「恋を始める前に、まず練習しよう。」
匿名という仮面と、触れられないという壁。そのどちらも壊さずに、二人は〈視線を合わせる/触れる〉という“手順”で心の距離を測っていきます。

第3話「わさびアンソワ」は、チョコレートに混ざるわさびのように、痛みを受け入れながら甘さを見出す回。
健二の遺した味を守ろうとするハナと、それを支える壮亮。
そして“練習”という名の優しさで、恋が始まる前に合意が結ばれる。
ここでは、第3話のあらすじと感想考察を、筆者の視点で深く掘り下げていきます。
匿名の恋人たち3話のあらすじ&ネタバレ

第3話の副題は「わさびアンソワ」。このドラマに〈仕事〉と〈心〉の両輪がぎゅっと詰め込まれます。
名店ル・ソベールの“わさびチョコ”をめぐる議論が火種となり、ハナ(ハン・ヒョジュ)と壮亮(小栗旬)は、初めて“一緒に変わる”ための練習へ踏み出す——物語が決定的に親密へ傾く回です。
3話では、わさび入りボンボンのレシピを巡って現場のショコラティエたちと壮亮が衝突し、やがてハナが「視線を合わせる/触れる」練習をしようと申し出るところまでが描かれます。
「わさび、やめますか?」——健二の遺した味に迫る“中止”の現実
匿名ショコラティエとしての納品を再開しつつ、ホールにも立つハナ。
そんな彼女の耳に入ってきたのは、故・健二(奥田瑛二)が遺した“わさびチョコ”不評の声でした。売れ行きとクレームが問題となり、壮亮からは「単品販売を中止」の判断が示唆されます。
師の味が棚から消える——その痛みに、ハナは胸を詰まらせる。ここで3話は、伝統とアップデートのせめぎ合いを正面から起動させます。
改良依頼のメール——“匿名の手紙”がレシピを運ぶ
その夜、壮亮は匿名ショコラティエ宛てに“わさびチョコの改良”を依頼。ハナはすぐに改良版を仕上げ、レシピと手紙を添えて納品します。
翌日、試食した現場はざわつき、「わさびアンソワ」採用の流れに。
チーフの川村元美(伊藤歩)もその完成度に舌を巻き、師の面影と今の客の舌がようやく握手を交わします。ここは“腕前の証明”と“関係の信頼”を同時に進める、3話前半のハイライトです。
祝杯はBrushで——カラオケのマイクと、視線の嵐
“採用&歓迎”の飲み会は、寛(赤西仁)が営むジャズバー「Brush」へ。
ステージでは“1曲どうぞ”の流れ。視線恐怖を抱えるハナは、向けられる視線の総量に一気に体力を奪われ、パニックの渦へ。
空気が凍りかけたその時、会場に現れた壮亮が手際よく場を収める——彼の不器用な優しさが、初めて“公の場”で機能する瞬間でした。
雨の傘と告白——「君の目が怖いの?」/「僕は人に触れられない」
店を飛び出したハナを、傘を差し出して追う壮亮。
雨の匂いのなか、彼は潔癖ゆえに人へ触れられないこと、しかしなぜかハナだけには触れられることを静かに明かします。ハナもまた、視線恐怖に対する自己嫌悪を吐き出す。
二人の“できない”が、弱点ではなく同盟の合図に変わるまでの、その数分間。3話の心臓部は、まさにこの雨粒の会話にあります。
「練習、しませんか」——見つめる/触れるを“段取り”に落とす
濡れた服に耐えられず店に戻った壮亮と、後を追うハナ。ここで交わされるのが、“見つめる練習”と“触れる練習”という提案です。
魔法の一歩ではなく、段取りの一歩。ふたりは目を合わせる、そっと触れる、抱きしめるを手順として試す。画面は台詞を減らし、呼吸の長さでその達成を描く。
ラスト、ハグの手応えを確かめ合う二人の横顔に、初めて“恋の筋肉”がついた気がしました。
もう一本の不穏線——“孝”が父へレシピを渡す
甘い余韻の陰で、ボードルームの空気は冷たいまま。
壮亮の従兄弟で側近の藤原孝(成田凌)が、わさびアンソワのレシピを会長・俊太郎(佐藤浩市)へ。ル・ソベールを潰す計画が静かに前進します。
個人の克服と企業の論理が、いずれ正面衝突する予告。この氷の差し込みが、3話をただの“恋の回”で終わらせない歯ごたえになっています。
3話まとめ(要点)
- レシピの更新:健二の遺した味を改良し、匿名の手紙とともに現場へ着地。
- 危機の露出:Brushでのパニックを、壮亮が公の場で支える。
- 練習の開始:見つめる/触れる/抱きしめるを段取りに。二人の同盟が正式発足。
- 企業の影:孝→俊太郎のレシピ横流しで、対立の火種が点火。
個人の“回復”と企業の“支配”が同時に進む中で、
第3話は“働くこと”と“愛すること”の両立を描いた濃密な一章でした。
匿名の恋人たち3話の感想&考察

3話は、“恋”の前に“合意”で泣かせる回でした。
魔法のキスも、劇的な告白もない。あるのは、練習という名の優しさ。
〈視線を合わせる/触れる〉を段取り化して、二人が“できない”の真ん中で手を取り合う。筆者は、ここに本作の真価を見ました。
“わさびアンソワ”の寓話——痛みを混ぜても甘くなる
わさびは、痛みの記憶。それをチョコに混ぜ直す行為は、過去ごと自分を引き受けること。ハナが匿名の手紙とともにレシピを差し出した瞬間、彼女は“匿名の影”ではなく、名を持つ創作者になりました。
健二の味に敬意を払いながら更新する、この成熟の手つきに胸が熱くなります。
“群衆の視線”と“ひとりの傘”——正しい救いの距離
Brushの事故は、ハナにとって生存戦略の破綻でした。
ステージに立てば、視線が武器になる。そこで壮亮がしたのは、“英雄的救出”ではなく、場を収め、外へ連れ出し、傘を差すという極めて現実的なケア。
公共の失敗から私的な保護へと導く、その救いの動線が、彼の誠実さを鮮明にしました。
“恋は練習になる”——段取りが愛に変わる瞬間
告白より先に、練習の提案。これがたまらない。
できないことを工程に分解し、小さな成功体験を積む。見つめる→触れる→抱くという順序は、二人の合意そのものです。
恋が感情だけでなく設計でも成立することを、3話は美しく証明しました。
“言わない勇気”と“言えた安堵”
3話は言葉の密度が低い。だからこそ、雨音、息の速度、指先の位置が言葉の代わりに意味を運ぶ。
「君の目が怖いの?」という短い問いと、「僕は人に触れられない」という短い告白。この最小限の語彙が、二人の関係を最大限に前進させました。
“仕事の正義”VS“家族の論理”——ボードルームの氷点
甘い余韻に差し込むのは、孝→俊太郎のレシピ横流しというビジネスの現実。味で勝っても、資本で負ける世界はある。
ハナと壮亮が人として近づくほど、会社は人を無視する力学で圧をかけてくる。ここに、本作の“ロマンス×企業劇”という二層構造の面白さが凝縮されています。
寛という“夜の温度”——三角関係のスイッチはまだ切らない
今話の寛は、空気の湿度を調整する存在。
ハナの“初恋の温もり”であり、壮亮の高校時代の友でもある。3話では恋のスイッチを入れ過ぎないさじ加減が絶妙で、Brushという夜の居場所が、次話以降の三角関係を暖めて待つかたちになっています。
“匿名=逃げ”ではない——働き方の合意として
2話で再開した匿名納品は、弱さの隠蔽ではなく働き方の合意でした。3話ではさらに、匿名の手紙が組織の改善を動かす。
自分のペースを守る設計が、成果で返礼される循環。これは現実の職場でも機能するフェアなルールだと筆者は強く感じます。
“見つめる→抱く”を終えて——次話への橋
3話の最終ショットは、練習が成功した身体の記憶。
ここから4話は、仕事の難物(取引先ガブリエルブロッサム)と寛との予定が正面衝突し、三人の時間割がきしむ気配。
わさびの辛さを甘さで包んだように、苦い予定を段取りで包めるか——それが次のテーマになります。
筆者の一行まとめ
“好き”の前に“合意”。——それが3話のやさしさ。
できないことがあっても、段取りがあれば人は近づける。
雨の夜に交わした、見つめて、触れて、抱きしめるという三つの約束。
その順番を忘れない二人なら、きっとどんなわさびも甘くできるはずです。
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