雪煙に視界を奪われながら、人はどこまで「真実」を信じられるのか。
ドラマ 雪煙チェイス は、雪山を舞台にした逃走サスペンスでありながら、最後に残るのは犯人当ての爽快感よりも、人間の選択がもたらす重さでした。
無実を訴えながら雪山を逃げ続ける青年・竜実。
彼を追う刑事・小杉は、合理と正義の狭間で決断を迫られていきます。
証人探し、星型シールの伏線、真犯人の動機、そしてラストで描かれる「その後の人生」。
本記事では、雪煙チェイスの結末までをネタバレありで整理しつつ、この物語が最終的に何を描こうとしたのかを考察していきます。
ただの雪山サスペンスでは終わらなかった理由が、きっと見えてくるはずです。
ドラマ「雪煙チェイス」のあらすじ&ネタバレ

未視聴の方はご注意ください。放送は2026年1月2日・3日の2夜連続で、舞台は雪山。
無実を訴える青年と彼を追う刑事の攻防が、息つく暇もなく転がっていくサスペンスでした。
※ここから先は、ドラマ「雪煙チェイス」全話(2夜連続)の結末までを含むネタバレです。
まず押さえる基本情報と主要人物(物語の軸)
「雪煙チェイス」は、東野圭吾の同名小説を原作に、雪山の追走劇と人間ドラマを融合させたスペシャルドラマです。
全体を理解しやすくするため、主軸となる人物を先に整理しておきます(役名はドラマの表記に合わせます)。
- 脇坂竜実:疑いをかけられた青年。無実を証明するため、雪山の中で「ある証人」を探し続ける
- 小杉敦彦:竜実を追う刑事。追跡者でありながら、途中から「正義の形」を揺らし始める
- 波川省吾:竜実に寄り添う存在。友情が物語の体温を支える
- 白井琴音:小杉と動く刑事。捜査の現場側の視点を担う
- 川端由希子:地元側の協力者となる人物(元スキー選手)。雪山という土地勘が「包囲網」に効いてくる
- 成宮葉月/成宮莉央:物語後半で“証人”と“手がかり”の中心になる姉妹
このドラマの面白さは、犯人当ての一本道ではなく、二つの線が同時進行する点にあります。
1つは「竜実の無実を証明する証人探し」。
もう1つは「東京側で進む真犯人の追跡」。
そして、その二つが“雪煙”の中で交差していきます。
事件の起点|疑いをかけられた竜実が掴んだ“唯一の突破口”
物語の導火線は、竜実が重大事件の容疑をかけられるところから始まります。
竜実は「やっていない」と訴える。しかし追う側にとって、無実の言葉だけでは足りない。必要なのは、逃げ回る本人の叫びではなく、客観的な裏付け=証人と証拠です。
竜実が唯一「これで戦える」と信じたのが、雪山で出会った“ゲレンデの女神”と呼ぶべき女性の存在でした。彼女は、竜実のアリバイを成立させる鍵になり得る。
ところが竜実は彼女の素性を知らない。名前も連絡先もわからない。記憶に残るのは、特徴的な装いだけ。
・赤い水玉ウェア
・ピンクの星型シールが貼られたヘルメット
つまり、竜実に残された手がかりは“人”ではなく“記号”です。
ここがこの作品のいやらしいところで、記号は似せられるし、誤認も生む。だからこそ、竜実の証人探しは「神頼み」ではなく「雪山での地道な探索」へ変わっていきます。
前半(第1夜)ネタバレ|雪山に逃げ込む理由が、ただの逃亡ではない
前半の核は「逃亡」ではなく「探索」です。
竜実は捕まらないために山へ入るのではなく、無実を証明するために山へ入る。ここが、単なる追跡スリラーと違うポイントでした。
竜実と波川は、スキー場の“表の導線”ではなく、雪深い山奥の穴場エリアまで踏み込んでいきます。目的はただ一つ、“ゲレンデの女神”をもう一度見つけること。
しかし雪山は、探す側にも容赦がありません。視界は雪煙で白く潰れ、音も距離感も狂う。見つけたと思った瞬間に消え、確信した直後に裏切られる。「真実」が簡単に見えない構造を、雪山の物理環境でそのまま表現してくるのが上手い。
一方、追う側の警察も動きが早い。小杉と白井は、当初は“極秘捜査”の枠組みで動いていましたが、事態はそれでは収まらない領域へ膨らんでいきます。
そして前半は、追われる竜実側の緊迫と、追う小杉側の合理が、同じ雪山に流れ込みながらも噛み合わないまま、じわじわと距離を詰めていく形で終盤へ向かいます。
ここで効いてくるのが、地元の協力者です。
元スキー選手の由希子らが地元側の情報と土地勘を提供し、竜実が“里沢温泉スキー場”周辺にいるという確信へ、包囲網が絞られていく。雪山チェイスは、身体能力の勝負に見えて、実は「情報の勝負」。地元の一手が、逃走経路を一気に狭めていきます。
後半(第2夜)ネタバレ|“女神”探しが極限へ。追跡は決断の物語になる
後半は、前半の追走劇の続きを一気に回収していきます。
竜実と波川は、雪深い山奥の穴場エリアで“ゲレンデの女神”を探し続ける。ついに「女神と同じ赤い水玉ウェア」「ピンクの星型シール付きヘルメット」の女性を見つけ、必死にスノーボードで追いかけます。
しかし、ジャンプの失敗で見失う。
ここが残酷で、あれほど追い詰めた「可能性」が、たった一度のミスで霧散する。
同時に警察側も、追及を強めます。小杉と白井は極秘捜査の枠を越え、本格的な捜査へ踏み切る。由希子ら地元の協力も得て、竜実たちが里沢温泉スキー場にいると確信し、包囲網を狭めていきます。
そしてついに、竜実と波川は小杉たちに捕まる。普通のドラマなら「ここで終わり」です。けれど雪煙チェイスはここからが分岐点でした。
竜実を信じる波川の友情、そして竜実自身の人柄を信じた小杉は、二人に“証人探しの続行”を許す。さらに自分たちは東京に戻って真犯人を追う決断を下します。
この一手が、物語を単なる追跡から「正義の選択」へ押し上げました。
星型シールの伏線回収|“女神”は複数候補に見せかけて、姉妹へ着地する
スキー場ではゲレンデウェディング本番が近づきます。ここで物語は、雪山サスペンスのテンションを保ちながら、伏線回収のパートに入っていく。
プランナーの千晶のヘルメットにも、女神と同じ星型シールがあることが判明。千晶、そしてそのシールを作った成宮莉央が女神候補として浮上します。
竜実は莉央に直談判し、ゴーグルを外して顔を確認するが、別人。ここで視聴者は一瞬、脳内の地図が崩れます。
しかし莉央が気づく。竜実が会ったのは姉・成宮葉月ではないか。女神の正体は、候補を増やすミスリードの先で、“姉妹”という関係性に収束していきます。
この流れが上手いのは、星型シールという記号を「誰でも貼れるもの」に見せつつ、実は作った人間(莉央)を辿れば“家族”に行き着く点です。偶然のようで、論理の鎖がちゃんと繋がっている。
証人=成宮葉月|妊娠を隠していた“名乗れない理由”が真相になる
本庁の刑事に一度拘束された竜実は、波川の機転で逃走。莉央とともにゲレンデウェディング会場で成宮葉月と再会します。
ここで明かされる葉月の事情が、単なる「目撃者の不在」を、人間ドラマに変える。
葉月は妊娠を隠していた。だから身元を明かさず、スノーボードを楽しんでいた。
要するに、竜実にとっての“命綱”だった女性は、彼女自身もまた「言えない理由」を抱え、逃げるように雪山にいた人でもあったわけです。ここで初めて、竜実の孤独と葉月の孤独が重なります。
ようやく証人にたどり着いた竜実。しかし本庁刑事・中条は、竜実と葉月が以前から知り合いだった可能性を疑い、再び逮捕しようとします。
「証人が見つかったのに、疑われる」――この理不尽こそ、このドラマの胃が痛いところです。
東京線の決着|真犯人確保の連絡で、竜実の無罪が確定する
その瞬間、東京に戻っていた小杉から「容疑者確保」の連絡が入ります。
ここで雪山線と東京線が繋がる。葉月の証言が採用され、竜実のアリバイは正式に証明され、無罪が確定します。
ここまでの竜実の走りは、逃亡のための走りではなく、無罪を勝ち取るための走りだった。ようやく“報われる”形で着地します。
真犯人と動機|福丸陣吉を殺したのは岡倉貞夫。隠蔽の癖が決定打になる
真犯人は、被害者・福丸陣吉と親しかった岡倉貞夫でした。金の無心を断られた岡倉は福丸を殺害。
動機は大きな陰謀ではなく、生活に絡む生々しい欲望。だからこそ怖い。
決定打が“隠蔽の仕方”です。岡倉は犯行後、現場の録画DVDを回収し、代わりに福丸が嫌っていた囲碁の教本を仏壇に置くという不自然な工作を行っていた。
この癖が捜査の違和感となり、仏壇の乱れや時間の矛盾を突かれて自白に至ります。
派手なトリックではなく、生活の所作や時間のズレが人を追い詰める。雪山サスペンスの外側で、きっちり推理として決着していくのが気持ちいい。
ラスト|事件後に残った“生”の方向。竜実は雪山に居場所を選ぶ
事件が解決して終わり、ではありません。
葉月は体調不良のためゲレンデウェディングに参加できなくなり、妹の莉央と、互いに好意を寄せ合う根津昇平に後を託す。そして、就職先が決まっていなかった竜実も、里沢温泉スキー場で働くことを決意します。
無実は証明された。けれど失った時間や傷は消えない。だから竜実は“元の場所”に戻るのではなく、“新しい場所”を選ぶ。
この選択が、物語をただの解決譚で終わらせない余韻を残していました。
全話の結末まとめ(確定したことを要点整理)
・竜実のアリバイは成宮葉月の証言で証明され、無罪が確定
・真犯人は岡倉貞夫。福丸陣吉に金を無心して断られたことが動機
・小杉は追跡者の立場から「竜実を信じ、証人探しを続行させる」という決断を取り、真相解明に繋げた
・事件後、竜実は里沢温泉スキー場で働くことを決意し、人生の次へ進む
ドラマ「雪煙チェイス」の感想&考察

まず僕の結論から言うと、「雪山サスペンス」としての体感が強いのに、最後はちゃんと“人間の話”として終わるのが良かったです。
雪煙で視界が奪われる怖さは、そのまま「真実が見えない怖さ」に直結していました。
雪煙というタイトルが上手い|視界ゼロ=真実が歪む世界の比喩
雪煙って、雪が舞い上がって前が見えなくなる現象です。あれって、ただ「画がカッコいい」だけじゃなくて、物語の本質そのものだと思いました。
竜実は無実なのに疑われる。
小杉は追う側として合理的に動く。
でも雪煙の中では、誰もが「確信」を持てない。
人は見えないと、想像で補う。
想像で補うと、都合のいい物語ができる。
この構造があるから、竜実が証人(葉月)に辿り着くまでの過程が“努力”として効くし、視聴者も「確かに、証拠がないと信じられないよな」と、嫌な納得をさせられます。
小杉敦彦の転換が胸に残る|追跡者が“信じる側”に回る瞬間
後半最大のカタルシスは、雪山チェイスそのものより、小杉が「竜実を信じる」側に踏み出す決断でした。
追う側が情に流れた、という単純な話じゃない。
波川の友情と竜実の人柄を見たうえで、なお「正義のために賭ける」選択をした。
追跡者の判断が、正義を一段階更新するんです。
ここ、ロジカルに見ても筋が通っていて。
もし小杉が竜実を捕まえて終わらせたら、真犯人逮捕は遅れる可能性がある。証人も見つからず、竜実の人生は終わる。
つまり小杉は、「誤認逮捕という最悪」を避けるために、手段の優先順位を組み替えたわけで、刑事としてはむしろ高度な決断だったと思います。
伏線回収が気持ちいい|星型シールが“偶然”ではなく“論理”で繋がる
星型シールの伏線は、ミスリードのさせ方が本当に上手かったです。千晶、莉央、そして姉の葉月へ。
記号だけで追うと迷う。でも作った人間を辿ると家族に行き着く。
ここに「偶然っぽいのに論理」という快感がありました。
さらに、葉月が妊娠を隠していたという事情が、“名乗れなかった理由”として成立しているのも良い。証人がいないのではなく、証人にも事情があって「出てこられない」。
この一段深い人間味が、雪煙チェイスをただの仕掛けドラマにしなかったと思います。
真犯人の動機が小さいから怖い|雪山の大騒動の裏が“金”なのがリアル
岡倉の動機は、金の無心を断られたこと。
世の中にはもっと巨大な陰謀もある。
でも現実に一番多い地獄は、たぶんこういう小さな欲や、引けなくなったプライドの暴走です。
そして、隠蔽工作の癖が仏壇と時間の矛盾で崩れる。
人って焦ると「余計なこと」をする。
余計なことをすると、生活の中に“らしくない痕跡”が残る。
だから最後は、大がかりなトリックじゃなく、生活の違和感に裁かれる。
この地味さが、逆に怖いし、すごく上手い。
ラストの余韻|竜実がスキー場で働く=生き直しの選択
個人的に一番好きなのは、竜実が「無罪になったから元の人生に戻る」ではなく、里沢温泉スキー場で働くことを選ぶラストでした。
疑われた時間、追われた時間、信じてもらえなかった時間。
それは帳消しにならない。
ならば、人生の座標を変えてしまう。
これは逃げじゃなくて、再設計です。
雪山って、人生が詰んだ人間が“もう一回やり直す”には、妙に似合う場所なんですよね。
白くて、静かで、視界が奪われる。
でもその分、余計なノイズも消える。
『雪煙チェイス』は、最後まで「真実」と「生き方」を同じ画面で描いたドラマだったと思います。

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