第3話で山内が追っていた「システムエンジニア連続殺害事件」が核心に近づいた流れを受け、第4話ではその背後にある巨大ネットワークの輪郭がいよいよ明らかになる。

第4話「ヒューマン・フューチャー・ブリッジ(HFB)職員刺殺事件」では、DICTが追う“情報犯罪ネットワーク”の核心がようやく形を見せ始める。
監視アプリで職員を縛りつけるNPOの闇、そしてそれを“手紙”一枚で突破する奈美の戦術。
デジタルとアナログ、支配と信頼――相反する力がぶつかり合いながら、ひとりの女性の小さな勇気が巨大な犯罪を暴いていく。
さらにラストでは奈美に迫る不穏な影も…。今回は、シリーズの理念「人に届く捜査」の真価が最も鮮やかに発揮された回となった。
絶対零度(シーズン5)4話のあらすじ&ネタバレ

事件の発端――NPO職員刺殺と“同一犯”の疑い
第4話は、国際NPO法人「ヒューマン・フューチャー・ブリッジ(HFB)」職員・与田健二(佐藤岳人)の刺殺事件から始まる。
手口は“サバイバルナイフで一突き”。
検視の結果、刺創の特徴が、山内徹(横山裕)が追っていた「システムエンジニア連続殺害」と酷似していることが判明。
DICT(情報犯罪特命対策室)は、バラバラに見えた事件が同一犯、もしくは同一組織の仕業である可能性を掴む。これまで散らばっていた点が一気に線となり、DICTの捜査は新たな局面へと動き出す。
HFBの内側――理事・杉浦と経理・宮崎絵里子
奈美(二宮奈美=沢口靖子)と掛川(金田哲)は、HFB理事・杉浦吉子(黒沢あすか)を聴取するが、組織の防御は厚く、職員同士のヒアリングすら拒まれる。
一方で、経理担当の宮崎絵里子(円井わん)は奈美の何気ない会話に微妙な動揺を見せる。
奈美は「彼女は話せない事情を抱えている」と直感し、正面突破を避け、“相手が安全に話せるルート”を慎重に設計していく。
“アナログ”の突破口――手紙という抜け道
DICTの清水紗枝(黒島結菜)が寄付金の流れを洗うと、宗教法人を母体とする「黒澤ホールディングス」関連企業からの多額の寄付金が判明。
その教祖・黒澤道文(今井清隆)は、かつてDICTが追っていた要注意人物だった。
職員の端末が“監視アプリ”で制御されていると見立てた奈美は、電子通信を避け、あえて直筆の“手紙”で絵里子に接触。その筆跡の温度が、絵里子の「ここから先は危険」という心の壁を静かに溶かしていく。
真相の糸口――手書きの“会計メモ”が語るもの
絵里子は監視を恐れつつ、与田が察知していた“資金洗浄”の記録を手書きで残していた。
電子データには残らない唯一の証拠として、彼女はそれを郵送で奈美へ送る。
DICTの資金トレースと照合した結果、HFBの寄付金が“黒澤ホールディングス”を経由し、裏社会の資金ルートへ流れている構図が明らかに。理事・杉浦の関与も補強され、DICTは末端の実行犯を拘束。
押収したスマートフォンから、さらに広域ネットワークのコマンドチェーンが浮上する。
“一突き”の意味――連続殺人との接点
与田殺害とSE連続刺殺事件を結ぶ共通点は、凶器と刺創だけではない。
犯行は「監視の届かない時間帯と場所」で行われ、被害者はそれぞれ“資金・システムの中枢”に近い立場にあった。
犯人像は、単独犯ではなく“発注者と実行者”が分離されたプロトコル型犯罪。
DICTは物証の確保と同時に、宗教団体系資本—NPO—IT下請けという構造的ネットワークを解析し、事件の背後に潜む組織犯罪の輪郭を掴む。
サイドストーリー――政治と家族の影
その裏で、家出中の総理の娘・カナ(白本彩奈)は、SNSで出会ったスコット(樋口幸平)と共にバンコクへ渡航
DICT創設の中心人物・佐生新次郎(安田顕)はこの情報を握りながらも、総理に即座に報告しない。
“政治”と“治安”の思惑が交錯し、現場を動かすDICTの判断にも緊張が走る。
エピローグ――尾行車と誘拐のフラグ
事件はひとまず収束を見せるが、ラストで奈美の背後に不審な車が迫る。
ランニング中の彼女を尾行する影――次回予告では、奈美が何者かに誘拐・監禁されることが示唆される。
4話は、謎の黒幕を残したまま“週をまたぐサスペンス”として幕を閉じ、シリーズ最大の緊張を次回へと引き継いだ。
絶対零度(シーズン5)4話の見終わった後の感想&考察

“アナログの想像力”がデジタル監視社会を突破する
第4話の核心は、「監視社会を、アナログの想像力で乗り越える」痛快さにある。
職員たちの端末は監視アプリで支配され、電子的な連絡手段はすべて封じられている。それでも奈美(二宮奈美/沢口靖子)は、“手紙”という最も原始的な方法で突破口を開いた。
この達筆の直筆文が話題になったのは偶然ではない。
デジタルの冷たい線を越えて、文字の温度と余白が“受け手の勇気”を呼び覚ます仕掛けになっていたからだ。情報が制御される世界で、人の心に届く手段は理屈ではなく情。
奈美が「届く言葉」を選び、絵里子が“母として”動いた結果、テクノロジーを支配する側を逆手に取る構図が完成した。
なぜ“手紙”が機能したのか――アナログの合理性
感情的に見えて、奈美の判断は実に合理的だ。
- 検知回避:監視アプリは端末通信には強いが、物理的な郵便は常時監視できない。
- 改ざん耐性:手書きの記録は電子データよりも改竄が難しく、抹消されにくい。
- 限定流通性:転送やスクリーンショットができず、拡散を防げる。
絵里子は“紙という非デジタル領域”でマネロンの記録を外部化し、奈美はそれを郵送で受け取る。監視が「見えすぎる」世界だからこそ、“見えにくい情報”こそが武器になる。
ローテクを戦略として使いこなすDICTの発想が光った。
絵里子という“市井の正義”――母の小さな勇気
絵里子(円井わん)は特別なヒーローではない。
息子を人質に取られるかもしれない恐怖の中で、それでも紙に事実を書き、ポストに投函した。
その“小さな勇気”が事件の歯車を動かし、HFBと黒澤ホールディングスの資金ルートを暴く決定打になる。DICTシリーズが掲げる「人に寄り添う捜査」という理念が、最も純粋な形で具現化した回だった。
掛川の懐疑と奈美の信頼――異なる視点の融合
元公安の掛川(金田哲)は常に裏を読む。
彼の懐疑は安全確保のための現場感覚であり、対照的に奈美は“信じる力”で相手の行動を引き出す。
懐疑と信頼、二つの思考が噛み合ったからこそ、紙の証拠線から「実行犯の確保 → スマホ押収 → ネットワーク解明」へと進展できた。チームとしてのDICTの強みは、論理と感情のバランスにある。
「黒澤ホールディングス」ライン――縦軸の深度が増す
宗教団体系の資本が、NPOという“善意の看板”を使い資金洗浄を行う構図。
その背後に、かつてDICTが追っていた黒澤道文(今井清隆)がいることで、物語の縦軸が一気に太くなった。
SE刺殺は“口封じ”、与田刺殺は“会計封じ”。
すべてが組織的な“最適化の副産物”として説明され、個人の快楽殺人ではなく、情報社会のビジネスロジックに基づく犯罪として成立する。このリアリティがシリーズのテーマ「情報犯罪の現代性」を強く支えている。
サスペンスの張り――“尾行車”が示す新たな恐怖
事件が一段落したかに見えるラストで、ランニング中の奈美の背後に不審な車。
次回予告では“誘拐・監禁”が示唆され、物語は安堵の瞬間をあえて壊す。
「証拠は掴んだ、だが敵はまだ見ている」――この宣言によって、4話は単発解決ではなく“戦いの序章”に位置づけられる。
DICTの情報優位がいつ崩れるのかという、新たな緊張が観客を次の週へ引き込む。
“政治”と“家族”の影――カナの海外渡航が孕む火種
サイドストーリーでは、総理の娘・カナ(白本彩奈)がスコット(樋口幸平)と共にバンコクへ渡航。
この情報を掴みながら報告しない佐生新次郎(安田顕)の沈黙が、不穏な政治の匂いを漂わせる。
“国家の情報管理”と“一人の少女の自由”という対極を同じ画面に置くことで、DICTの使命が改めて問われる構図だ。
まとめ――“人に届く言葉”こそ最大のセキュリティホール
テクノロジーの暴力を、人間の温度で打ち破る。アプリが塞いだ窓を、手紙が開く。
監視社会の中で“届く言葉”を信じることが、DICTの真の武器だと第4話は証明した。
奈美の筆跡が生んだ奇跡は、情報よりも人を信じる力の物語。そして次回、誘拐という極限状況でその信念が試される――シリーズの真価が問われるステージが、いよいよ開かれる。

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