毎週日曜日夜9時放送のドラマ「仰げば尊し」の第5話が終了しました。

「命の時間」と「夢の時間」、どちらを選ぶのか。
第6話『仰げば尊し』は、誰もが“限りある時間”の中で何を優先するかを突きつける回だった。
倒れた樋熊(寺尾聰)は、手術を拒み生徒の前に戻ることを決断。
一方、木藤良(真剣佑)は留学試験と全国大会が重なるという現実の中で、“仲間か夢か”という痛みを抱える。
友情、責任、そして別れの作法。青島(村上虹郎)の「留学しろ」という乱暴な優しさと、井川(健太郎)の成長、渚(石井杏奈)の祈り――。
2016年8月28日(日)の夜9時よりTBS系で放送される注目のドラマ「仰げば尊し」第6話のあらすじと感想を書いていきます。
※以後ネタバレ注意
ドラマ「仰げば尊し」6話のあらすじ&ネタバレ

第6話は、「命の有限性」と「夢の選択」が真正面からぶつかる回。
樋熊(寺尾聰)の病状がついに“名前”を持ち、部員たちの時間は急速に動き出す。
木藤良(真剣佑)は「仲間か、留学か」という残酷な二択に追い込まれ、生徒それぞれの“これから”と、樋熊が選ぶ“今”が交錯する。
決断と別れ、そして限られた時間の中での音楽が描かれたエピソードだった。
冒頭:樋熊、倒れる——「手術をしない」という決断
自宅で倒れた樋熊は救急搬送され、診断はすい臓がん。
娘の奈津紀(多部未華子)は手術を求めるが、樋熊は「地区大会が近い」として手術を拒否。抗がん剤と放射線治療を選び、「生徒に心配をかけるな」と病名を伏せるよう頼む。
最善の医療よりも、生徒との時間を優先する苦い決断が、物語のトーンを決定づける。
代行指導の告知と、部の動揺
奈津紀は部員に「体調不良で樋熊先生が休む」と説明し、自ら代行指導を務める。
緊張が走る中、青島(村上虹郎)の「先生が心配なのか、コンクールが心配なのか」という言葉が空気を変える。
やがて、早期退院した樋熊が姿を見せ、再び練習が動き出す。不安を押し込み、日常を続けようとする姿勢が静かな痛みを残す。
木藤良の“二つの日程”――留学か、全国か
木藤良の留学願書の締切が迫っていた。
日程は全国大会と重なり、どちらかを選ぶしかない。
彼は「みんなと演奏したい」と留学辞退を申し出るが、樋熊は「未練があるなら行け」と告げる。「選ぶのはお前だ」という指導者の眼差しが、木藤良を大人へ押し出す火種になる。
「夢を見つけたんだろ」——青島と木藤良の衝突
屋上で、青島は木藤良に「留学しろ」と迫る。
「違う夢を見ているやつとは一緒にやれない」と殴り合いながらも、その言葉は木藤良の背中を押すものだった。
去る者への怒りではなく、未来を選ばせるための暴力。青島は部員たちに「蓮が抜けても責めないでやってくれ」と頭を下げ、友情を“責任”に変える。
1stサックスの再配置——「井川、行けるよな」
木藤良の離脱後、1stサックスには井川(健太郎)が抜擢される。
第4〜5話で描かれた“全体を見る力”が、主旋律の責任へと転化する。
課題曲「天空の旅」の1stパートは、責任と集中が音になる構造。井川が得た“視野”が、今度はチームの推進力となる。
ミサンガの約束——“古いけど、願掛け”
大会前夜、部員全員の手首にミサンガが結ばれる。
渚(石井杏奈)の手作りと伝えられ、樋熊はそれを木藤良にも手渡す。
色は「希望と友情」。
第5話の“靴を揃える”に続き、“祈りを可視化する装身具”としての象徴が登場する。
絆を繋ぎながら、それぞれの道を歩く準備が整っていく。
再発とステージ前夜——限られた時間を鳴らす
本番前夜、樋熊が再び倒れ、搬送される。苦痛を抱えながらも、当日、会場に姿を見せる。
トップバッターとしてステージに立つ瞬間、ミサンガを握る手と仲間の息が重なる。
“時間は延びない”という現実の中で、音楽という一回性を守り抜く。
ドラマ「仰げば尊し」6話の感想&考察

第6話の白眉は、「正しい別れ方」を描き切ったこと。
去る者も残る者も、互いの未来を尊重し合う関係の成熟がここにある。
友情とは“共にいる”ことではなく、“相手の時間を支える”ことだと、本作は静かに教える。
教師の倫理――患者である前に指揮者であり続ける
樋熊が手術を拒否したのは、医療倫理では誤りでも、教育倫理としては真実だった。
「時間は戻らない」という現実に、指導者としてどう応じるか。彼は“生き延びる”よりも“教えを遺す”方を選んだ。その矛盾を抱えた姿が、最も誠実な教育者像を形づくる。
青島の乱暴さ――友情の暴力が未来を開く
青島の暴力は、破壊ではなく贈与だ。
「ここにいろ」と言わず、「行け」と言う勇気。
去る者を責めず、残る者が謝る――この構図に、“去っても繋がる関係”という本作のテーマが凝縮される。
役割の可換性――“視野”が主旋律を支える
井川が1stサックスへ上がったことは、役割の継承ではなく、構造の再設計だ。
セカンドで得た俯瞰を保ったまま、主旋律を奏でる。“誰が抜けても音が止まらない”組織の設計が、吹奏楽という集団芸術の真価を示している。
ミサンガの機能――祈りを制度に変える小道具
渚が編み、樋熊が渡すミサンガは、祈りを可視化する装置。
友情や希望を、共同体の約束に昇華する。木藤良が外の世界を選んでも、その糸は切れない。
“戻れる居場所”を残すことで、共同体は永続する。
結果の留保――“音”が語る次回への跳躍
ステージの結果をあえて描かず、“立つ”ことそのものを描いた終わり方。
成功や失敗ではなく、過程そのものに意味を見出す。樋熊の有限な命と、演奏の一回性…二つの時間が重なる瞬間、ドラマは“言葉の外”へ踏み出す。
木藤良の決断――「未練」を正しく処理する方法
留学を選ぶことは、逃避ではない。
未練を抱えたまま残る方が、チームにとっては負の遺産になる。青島の言葉、謝罪、ミサンガ――それらが木藤良の決断を“正しい別れ”に整えていく。
別れは終わりではなく、再会の条件を整える儀式なのだ。
次回への論点整理
- 医療判断の帰結:樋熊の治療方針と、奈津紀の次なる選択。
- 課題曲「天空の旅」:井川を中心とした新編成で、どこまで“鳴る”のか。
- 共同体の継続性:出入り可能なチームとして維持できるか。
- 結果の受け止め方:勝敗よりも、合奏の倫理を壊さない結末をどう描くか。
第6話は、別れの悲しみではなく、別れを支える“構造の優しさ”を描いた。それぞれが違う空を見上げても、音だけはひとつに響く。次回、その音がどこまで届くのか――それが、彼らの“卒業”の始まりだ。
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