『TRICK 新作スペシャル1』は、シリーズの中でも特に「予言が当たってしまう恐怖」を正面から描いた一作です。
生放送のスタジオで告げられる「あなたは番組が終わるまでに死にます」という宣告。普通なら笑い飛ばされるはずの言葉が、現実の死と重なった瞬間、この物語は一気に不穏な色を帯びていきます。
占い師・緑川祥子の予言、水を使った連続死、そして学者たちが隠してきた過去の罪。
本作は、超常現象を否定し続けてきた『TRICK』が、「それでも人は信じてしまう」という心理そのものをトリックとして描いたスペシャルでした。
ここから先、予言の正体と事件の真相を、結末まで振り返っていきます。
TRICK/トリック新作スペシャル1のあらすじ&ネタバレ

ここからは「TRICK 新作スペシャル(2005年放送)」を結末まで紹介!
連ドラのテンションをそのまま拡張したような一作で、「死ぬ日を当てる占い師」vs「科学で解体する上田」vs「現場で嗅ぎ分ける奈緒子」が、いつも以上に“水”を軸に絡み合っていきます。
導入:奈緒子は今日も貧乏、上田は今日も「どんと来い」
物語は、山田奈緒子が相変わらずの貧乏っぷりで“舞台も仕事もツキもない”ところから始まる。花屋敷でショーをしても客がいない。いつものノリでいつものように肩を落とし、またいつものようにクビ(当然のように)。
このシリーズの奈緒子は、何か大事件に巻き込まれる前に必ず「人生が先に終わりかける」。そこがリアルで、笑えるのにちょっと切ない。
一方その頃、上田次郎はテレビ番組の生放送に出演している。並ぶのは上田だけじゃない。
福澤慶、新島同志、大隈早大という“名門大学の看板を背負った教授陣”が揃い、企画としては「人気占い師のインチキを暴け」という、上田にとっては腕が鳴る舞台だ。
この番組で対峙するのが、占星術師・緑川祥子。
彼女は「宇宙の波動」を独自の手法で感知し、科学的に“人が死ぬ運命”まで予見できると豪語する。いかにも胡散臭い。しかし胡散臭いだけなら、TRICKは始まらない。
テレビ生放送の衝撃:「あなた、番組が終わるまでに死にます」
番組中、加藤という男が乱入し「騙された」と緑川に因縁をつける。ここで緑川祥子が、占い(という名の“計算”)を披露し、加藤に向かってさらりと言い放つ。
「番組が終わるまでに、あなたは死ぬ」
視聴者にとっても、上田たち教授陣にとっても、ここが“あのTRICK”のスイッチだ。
普通なら「はいはい」と流してしまう予言が、よりにもよって生放送の空気の中で刺さる。そして刺さった予言通り、加藤は胸を押さえて倒れ、そのまま息絶える。
トリックの世界は基本、超常現象を否定する。だがこの瞬間だけは、否定する側が一瞬「え?」と固まる。上田の顔が、そのまま視聴者の顔になる。
上田は当然「このまま引き下がれるか」となる。自尊心というより、学者として、いや“TRICKの上田”として、ここで負けては終われない。
そして窮地の上田が、いつもの手で奈緒子を巻き込む。
山へ:富市山村と「宇宙占館デスラ」、そして“暗黒厄年”
奈緒子は最初こそ面倒くさがる。だが、人生がしんどい時ほど、なぜか上田の事件に引き寄せられるのが彼女の宿命だ。
結局、奈緒子と上田は緑川祥子の拠点へ向かう。目的地は、山奥の村・富市山村。到着までの道中から、TRICKらしい“いい加減さ”が加速する。たとえば道端の店が「古池屋」だったり、川や橋の名前が妙に“それっぽい”有名人の連想だったり、真面目にやっているのにふざけている。
そして辿り着くのが、緑川祥子の城――「宇宙占館デスラ」。
ここは占い館であり、信者が集うコミュニティであり、ほぼ新興宗教の集会所のようでもある。緑川はカリスマだ。信者は“救い”を求め、スタッフは“秩序”を作り、金は“宇宙の波動”という言葉で回っている。
緑川がこの場で繰り返し強調するのが「暗黒厄年」。
“あなたは厄年です”ではなく、“逃げられない暗黒厄年です”という不穏さで囲い込む。現代の占いビジネスの怖さは、ここに詰まっている。信じた人間から順に、世界が狭くなる。
占い披露:奈緒子が見抜く“マジック”、上田が見抜けない“証拠”
緑川は到着早々、教授陣の前で“奇跡”を連発する。
カードを使った示現、選択を当てる実験、封筒の予言――。
ただ、ここがTRICKの気持ちいいところで、奈緒子はわりと早い段階で「これはマジックの匂いがする」と嗅ぎ分けていく。実際、緑川のカードトリックについては、奈緒子が“仕込みの構造”を説明できるレベルで見破る。
でも、ここが厄介だ。
奈緒子の目には「インチキ」は見えるのに、“殺人”と結びつける決定的な証拠がない。
つまりこの回は、いつもの「超能力=トリック!」よりも一段ややこしい。占いのトリックと、殺人のトリックが重なっている。
緑川は教授陣に対し「あなたたちは暗黒中年(暗黒厄年)で、2日後に死ぬ」と告げ、“死に方”を書いた手紙(封筒)を上田に預ける。
教授たちは笑うしかないが、笑った直後に加藤の死がちらつく。笑いの裏に、恐怖が居座る。
第1の死:大隈早大――「古池や…」が現実になる
昼食の時間になっても、大隈早大が現れない。
緑川は静かに「大隈さんはもう来ない」と言う。上田は預かっていた封筒を開ける。そこに書かれていたのは、芭蕉の有名な一句――「古池や 蛙飛び込む 水の音」。
奈緒子と上田は、道中に見かけた「古池屋」を思い出し、そこへ走る。
そして川で見つかる大隈の遺体。事故に見える。場所も“予言通り”だ。これがまず嫌だ。
人は「当たった」ものに引っ張られる。理屈より先に、身体が「怖い」と言い出す。教授たちがざわつくのも当然で、視聴者も「いや、これだけは偶然で片づけたくない」と思わされる。
警視庁も動く。矢部謙三が登場し、現場は一気に“TRICKの捜査”になる。
ただし矢部は矢部で、真面目にやればやるほどズレていく。
このスペシャルは、矢部パートの小ネタも強い(髪/ヅラいじりの加速、部下の個性など)。
問題はアリバイだ。占い館の本部から「古池屋」まで走って20分。
その間に抜け出せないなら、緑川側が殺した可能性は低い――“そう見える”。
だからこそ、この時点では「予言が当たった」の雰囲気が勝ってしまう。
封筒を開ける:恐怖が“対策”に変わると、人はもっと追い込まれる
大隈の死を受け、残る教授たちは自分の封筒を開ける。
新島同志に書かれていたのは、「溺れる者は藁をも掴む」。
福澤慶に書かれていたのは、「聖なる水が裁きを下す」。
「水が鍵だ」と分かってしまった瞬間から、彼らは水を避け始める。
ただ、TRICKの残酷さはここで、“避ける行為”そのものが罠になるように作られていることだ。
恐怖に対して人は対策を取る。対策を取るほど生活は歪む。歪んだ生活は足元をすくう。これはホラーというより心理の設計で、TRICKの上手さが出る。
新島は特に怯え、宿泊場所を本部から離れたコテージ(火星の部屋)に移す。
外で見張りをするのは、上田と奈緒子。
ここで奈緒子が寝言やいびきで“いつもの空気”を作りつつ、上田が母・里見の怪しい商売を分析する流れが挟まる。里見は「子どもの性別を選べるお札」を売り、当たれば感謝され、外れても返金で丸く収め、結局儲かる――上田は確率と金額でその商売をさらりと計算してしまう。笑えるのに、妙に現実的でゾッとする。
“信じたい人”の心理と、“儲けたい人”のロジック。
このスペシャルは、占いの事件を扱いながら、地味にそのテーマを並走させている。
第2の死:新島同志――「藁(ストロー)」が命綱になり、命を奪う
朝、上田と奈緒子がコテージへ入ると、新島はバスルームで服を着たまま倒れている。
溺死。手にはストロー。
「藁(straw)をも掴む」が、英語の連想と合わせて“現場の小道具”になっているのが、この回のいやらしさだ。
しかも新島は、水を怖がっていた。絶対に風呂に入らないタイプの怯え方をしていたのに、なぜ浴室で死ぬのか。
ここで一気に「事故」から「殺人」へ傾く。視聴者の脳内でも、上田の脳内でも、スイッチが切り替わる。
この“ユニットバス水没”は、ファンの間でもトラウマとして語られがちで、実際に「ストローの死に方が昔トラウマでユニットバス苦手だった」という感想も残っている。
TRICKが笑いと不穏を同居させる作品だとしても、この絵面はかなり怖い部類だ。
福澤慶の焦り:殺される前に殺す、という地獄の発想
新島が死に、大隈も死に、残る“標的”は福澤慶だけになる。
福澤は上田に相談する。「殺される前に殺してやる」と。
ここが重要で、福澤はただの被害者ではない。彼の焦り方が、どこか“後ろめたい”匂いを持っている。
TRICKはいつも、事件の被害者にも加害者にも、綺麗な顔をさせない。
福澤のこの台詞は、「自分は殺されて当然なのでは」という影を匂わせる。
後に明かされる真相への“感情の伏線”として、かなり効いている。
上田、橋から転落:大隈の死の“場所”がズレていたと気づく
上田は現場周辺を歩き、落ちている金平糖(大隈がテレビで食べていた好物)に気づく。
そして辿り着くのが、吊り橋(幸夫橋)。
ここで上田は背後から襲われ、橋から川へ落とされる。
普通なら死んでもおかしくないのに、上田は生きて戻る。
このシリーズにおいて、上田の「生存能力」はもはやギャグを超えて、ひとつの“様式美”だ。
だが上田が生きて戻ったことで、逆に見えてくるものがある。
大隈は「古池屋」で死んだように見えただけで、実際にはこの吊り橋付近で落とされ、川に流されて遺体が運ばれた可能性が濃くなる。
つまり、緑川側の「走って20分だから無理」というアリバイが、根本から崩れる。
ここから事件は、占いの話ではなく「殺人の話」になる。
奈緒子が罠に落ちる:水の恐怖が“自分の番”になる瞬間
上田が動く一方で、奈緒子も単独で嗅ぎ回る。
奈緒子の強さは、頭の良さより“場数”だ。変な村、変な宗教、変な霊能力者……そういう現場を何度も踏んでいるから、恐怖に飲まれない。飲まれないから、観察できる。
しかし、観察していると自分が狙われる。
奈緒子はやがて、新島を殺したのと同種の“水の罠”に巻き込まれる。
閉じ込められ、逃げ場がなくなり、水が迫る。
ここで奈緒子が生き延びるのがTRICKの快感で、マジシャンとしての“道具の使い方”が光る。「本物の霊能力」ではなく、「生き残るための工夫」で勝つ。だから奈緒子は主人公だ。
第3の死:福澤慶――「聖なる水」の名を借りた“裁き”が下る
緑川祥子は最後に、福澤慶に対して“裁き”の儀式を行う。
ガラス容器に張られた「聖なる水」に手を入れさせ、善悪を判定するかのように見せる。
この儀式そのものが、緑川のカリスマ装置だ。信者は見ている。教授たちは追い詰められている。空気が「逃げるな」と言う。
そして福澤は、その儀式の中で命を落とす。
ここで緑川が使うのは「超能力」ではなく、あくまで“仕掛け”。
聖なる水は、実態としては毒であり、さらに水位を調整することで「触れさせたい相手だけ触れさせる」ことができる。
言い換えると、緑川は“裁き”を演出しているのではなく、裁きを執行している。ここまで来ると、占い師というより処刑人だ。
種明かし:緑川祥子はなぜ「死」を当てられたのか
奈緒子と上田の追及により、緑川の「予言」は少しずつ崩されていく。
特に決定的なのが、冒頭の生放送で死んだ加藤の件だ。
加藤は、緑川祥子の“身内(兄妹)”で、予言を成立させるために命を捨てた可能性が高い。
実際、加藤は心臓発作に見せかけて自分で空気を心臓に注入し、死亡するという手段が示唆される。
つまり緑川は「当てた」のではない。「死ぬように手配していた」。
占いが当たったのではなく、仕込みが当たった。TRICKらしい構造だ。
そして動機が明かされる。
10年前、福澤・新島・大隈の三教授は、緑川祥子の父親を殺し、その業績(発明)を奪って学会で発表していた――緑川の計画は、その復讐だった。
この瞬間、物語の背骨が通る。
「占い師の事件」から、「学者の罪と復讐」へ。
上田が“科学”を武器にしていた理由も、緑川が“科学っぽい占い”を装っていた理由も、同じ一本の線で繋がる。
結末:緑川祥子の最期と、大柴邦夫の「でも教祖は必要なのです!」
真相を突きつけられた緑川祥子は、すべてを認める。そして彼女は、自ら命を絶つ方向へ向かう。
ここで後味を決定づけるのが、助手・大柴邦夫の存在だ。
大柴は、ただの手下ではない。信者をまとめ、秩序を作り、緑川を“教祖として成立させていた人間”だ。
彼が語るニュアンスは冷酷で、同時に現実的だ。
「復讐が終わったから終わり」ではない。信者がいる限り、需要がある限り、教祖は必要になる――この視点が入ることで、TRICK特有の“救いのなさ”が残る。
後日談:帰ってきても家がない。だから、上田を追う
事件が終わり、奈緒子は日常へ戻る。
だが日常は、奈緒子に優しくない。
なんと奈緒子のアパートの次の住人になってしまうのが、母・里見の「産み分けお札」を買った夫婦。奈緒子は追い出される側だ。
そしてラスト、奈緒子は上田を追いかける。
TRICKのラストはいつだって、「事件が終わっても、二人の関係は結論を出さない」で締まる。
解決したのは事件であって、人生ではない。だからこのシリーズは続く。
TRICK/トリック新作スペシャル1のトリック

このスペシャルの“種明かし”は、ひとことで言うと「予言=未来を読む能力」ではなく、「予言=未来を作る段取り」です。占いの言葉が当たるのではなく、当たるように配置されている。その構造を、事件ごとに整理します。
トリック①:生放送の“死の予言”は、予言ではなく「仕込み」
冒頭の加藤の死は、占いの的中に見せかけた最大のミスディレクション。
加藤が緑川の身内で、空気を心臓に注入して自死することで、「番組中に死ぬ」という予言が成立していた可能性が示されます。
視聴者の恐怖と注目を一気に獲得し、「緑川は本物かも」と思わせるための“最初の爆弾”です。
トリック②:大隈の死は「場所のすり替え」――遺体が“運ばれる”前提
大隈は「古池屋」で死んだのではなく、吊り橋付近で突き落とされ、川に流された結果として“古池屋で発見された”と考えると筋が通ります。
これにより、「本部から古池屋まで20分だから犯行は無理」というアリバイが崩れる。
“発見場所=犯行現場”という固定観念を、川があっさり壊すのが上手いです。
トリック③:新島の溺死は「ユニットバス水没」+“藁=ストロー”の心理誘導
新島の死は、浴室に閉じ込め、排水や水位を操作して水没させるタイプ。
本人は「藁=ストロー」を命綱にしようとするが、結果的にそれが死の記号になる。
しかも新島は水を怖がっていたからこそ、視聴者は「自分の意思で風呂に入ったわけがない」と気づける。
“恐怖で行動が狭まるほど、逃げ道がなくなる”構造そのものがトリックです。
トリック④:福澤を殺す「聖なる水」は、信仰を利用した毒のスイッチ
最後の「聖なる水の裁き」は、信者の前で行う儀式に見せかけて、毒水の水位を操作し、触れさせたい相手だけ死なせる仕組み。
“宗教的な場の圧”が、被害者を「拒否できない状態」に追い込むのが決定的で、超能力ではなく「空気」が殺す。
TRICK/トリック新作スペシャル1の伏線

この回の伏線は、いわゆるミステリーの“謎解きヒント”だけではなく、「占いが本物に見えるようにする仕掛け」が多いのが特徴です。序盤の違和感が、終盤になるほど「そういうことか」と刺さってきます。
「水」への執着が、ずっと目の前に置かれている
封筒の文言がそもそも水に寄っている(古池/溺れる/聖なる水)。
さらに村の地形、川、橋、浴室――舞台そのものが“水で動く”ように設計されている。
最初は詩的な演出に見えるのに、後から見ると全部が凶器候補になっているのが怖い。
「古池屋」が“通り道”として先に提示される
大隈の死の前に、視聴者は一度「古池屋」を通過する。だから封筒を開けた瞬間に地名が立ち上がる。
この“記憶のフック”があるから、予言が当たったように感じてしまう。
大隈の“金平糖キャラ”は、後から効く物証になる
テレビの録画で大隈が金平糖ばかり食べている描写が入る。これは単なるギャグに見える。
でも後半、上田が現場で金平糖を拾い、吊り橋へ辿り着く導線になる。「キャラ付け」がそのまま“痕跡”になるのはTRICKらしい作り。
新島の「水が怖い」が、溺死の不自然さを増幅させる
新島が水を避け、宿も変え、過敏に怯える。
この描写が強いほど、彼が浴室で死ぬこと自体が「事故ではない」と伝えてくる。伏線としては単純だけど、効き方が暴力的。
里見の“産み分け商売”が、緑川のビジネスを照らす鏡になる
里見は「信じたい人」に商品を売り、感謝され、儲ける。上田はそれを確率で計算する。
これを先に見せることで、緑川祥子の占い館も「信仰と商売のハイブリッド」だと理解できる。
後半、大柴邦夫が“教祖の必要性”を語る展開にも、地味に繋がっていく。
冒頭の加藤の死が、最大の伏線
「生放送で死ぬ」インパクトが強すぎて、いったん全員が“本物”の可能性に目がくらむ。
でも振り返ると、この一件が最初から「当たった」のではなく「当てた」可能性を孕んでいる。
加藤の正体(緑川の身内)と死に方(空気注入による自死示唆)が明かされた時、冒頭の違和感が全部回収される。
TRICK/トリック新作スペシャル1を見た後の感想&考察

この新作スペシャル1、個人的には「TRICKの中でも“怖さ”が強めに出た回」だと思っています。
もちろんギャグはある。ダジャレもある。変な地名もある。なのに、見終わった後に残るのは、笑いより先に“ひやっ”とする後味なんですよね。
「本物っぽさ」の作りが、連ドラより濃い
連ドラのTRICKは、毎回「怪しい現象→上田の理屈→奈緒子の現場→種明かし」で気持ちよく終わる回が多い。
でも新作スペシャル1は、冒頭で“生放送の死”をやってしまう。
あれは反則級に強い。視聴者が「さすがに偶然では…?」と逃げようとする道を、最初から塞いでくる。
結果、上田ですら一瞬揺らぐ。
この「揺らいだ上田」を見られるのが、スペシャルの面白さでもある。いつもは傲慢で、いつもは強気で、いつもは論破芸みたいな男が、ほんの一瞬“黙る”。そこに人間味が出る。
“水”の使い方が上手い。だから怖い
今回の殺人は、水がずっと主役だ。
川に流す、浴室を水没させる、聖なる水を毒にする――バリエーションが全部水。
水って日常の象徴でもあるし、生活の安心でもある。だからこそ、それが凶器になると怖い。しかも「溺れる者は藁をも掴む」の藁=ストローなんて、言葉遊びのようで、死に方としてはえげつない。
緑川祥子が「ただのインチキ」では終わらないのが、TRICKの優しさと残酷さ
緑川祥子は、ビジネスとしての占い師であり、教祖であり、復讐者でもある。
最後に明かされる動機――父を奪われた恨み――が入った瞬間、彼女が急に“物語の中の人”として立ち上がる。
TRICKは、インチキ霊能力者を暴いて終わるドラマだけど、暴いた先で「じゃあ、この人は何を失ってここに立っていたのか」まで見せることがある。
それが優しさでもあり、残酷さでもある。
救われないまま終わるから、視聴者の中に「怖さ」や「切なさ」が残る。
大柴邦夫の存在が、後味を一段重くする
緑川祥子がいなくなったら、全部終わる――と思いたい。
でも大柴邦夫がいることで、そう簡単には終わらないと分かる。
彼は信者の手紙や感謝、献金、場の熱量を知っている。だからこそ「教祖は必要」という結論へ寄っていく。
ここが本当に嫌で、でも上手い。
人は救われたい。救われたい人がいる限り、そこに商売が成立する。
緑川祥子が消えても、「次の緑川祥子」は生まれてしまう。
TRICKが“超常現象”じゃなく“人間の弱さ”を描く作品だと感じる瞬間です。
奈緒子と上田の関係は、事件の終わりより「続く感じ」で締めるのが正解
最後、奈緒子は結局、日常で報われない。部屋は取られるし、金はないし、人生は厳しい。
それでも上田と一緒にいる時だけは、彼女は“主人公”になれる。
だから奈緒子は上田を追う。上田も突き放しきれない。
恋愛とも友情とも言い切れない、でも切れない。
TRICKがシリーズとして続いていく理由って、事件よりも案外この関係性の宙ぶらりんにあると思う。
「答えを出さない美学」が、事件にも関係にも共通してるんですよね。
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