2016年にフジテレビ系で放送されたドラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は、毎回登場する猟奇的な事件と、主人公の心の闇を描いた異色の刑事サスペンスです。
新人刑事・藤堂比奈子(波瑠)は、明るく真面目な一方で「人はなぜ殺人者になるのか」という問いに取り憑かれた危うい人物。常軌を逸した事件の数々に挑む中で、彼女自身の“殺人衝動のスイッチ”とも向き合うことになります。
本記事では、全9話に登場する犯人とその動機を整理しながら、物語の核心である黒幕の正体についてもネタバレ解説していきます。
視聴済みの方は復習として、未視聴の方は今後の鑑賞ガイドとしてぜひ参考にしてください。
「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」 とは?
ドラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は、猟奇殺人事件を追うスリリングな刑事ミステリーです。
主演の波瑠さんが演じる新人刑事・藤堂比奈子は、一見明るく真面目ながらも「人を殺す者と殺さない者の境界はどこにあるのか」という問いに取り憑かれた危うい人物。過去10年間の未解決事件や犯罪者データをすべて記憶する驚異的な記憶力を買われ、捜査に加わります。
しかし、凄惨な現場でも平然と遺体に向き合い、殺人者への異様な探究心を示す姿は周囲を凍りつかせます。
地上波ドラマとは思えないほどグロテスクな事件描写と、犯人の心理に踏み込むサイコサスペンスが融合した本作は、従来の刑事ドラマとは一線を画す異色作です。毎回描かれるショッキングな異常犯罪と、比奈子自身の内に潜む“危うさ”が見どころであり、視聴者は「人はなぜ殺人者になるのか」という根源的な問いを突きつけられる作品となっています。
藤堂比奈子が殺人に興味を持った理由
比奈子が刑事になったのは、「人を殺す者と殺さない者の境界はどこにあるのか」という疑問を解き明かすためでした。
幼い頃から感情が欠落し、恐怖心を感じにくい彼女は、自分自身に“殺人鬼の素質”があるのではと怯えつつ、その正体を確かめたいという思いを抱えていたのです。
警察学校を首席で卒業したエリートでありながら心に闇を抱え、「人はどんな時に殺人のスイッチが入るのか」という点に異常な好奇心を示していました。
比奈子が殺人犯に強く惹かれる背景には、自身の過去が深く関係しています。高校時代、彼女は虐待していた父親を本気で殺そうとナイフを手に入れました。しかし直後に母親が亡くなり、その計画は未遂に終わります。
最期に母から抱きしめられ、「あなたはきっと間違えず正しく生きていける」という言葉を託された比奈子は、「本当に自分は人を殺さずにいられるのか」を確かめるかのように刑事となり、異常犯罪者たちと向き合い続ける道を選びました。
彼女にとって殺人事件の捜査とは、自らの内なる“怪物”と対峙し、人間としての一線を越えないための闘いでもあったのです。
【ネタバレ】ON 異常犯罪捜査官の黒幕は中島保?
物語前半の連続異常自殺事件の黒幕は、なんと比奈子たちの協力者であった精神科医・中島保(林遣都)でした。第5話で明かされた真相によると、中島は携帯型の特殊装置を使い、犯罪者の脳内に人工的な腫瘍=“スイッチ”を発生させ、彼らを自殺衝動へと追い込んでいたのです。
異常犯罪者たちが次々と不可解な方法で命を絶った背後には、彼による“神の裁き”めいた犯行が潜んでいました。
中島は5年前の事件で大切な人を亡くした過去を持ち、その復讐心からハヤサカメンタルクリニック院長・早坂(光石研)の思想を逆手に取り、犯行をエスカレートさせていきます。自殺した犯人たちの脳に共通して腫瘍が見つかっていた事実や、“犯罪者に直接脳刺激を与える”という中島と早坂の論文から、比奈子たちは疑念を抱き、遂に中島自身が真犯人であることを突き止めました。
追い詰められた中島は、「異常な殺人者と向き合ううちに、その最期を見ることに喜びを覚えてしまった」と狂気を露わに告白。
自らもまた“怪物”へと足を踏み入れていた中島は、比奈子に「君の手はまだ汚れていない」と意味深な言葉を残し、拳銃自殺を図ります。しかしその直前、東海林(横山裕)に狙撃され逮捕されました。
以降、中島は収監されますが、彼の存在は物語後半における比奈子の心に影を落とし続けます。中島は比奈子の異常性を最も理解する人物でもあったため、比奈子は事件解決後もしばしば彼の言葉を思い出し、自らの“境界”について考えさせられるのです。
比奈子の境界線を踏み越えさせようとした黒幕は“真壁永久”
比奈子に高校時代ナイフを手渡し「自分らしく人を殺せばいい」と囁いた張本人が、最終章で姿を現す真壁永久(まかべ・とわ/芦名星)。警視庁の片岡を一撃で切り付け、東海林を拉致して比奈子を“ひとり”で廃屋に誘い出す——事件の糸を引いていた真犯人です。公式バックナンバーでも、彼女が比奈子の因縁の相手として明示されています。
永久は“美貌の快楽殺人者”。幼少期に父親から虐待を受け、養護施設に預けられても馴染めなかった過去を持ち、世界そのものへの憎悪が根底にあります。比奈子の“殺人への興味”を嗅ぎ取り、同類へと堕とすこと自体を目的化していた点が特徴です。つまり彼女の狙いは殺害そのものよりも、比奈子の境界線を越えさせることでした。
永久は、比奈子の内面に巣食う「殺人への興味」を外在化させた“誘惑者”です。物語は、彼女の罠を前に比奈子が「刑事として踏みとどまる」か否かに収束する。
最終話は、因縁の相手の再登場=比奈子の過去の呪いとの対峙として設計され、比奈子が“殺さない選択”を貫くことで、シリーズが投げ掛けてきた命題にひとつの答えを与えます。
まとめると——真壁永久は、“人を殺さない者”であり続けようとする比奈子に、最も狡猾で残酷な形で境界線を踏み越えさせようとした黒幕。だからこそ、彼女の逮捕は単なる勧善懲悪ではなく、比奈子が自分の闇をねじ伏せた自己証明の瞬間でもあったのです。
ON 異常犯罪捜査官の犯人&犯行内容一覧

比奈子たち厚田班が挑んだ各エピソードの事件と犯人をまとめます。
いずれの事件でも犯人たちの歪んだ動機や過去が丁寧に描かれており、「普通の人間がいかにして異常へ踏み出すのか」が物語のテーマとして浮かび上がりました。以下、各話の犯人と犯行内容をネタバレ解説します。
下半身切断事件・同僚刑事殺害事件。1話の犯人は大友翔。

第1話では、男性会社員・宮原の惨殺死体が発見され、続いて比奈子の同期刑事・鈴木仁美(篠田麻里子)が何者かに殺害されます。犯人はレストラン勤務の大友翔(三浦貴大)でした。
幼少期に実母から酷い虐待を受けて育った大友は、中学生のとき実母を殺害し少年院送りになった過去があります。更生せぬまま社会復帰した彼は、“母親と同じ香水の匂い”と“薄暗い裸電球の明かり”という2つの条件で殺人衝動のスイッチが入る異常性を抱えていました。
仁美が殺害当日に大友の母と同じ香水をつけていたこと、犯行現場に裸電球がぶら下がっていたことから、比奈子は大友が犯人だと見抜きます。比奈子は犯人に自ら接触し、「あなたの人殺しのスイッチが入る瞬間が見たかった」と挑発するという危険な捜査を敢行し、大友の狂気を引き出しました。
最終的に大友翔は警察に逮捕されますが、留置場で頭を壁に打ち付け自ら頭蓋骨を砕いて死亡。彼が抱えていた闇の深さと異常性を突き付ける結末となりました。なお、宮原の死は当初自殺と見なされましたが、その不自然な状況(心臓を自ら3回刺すなど通常ではあり得ない行為)から、後に発覚する“連続猟奇自殺事件”の一端だったことが示唆されています。

冷凍遺体事件。2話の犯人はケンジ。

第2話では、一家4人が自宅の大型冷凍庫で凍らされた状態で発見されるという陰惨な事件が発生します。
遺体には大量の霜と氷が付着し、口の中や胃の中にまで無数の氷菓(キャンディ)が詰め込まれていました。その異様な手口から当初は外部の連続殺人鬼の仕業かと思われましたが、犯人は意外な人物――一家の次男で隠し子の青年・ケンジ(間宮祥太朗)でした。
ケンジは父・霜川幸三とその長女(つまりケンジにとって実の姉)との近親相姦によって生まれ、戸籍すら与えられず「存在しない子供」として密かに育てられていたという生い立ちです。
家族から愛情を与えられず孤独に苛まれたケンジは、狂気的な父の「皆で一緒に永遠に暮らそう」という言葉にすがり付き、一家全員を冷凍保存するという歪んだ犯行に及びました。
犯人逮捕後に明かされた動機は、極度に歪んだ家族愛です。ケンジは凍らせた遺体をリビングに並べ、理想の団欒風景を再現しようとしていたのです。愛情に飢えた彼の狂気と哀れさが入り混じる犯行には、視聴者からも「悲しいモンスターだった」という声が上がりました。
第2話ラストでは、比奈子は逮捕されたケンジの腕に無数の古傷(リストカット痕)を見つけ、「人を殺すスイッチ」の背景に深い心の傷があることを改めて痛感します。また、東海林の過去(5年前に妹を殺され、犯人を単独追跡して負傷した件)も描かれ、「正義のためには手段を選ばない刑事」東海林と、「殺人犯の心理に魅入られる刑事」比奈子の対比がより鮮明になりました。

幽霊屋敷連続殺人事件。3話の犯人は佐藤都夜。

第3話では物語全体を揺るがす大事件が勃発します。比奈子の自宅近くで「幽霊屋敷」と噂される廃墟から、若い女性4人の変死体が発見されました。遺体はいずれも体の一部(皮膚)が切り取られ、ドレスやネグリジェを着せられているという猟奇的な状態。
目撃者の少女が「雨ガッパを着た幽霊を見た」と証言したため、事件は都市伝説めいた不気味さも帯びて捜査は難航します。
しかし比奈子たちは、遺体に着せられた衣装サイズの正確さや凶器の特殊な洋裁ハサミから、犯人像を「裁縫の心得がある人物」と推理。やがて浮上したのが、比奈子の隣人でクリーニング店店主の佐藤都夜(さとう・とよ)でした。都夜を演じていたのは女優の佐々木希さんで、普段は穏やかで美しい女性が実は猟奇殺人鬼だったという衝撃の展開が話題を呼びました。
犯人・佐藤都夜の狂気は、第3話終盤で一気に露わになります。彼女は比奈子に睡眠薬を盛って監禁し、「あなたの顔の皮膚が欲しい」と告げてハサミを突きつけたのです。都夜の犯行動機は、自分にはない“美しい皮膚”への執着でした。
被害女性たちの肌を剥いで繋ぎ合わせ、究極のボディスーツを仕立て上げるという戦慄の計画を語る彼女は、もはや正気ではありません。美への妄執と内面の醜悪さというギャップが最大の恐怖を生み、視聴者にも強烈な印象を残しました。最終的に比奈子は間一髪で目覚め、駆け付けた東海林や中島の協力もあって都夜を取り押さえることに成功。こうして“幽霊屋敷事件”は解決し、佐藤都夜は逮捕されました。
しかし、この事件で得られた情報が後の展開に重要な伏線を落とすことになります。都夜を含むこれまでの猟奇犯たちの脳に共通して不審な腫瘍が見つかったと判明し、異常犯罪と脳の関係性という新たな謎が浮上。比奈子自身の内なる異常性とも無関係ではないこの謎は、後半のエピソードで大きく動き出します。

都夜との対決と黒幕登場。4話の犯人は佐藤都夜。

第4話は、第3話から続く都夜事件のクライマックスです。逮捕された佐藤都夜が護送中に脱走し、再び比奈子の前に立ちはだかります……という展開ではなく、実際には第3話ラストで比奈子に取り押さえられた都夜がそのまま逮捕・収監された状態で始まります。
ところが物語序盤、警察署内に都夜からの電話がかかり「復讐してやる」と不気味な宣言があり、一同は緊張感に包まれます。直後、拘置中の都夜が男性刑務官を殺害して脱走したとの一報が入りました。東海林は比奈子の身辺警護を任じられ、再び都夜との対決に臨むことになります。
一方その頃、テレビ局では奇妙な映像が放送されていました。匿名の差出人から送られた映像には、前話までに自殺した凶悪犯たち(宮原や第2話で言及された鮫島など)の最期の瞬間が収められていたのです。さらに番組に出演していたハヤサカメンタルクリニック院長・早坂がその映像を「神の裁き」と表現し、「凶悪犯罪者への抑止力になる」と発言。
明らかに裏に何者かの意図を感じた厚田班長(渡部篤郎)は、「一連の事件を故意に引き起こし、公表しようとしている人物」を捜し出せと指示します。こうして、都夜の再犯と並行して黒幕の影を感じさせる新たな捜査が動き出しました。
物語後半、ついに都夜が再び姿を現します。比奈子を狙っていた都夜は、厚田班の刑事・片岡(高橋努)をおとりにホテルへ比奈子を呼び出し、彼女の目の前で片岡の喉をカッターで切り裂くという凶行に及びました。片岡は重傷を負いながらも一命を取り留めますが、比奈子はそこで都夜から「待っていなさい。もっと面白いものを見せてあげる」と挑発的なメッセージを受け取ります。結局、都夜は再び姿を消し、厚田班は都夜の行方と謎の黒幕の両面を追うことになりました。
※第4話時点では都夜自身が再脱走・再犯したように思われましたが、実は都夜を裏で動かす真の黒幕が別に存在します。この黒幕こそ第8~9話で比奈子の前に立ちはだかる真壁永久(後述)であり、都夜は彼女によって手駒として利用されていたことが後に判明します。いずれにせよ、第4話では都夜事件がひとまず幕引きとなり、以降は異常犯罪者たちを陰で操る黒幕との戦いが本格化していきます。

連続猟奇自殺事件。5話の犯人(黒幕)は中島保。

第5話は物語前半のクライマックスで、“連続猟奇自殺事件”の真相がついに明らかになります。冒頭、5年前に発生した女子中学生殺害事件(通称「キャンディ事件」)と全く同じ手口で高校生が殺される新たな事件が発生し、比奈子や東海林だけでなく、当時第一発見者だった中島保も捜査に加わります。5年前の事件は未解決で、中島はそのトラウマを抱えていました。
捜査が進むにつれて、ハヤサカメンタルクリニック院長・早坂雅臣(光石研)への疑惑が浮上します。早坂院長と中島が共同執筆した論文に、脳へ直接刺激を与えて感情を操作する危険な研究内容が記されていたのです。比奈子と厚田はクリニックに乗り込んで早坂を追及しますが、彼は冷静に関与を否定し「証拠を持ってきたまえ」と一蹴。底知れぬ狂気を感じさせる院長に決定的な証拠を突きつけられないまま、捜査は膠着します。
しかし終盤、真の黒幕が判明します。連続自殺事件を陰で操っていたのは、他でもない中島保その人だったのです。中島は携帯型の外部装置(腕時計型の機械)を使って犯罪者たちの脳内に腫瘍=スイッチを作り出し、彼ら自身に自殺をさせていました。しかもそれは単なる狂気ではなく、院長・早坂への復讐が動機だったことが判明します。
かつて倫理違反で中止となった早坂の研究(犯罪者の脳を操作し更生させようとする実験)に執着した中島は、皮肉にもその思想を利用して犯行を重ね、「自分こそ正義を執行する存在」へと変貌していたのです。
中島は5年前のキャンディ事件の犯人・久保も装置で操り、彼女を自殺に追い込んでいました。だが比奈子は久保の不可解な自殺現場に居合わせた際、中島の腕時計の異変に気づきます。「犯人は中島先生…?」という衝撃の推理が当たり、ついに中島の犯行が露見。
比奈子と対峙した中島は、自身の胸の内に芽生えた異常心理――「犯罪者の死に様を見る喜び」について饒舌に語り始めました。信頼していた理解者が一転して怪物と化した事実に比奈子も愕然としますが、最後は東海林が中島の自殺を阻止し逮捕に成功します。
こうしてシリーズ前半の黒幕・中島保は逮捕され、連続自殺事件は決着を迎えました。
比奈子にとって中島は、自身の異常性を理解してくれる数少ない人物でした。その彼が「君は人殺しではない」と断言してくれた言葉は、後に比奈子が自らの運命を選択する大きな支えとなります。第5話は主人公にとっても物語にとっても大きな転機となり、ここからドラマは後半戦へと突入していきます。

コイン連続殺人事件(リッチマン殺人)。6話の犯人は高齢者グループ。

第6話から物語は“第2章”に入り、中島逮捕後の新章が展開します。
冒頭、比奈子は中島を逮捕したことに心を痛め落ち込みますが、その様子に東海林だけは「嘘くさい」と不信感を強め、比奈子の“異常さ”に改めて警戒し始めます。そんな中、新たな猟奇事件が発生。
公園で発見された他殺体の口や胃の中に、大量の100円硬貨が詰め込まれていたのです。遺体からは100円玉がざくざくと出てきて、その総額は100万円以上。常軌を逸した犯行に世間は震撼し、この事件は皮肉を込めて「リッチマン殺人事件」と呼ばれるようになります。
奇怪な手口から当初は新手の猟奇殺人鬼の仕業と思われましたが、捜査が進むと意外な真相が判明。犯人は外部の連続殺人鬼ではなく、金に人生を狂わされた4人の高齢者グループでした。彼らは特殊詐欺や投資詐欺の被害に遭い大切なものを失った過去を共有しており、「金銭への復讐」のため富裕層の加害者を殺害し、硬貨を詰め込むという犯行に及んでいました。
もっとも、グループの面々は良心の呵責にも苦しんでおり、現場にヒントを残して「誰かに止めてほしい」と願っていた節も見られます。結局、比奈子たちはその痕跡から彼らを突き止め逮捕。比奈子は本件を「普通の人間が極限状態で異常へ踏み出した事件」として胸に刻みます。犯人の一人が比奈子に「あなたは人を殺したことがあるのか?」と問いかける場面は、比奈子の内面と呼応する印象的なシーンでした。
あわせて、このエピソードでは比奈子の秘められた過去も明らかに。クライマックスで東海林が比奈子の高校時代の事件を調べ上げ、「比奈子は父親を殺すためにナイフを手に入れていた」事実を突きつけます。部下の過去を知った厚田班は騒然。
さらに第6話終盤、東海林の情報屋・藤川(不破万作)が何者かに刺殺され、違法捜査で藤川を利用していた東海林に容疑がかかります。物語は不穏な伏線を張ったまま次回へ。

AID連続服毒自殺事件。7話の犯人は原島刑事。

第7話では、“AID事件”と呼ばれる奇妙な連続自殺事件と、藤川殺害の真相という二つの軸が描かれます。
冒頭、東海林は藤川とのトラブルから彼の殺害を疑われ、厚田から捜査から外れるよう命じられてしまいました。そんな中、除草剤による集団服毒自殺事件が4件連続で発生。遺体のそばには遺書が残され、「生きた証をAIDに託します」と記されていました。警察は「何者かが自殺志願者に毒物を送りつけ、自殺を手助けしている」と見て捜査を開始します。
捜査線上に浮かんだのは、東海林の交番勤務時代の先輩である原島巡査(モロ師岡)。原島は東海林に情報屋の使い方を教えた人物で、藤川殺害でも名前が挙がっていた存在です。比奈子たちは除草剤の入手経路を追う過程で原島と再会し、彼が藤川殺害犯ではないかと疑いますが、真犯人は依然不明のまま……。
一方AID事件は、第5人目の自殺現場に残された「AID」というダイイングメッセージを機に、決定的進展を迎えます。医学的調査から、使用された除草剤はいずれも25年前に製造中止の旧型と判明。大量保管が可能だった人物の洗い出しが進みます。
そして遂に、AID事件の真犯人は原島巡査その人だと判明。原島は「命の重みを誰よりも知る警官」を自任し、表向きは「自殺志願者の苦しみを終わらせてあげたい」として毒物を送っていました。しかしそれは自己満足に過ぎず、実際には罪悪感に苛まれながらも“英雄願望”に駆られて暴走していたのです。
犯行が露見すると、原島は「死にたい人から命を奪って何が悪い!」と開き直りますが、比奈子は「それはあなた自身のエゴだ」と断じ、原島は逮捕されます。
同時に、第7話では“ナイフを渡した謎の女性”がクローズアップ。「高校時代の比奈子にナイフを授けた女性こそ黒幕では?」という仮説が浮上します。
ラストでは第3~4話の犯人・佐藤都夜(佐々木希)が獄中から再登場。彼女が誰かと密かに手紙をやり取りしていた事実が明かされ、その相手こそ次回登場する真の黒幕・真壁永久(芦名星)であったことが示唆されます。都夜脱走の裏で暗躍する影が見え、波乱を予感させながら幕切れに。

連続動物惨殺事件と都夜の復讐。8話の犯人は真壁永久。

第8話では、いよいよ比奈子の“闇”に大きな影響を与えた黒幕・真壁永久(まかべ・とわ)が本格登場。
序盤、東海林は第7話の終盤に比奈子が隠し持っていたナイフを発見し、「テメーはもう刑事じゃねぇ」と言い放ちます。正体を疑われた比奈子は辞表提出を決意し、中島(林遣都)にも「警察を辞める」と告げることに。そんな折、拘置所の佐藤都夜(佐々木希)が刑務官を殺害して脱走。比奈子への異常な執着を見せていた都夜に対し、厚田班長は厳重警戒を命じ、東海林が再び護衛に就きます。
同時期、都内各地でグロテスクな動物惨殺事件が続発。鳩やカラスが内臓を抉られた状態で発見され、他県でも類似事件が判明します。最初の現場は奇しくも比奈子の故郷・長野県。北から南へと“比奈子を追うように”現場が移動しており、まさに“事件が比奈子を呼ぶ”様相。やがて、これら一連の動物虐待の背後で糸を引く黒幕が浮上し、第8話終盤、犯人は比奈子に七味缶ナイフを渡した謎の女――真壁永久(芦名星)であると判明します。
真壁は高校生の比奈子が廃墟で出会った年上の女性。初対面で「怯えたら殺す」と脅し、ナイフを手渡した人物でした。比奈子から「自分と同じ匂い」を嗅ぎ取り、将来自分と同類の殺人者になることを期待したと語ります。彼女自身は幼少期に両親から虐待を受け施設で育ち、誰にも救われずに憎悪と虚無を抱えた女性。「世界そのものを怨んでいる」と言い切る過激な虚無主義者に成り果てていました。
さらに、真壁は獄中の都夜に差出人を偽った手紙を送り続け、比奈子への執着を煽って脱獄を手引き(看守買収の可能性)。「比奈子を殺したい」都夜の願望を利用して共闘関係を築く一方、都夜はあくまで“駒”。
思い通りにならないと見るや、スタンガンで無力化し、灯油をかけて焼き殺してしまいます。ラストでは東海林が何者かに殴打され監禁。犯人は真壁で、彼女は比奈子の大切な先輩を人質に取り、最終決戦へと誘い出します。

東海林拉致事件と衝撃の最終対決。9話(最終回)の犯人は真壁永久。

最終回は、比奈子VS真壁永久の直接対決。
東海林を拉致した真壁は、廃工場に比奈子をおびき寄せ、「1人で来れば東海林を助ける。警察を連れて来れば殺す」と通告。比奈子は単身で指定の工場跡へ向かいます。そこには柱に手錠で繋がれた東海林と、真壁に裏切られ瀕死の都夜(直後に死亡)。真壁は微笑み、「さあ、もう一度選択してもらうわ。私と東海林、どちらを死なせるか」と迫ります。
真壁は工場内に灯油を撒き、手錠の鍵は自分が飲み込んだと告白。
「東海林を助けたければ私の腹を切り裂いて鍵を取り出すしかない。正当防衛で人助けなんだから、あなたなら何も感じず人を殺せるはず」とナイフを差し出し、比奈子を挑発。「境界線」を越えるか否か――比奈子の究極の試練です。3分のタイムリミットの中、母の温もり、中島の「あなたは人殺しではない」、そして東海林の存在が胸をよぎります。
手錠の東海林は「お前は怪物じゃない。ただの人間だ。そっち側に行ったら許さない!」と必死に説得。比奈子は「火を消して」と訴えますが、真壁は「残念、時間切れ」とライターを投下。
瞬く間に大火災が広がります。比奈子は鉄パイプで柱を壊そうとしますが歯が立たず、覚悟を決めて炎の中で「先輩を置いていけません。あと1分で決めてください。右手と左手、どちらを切り落とすか」と、手錠ごと腕を切断してでも救う決意を示します。
真壁は「結局あなたも“人間側”なのね」と失望し、ナイフで襲いかかる――まさにその瞬間、倉島刑事(要潤)らが突入し、真壁は取り押さえられ逮捕。鑑識・三木(ジャングルポケット斉藤慎二)が、都夜宛て手紙の暗号から工場の場所を特定し、救援にこぎつけたのでした。
連行される真壁に、比奈子は静かに「お別れだね」と語りかけます。「アンタに殺してもらえなくて残念。でもいいんじゃない?アンタはずっとそっち側で。私は…」と嘯く真壁を、比奈子は強く抱きしめます。「あなたも、誰かにこうしてもらえていたら」――その言葉に、真壁は悲鳴のような叫びを上げてもがき、連行されていきました。
事件後、東海林は「真壁って女、ずっと酷い目に遭ってきたみたいだな」と呟き、比奈子も「ええ、ずっと一人ぼっちで…。彼女は殺すことで人との繋がりを持とうとしていたのかもしれません」と応じます。「私は、母のおかげでただの普通の人間でいられました」と語る比奈子に、東海林は「そうだ。ただの、普通の新人刑事だ。ギリギリで踏みとどまったじゃないか」と微笑み、「とりあえず信じてみるわ、お前のこと」と締めくくります。炎上した廃工場に朝日が差し込む中、それぞれが思いを抱えつつ事件は幕を下ろしました。
エピローグ。刺された片岡刑事も無事退院し、比奈子たちは行きつけのメイド喫茶で快気祝い。比奈子が提出していた退職願は偶然(厚田班長と石上監察医が元夫婦で、洗濯物に紛れた)でボロボロに。厚田から「まだ辞める気ならもう一度書いてくれ」と言われるも、比奈子は「出しません」と即答。仲間たちは安堵し、日常へと回帰していきます。
ラスト、比奈子は拘置所の中島にメールで、「刑事を続けることにしました。今回は踏みとどまりましたが、人間に答えは無いので先のことは分かりません。ただ、皆が信じてくれたように自分を信じたいと思います」と綴り、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は、彼女が自らの闇と向き合いながらも“一線”を守り抜く余韻とともに幕を閉じます。

ON 異常犯罪捜査官のまとめ&感想
ここまで全9話にわたって展開された『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』を振り返ってみると、単なる刑事ドラマにとどまらず、人間の心の闇や「殺人者になる境界線」という普遍的なテーマに切り込んだ意欲作だったことが分かります。
スリル満点の猟奇事件を軸にしながらも、毎回異なる犯人像を提示することで「人はなぜ人を殺すのか」という問いを視聴者に突きつけ続けた点が、この作品ならではの魅力でした。
比奈子自身の過去や異常性が物語全体に影を落としつつも、最終的には“人間として踏みとどまれるのか”という心理ドラマへと収束していく流れも非常に印象的です。
作品総評
全9話を通じて、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は猟奇ミステリーとしてのスリルと、主人公の心理ドラマを見事に両立させた作品でした。
毎回描かれる事件は残酷極まりないもので、グロテスクな描写の連続に視聴者の度肝を抜きつつも、単なる衝撃映像に終わらせず犯人の心の闇や動機を丁寧に掘り下げていたのが印象的です。
例えば第1話の大友翔は母親からの虐待、第2話のケンジは歪んだ家族愛、第3~4話の都夜は外見コンプレックス、第6話の高齢者グループは金銭への怨恨、第7話の原島は使命感の暴走…と、どの犯人も元は“普通の人”でありながら極限状態や過去の傷によってスイッチが入ってしまったことが描かれています。
「人はなぜ殺人者になるのか?」という問いに対し、本作は一つの答えを用意するのではなく、多様なケースを提示することで視聴者にも考えさせる作りでした。ライターとしては、これらのケーススタディを論理的に積み重ねて「殺人者と紙一重の心理」を浮かび上がらせていく脚本に非常に惹かれました。
各エピソードの因果関係や伏線も丁寧で、“黒幕”中島の存在が物語全体を貫くミステリーとして機能しつつ、終盤には真壁永久という比奈子個人の因縁にフォーカスしたサイコスリラーへとシフトする構成も見事だったと思います。
主人公・藤堂比奈子の造形
主人公・藤堂比奈子のキャラクター造形も、刑事ドラマとしては異例のものでした。
感情が欠如し人並み外れた記憶力を持つ新人刑事という設定は一種の「サイコパス探偵」的な魅力があり、演じた波瑠さんの鬼気迫る演技も相まって唯一無二のヒロイン像が確立されていました。
特に最終回で比奈子が初めて流した涙のシーンは圧巻で、初めて心から感情を露わにした瞬間に胸を打たれました。それまで常に冷静沈着で、笑顔ですら意図的に作っていた彼女が、最後に人間らしい涙を見せることで「怪物ではなくただの人間」として救われたことが伝わり、視聴後にじんとくるものがありました。
周囲のキャラクターとの対比
また、東海林や中島といった周囲のキャラクターとの対比も物語を論理的に深める要素でした。激情型で正義感の強い東海林、知性的で冷静なプロファイラーの中島、そして危うい好奇心を持つ比奈子という三者の関係性は、まるで比奈子の心の中の「常識(東海林)」「理性(中島)」「異常性(比奈子自身)」がせめぎ合う構図にも見えました。
特に中島が黒幕だったと判明した第5話以降、彼の存在は“闇の理解者”として比奈子のメンタルに影響を与え、ラストで東海林が放った言葉と対照をなすのが巧みです。「あなたは人殺しではない(中島)」「お前は怪物じゃない(東海林)」という2人の男性の言葉が、比奈子を人間として繋ぎ止める鍵になるという構図はとてもドラマチックで、脚本の論理性を感じました。
エンタメ性とキャスト
エンタメ性の面でも、本作は見応え十分でした。ホラー小説原作らしいスリルとサスペンスで引っ張りつつ、毎回ラストに次回へのヒキ(謎の黒幕の影やナイフの伏線など)を盛り込み、テンポ良く物語が進みます。
SNS上でも「グロかったけど面白い」「続きが気になって仕方ない」といった声が多く上がっており、私自身も毎話ハラハラしながら視聴しました。特に驚いたのは、第3話で佐々木希さん演じる都夜が犯人だった展開です。
清純派のイメージが強い彼女が狂気を爆発させる演技は衝撃的で、「まさか佐々木希が猟奇殺人鬼役とは…」と度肝を抜かれた視聴者も多かったと思います。こうした豪華キャスト陣の振り切った演技も作品世界に厚みを与えており、渡部篤郎さんや要潤さん、原田美枝子さんらベテラン勢が脇を固めることで全体の説得力が増していました。
テーマと余韻
全体として、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は「極限状態で人はどこまで人間でいられるか」というテーマを真正面から描いた良作だと感じました。比奈子は最後まで自分の“スイッチ”を押さず、母との約束どおり「間違えずに生きる」ことができました。
しかし、劇中でも語られたように人間に絶対の答えはありません。比奈子は「先のことは分からない。ただ自分を信じたい」と言いましたが、彼女の中の闇が完全に消えたわけではないでしょう。それでも、仲間たちとの絆や母の愛を胸に、これからも“普通の刑事”であろうと歩み出す比奈子の姿に希望を感じました。
原作・続編への期待
視聴後にはぜひ原作小説シリーズ(『ON』をはじめ『CUT』『AID』『LEAK』など)も読みたくなり、実際に原作を手に取った方も多かったようです。原作はドラマ以上に猟奇描写がハードとのことですが、機会があればチャレンジしてみたいと思います。
ラストの比奈子の微笑み(?)と東海林の言葉からは、続編やスペシャルへの含みも感じられ、ファンとしてはぜひ続きを見てみたいところです。波瑠さん初の民放連ドラ単独主演作としても話題を呼んだ本作は、視聴率的にはオリンピックと重なった影響もあって苦戦したようですが、内容的にはスリル満点で深みもある“隠れた傑作”。
ホラーミステリー好きの方にはぜひおすすめしたいドラマです。私自身、最後まで比奈子が“怪物”にならず人間でいてくれたことにホッとしつつ、もし将来続編が作られるなら、彼女が次にどんな闇と対峙するのかを期待したいと思います。
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