第5話「ダウンロードのアリバイ」は、シリーズ屈指の“静かな怖さ”が際立つ回でした。
派手な密室も、大がかりな仕掛けもない。あるのは、たった15分のズレと、後から書き換わっていく人の記憶だけ。それでも、その小さな操作が積み重なったとき、3カ月後には誰にも崩せないアリバイが完成してしまう。
今回の事件では、未解決殺人の現場から見つかった白骨遺体が、十数年前の因縁を連れて現在に浮上します。
そして、美谷時乃が見抜いたのは「証拠」ではなく、アリバイの設計思想でした。
デジタルの履歴が“絶対の証拠”として信じられる時代だからこそ、その裏で人間の記憶がどう編集されるのか。
第5話は、「時間は操作できない」という常識を、ひっそりと裏切ってくる一編です。
ドラマ「アリバイ崩し承ります」5話のあらすじ&ネタバレ

第5話「ダウンロードのアリバイ」は、“時間”の扱いが二重に効いてくる回です。
3カ月前の未解決殺人と、十数年前に消えた人物の死――「過去」と「現在」が同じ庭で繋がってしまう。タイトル通り、アリバイの鍵はデジタルの“ダウンロード履歴”なのに、最後にものを言うのは人間の記憶の曖昧さ……というのが皮肉で面白いところでした。
未解決事件の現場から出てきた「もう一人の死体」
物語は、身元不明の白骨遺体が“一軒家の庭”から見つかるところから始まります。
問題の家は、3カ月前に殺人事件が起きた現場で、いまだ犯人が見つかっていない――つまり警察にとっては「未解決の傷口」そのもの。担当は那野県警捜査一課係長・牧村匠で、管理官の察時美幸、刑事の渡海雄馬らも現場に入ります。
検視官・樋口秀人の所見で、遺体は死後十数年が経過していることが分かり、さらに「和田」と刺繍された衣類の切れ端が出てくる。ここで一気に空気が変わるんですよね。
3カ月前の事件だけでも胃が痛いのに、さらに“十数年前の事件”まで同じ場所から顔を出す。時間の層が重なった瞬間、捜査は「犯人探し」から「因縁の整理」に姿を変えます。
「富岡真司殺害」と白骨遺体がつながる構図
庭の白骨遺体が「和田」であると判明し、3カ月前に殺害された被害者・富岡真司(会社経営者)の自宅であることも重なることで、警察の見立てはシンプルになります。
- 十数年前、富岡が和田を殺して庭に埋めた
- 3カ月前、その富岡が殺された
- 犯人は和田の遺族(=復讐)ではないか
この「点と線」が見える構図自体は、視聴者側も割と早い段階で腹落ちするはず。実際、捜査線上には白骨遺体の息子で天才大学生・和田英介が浮上します。動機は明確に“父の復讐”。
容疑者・和田英介の“脆弱だけど崩せない”アリバイ
英介は天才肌の大学生で、受け答えも妙に落ち着いているタイプ。疑われること自体は織り込み済み、みたいな顔をしているのが逆に怖い。で、彼が提示するアリバイが本当に厄介です。
富岡が殺害されたのは 11月20日夜9時頃 とされ、英介はその時間帯に友人・古川桔平と一緒にいた、と主張します。具体的には、夜7時頃から0時近くまで英介の部屋でゲームをしていた。途中でコンビニのレシートもあり、さらに決定打として 11月20日限定配信の楽曲「キャッスル・オブ・サンド」を23時46分にダウンロードした という履歴が示される。
この時点で、アリバイの“材料”は少ないんです。
でも少ないからこそ、逆に崩せない。
- 証言者は古川ひとり(=脆弱)
- しかし限定配信のダウンロードは“その日でないと成立しない”(=強固)
まさに作中で言われる「脆弱だけど決して崩せないアリバイ」。そして、ここで察時がまた時乃に泣きつきます。出世欲の人間って、詰むと反射的に“答えを知ってる人”に課金するんだな、と。
時乃が最初に引っかかったのは「アリバイの設計思想」
察時に頼まれて時乃が見に行くと、彼女はわりと序盤から英介に目をつけます。ここが第5話の気持ちいいところで、時乃の推理って「証拠の積み上げ」というより、“設計図”を読む感覚に近い。
時乃が嫌がるのは、強固なアリバイじゃない。
「弱く見せて、時間が経った後に強くなるアリバイ」 です。
普通は逆なんですよ。事件直後が一番証言が鮮明で、時間が経つほど弱くなる。なのに英介のアリバイは、3カ月経った今のほうが強い。つまり、最初から「3カ月後」を見て作っている。ここがもう犯人の思考です。
伏線回収の入口:「限定配信だと古川は知らなかった」
時乃が決め手として使うのが、古川の“知識のタイミング”。
彼は当日、英介が曲をダウンロードしているのを見ているし、曲も聴いている。だから「確かにその日一緒にいた」と言える。ところが、時乃が古川に問いかけるのはそこじゃない。
「その曲が“1日限定配信”だと知ったのは、いつ?」
古川は「刑事の聞き込みで初めて知った」旨を答える。つまり英介は、あれだけ話題性が高い“限定配信”という情報を、わざと古川に教えていない。教えればその日付が古川の記憶に刺さってしまうからです。
この時点で時乃の中では、もう答えが出ている。
英介は「古川の記憶」を証拠にするために、古川の記憶が鮮明にならないように設計している。
トリックの核心:15分遅れの時計が“日付”をずらす
英介がやったことは、派手じゃありません。むしろ地味。
部屋の時計とスマホの時計を15分ほど遅らせた。
そして古川を部屋に上げたのは、11月20日ではなく 11月19日。
ただし曲のダウンロードは、日付が変わって配信が開始された直後、つまり 11月20日午前0時過ぎ に行う。けれど時計が遅れているので、部屋の表示は“11月19日23時46分ごろ”を指している。だから古川は「23時46分にダウンロードした」と思い込む。
これ、やってることはシンプルなのに、狙いがエグい。
英介が利用しているのは「時計」じゃなくて、人の記憶の編集機能なんですよ。
- 当日(11/19〜11/20深夜):古川は「19日に遊びに行った」と思っている
- 3カ月後:古川は「限定配信=11/20」という情報を後から得て、記憶の“日付”を自動補正する
- 結果:「20日に一緒にいた」証言が完成する
さらに周到:ダウンロードは2回、レシートも2回
英介の用意周到さは、ここからもう一段上がります。
- ダウンロードは 2回:
1回目(0時過ぎの“見せダウンロード”)は履歴を消し、
2回目を 11月20日23時46分 に改めて行って、履歴として残す。 - コンビニの買い物も 2回:
11月19日に買ったのと同じものを、11月20日にも同時刻に買ってレシートを揃える。
要するに、古川の曖昧な証言を“補強する壁”を、時間差で作っている。
事件直後に強い証拠は出さず、捜査が長引いたタイミングで効く証拠だけを残す。今回の事件が「3カ月前」という設定であること自体が、英介のトリックにとっての前提条件になっています。
富岡殺害、そして匿名通報までが“アリバイの部品”
そして英介は、11月20日夜に富岡の元へ行き、殺害を実行します。さらに 殺害後すぐ匿名で110番し、死亡推定時刻が「その夜」に絞られるよう誘導する。ここまでやって初めて、あの“脆弱だけど崩れない”アリバイが完成します。
この回、トリックの派手さよりも、「犯罪計画の工学」が前に出てる。時計の15分ズレって小さな改造だけど、全体の設計が緻密だから破壊力が出る。だから見終わった後、妙に後味が残るんです。
真相と動機:父の濡れ衣と、止めてくれる人の不在
最後に英介は観念します。
「富岡をやったのは僕だ」と認め、動機は父親の復讐だと語る。父が金の使い込みを疑われ失踪したように見えたが、実際は富岡側に問題があり、父は追及した末に殺された――という構図が浮かび上がります。
そして決定的なのが「母の死」。
英介は、母が生きている間は踏みとどまっていたが、母が亡くなったことで復讐を止めるものがなくなった。だから“今”に踏み切った。ここを言い訳にせず、淡々と語るのが彼の怖さでもあり、哀しさでもあります。
ちなみに第5話は、時乃が“初めて犯人と直接対決する”回でもあります。
いつも一歩引いてロジックだけで崩してきた時乃が、当事者の熱量(復讐心)を真正面から受け止める。彼女の表情の温度が、いつもより少しだけ低いのが印象的でした。
ドラマ「アリバイ崩し承ります」5話の伏線

第5話は、伏線が「小さな違和感」として散らばっていて、回収されると一気に“設計図”が見えるタイプでした。ここでは、視聴中に引っかかりやすいポイントを整理しておきます。
「脆弱だけど崩せない」という矛盾した言い回し
この言葉自体が伏線。アリバイが強固なのではなく、時間経過によって強固になるという逆転発想を示しています。
古川が“限定配信”を知らない
一緒にダウンロードを見ていたのに、限定配信という話題性を知らないのは不自然。英介が日付を記憶に残させないための布石でした。
「0時前に帰った」証言と、配信開始時刻のズレ
古川は0時前に帰ったつもりなのに、曲は0時開始の限定配信。ここが“時計が遅れていた”ことに繋がります。
23:46という妙に具体的な時刻
ギリギリの時間にダウンロードしている点が「忘れていた」にしては出来すぎ。実際は“履歴を残すための2回目”の時刻でした。
レシートが「証拠として綺麗すぎる」
コンビニのレシートが“都合よく”残っている。実は同じ買い物を別日に繰り返して、証拠を整形していた。
匿名通報のタイミング
殺害直後の通報は、正義感というより“死亡推定時刻を固めるための部品”。英介が捜査の流れまで設計していた伏線でした。
牧村の「因縁の事件」という温度
牧村が担当する事件であることが強調されることで、察時の“手柄横取り”がより危うく見える。終盤に向けて、察時の立場が揺らぐ前振りにも見えます。
ドラマ「アリバイ崩し承ります」5話の感想&考察

第5話を見終わったあと、僕の中に残ったのは「トリックの巧さ」よりも、「人間の記憶ってここまで簡単に改ざんできるのか」という薄気味悪さでした。
時計を15分遅らせるだけで、証言が“日付ごと”ズレる。しかも本人は嘘をついている感覚が薄いまま、です。
“記憶の上書き”を証拠にする発想がいちばん怖い
今回のアリバイは、物証が少ない。だから通常なら弱い。
なのに強いのは、古川の頭の中で「辻褄が合う物語」が自然に生成されてしまうからです。
人って、記憶をそのまま保存してるわけじゃない。
断片を保存して、あとから“それっぽく編集して再生”する。
- 「曲をダウンロードした」
- 「その曲は11/20限定」
- 「じゃあ、遊びに行ったのも11/20だ」
この三段論法、論理としては正しい。だからこそ罠になる。英介は古川に“限定配信”を教えないことで、古川が自力でその三段論法に辿り着くように誘導している。つまり、古川に嘘を言わせているんじゃなく、古川に“真実だと思わせる嘘”を作らせている。ここが一番残酷です。
SNSでも「記憶ってこんな簡単にズレるの?」「自分も証言者になったら危ない」みたいな声が出るの、分かるんですよね。ミステリーとして面白いのに、現実に引き寄せた瞬間にゾッとするタイプ。
英介のトリックは、性格がにじむ“倫理の形”でもある
英介は復讐を遂げた犯人で、当然アウト。でも彼のトリックって、無差別に巻き込むタイプじゃない。巻き込むのは古川一人で、しかも古川に“日付を刻み込まない”ようにして、後から本人の記憶で成立させる。
これ、ひどいことをしてるのに、犯人側の心理としては「友達に嘘をつかせている意識」が薄いはずなんです。
結果的に友達を利用してるのに、自分の中では「友達を守ってる」に寄せて正当化できてしまう。
復讐をする人間の怖さって、怒りの大きさよりも、こういう“自分に都合のいい倫理”を構築できるところだと思う。英介は天才であるがゆえに、その倫理の建築が上手い。だから余計に厄介で、悲しい。
時乃の立ち位置が変わった回でもある
テレ朝側でも触れられている通り、この回は時乃が犯人と直接対決する回。
僕はここ、シリーズの中でも地味に大事だと思っています。
それまでの時乃は、事件を“パズル”として見ていた節がある。もちろん被害者への目線はあるけど、感情が前に出ない。ところが英介の事件は、復讐という熱が強すぎて、パズルとして処理すると倫理が追いつかない。
だからこそ時乃は、いつもより淡々として見える。
感情を切り離さないと推理が曇る。でも切り離しすぎると、目の前の人間を壊してしまう。あのバランスを保ったまま、刃物みたいな言葉を使わずに真相へ連れていく時乃のやり方は、探偵というより“職人”でした。
察時の「ズル」が刺さる回。笑えるのに笑えない
一方で察時。今回も時乃に頼って“手柄”へ繋げようとする。ここまではいつもの流れなんですが、第5話は牧村が担当する事件であるぶん、察時の立ち回りが余計に危なっかしく見えます。
この男、欲しいのは正義じゃなくて「復帰の切符」なんですよね。
ただ、だからこそドラマとして面白い。
察時が正しいことだけするなら、時乃の推理は単なるご褒美になってしまう。察時が“ズルい”から、時乃の5000円が物語の毒にも薬にもなる。視聴者としては複雑なんだけど、その複雑さがシリーズの味になってる。
「米津玄師っぽい」明城徹郎と、事件の冷たさの対比
第5話は明城徹郎(あかぎ・てつろう)という作曲家と、その1日限定配信曲がキーになる。
SNSで「米津玄師っぽい!」と盛り上がったのも、たぶんこの回ならではの“抜け”です。シリアスな復讐劇の中で、妙に現代ポップの匂いが差し込む。
でも冷静に考えると、その“ポップさ”がむしろ怖い。
僕らが普段、軽いノリで押しているダウンロードボタンが、人の人生のアリバイになって、そして犯罪の部品になる。便利さって、倫理と別の方向に進むことがある。第5話は、その感覚をサラッと突いてきました。
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