りの真実――乃木の正体が露見
物語終盤、テントが進めていたフローライト計画の情報が日本政府に漏洩。
日本は即座に土地取引を差し止め、ベキたちは追い詰められる。ノコルは「乃木が来てから情報が漏れた」と激しく糾弾し、乃木を拘束。
さらにノコルは、乃木がかつて撃ち殺したはずの別班員4人が生存していることを突き止める。仲間を殺したふりをして潜入していた――その証拠を突き付けられ、乃木は逃げ場を失う。
銃を突きつけるノコル、刀を抜くベキ。
「お前は別班のスパイなのか?」という父の問いに、乃木はついに答える。
「……はい。自分は別班として、テントに潜入しました。」
ここで初めて、乃木の“裏切り”が潜入作戦であったことが明らかに。
しかし、父への愛と任務の狭間で揺れる乃木の表情は痛ましく、真実を知ったベキが日本刀を振り上げた瞬間、画面は暗転――。
第9話は、父と子がついに真の意味で対峙する瞬間で幕を閉じた。
「VIVANT」第9話のあらすじ&ネタバレ

父の過去、息子の裏切り――宿命の親子がついに対峙する
テントで再会した父と息子、そして“兄弟”の確執
バルカ共和国でテロ組織「テント」の一員となった乃木憂助(堺雅人)は、自衛隊秘密部隊「別班」の任務を隠しながら、父・ノゴーン・ベキ(役所広司)と再会する。
テントはテロや犯罪で資金を得つつ、その資金を戦災孤児の救済に充てており、単なる悪の組織ではなく“義賊”としての側面を持つことが明らかになる。
ベキは幹部ノコル(二宮和也)に命じ、乃木を自身の会社へ迎え入れる。
こうして実の息子・乃木と義理の息子・ノコルが、父のもとで協力体制を築くことに。“宿命の兄弟”となった二人は、互いに警戒しながらも行動を共にする。
乃木はテントが進める巨大計画――フローライト(蛍石)採掘による資金確保――を知り、別班で得た機密情報を駆使して株式取引を仕掛け、一滴の血も流さずに1,400万ドルもの資金調達に成功。
その成果によって乃木はベキから一定の信頼を得るが、ノコルは兄のような存在となった乃木への嫉妬を募らせていく。
その後、ベキの口から自身の過去が語られる。
かつて公安の諜報員だったベキ(本名:乃木卓)は、バルカ潜入任務中に日本政府から見捨てられ、妻・明美(高梨臨)を拷問で失い、息子・憂助とも生き別れとなった。
絶望の果てにベキは、国に裏切られた者たちを集めてテントを結成。
祖国に復讐するため、そして孤児たちを救うために“闇の組織”として生きる道を選んだ。
情報漏洩と裏切り――乃木の正体が暴かれる
一方で、テントが進めていた土地買収計画の情報が何者かに漏洩。
日本政府が取引を差し止めに動いたことで、ベキたちは危機に陥る。
この事態を受け、ノコルは「乃木が来てから機密が漏れた」と疑念を抱き、乃木を拘束。独自の調査で、乃木が第8話で撃った別班隊員4人が生存している事実を突き止める。
「あんたは裏切り者だ。別班のスパイだったんだろう?」
ノコルの告発により、乃木はテント幹部たちの前で追及される。ベキは動揺を隠せず、日本刀を抜いて息子に刃を向ける。
その極限の緊張の中、乃木はついに真実を語る。
「……自分は、別班の任務でテントに潜入しました。」
この告白により、乃木の“裏切り”は潜入任務だったことが明らかに。
しかしベキの表情には、父としての愛情と、組織の長として息子を許せない怒りが交錯する。
刀を振り上げるベキ。
「私は――」と何かを言いかけた乃木の言葉を残し、画面は暗転。
第9話は、父と息子が互いの正体を知り、“愛と使命”の狭間で向かい合う決定的な瞬間で幕を閉じた。
最終回目前にして、親子・兄弟・国家の思惑が複雑に絡み合い、物語はついに最高潮へ。
乃木は父を討つのか、それとも救うのか――。“善と悪の境界”が完全に崩れた第9話は、『VIVANT』史上もっとも息を呑む緊迫のエピソードとなった。
「VIVANT」第9話の感想&考察

父の“信念”と息子の“使命”が交錯する、魂を削る一時間、
ベキの悲劇的過去と林遣都の熱演
第9話は、ベキの過去を軸にした長尺の回想から始まり、その壮絶な人生が余すところなく描かれた。
かつて祖国・日本に見捨てられ、幼い息子(乃木)を奪われ、最愛の妻を拷問で失ったベキ。その心情を支えたのは「誰にも奪わせない」という憤怒と、弱き者を守るという信念だった。
若き日のベキ(乃木卓)を演じた林遣都の演技は圧巻。
幸福の絶頂から地獄へ突き落とされるまでの心の変化を、目の奥の光の変化だけで見せた。
特に、襲撃者を前に“殺さねば殺される”極限状態で銃を握る姿には、「人としての誇りを失っても、守るべきものがある」という覚悟が宿っていた。
明美(高梨臨)との結婚式での柔らかい笑顔が、直後に血と涙に染まる地獄へ変わる――。
この落差があまりに残酷で、視聴者も乃木と同様に胸を締めつけられたはずだ。
林遣都と役所広司、二人の“乃木卓”が演じる連続性も見事で、過去と現在がシームレスにつながることで、ベキという人物像に深みが加わった。
その結果、ベキは単なるテロリストではなく、「国に見捨てられた父親」としての哀しみを背負う人間として描かれた。
テントの正義と矛盾――“悪”ではない、しかし“正義”でもない
第9話で最も印象的だったのは、テントという組織の正体が明かされるシーンだ。
テントは孤児を救うために犯罪で資金を得る、いわば“義賊”。その理念には確かに人間的な温かさがある。
「子どもたちを飢えさせないためなら、どんな罪も背負う」というベキの言葉は、
父親としての愛であり、同時に正義の暴走でもある。
しかし同時に、テントの矛盾も浮き彫りになった。孤児を救うためにテロを起こし、新たな孤児を生み出している――。
この構造的な悲劇を前に、視聴者の心は揺れ続ける。果たしてベキの行動は救済なのか、それとも破滅なのか。
第9話では公安側の描写が意図的に排除され、視点が完全にテントに傾いた。
その結果、視聴者はベキの理想に共感しつつも、倫理的な葛藤に晒される。「善と悪、どちらにも理がある」――。この“揺らぎ”こそ、脚本が最も描きたかった人間ドラマの核だろう。
国家と父親、使命と愛情。どちらも正しいが、同時にどちらも間違っている。その狭間で、乃木がどう決断するのかが物語の焦点になった。
ノコルと乃木、“兄弟”としての愛と嫉妬
第9話ではノコルと乃木の関係性が緊迫感を増した。
ノコルはベキに拾われ、長年「父を守る息子」として生きてきた。
そこへ現れたのが、血の繋がった“本当の息子”。ノコルが抱く嫉妬と焦燥は当然だ。
乃木が株取引で莫大な利益を上げた際も、ノコルは称賛ではなく冷たい視線を送る。その後、乃木を陥れるために別班4人の生存情報を暴き出す姿には、「父の愛を奪われまいとする必死な息子」の切実さが滲んでいた。
ノコルが本当に乃木を敵視していたのか、それとも父を守りたかったのか。
答えは“両方”だろう。
嫉妬と忠誠の狭間で揺れるノコルの感情を、二宮和也は極めて繊細に演じた。父を想う表情の奥にある怒り、兄に向ける敵意の奥にある悲しみ――。
この矛盾を抱えたまま迎える最終回で、ノコルがどんな選択をするのか、最大の注目点だ。
正義の形を問う“最終回前夜”
ラストシーンでベキが刀を抜き、乃木に振り下ろそうとする。
父は息子を裁くのか、それとも試しているのか――。乃木が「私は…」と言いかけたまま終わる引きで、視聴者は一週間の苦しい“沈黙”を強いられることになった。
この時点で残された謎は多い。
- フローライト情報を漏らした“本当の裏切り者”は誰なのか。
- 黒須(松坂桃李)は今どこで、何をしているのか。
- 日本側の野崎(阿部寛)と薫(二階堂ふみ)はどう動くのか。
そして最大の問い――乃木は、父を救うのか、それとも討つのか。
第9話は、40年の因縁が交わる直前で終わった。国家を裏切った父と、父を裏切る息子。愛と使命が交差するその瞬間を前に、物語は最終回へと突入する。
総括:これぞ“愛と正義のジレンマ劇”の真骨頂
第9話は『VIVANT』全体の中でも屈指の完成度を誇る回だった。
ベキの過去と信念、乃木の潜入の真相、ノコルの嫉妬、そして親子対決。どの要素も丁寧に積み上げられ、クライマックスへ至る感情の線が見事に繋がった。
役所広司・堺雅人・二宮和也という三人の演技が火花を散らし、それぞれが“愛の形”を違う方向から体現していた。まさに最終回へ向けた“静かな嵐”の一話。
次回、乃木が選ぶのは「父への愛」か「国家への忠誠」か。そして、テントという名の“家族”の行く末は――。
『VIVANT』は、ただのサスペンスではない。これは愛と信念の矛盾を描く、人間讃歌の物語だ。
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