9話は、逃げ続けてきたものと向き合う覚悟が静かに芽生える回でした。
リンダとハチ、それぞれが“親”という避けられない存在に向き合い、過去を終わらせるための一歩を踏み出そうとする。
依存、家族、血の系譜――さまざまな“呪い”の輪郭が浮かび上がる一方で、二人の間には確かに希望の光も差し始めます。痛みと優しさが交差するその空気が、最終回へ続く静かな緊張を生んでいました。
ドラマ「ESCAPE」9話のあらすじ&ネタバレ

9話は、「親から続く呪いを、自分の代で終わらせる」回でした。
リンダはギャンブル依存症の母・智子、ハチは血でつながった祖父と父。それぞれの“親”と向き合いながら、二人がやっと“自分の人生”を選ぼうとする一時間でした。
山口の過去と八神製薬、そして“最後の一攫千金”計画
物語はまず、警察サイドから動き出します。
少年課刑事の小宮山は、誘拐犯グループの一人・山口健二の足取りを追い、彼が以前働いていた居酒屋で聞き込みを行います。そこで「山口は客の斎藤丈治に八神製薬への復讐をけしかけていた」と知り、事件の裏により深い因縁があることを察します。
その足で八神製薬に向かった小宮山が社長秘書・藤に山口の名前を出すと、藤は「知らない」と言いながらも調べると答え、顧問弁護士を紹介します。一方で藤は、山口が「八神結以を保護した」というメールを送っていたことも知っており、その情報はすでに慶志に伝わっていました。
その頃の山口は、ハチを“人質”にした形で懸賞金を得ようとサイトへアクセスしますが、八神結以捜索サイトはすでに閉鎖。会社、自宅、慶志のスマホへ電話をしてもつながらず、焦りが募っていきます。
山口が八神製薬を恨む理由も明かされます。
かつて恋人が八神製薬の薬の副作用で命の危機に陥ったと信じた山口は会社を訴えましたが、その訴えは「虚偽」とされ棄却されました。そこから彼の恨みは爆発的に燃え上がり、今回の事件へとつながっていきます。
顧問弁護士から経緯を聞いた小宮山が警戒を強める一方、藤から連絡を受けた慶志は山口へ直接コンタクト。
山口は「ハチに嘘をつかせ三億円を振り込め」と要求し、「結以を会社へ連れて行く」と告げます。真の狙いは、懸賞金を手にハチを連れて海外へ高飛びする計画でした。
会社側も慶志もハチも、そして山口自身も。
さまざまな思惑が絡み合ったまま、事態はさらに複雑化していきます。
霧生家への脱出劇と、慶志失脚の報せ
そんな中、ハチとリンダたちの“脱出”が起こります。
山口はハチを連れて車で移動しようとします。その一方で、拘束されていた智子は結束バンドで手を縛られた状態。そこへリンダが果敢にライターで結束バンドを焼き切り、自由になった智子がバールで山口を殴りつけます。二人は手錠の鍵を奪い、ハチを連れて逃走。ぎりぎりのところで、三人は山口の魔の手から逃れることに成功します。
三人が向かったのは、これまでも匿ってくれた霧生京の家。
傷だらけのリンダの手当てをしてくれた京は、ハチと静かに話します。
ハチは、「父・慶志に会うのが怖い」と漏らします。
出生の秘密、“さとり”の能力、本当の父の存在――。
さまざまな真実を知ってしまった今、「会う」という行為自体が大きなハードルになっているのです。
京は押しつけのない優しい言葉を向けます。
「会いたいと思うまで会わなくていいんじゃないかな。今は会社も大変だろうし」
その言葉には、“親だから会うべき”という古い価値観をそっと手放させてくれるような優しさがありました。
さらに京は、自分が持っていた八神製薬の株を慶志ではなくアメリカのフーバー社に売ったことを明かします。
その結果、慶志が会社を追われることも予想していたと言います。
それでも「このまま八神家の呪いを次の世代へ渡してはいけない」と思い、あえて“会社を壊す方向”を選んだのだと語ります。
一方その頃、八神製薬はフーバーによる買収が成立。
社長の座は慶志から奪われ、秘書・藤の裏切りによって、慶志は会社でも家族でも孤立していきます。
“八神家”という巨大な組織の揺らぎと、その外側で必死に自分の感情と向き合うハチ。
対照的な二つの動きが重なっていく中盤でした。
智子のギャンブル依存と、リンダの揺れる心
霧生家で一息ついた空気は、智子の一言で現実へ引き戻されます。
「お金、貸してくれない?」
ハチへ向けたその言葉は、息子・リンダの前であまりに無神経に響きます。リンダは即座に怒りを爆発させ、「異常だよ」と厳しく止めます。
それでも智子は悪びれず、依存症の恐ろしさをそのまま体現していました。
ハチはリンダを外へ連れ出し、落ち着いた声で告げます。
「お金は貸さない。お母さん、ギャンブル依存症なんじゃないかな」
ミッキーの弟が依存症で苦しんでいた話を例に出しながら、「依存症は病気で、やめたくてもやめられない状態」だと説明。「見捨てる or 許す」ではなく、「今の状況を変えるためにできること」を提案します。
そこでハチが示したのが、「ある人に会ってほしい」という提案。後半につながる、自助グループへの橋渡しでした。
リンダの心には、怒りと同じくらい母への愛情も残っています。
二十歳で自分を産み、父のいない中で必死に働いて育ててくれた母。“ダメな母親”だけでは語れない歴史がある。
だからこそ簡単に「切る」ことも、「すべて許す」こともできない。その揺れが表情から痛いほどに伝わってきました。
坪井の店で交差する“依存症の今後”と“リンダの未来”
ハチはリンダと智子を連れて、いつもお世話になっている坪井の店へ。
坪井は、今回も“伴走者”としての大きな役割を果たします。
智子には自助グループへの参加を提案し、「一人でやめるのではなく、仲間と少しずつやめていく道がある」と、責めずに伝えます。
「私、やめられますか?」
不安に満ちた問いに、坪井は迷いなく「やめられますよ」と答えました。そこには、「成功か失敗か」ではなく、「一緒にやっていく」という姿勢がありました。
その後、智子とリンダが二人きりで話す時間。
智子が「いい人に出会ったわね」と語ると、リンダは照れながらも誇らしくハチの話をします。
「あいつ、頭はいいのに無茶ばっかりするし。ブレることもあるけど、強くてさ。どうせダメだって絶対思わない。詰んだと思っても、一歩前に進む」
その姿を見ているうちに、「自分もまだ変われるんじゃないか」と思えてきた、と。
そしてリンダはついに決意します。
「自首する。俺の人生、やり直す。あんたもやり直せよ」
泣き笑いする智子の姿が、親子関係がわずかに前進したことを物語っていました。
霧生京と白木、“さとり”に選ばれた人間たち
一方その頃、霧生家には新たな来訪者が。
霧生忍に連れられてやってきたのは週刊誌記者の白木でした。
京は白木と握手しますが、彼女には何の“色”も見えません。
かつて「さとり」の能力を持っていた京は、今は色が見えなくなっていたのです。それでも京は「会ったことを後悔しない」と笑い、どこか覚悟を決めたように見えました。
白木は、自分が八神製薬の創業者・恭一と握手した瞬間、彼の目つきが変わったと語り、「恭一に人生を変えられた」「魅入られた」とさえ話します。
京は静かに告げます。
「白木さんも、選ばれた人なのね」
“さとり”によって選ばれ、
慶志や恭一に取り込まれていった人間たち。
白木もそのひとりであり、運命に呑み込まれた者特有の危うさをまとっていました。
白木は「もう一人いるような言い方でした。慶志ですか?」と探るように問いかけます。京は否定せず、「勘がいいのね」と返すのみでした。
この会話は、最終回に向けて“さとり”の正体、八神家の呪いの正体へ踏み込んでいく前触れでもありました。
屋上で交わされた“最後にしないため”の約束
自首を決めたリンダは、最後にハチを屋上へ呼び出します。
「また助けられたな。まだ信じてないけどな、あのクソババア」
母への複雑な感情をこぼしつつも、心の位置が少し変わったことを不器用に伝えます。
ハチも父への思いを打ち明けます。
「私だって信じてないよ、パパのこと。でも、会う」
裏切りも愛情も抱えたまま「会いに行く」と決めたハチ。
そんな彼女を心配しつつ、リンダは「俺も自首すっから」と告げます。
しかしすぐに、
「やっぱさ、俺一緒に行くわ。“今まで連れ回してすいませんでした”って」
と続け、ハチは「じゃあ私もリンダのママに謝ろうか」と返します。
お互いの親に対して、自分の足で向き合おうとする二人。そして問題のセリフが飛び出します。
「いいよ。最後だぞ。ハチは第二の人生。俺は豚箱。キスでもすっか?」
これまで何度も命の危険を越えて、笑って喧嘩して支え合ってきた二人ならではの軽口。しかし“キス”はあまりにも重たい選択です。
ハチは、静かに首を振ります。
「やめとく。だって最後みたいじゃん」
“最後のキス”にはしたくない。
逃避行が終わっても、二人の物語が終わるとは思いたくない。そんな願いが詰まった一言でした。
慶志に迫る“呪いの正体”と、再び動き出す山口
ラスト、場面は八神製薬の社長室へ。
白木は慶志に向かい、こう告げます。
「結以さんなら帰ってきませんよ。あなたにかけられた呪いを、解いてあげようと思って」
“呪い”とは、さとりの能力、恭一に縛られてきた慶志の人生、八神家が背負ってきた業――その総体とも言えるもの。
一方、夜の道路を走る一台のバン。ハチの位置情報をつかんだ山口が、再び二人の前に迫ろうとしていました。
親子、依存、能力、会社、呪い。
あらゆる線が絡まりながら、物語はいよいよ最終回へと滑り込んでいきます。
ドラマ「ESCAPE」9話の感想&考察

9話を見終わって、一番胸に残ったのは、「愛って、どうしてこんなに不器用なんだろう」という感情でした。
リンダと智子。
ハチと慶志。
京と恭一(そして“さとり”)。
誰もが誰かを愛しているのに、その愛し方が少しずつズレてしまう。
そのわずかなズレが積み重なり、「呪い」と呼ばれるほどの重さに成長してしまった回だったように感じました。
ギャンブル依存症は“ダメ母”の記号じゃなく、「愛のゆがみ」として描かれていた
まず印象的だったのは、リンダの母・智子の描かれ方がとても丁寧で痛かったことです。
ハチに向かって「お金貸して」と言い出すシーンは、誰が見てもつらい瞬間。視聴者としても「いや、それはないだろう…」と感じてしまう場面でした。
でもそのあとに挟まれる、
「二十歳でリンダを産んだこと」
「父親不在の中で必死に働いて育ててきたこと」
といった過去の描写が、智子をただの“悪い母親”で終わらせなかったように思います。
ギャンブルに依存してしまった背景には、弱さもあり、生き延びるための逃げ道でもあり、「誰かとつながりたい」―そんな歪んだ欲求が混じっていたのかもしれません。
そしてハチが「依存症は病気」とはっきり口にしてくれたことで、視聴者の視点も少し変わります。
・やめられないのは意志が弱いからではない
・本人だけの問題ではなく、支え方の問題でもある
そうしたメッセージが、説教臭くなく、でもしっかり伝わってきました。
個人的には、坪井のような存在が大きかったと感じます。
「やめられますよ」とまっすぐに伝えつつ、自助グループという“現実的な道”を提示する彼女は、正論と現実の狭間に立つ頼もしさがあって、見ていて救われました。
ハチの“正論”は刃じゃなくて「一緒に背負う」約束
9話のハチは、とにかく正論を真っ直ぐ投げます。智子に対しても、リンダに対しても、慶志に対しても。
ただ、その正論が刺さるだけで終わらないのがハチのすごさでした。
・「貸さない」で終わらず、「会ってほしい人がいる」と次の道を提示する
・「依存症かもしれない」と告げた後も、「見捨てるんじゃなくて、変えていける」と続ける
・「信じていない」と自分の弱さも認めた上で、「それでも会う」と選ぶ
正論は投げっぱなしでは意味を持たない。ハチは「言う→一緒に動く」までセットでやる。
リンダが「ハチを見てると、まだ自分もいける気がする」と口にしたのは、ハチの言葉が“突き放すもの”ではなく、“支えるもの”だったからだと思います。
屋上の「キスでもすっか?」は、未完のままだからこそ尊い
タイトルにもなっていた、あの“別れのキス”問題。
ネットでも「9話でキス?」「最終回じゃないのに?」と騒がれていましたが、実際には“キス未遂”。いかにもこの二人らしい結末でした。
リンダの「キスでもすっか?」は、覚悟半分、照れ半分、そして不安をごまかす冗談半分。ハチの「やめとく。だって最後みたいじゃん」は、一見後ろ向きなようでいて、実はとても前向きな選択。
・ここでキスしてしまえば、本当に“逃避行の終わり”になってしまう
・でもハチは、この先の人生まで一緒に見たいと思っている
そんなニュアンスが静かに滲み、見ていて胸がぎゅっと締め付けられました。
未完のままの関係って、どうしてこんなに苦しくて、どうしてこんなに美しいんでしょう。「くっつける=愛」ではない、別の愛の描き方がここに確かにありました。
白木と京、そして慶志。“さとり”は能力ではなく「構造的な呪い」
9話では“さとり”という言葉が、能力以上の何か――「呪い」として浮かび上がってきました。
・恭一に“選ばれてしまった”白木
・恭一に人生をねじ曲げられてきた京
・その“後継者”として八神家を背負わされてきた慶志
白木が京と握手したとき、「色は見えないけど後悔しない」と言ったシーンが妙に心に残りました。
“さとり”は超常的な能力としてだけでなく、人を操りやすくし、血筋という言葉で縛り、人生の選択肢を狭めてしまう――そんな構造の象徴でもある。
京が持ち株をフーバーに売ったのは、その呪いすら会社から切り離すための決断だったように見えます。
慶志に白木が「呪いを解いてあげようと思って」と告げるラストは、ついにその構造を真正面から解体する局面に入ったことを示しているようでした。
9話を通して感じたテーマ「親を超えるって、親を否定することじゃない」
個人的に、9話のテーマを一言で言うならこれだと思います。
「親を超えるって、親を完全否定することじゃない」
・リンダは智子を突き放しながらも、「あんたもやり直せよ」と背中を押す
・ハチは慶志を信じてはいないと認めつつ、「それでも会う」と選ぶ
・京は恭一の呪いを断つために、敵側に株を売るという反転の選択をする
どの親子も「あなたとは違う道を歩く」を選んでいるけれど、それは「あなたの全部が間違いだった」と切り捨てることとは違う。
むしろ、
「あなたが選べなかった選択肢を、私がここで選ぶ」
という連続のように感じました。
世代の継承とは、否定ではなく“更新”。そのことを静かに示してくれた回でした。
最終回への期待と、ほんの少しの怖さ
10話予告では、
・ハチが慶志と向き合う
・リンダが本当に自首するのか
・“さとり”の本質が語られる
そんなカットが散りばめられていました。
正直、「誰も死なないでほしい」「リンダには幸せな未来も残っていてほしい」と、心の整理が追いつかないほど、9話はキャラクターたちの“これまで”を丁寧に積み上げてきた回でした。
逃避行は、もうすぐ終わる。
でもその先の人生が、“ESCAPEの続き”として描かれるラストであってほしいなと願っています。
9話を見て、自分自身の「親との距離」や「家に残されたルール」みたいなものを、少しだけ見つめ直したくなる――そんな静かで痛くて、そして確かに希望の匂いが残る一話でした。
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