第4話で敗北を経て新たな覚悟を手に入れた飛鳥。

そして迎えた第5話は、女性棋士としての“生き方”を問うターニングポイントとなった。
宗桂杯新人リーグに挑む飛鳥の前に立ちはだかるのは、世間で“アイドル棋士”と呼ばれる早見由奈。
同時に、盤外では結城家の圧力が再び動き出し、飛鳥の未来を閉ざす“見えない手”が伸びる――。
第5話は、勝負の熱と社会の冷たさを同時に描いたエポック的な回だ。
MISS KING/ミス・キング5話のあらすじ&ネタバレ

第5話は、飛鳥(のん)が“宗桂杯 新人リーグ2025”に挑むエピソード。
そこに姿を見せるのは、“アイドル棋士”として人気を博す早見由奈(鳴海唯)だ。由奈は結城龍也(森愁斗)との結婚を控え、将棋連盟専務・結城香(山口紗弥加)から「結婚を機に女流棋士を辞めるべき」と穏やかに諭され、実質的に引退へと追い込まれている。
今回のリーグ戦が“最後の舞台”になることが明かされ、女性が棋士を志し続けることの厳しさが序盤から強調される。
新人リーグ開幕――「最後の対局」を選んだ女流棋士
リーグ開幕とともに、観客の視線は飛鳥と由奈に集中する。飛鳥は“史上初の女性棋士”を目指す存在、由奈は“引退を背負った女流棋士”。
メディアは由奈の婚約やルックスばかりを取り上げ、彼女の実力や努力には目を向けない。その偏った注目の仕方が、静まり返った対局場の空気を微かに歪めていく。対局の裏では、女性であることを理由にキャリアを制限される現実がにじみ出る。
女二人の“本音”――小さなテーブルで語られる大きな壁
リーグ期間中、由奈は飛鳥を食事に誘う。由奈は女流枠に留まる気はなかったが、プロ棋士編入を目指した時に直面した“異次元の強さ”に恐怖したことを打ち明ける。
さらに、結婚=引退が祝福として扱われる現実、家庭に入ることを当然とする社会の空気、そして「女であること」そのものが見えないハンデになる現状を語る。
飛鳥は静かに、しかし毅然と「勝負はやってみないと分からない」と返し、由奈の心の奥にくすぶっていた“棋士としての炎”を再び灯す。二人の対話は、女性が将棋界で生きる意味を問う場面として印象的に描かれる。
決勝――盤上で殴り合うような激戦
決勝の対局は飛鳥対由奈。
序盤は由奈がリードし、これまでの“優等生”のような正確さを捨て、勝負師の顔を見せる。中盤、飛鳥が一瞬の迷いを見せると、由奈は余裕を見せるように水を含み、挑発するように目を合わせる。盤上では駒がぶつかり合い、盤外では視線が火花を散らす。
やがて飛鳥は完全な集中状態、“無音のゾーン”へと入り、寄せの速さで一気に形勢を逆転。由奈の「負けました」という声すら届かないほど、勝負に没頭していた。結果は飛鳥の勝利。
由奈は潔く敗北を認め、観客の前で深々と頭を下げる。
引退会見――勝者と敗者、二人の舞台
試合後、由奈は龍也との婚約会見で「これからは家庭を支える側として生きる」と語り、棋士としての引退を正式に表明する。メディアは“アイドル棋士の結婚引退”としてセンセーショナルに報じるが、本人の表情には悔しさと安堵が入り混じる。
勝負に生きた者としての誇りと、社会的役割を受け入れる苦味――その複雑な感情が印象的に描かれる。
因縁の影――父・彰一の来訪と“盤外の圧力”
決勝の会場には、天才棋士・結城彰一(中村獅童)の姿もあった。
テレビ越しに知名度を高める“娘のような存在”を確認するために訪れたのだ。藤堂(藤木直人)は宿敵との再会に怒りを抑え、彰一は「いい勝負だった」と淡々と評する。
だがその裏では、盤外の力が動いていた。飛鳥は棋士編入試験の受験資格を得るまであと一歩というところで、突如としてエントリーを拒まれる事態に直面する。その背後に、結城家の権力と専務・香の意向があることが示唆される。飛鳥の前に立ちはだかるのは、将棋盤よりもはるかに複雑で冷たい“社会の盤面”だ。
第5話は、「女性が将棋を続けることの重さ」と「盤上を越えた戦い」を二重に描き出した回。由奈の引退と飛鳥の台頭、そして結城家の影。次回は、飛鳥が初めて“勝負以外の圧力”に挑む「盤外戦」の幕が上がる。
MISS KING/ミス・キング5話の見終わった後の感想&考察

第5話は、将棋の緊迫した描写と同時に「女性が棋士を目指す」という社会的圧力を真正面から描いた点で、シリーズ屈指の完成度を誇る回だった。
勝負の熱と制度の冷たさ――その二つを両立して描き切ったことが、本作の強度を支えている。以下、主要な論点を整理して考察する。
“女流”と“棋士”――呼称の差が生む重力
由奈の「最後の対局」は、実力ではなく“環境”が終わりを決めた。婚約会見での「家を守る」という言葉には、彼女の意思と同時に、社会に押し付けられた選択の影が見える。将棋連盟専務・香の「諭し」は一見穏やかだが、実質的には構造的な圧力そのもの。
本作が巧いのは、香を単純な悪人に描かない点だ。彼女は“組織の品位”や“家の名”を守る立場から合理的に発言しており、圧政ではなく“制度維持の論理”として描かれる。
この中立的描写によって、物語の対立軸は個人ではなく構造そのものへと拡張されている。由奈の「結婚=引退」は祝福と屈辱が混在する象徴的シーンだった。
盤上の“殴り合い”――飛鳥の覚醒が示すもの
決勝戦の演出は圧巻だ。序盤の静寂、中盤の挑発、終盤の無音。セリフに頼らず、視線と呼吸、駒を指す速度だけで緊張を生み出す。
この対局で飛鳥が掴んだのは、勝負の“正しさ”ではなく“勝つ勇気”だ。論理の美よりも、相手を打ち砕く覚悟。その瞬間、彼女は棋士として覚醒する。しかし同時に、勝者の孤独もまた始まる。由奈の「負けました」が届かないほどの集中は、勝つ者が抱える残酷な美しさを象徴していた。
由奈が見せた闘志と潔さ、そして飛鳥が見せた無垢なまでの勝負欲――そのぶつかり合いが「いい勝負」と評された所以だ。
由奈の引退は“敗北”か、“勝利”か
由奈の引退宣言は、敗北ではなく彼女なりの“生存戦略”だ。制度の外に出る選択を、自らの手で掴んだ誇りがある。彼女は家庭という新たな舞台で、自分の生を設計し直す道を選んだのだ。
一方で、飛鳥は壁を壊す“破壊者”。由奈はその後に新しい生き方を築く“設計者”。二人の対比によって、「女性が棋士を目指す」という一本道の価値観が揺らぎ、複数の“勝ち方”が提示された。
結城家の“盤外戦”――香の手筋と彰一の沈黙
飛鳥が編入試験のエントリーを拒まれる展開は、勝利の余韻を一瞬で凍らせる。香のやり口は露骨だが現実味もあり、制度という見えない壁の冷たさを実感させる。
一方で、会場に現れた彰一(中村獅童)の「いい勝負だった」という一言には、父親としての情と棋士としての冷徹さが入り混じる。
沈黙の中に、彼の複雑な二重性――棋士の誇りと父としての欠落――が浮かび上がる。藤堂(藤木直人)との“視線の交差”は、次章での盤外戦の火種を感じさせる余韻を残した。
“ミス・キング”の核心――勝負の熱と社会の冷たさを同時に撮る
第5話が秀逸なのは、将棋の熱を真っ直ぐ描きながら、社会の冷たさを同じ温度で並置している点だ。盤上では二人の女性が火花を散らし、盤外では結城家という巨大なシステムがその熱を冷やす。
だからこそ、飛鳥がゾーンに入る瞬間の息遣いが観客に伝わる。作品のメインコピー「女性が逆境に立ち向かうヒューマンドラマ」は、今回ほど説得力を持って響いたことはない。
次回への見立て――“資格”と“罪”の二重構造
飛鳥の次なる戦いは、盤上ではなく盤外にある。編入資格を維持しつつ、エントリー拒否という政治的障壁をどう突破するか。香の封じ手を崩すには、
- 将棋連盟の別派閥を味方につける、
- 世論(メディア)を動かす、
- あるいは龍也と由奈の“結城家の矛盾”を突く。
この三つの戦略が考えられる。
第5話の編集では、由奈の引退会見を“結城家の弱点”として巧みに配置しており、飛鳥がそこから盤外の戦略へ踏み出す伏線となっている。
彼女は“勝って泣く”主人公ではない。“勝って壊す”主人公だ。次回、飛鳥が壊しにかかるのは、盤上の相手ではなく、制度そのものだろう。

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