第7話まで積み重ねてきた「取調室という戦場」が、8話では一気に“組織そのもの”へと拡張されました。
警察学校という閉じた空間で起きた拳銃発砲事件は、単なる事故や個人の問題では終わらず、警察という組織の価値観そのものを浮かび上がらせます。
第8話のサブタイトルは「紫の旗」。真壁有希子が立ち向かうのは、犯人の嘘だけでなく、正義が一色に塗り固められた世界でした。
ここからは、見終えた直後の感想を起点に、伏線と心理を整理しながら、第8話が投げかけたテーマを考察していきます。
緊急取調室/キントリ(シーズン5)8話のあらすじ&ネタバレ

2025年12月11日放送の「緊急取調室/キントリ(シーズン5)」第8話は、警察学校の射撃訓練中に起きた“拳銃発砲”という、警察組織にとって最悪クラスの不祥事から幕を開けます。
第8話のサブタイトルは「紫の旗」。
物語は連ドラ終盤らしい“2話完結”構成の前編として、真相の核心には踏み込ませないまま、取調室と警察組織全体に重苦しい空気だけを濃く漂わせていく回でした。
ここから先は、第8話の内容を時系列に沿って詳しくまとめたネタバレになります。未視聴の方はご注意ください。
オープニング|警察学校の射撃訓練で“暴発”が起きる
舞台は警察学校。教官・滝川隆博(玉山鉄二)の指導のもと、学生たちが射撃訓練を行っていました。
その最中、学生のひとり・宮本健太郎(大橋和也)が構えた拳銃が突然発砲し、同期生の中里美波(森マリア)に銃弾が命中。訓練は即座に中断され、現場は一気に騒然となります。
問題は、この発砲が「過失による暴発」なのか、それとも「故意」なのかが、その場ではまったく断定できない点でした。しかも、場所が警察官を育てるための警察学校である以上、事件は一瞬で“組織全体の問題”へと膨れ上がります。
官邸からの要請を受け、真壁有希子(天海祐希)率いる緊急事案対応取調班、通称・キントリが出動。「警察官になるための場所」で起きた発砲事件を、安易に事故として処理すれば真相は闇に葬られる。
一方で、殺人未遂として扱えば、当事者の人生も警察組織の威信もまとめて崩壊しかねない。第8話の空気は、冒頭から最後まで、その綱渡りの緊張感に支配されています。
捜査の壁|監視カメラ映像が「肝心の瞬間」だけない
キントリが本格的に捜査と取調べに着手するものの、早々に大きな壁が立ちはだかります。
警察学校側が提出した監視カメラ映像には、宮本の様子を至近距離から捉えた映像しかなく、銃弾が命中した決定的な瞬間が記録されていなかったのです。
管理官の梶山勝利(田中哲司)は、射撃場全体を映した映像の提出を強く要求しますが、滝川教官は「学生たちの個人情報流出の恐れ」を理由に、これを拒否します。
このやり取りの時点で、視聴者の中にも嫌な疑念が芽生えます。
――本当に理由は、それだけなのか。
第8話は、この違和感をはっきりと説明することなく、ずっと胸の奥に残したまま進んでいきます。
取り調べ開始|宮本の黙秘と「狙って撃ちました」の自白
取調室に座らされた宮本は、終始口が重く、動機を問われても黙秘を続けます。キントリによる揺さぶりにも簡単には反応せず、感情をほとんど表に出しません。
ところが途中、宮本は空気を一変させる一言を放ちます。
「暴発じゃない。狙って撃ちました」
事件が過失ではなく、故意だったことをあっさりと認めるこの言葉。しかし、ここからが“キントリ”らしい展開です。宮本は殺意を認めながらも、「なぜ撃ったのか」という核心部分だけは一切語らない。
さらに有希子に詰められた際、宮本は引っかかる言葉を口にします。
「撃たなくても、(警察官に)なれなかった」
この一言は、一見すると投げやりな自己否定にも聞こえますが、第8話の文脈で見ると、どこか“個人の意思”だけではない、外から押し付けられた仕組みの存在を匂わせます。宮本は言いかけては言葉を飲み込み、有希子を突き放すように再び黙り込んでしまいます。
周辺聴取と教場の空気|「誰も見ていない」と“滝川教場”の異様さ
同時進行で、捜査一課の渡辺鉄次(速水もこみち)と監物大二郎(鈴木浩介)は、滝川教場の学生たちへの周辺聴取を開始します。
そこで浮かび上がったのは、教場全体を覆う異様な空気でした。学生たちは示し合わせたかのように、肝心の発砲の瞬間を「見ていない」と口を揃えるのです。
そこへ教場長の伊丹が現れ、条件付きでいくつかの情報を明かします。宮本が中里に交際を迫り、断られていたこと。さらに中里が「恨まれたくない」と周囲に相談していたことが語られます。
加えて伊丹は、「国を守れなかった」という意味深な言葉を口にし、その“国”が、警察学校内で「滝川王国」と呼ばれる滝川教場を指しているかのように匂わせます。
恋愛トラブルという分かりやすい動機を提示しつつも、それだけでは終わらない組織的な匂いを同時に立ち上げる。この二重構造が、第8話の不穏さを強めていました。
キントリの作戦と“大失態”|宮本が暴れ、有希子たちは叱責される
キントリは手を変え品を変え、宮本の“芯”に触れようとします。
取調室では有希子と小石川春夫(小日向文世)がコンビを組み、中里への感情が事件に関係しているのではないかと揺さぶりをかけると、宮本は思わず強い反応を見せます。
さらに、宮本の過去が掘り下げられます。同窓会映像から、かつての宮本がサッカー部のキーパーで、周囲を盛り上げるムードメーカーだったことが判明。現在の陰鬱な姿とのギャップが、より鮮明になります。
また、宮本が中学生の頃に父親を殺害されており、「自分のような遺族の役に立ちたい」という強い志望動機を持って警察官を目指していたことも明かされます。
材料が揃ったことで、キントリが狙うのは「罪を認めたその先」。
つまり、宮本が守ろうとしているもの、あるいは隠している“何か”を言葉にさせることです。有希子と小石川は、中里が入院していることや償いの話を持ち出し、「自分の口で話してほしい」と迫ります。
しかし宮本は、取調べそのものを嘲るように「ボケとツッコミ」云々と返し、感情を爆発させます。
そして小石川に暴力を振るい、有希子が取り押さえる事態に発展。結果、キントリは副総監から厳しい叱責を受け、“作戦は大失態だった”という評価を突きつけられます。
この局面で、生駒亜美(比嘉愛未)と酒井寅三(野間口徹)も合流し、最終章らしい総力戦の構図が整っていきます。
緊急取調室/キントリ(シーズン5)8話 ネタバレ:ラストシーンと次回への引き|「SATの構え」と“本当の標的”の可能性
一方で梶山は、被害者である中里の態度にも引っかかりを覚えていました。宮本を訴えるつもりはなく、観察や保護も必要ないと語る中里の姿勢は、被害者としては妙に“硬すぎる”のです。
終盤、キントリは発砲時の映像を改めて確認し、宮本の銃の構え方に違和感を覚えます。肘の角度が、警察学校で教わる基本姿勢ではなく、SAT隊員の撃ち方に近いというのです。
そこから浮かび上がるのが、「滝川は元SATだった」という事実。そして有希子が口にする、もう一つの可能性。
――宮本の本当の標的は、中里ではなく、滝川教官だったのではないか。
答えはまだ示されません。けれど、ここから先は“教場そのもの”が被疑者になっていく気配が濃厚です。第8話は、最終回へ向けて、最悪に気持ち悪く、そして最高に引きの強い形で幕を閉じました。
緊急取調室/キントリ(シーズン5)8話の感想&考察

第8話を見終わった直後の感想を一言で表すなら、「事件のサイズ」ではなく「組織の密度」で殴ってくる回でした。警察学校という閉じた世界が持つ息苦しさが、そのまま取調室の空気にまで侵食してくる。その圧が、とにかく強い一話です。
そして今回は、真壁有希子がいつも以上に“警察という組織の中の異物”として立たされる構図が際立っていました。組織の論理と正義の間に立ち続けてきた彼女が、シリーズ終盤で改めてその立場を突きつけられる。その覚悟が、画面全体から伝わってきます。
ここからは筆者視点で、第8話で特に刺さったポイントを、ロジカルに整理しながら伏線と心理をがっつり考察していきます。
第8話「紫の旗」が投げたテーマ|“正義の継承”は誰のものか
第8話の本当の怖さは、「銃が撃たれた」という事実そのものよりも、「正義の形が一種類しか許されない空間」が描かれた点にあると思っています。
伊丹が口にした“滝川王国”という呼び名。あれは単なるあだ名ではなく、価値観が単一化されたコミュニティを示すサインです。しかもその王国が存在しているのは、“警察官を育てる場所”である警察学校。つまり、そこで教え込まれているのは拳銃の扱い方や規律だけではありません。
「正しい警察官とは何か」
その思想そのものが、滝川という教官を通して、学生たちに刷り込まれている可能性がある。
だからこそ、今回の事件は「一人の学生が起こした問題」では終わらない匂いを放っています。個人の資質や感情だけで片づけられない、“構造の事件”として描かれている。
タイトルの「紫の旗」も、僕には“白黒つけきれない正義”の象徴に見えました。赤(情・血)と青(理・規律)が混ざり合って生まれる色が紫だとするなら、宮本も中里も、そして有希子も、その狭間で溺れている存在です。
ここは完全に僕個人の解釈ですが、第8話は「正義を語るなら、まず正義の温度差を自覚しろ」と突きつけてきている気がしました。
宮本健太郎の矛盾|「狙って撃った」のに理由を言わない“沈黙の設計”
宮本ははっきりと「狙って撃ちました」と自白しています。それにもかかわらず、動機については一切語らない。この矛盾は、普通なら「自己顕示欲」や「自暴自棄」といった分かりやすい線で処理されがちです。
でも、第8話はその安易な方向には進みません。
僕が特に引っかかったのは、宮本の「撃たなくても、なれなかった」という言葉です。これは単なる自己否定というより、「何かの基準によって、すでに警察官になれないことが決まっていた」そんな響きを持っています。
もしそうだとしたら、宮本の発砲は「自分から未来を捨てた行為」ではなく、「未来を奪われた側の行動」になる。
さらに、恋愛トラブルという揺さぶりに対する宮本の反応も、どこかズレている。振られた逆恨みであれば、もっと分かりやすい憎しみの言葉が出てもいいはずなのに、それがない。だから僕は、動機の核は恋愛ではないと見ています(ここは考察です)。
極めつけは、同窓会映像で描かれた“元・ムードメーカー”としての宮本の姿。父親を殺害されるという重い過去を背負いながら、それでも周囲を明るくする存在だった人間が、警察学校に入った途端、別人のように変わってしまう。ここに、何も起きていないはずがありません。
映像が「ない」ことの意味|誰が、何を守っているのか
今回の最大の伏線は、やはりここです。
監視カメラ映像が“宮本のアップ”しか存在しないこと。そして、射撃場全体を映した映像の提出要求を、滝川が拒否していること。
建前として語られる「個人情報の保護」は理解できます。ですが、警察学校で起きた発砲事件で、しかも官邸案件になっている状況で、そこまでして出せないというのは、どう考えても不自然です。
だから第8話は、視聴者にこんな問いを投げかけているように感じました。
その映像で守られているのは、本当に学生のプライバシーなのか。
それとも、滝川教官が築いてきた教場の秩序、いわば“滝川王国”そのものなのか。
ミステリーにおいて「証拠がない」のは定番ですが、今回の怖さはそこではありません。「証拠を出さない」という意思が、はっきりと見えていること。その点が、最終章の空気を一段階引き上げています。
緊急取調室/キントリ(シーズン5)8話 伏線考察:SATの構え=滝川の過去|宮本が狙った“本当の標的”は?
終盤で示された「SATの撃ち方」。これが、第8話のロジックを解く鍵です。
警察学校では教えられない構え方を、宮本が身につけていた。つまり宮本は、誰かからその撃ち方を教わっている。そして、その“誰か”として最短距離にいるのが、滝川教官です。
有希子が「滝川を狙った可能性」を口にした瞬間、物語の盤面は一気にひっくり返りました。
ここからは、僕の現時点での見立てになります(あくまで考察です)。
宮本は、中里を撃ちたかったわけではない。
中里を撃たざるを得ない形で、“何か”を成立させた。
その“何か”とは、滝川王国の内部事情を、外の世界に引きずり出すこと。だからこそ、この事件は官邸案件としてキントリが呼ばれる形になった(あるいは、呼ばせた)可能性も考えられます。
中里が訴えるつもりがないという情報も含めると、被害者と加害者が、どこか同じ方向を向いているように見える。その構図自体が、非常に不気味です。
最終回へ向けての本命・対抗・大穴
ここからは、事実と考察を分けて整理します。
確定している事実(第8話時点)
・宮本は「狙って撃った」と認めているが、動機は話していない
・射撃場全体の監視映像は提出されていない
・宮本の構え方がSAT式である可能性が示されている
そのうえで考えられる展開は、次の3パターンです。
パターンA(本命)
宮本の標的は滝川。中里は“巻き込まれた存在”。
有希子の直感どおり、宮本は滝川を狙ったが失敗し、中里が被弾した。次回は「なぜ滝川を狙う必要があったのか」、つまり滝川王国の内部で何が起きていたのかが焦点になる。
パターンB(対抗)
中里が守っているのは滝川ではなく、宮本。
中里が訴えないのは、滝川をかばうためではない。宮本の行為に“納得できる理由”があるからこそ、沈黙を選んでいる可能性。
パターンC(大穴)
全体映像を出せない理由は、滝川よりも“もっと上”にある。
滝川は隠蔽の実行者にすぎず、設計者は別にいる。官邸案件になったのも、単なる危機管理ではなく、「キントリに触らせたい勢力」と「触らせたくない勢力」の綱引きがある――そんな構図。
僕の本命は、現時点ではパターンAです。「滝川王国」という言葉を出してきた以上、物語は個人の闇ではなく、組織の闇に踏み込むはず。最後にキントリがそれを壊しにいく。その展開が、一番“キントリらしい”と思っています。
SNSや視聴者の反応:公式も視聴者も「どうなの?」状態
放送後は、「宮本はなぜ中里を撃ったのか」「滝川教官は善か悪か」といった疑問が飛び交い、作品側も視聴者の混乱を前提にした空気を作っていました。
視聴者の反応を見ても、「回跨ぎでミステリー色が強くて良い」「最終回がもう来るのが早い」といった声が多く、前後編構成を楽しんでいる様子が伝わってきます。
僕自身も、第8話は“解決”より“盤面整理”に全振りした回だったと思います。その代わり、不穏さの湿度は満点。最終回で一気に回収するために、必要な空気をすべて溜め込んだ、そんな一話でした。
次回はいよいよ答え合わせ。「紫の旗」が何を示しているのか、宮本が撃った本当の理由は何なのか、滝川教官は敵なのか、それとも――。ここは、読者のみなさんと一緒に、最後まで追いかけたいところです。
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