第2話は1〜2話のロングバージョンでした。

第3話「黄金色の山」は、“完璧であること”を求められ続けた男の崩壊と赦しを描く、シーズン5の象徴的な一編だった。
遭難事故の裏で救助隊員が死亡し、同時に恋人殺害未遂事件が発覚。
二つの事件が山という孤立した舞台で交錯し、やがて一人の英雄が“神”から“人間”へと堕ちていく。
取調室で真壁有希子(天海祐希)が放った「昨夜はよく眠れましたか?」という一言が、全ての嘘を暴く鍵となる。
“眠り”という日常的な行為が、英雄にとっては許されぬ罪であった――。
ここからドラマ『緊急取調室/キントリ(シーズン5)』第3話のあらすじと感想・考察を紹介します。
緊急取調室/キントリ(シーズン5)3話のあらすじ&ネタバレ

「黄金色の山」──遭難の裏に隠された二つの罪
第3話「黄金色の山」では、秋の山で発生した遭難事故の裏に潜む二つの犯罪が、キントリの取調べによって明らかになる。
動画配信者の樋口結花(清水くるみ)は、恋人・近藤春斗(永田崇人)と軽装で登山中にはぐれ、谷底に転落して重体となる。奇跡的に救助されるも、捜索中に救助隊員・土門翔(羽谷勝太)の遺体が発見された。
当初は滑落事故と思われたが、司法解剖で腹部の打撲痕と携帯電話の紛失が判明。事故ではなく殺人の可能性が浮上する。
山での救助活動中に起きた不自然な死――そこから事件は動き出す。
“山の神”にかけられた殺人疑惑
殴打痕と携帯電話消失の謎を追う中で、疑惑の目が向けられたのは山岳救助隊の隊長・布施正義(戸次重幸)。
数多の遭難者を救い、消防総監賞を受賞した“山の神”と呼ばれる伝説的救助隊員だ。
英雄に殺人の影が差し、警察も慎重な対応を取ることに。緊急取調室(キントリ)の真壁有希子(天海祐希)らが布施の取調べを担当する。
取調室に現れた布施は冷静沈着で、礼儀正しく理路整然と供述。矛盾は一切なく、部下の死にも取り乱さない。
完璧すぎるその態度に、有希子は違和感を覚える。「辻褄が合いすぎる証言は、不自然だ」と。
しかし上司の梶山勝利(田中哲司)は布施の元山岳部仲間でもあり、英雄への配慮から強引な追及を避けるよう指示。こうして第1回の取調べは穏やかに終わった。
新たな真相──恋人の犯行と残る謎
まもなく、意識不明だった結花が病院で目を覚ます。
見舞いに来た恋人・近藤の姿を見るなり怯えた彼女の反応から、事件の新たな真実が発覚。
遭難は事故ではなく、近藤による殺人未遂だった。
動画配信の収益を巡る揉め事とオンラインカジノの借金――金に追われた近藤は結花を突き落として殺害を企てていた。
近藤は逮捕され、遭難事件の真相は明らかになったが、救助隊員・土門の死だけが依然として解けない謎として残る。
キントリは再び布施に焦点を絞り、英雄の完璧な供述の裏に潜む“人間のほころび”を探る。
“眠り”という違和感
2度目の取調べで、有希子は布施の表情のわずかな揺らぎを見逃さなかった。
最初の聴取で世間話のように「昨夜はよく眠れましたか?」と尋ねた瞬間、布施が一瞬言葉を詰まらせたのだ。英雄が“睡眠”という問いで動揺する――そこに、有希子は違和感の核心を見いだす。
その頃、梶山は現場を再調査。布施が使っていた滑車が発見され、土門の素行に関する悪評(遭難者への不適切な接触など)も浮上する。
部下たちは「土門なんて誰も弔わない」と口をそろえ、隊長・布施を神のように崇拝していた。
こうした状況から有希子は、布施が“神”の名を守るために部下を制裁したのではないかという仮説を立てる。
神を名乗った男の罪
再取調べで、有希子と菱本進(でんでん)は布施を追い詰めていく。
「土門さんと結花さんの間にトラブルがあり、あなたが制裁を加えたのでは?」
布施は即座に否定するが、有希子は部下の行動を逆手に取る。
「あなたを“神”として守るため、部下が携帯を隠したのでは?」――そう問い詰められた布施は初めて動揺の色を見せた。
そこへ現場から戻った梶山が滑車を差し出し、「なぜ外していたのか」と問い詰める。
布施は小声で「救助中に腰を下ろしたときに外した」と答え、続けて体調不良を指摘されると、返答に詰まった。
有希子の推理──“眠っていた神”
有希子は静かに核心を突く。
「あなたは、救助中に眠ってしまったのではありませんか?」
彼女の言葉に布施は息を呑む。
山での疲労と酸欠により、布施はほんの数分間、意識を失っていた。
その間に土門が単独行動を起こし、戻ってきた布施を「神様が眠ったせいで命が失われた」と罵った。
「お前はもう神じゃねえ!」
土門の嘲りに激昂した布施は、彼のスマートフォンを奪おうとしてもみ合い、腹を殴打。
挑発に耐えきれず、衝動的に崖下へ突き落としてしまったのだ。
崖下にはまだ息のあった結花が倒れていた。布施はその命を祈るように手を合わせ、土門のスマホを回収して現場を離れた。
「神であろうとした自分が、人として最も愚かな罪を犯した」――布施の声は震えていた。
告白の果てに残された光
有希子は告白を聞きながら、静かに結花の証言を告げる。
「彼女はあなたたちの争いを見ていなかった。見たのは青い空と、見たことのない鳥だけだった」
その一言に、布施は涙をこぼす。
「その鳥は……トラツグミです」
夜明け前に鳴くその鳥の声が、崖の底で絶望した結花に生きる希望を与えた。“神”を名乗った男が眠ってしまった山で、自然がもう一つの命を守っていた――。
英雄の仮面を脱いだ布施は、自らの罪を認め逮捕される。山という大いなる存在は、人の傲慢を裁き、同時に赦しを与えた。
そして有希子は静かに告げる。
「眠った神を起こしたのは、山そのものだったのかもしれない」
人の命と誇り、眠りと赦し。
第3話は、真実を暴くだけでなく、“神であろうとする人間の弱さ”を映し出した回だった。
緊急取調室/キントリ(シーズン5)3話の感想&考察

「黄金色の山」──“英雄の堕落”が描く、人間の弱さと贖罪
第3話「黄金色の山」は、今シーズンの中でも屈指の名エピソードだった。
事故と殺人、二つの事件が山という舞台で交錯し、“英雄の堕落”というテーマを通して人間の弱さと贖罪が丁寧に描かれたからだ。
序盤、遭難事故の裏で同時に殺人未遂と殺人事件が進行しているという複雑な展開には驚かされたが、終盤に向けてそれらが美しく収束し、伏線が見事に回収される構成の巧みさに唸らされた。
特に印象的だったのは、“山の神”と称えられた救助隊長・布施正義(戸次重幸)が、一度の“眠り”で神性を失い、人間として転落していく姿である。
人命救助に人生を捧げた男が、プライドの呪縛に囚われ、弱さを隠そうとするあまり罪を犯してしまう――その過程は痛ましくもリアルだった。
布施は「完璧でなければ」という強迫観念に取り憑かれており、神格化された存在として周囲の期待に応え続ける苦しみを抱えていた。
そんな彼が極度の疲労で取ったわずかな“居眠り”が悲劇の引き金となる。
本来ならば人間として当然の生理的行為であるはずの眠りが、“山の神”としての自らには許されない禁忌だった。
そのプライドが部下・土門(羽谷勝太)からの嘲笑によって崩壊し、怒りが爆発してしまった――。英雄ゆえの過剰な責任感と完璧主義の呪いが生んだ悲劇であり、布施は自ら築いた偶像に押し潰されたとも言える。
有希子の観察眼──“眠り”という一言から真実へ
今回、キントリ側の心理戦の巧みさも際立っていた。
真壁有希子(天海祐希)は、布施の何気ない反応を見逃さず、“眠り”というキーワードから事件の核心にたどり着く。
「昨夜はよく眠れましたか?」という一見他愛ない問いに、布施がわずかに表情を凍らせた――その瞬間を逃さずに真実へ導いた観察眼は圧巻だった。
この小さな違和感が終盤で見事に繋がり、視聴者としても「あの時の一言にそんな意味があったのか」と驚かされた。
有希子の取調べ術は、ただ論理で相手を追い詰めるのではなく、言葉の余白や沈黙の奥に潜む感情を拾い上げ、相手の心を少しずつほどいていく。
今回もその“静かな迫力”が存分に発揮されていた。
梶山の正義──信頼と葛藤の中で
梶山管理官(田中哲司)の描写にも深みがあった。
序盤では、大学山岳部の同期という関係から布施に甘い姿勢を見せ、有希子の強い追及を制止する姿も見られた。
しかし彼は単なる“上層部の保守派”ではない。
現場に自ら足を運び、証拠を押さえ、部下から真実を聞き出す――その姿勢には、彼なりの誠実さと現場主義があった。
最終的に有希子の直感を信じて共闘し、布施を追い詰めていく流れには、二人の信頼関係の強さがにじむ。
ラストで梶山が布施に「山の神でいたかったんですね」と穏やかに語りかける場面は、友情と職務の狭間で苦しんだ彼自身の心情を映すようで胸を打った。
“トラツグミの声”──自然が告げる赦しの象徴
第3話の象徴的モチーフとして語られるのが“トラツグミの声”だ。
崖下で生き延びた結花(清水くるみ)が「見たことのない鳥の声を聞いた」と語るシーンは、まるで寓話のように美しい。
布施が涙ながらに「その鳥はトラツグミです」と答える瞬間、作品全体のメッセージが鮮やかに浮かび上がった。
トラツグミは夜明け前の森で鳴く鳥で、古くから“不吉”とも“神秘”とも言われる存在。しかし本作では“死ではなく生を告げる鳥”として描かれていた。
絶望の淵にいた結花に生きる希望を与えたその鳴き声は、同時に罪を犯した布施にとっての“赦し”の声でもあった。
人間の力を超えた自然――山そのものが、眠ってしまった“神”を静かに裁き、そして許す。
この構図は極めて詩的で、ドラマとしての余韻を強く残す。布施が流した涙は、罪を悔いるものではなく、弱さを受け入れた人間としての涙だったのだろう。
組織と現場──次章への布石
今回、副総監・磐城(大倉孝二)の存在が再び登場し、上層部の“体面”と現場の“信念”の対立構図が描かれた。
功労者を追及することに難色を示す磐城の態度は、組織論理の象徴であり、最終章や映画版への伏線と見て間違いない。
キントリ解散問題や警察内部の権力構造の崩壊――その導火線が、この回で静かに点火されたように感じた。
総評──“人間を赦す取調べ”というキントリの本質
第3話は、緊急取調室というドラマの魅力が凝縮された回だった。
密室での心理戦、言葉の攻防、そして真実を引き出す“人間力”――どの要素も極めて完成度が高い。犯人を糾弾するだけでなく、“人間としての弱さを赦す”という有希子の取調べの哲学が貫かれていた。
結花の証言が導く真実の解明では、事件のカタルシスだけでなく、過ちを受け入れ立ち上がる救済の物語としての感動もあった。
「科学でも力でもなく、人の言葉で真実を導く」――それこそがキントリの本質であり、このシリーズが長年愛される理由である。
第3話は、最終章に向けてその理念を再確認させる珠玉のエピソードだった。
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