第4話で〈遅刻した恋〉の苦さを味わったハナと壮亮が、再び同じテーブルに立つ第5話「スペシャルオランジェット」。

依頼人の「昔の味をもう一度食べたい」という願いをきっかけに、二人は“味は記憶の容れ物”であることを知ります。
同じ材料、同じ手順でも、作る人と食べる人が変われば味は変わる。その“誤差”こそが、人生の温度なのだと気づく物語。
一口のチョコレートが、時間を越えて人の心をつなぐ瞬間を、筆者の視点から解き明かしていきます。
匿名の恋人たち5話のあらすじ&ネタバレ

第5話の副題は「スペシャルオランジェット」。テーマは“味は記憶”——30年前の一口が、いまも誰かの心拍とつながっている。
その“昔の味”を探す依頼から、ハナ(ハン・ヒョジュ)と壮亮(小栗旬)は、ル・ソベールの歴史とそれぞれの過去に踏み込んでいきます。
エピソード要約には「30年前のレシピを再現」および「壮亮の子供時代への意外な接続」が明記され、第5話は仕事の依頼→調査→試作→失敗→再試作→届けるという“段取りのドラマ”として進みます。
依頼人が運んできた“昔の一口”——病室へ届けたいオランジェット
ある女性・杉山礼子が店を訪れ、「入院中の姉に“あの頃のオランジェット”を食べさせたい」と切り出します。いまの味は確かにおいしい。でも“当時の一口”とは違う。
その誤差は単なるノスタルジーではなく、人生の風景の欠落なのだと礼子は静かに訴える。ここで物語は、“味=記憶の容れ物”というシリーズの背骨を正面に据え直します。
“昔の厨房”を探して——元ショコラティエ・三枝律子に会いに
“昔の味”の手掛かりを追って、当時のショコラティエ・三枝律子を訪ねる壮亮とハナ。
三枝を演じるのは梶芽衣子。律子は「今と昔では砂糖が違う」と示し、計量通りでは再現できない時代差の誤差を指摘します。
ここでレシピ=数式ではなく、“時代の空気”を移す技が話題の中心に。
懐かしさの再現ではなく、“記憶の呼び起こし”としての料理というテーマが浮かび上がります。
砂糖が合っても“何かが違う”——カルテの読み直しと“豆乳”の記憶
元美(伊藤歩)ら現場の職人が律子の指示で試作。
しかし、礼子の舌は「これでもない」と告げます。悩む一同の前で、律子の脳裏に“もう一つのレシピ”が点灯。「当時、子ども向けに“豆乳”で組んだ版があった」との一言で、記憶の断片がつながる。
この“微細な置き換え”が、味の再現=過去へのアクセス権を取り戻す鍵となります。
第5話は、“材料の違い”という微差をカルテの追記のように扱い、職人の仕事を“記憶の医療”として描いていきます。
壮亮の過去に繋がる線——父と兄、そしてオランジェット
礼子姉妹のエピソードを追いながら、壮亮の記憶にも甘く苦い反応が走る。
父・俊太郎(佐藤浩市)が、病床の兄へル・ソベールのオランジェットを買っていた——一口の甘さと取り戻せない時間。
壮亮にとって潔癖は“清潔好き”以上の意味を帯び、罪悪感の衣であった可能性を示唆する回想が差し込まれます。味覚と記憶の接続が、彼の生き方を静かに解きほぐしていくパートです。
病室へ——“昔の味”に宿る、いまのやさしさ
豆乳版のオランジェットが再現され、礼子はそれを病室の姉へ。
一口、かみしめる。違いが分かるのに、ちゃんと同じ場所へ連れていってくれる——この矛盾のような優しさが、記憶と現在をそっと縫い合わせます。
ここで第5話は、「完全再現」ではなく「思い出に届く」ことの価値に焦点を合わせ、仕事=誰かの時間を運ぶことだと静かに言い切ります。
夜のBrush——“恋と秘密”が同じフレームに入る瞬間
仕事の帰り道、壮亮はハナをジャズバー「Brush」へ。
そこで寛(赤西仁)とアイリーン(中村ゆり)が抱き合う姿を目撃してしまうハナ——胸の奥がきしむ。
気まずい空気を受け止めるように、壮亮は「彼女は……俺が気になっている人」と紹介。
さらに、アイリーンはハナが自身のオンラインカウンセリングの相手だと気づき、関係図は“仕事/恋/ケア”が交差する立体へ。
ここで第5話は、“味の線”と“心の線”が一本になる構図を描きながら終盤へ向かいます。
5話のキーポイント(要約)
- 依頼の核:30年前のオランジェット再現。病室の姉へ“昔の味”を届ける。
- 職人の矜持:三枝律子(梶芽衣子)が指摘する“時代差”(砂糖→豆乳版の記憶)。
- 内面の線:壮亮の父・兄の記憶と“潔癖の由来”に触れる示唆。
- 恋と秘密:Brushでの寛×アイリーン、壮亮の“紹介”、ハナ=来談者の発覚。
“味”が時間を超えて人をつなぐ。
第5話は、過去と現在、仕事と恋、そして記憶と再生を、静かな手つきで溶かし合わせる回でした。
匿名の恋人たち5話の感想&考察

第5話は、“完全再現”ではなく“記憶に届く”を選び取った回。
チョコの微差を、人生の大差に変える作劇が本当に見事でした。味は科学であり、同時に物語。たとえ材料が同じでも、誰のために作るかが一口の比重を変える。
筆者は、病室の姉の表情に“食べ物が寄り添う”という言葉の本当の意味を見ました。
「味=記憶=赦し」——オランジェットが開けた心の棚
“昔の味”は、過去の自分を赦す鍵にもなりうる。
壮亮の回想線は、甘さの中に罪悪感という苦味が沈殿していることを示します。潔癖の“理由”がすべて語られたわけではないけれど、父と兄とチョコという三点を結ぶ線が見えたことで、彼の“触れられなさ”は個性でなく生存戦略に変わっていく。
味覚が引き出す記憶の再処理は、ドラマ全体のメンタルヘルスへの誠実さとも響き合っています。
レシピは数式じゃない——“豆乳”という小さな修正の大きな効果
砂糖の種類のちがい、そして“子ども版=豆乳”という微修正。ここに職人の倫理が宿ると思いました。
同じものを作るのではない、同じ場所へ連れていくものを作る——。律子の一言が、レシピ=カルテだと気づかせてくれる。
食べる人の身体と時間に寄り添うための調整こそが“プロの矜持”。この価値観が、礼子姉妹の“時間”をもう一度動かしたのです。
“匿名=逃げ”ではなく“設計”——働き方が誰かを救う
1〜4話で積み上がった匿名納品や段取りの合意は、5話でも健在。
ハナは視線恐怖を“勝ち負け”で克服しない代わりに、仕事の工程で人を助ける。匿名=働き方の設計だとこの回は改めて証明します。
職場における“合理の優しさ”が、依頼人の人生の合理(病室へ届く一口)にちゃんと接続される。だからこそ、涙の正体がスッキリしているのです。
Brushの“目撃”——恋は熱ではなく、距離の設計で進む
寛×アイリーンの抱擁を目撃したハナの胸に走った痛みは、嫉妬の炎というより呼吸の乱れに近い。そこで壮亮が選んだのは、“説明”ではなく“紹介”。
「気になっている人」と公に言うことは、所有ではなく責任の表明でした。さらにアイリーンが来談者=ハナに気づく場面は、恋/仕事/ケアの境界線を丁寧に引き直すための一手。
関係の合意を少しずつ増やしていく作法が、このシリーズらしい優しさです。
三枝律子という“時間の案内人”——キャスティングの説得力
梶芽衣子という重心のある存在を“昔の厨房”に立たせることで、ル・ソベールという場所の時間の厚みが一気に可視化されました。
ドラマの甘さを渋さで締めるキャスト配置は、“過去に敬意を払う現在”という第5話のメッセージとも重なります。職人としての矜持と人生の重みを一つのシーンで伝える存在感が圧倒的でした。
5話が残した“これから”——“ピュアケンジ”へ伸びる矢印
この先は長野研修(6話)を経て、看板菓子「ピュアケンジ」(7話)の再現という“店の命運”に踏み込みます。味=記憶のモチーフは、仕事の勝負と個人の回復を二重に駆動する背骨として、さらに濃くなるはず。
5話で得た“記憶に届く設計”が、決戦のレシピでも生きる——そう確信しました。
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